「うしのめ」
うしというのはなんてかなしいめをしているのでしょう
ずいぶんむかしほうろうしてて
しもきたはんとうのとったんのひろいとこでたくさんのうしにあいました
うしたちはじめんにはえてるくさをたべたりうんちをしたり
おかげでじめんはうしのうんちだらけでボクのくつもうんちまみれ
ああ!うしさんたちがも~も~なくよかがやくあさひをあびながら
とおくにぎゅうしゃがありましてそこをめざしてゆっくりあるきました
それでもうしのうんちをふんずけてうしのうんちにすべってころび
ぎゅうしゃにたどりついたらからだじゅううしのうんちだらけ
でもあんしんうしのうんちぞーんをとっぱしたものだから
せんたくばさみをはなからはずしうすぐらいぎゅうしゃのなかをみまわすと
うしさんたちがなんびきかちゃんとじぶんのきわくのなかにおさまって
おとなしくのんびりしておりました
うしはいつものんびりなのです
いっぴきのうしとめがあいましたのでそのうしのところへいき
“うしさんうしさんにらめっこしましょ!わらったらまけよ!あっぷっぷぅ!”
といってにらめっこをはじめましたが
うしとにらめっこしてもぜったいにまけないことにきづきました
だってじっとうしのめをみつめているうちにそこなしにかなしくなって
わらえません
うしはのんびりとのどかにときおりも~となきそこなしにかなしいめをして
ボクをみつめるだけなのでこれまたぜったいにかてません
ひきわけです
いつまでみつめあっててもひきわけです
かちもまけもないのです
そうしてそのひはそとがだいだいいろになって
そとのうしたちがかえってくるまでずっとそうしてひきわけしてました
うしさんはしっているのです
たぶんうまれるまえからすべてしっているのです
なんぜんねんももしかしたらなんまんねんもむかしから
うまれてすぐにはなわをつけられきょせいされたりつのけづられたり
くるまをひかされちちをしぼりとられたべられるためにかわれます
たべられるためにえいようをつけられおいしそうになるところされます
けんこうじゃないところされますでんせんびょうにかかるとみなごろしです
ほうしゃのうがでるとこれまたみなごろしです
ころされたあともはがされたかわはぎゅうがわのかばんやさいふとか
とりだしたたんせきはかんぽうやくうんちはでんきにつかわれます
ああ!うしさんたちがも~も~なくよ
すべてはにんげんさまのため!
ああ!うしというのはなんてかなしいめをしているのでしょう
うまれたときからまんべんなくすべてはにんげんさまのため!
このよにあんなにかなしいめがどこにあるというのでしょうか?
よのなかにあんなにかなしいめをしたいきものがうしいがいにいるのでしょうか?
なんてすなおなめなんてじゅんすいなめなんてきれいなめ
そしてひそうということばがこのよでいちばんふさわしいめ
いんやことばでなんかあらわせない
それほどうしはかなしいめをしています
あんなにかなしいめはうしいがいにありえない
ボクはそうおもっていましたがまちがえでした
とうきょうにかえってボクはしゅうしょくしなんねんかたちました
さいしょちかてつでみました
でんしゃのなかでボクはすわっててちょうにしごとのよていをかいたりしてました
ふときづくとボクのむかいにやせたおんなのひとがすわってました
ボクはふるえあがりました
からだじゅうにまっくろいでんりゅうのようなきょうふがはしりました
そのやせたおんなのひとのめはうしのめにそっくりだったのです
いたのです
よのなかにあんなにかなしいめをしたいきものがうしいがいにいたのです
にんげんでした
そっくりでした
なんてかなしいめをしているのでしょう
どうしてそんなかなしいめになったのでしょう
なんてすなおなめなんてじゅんすいなめなんてきれいなめ
そしてひそうということばさえてんでかなわないくらいかなしいめ
そのおんなのひとのめはうしのめみたいにおおきくみひらかれ
まるでまぶたもないようで
まるでまったくべつのせかいにくぎづけみたいで
うごきもなくじっとおおきくみひらいてどこもみてません
こおりついてたボクはなんとかうごいてでんしゃをおりて
ふつうのめをしたにんげんたちがいっぱいのざっとうにまぎれました
いるのです!うしのめのようなあんなにかなしいめをしたひとが
どんなにつらいめにあったのでしょうか?
どんなにかなしいめにあったのでしょうか?
どんなにむごいめにあったのでしょうか?
どんなにさびしいおもいをしたのでしょうか?
このよにどんなあつかいをうけたのでしょうか?
たぶんボクなんかにはそうぞうさえできないかなしみのなか
うしのめをしたやせたおんなのひとはせすじをすっとのばして
そそとぎょうぎよくちかてつのでんしゃのなかで
じっとすわってうしのめをおおきくみひらいておりました
そのめはなにもうつしておりません
そのごボクがしもきたはんとうのとったんでうしとにらめっこしてから四十ねんがすぎました
そのあいだにボクはあのちかてつのおんなのひとのほかになんにんかうしのめをしたひとをみました
なにげないにちじょうのゆうぐれのざっとうのなか
うしのめをしたおとこのひとがたっておりました
おとこのひとはじっとゆうやけぞらをみているようでしたがどこもみてません
まわりのひとたちがいそがしそうにとおりすぎてゆくなか
うしのめをしたおとこのひとはびどうだもせずにうしのめを
おおきくひらいてひっそりとそんざいしてないことをしゅちょうするように
そしてそんざいじたいをきょひされてるみたいにしずかにたたずんでおりました
ほかにもしゃいんりょこうのおんせんやどのしょくどうでみました
ほかにもいざかやでゆうじんとのんでるときにはしっこのほうのせきでじっとしているのをみました
ほかにもえいがかんのなかでふりかえったときボクのまうしろのせきでおおきくめをみひらいてうしのめをしているのをみました
ほかにもなんにんかみましたいずれもみがこおりました
あのひとたちはなんなのでしょう?
どうしてあんなにうしよりもかなしいめをしているのでしょう?
でも二十せいきのすえころからボクはうしのめをしたひとをみなくなりました
そして二十一せいきになって十ねんいじょうすぎましたけど
まったくみかけません
さいごにうしのめのひとをみてどのくらいすぎたのでしょう
いないはずはないとおもいます
いるはずなんです
だっていたのですもの
このよに
きっとよのなかがかわったものだからかくれているんです
いやいまのよのなかがうしのめのひとのそんざいをいんぺいしてるんです
いまのよのなかがいてはいけないひとだとはんだんしてかくしたんです
そんなことをぼんやりとおもいだしかんがえながらねどこからでて
ばらっくのまどからはいきょになったそとのこうけいをながめてました
しばらくあさひをはんしゃさせてるはいきょときれいなそらを
こうごにじっとみてまたじっとみてをくりかえしていました
ああ!はいきょがぴかぴかひかってらぁかがやくあさひをあびながら
ひるちかくまでそうしてました
まどをしめていたのまのうえでつったっているとあせでかおがべとべとなのにきづきました
そういえばおきてからまだかおをあらってないやとおもって
せんめんだいのじゃぐちをひねってみずをだし
せっけんでりょうてをごしごしして
りょうてについたせっけんのあわでかおをごしごしして
じゃぐちをさらにひねっていっぱいすいどうすいをだし
おもうぞんぶんかおをあらいました
せっけんとすいどうすいでかおのべとべとをすっかりあらいながし
てぬぐいでさらにごしごしとかおをこすって
きれいになって
かおをあげると
めのまえのかがみにうしのめをしたひとがうつっていました
ずいぶんみかけないとおもっていたらここにいました
ボクのめはおおきくみひらかれなにもみず
とてもすなおでとてもじゅんすいでとてもきれいでどんよりで
このよのものとはとうていおもえぬかなしいうしのめをしておりました
ああ!
ボクというのはなんてかなしいめをしているのでしょう
おしまい
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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