きつけ塾 いちき

「きもの」の袖に手を通す時に、「ときめき」を感じる日本の女性たち。
この「胸の高まり」は、いったい何なのでしょうか。

技を盗む職人たち

2017-10-11 01:11:24 | 衣裳方

ある名工がこんなことを。
名人といわれる職人さんが言っていた言葉が、印象に残りました。
「その道で上手くなるにはどんなことが必要か」、そんな設問だったと思います。
その職人さんは言います。
「この仕事が楽しくて大好きですね。お休みの日なんかいりません。毎日やり続けることですね。それと…わずかな違いもわかるほどの目を養うことですかね。」

同じものを見ているのに…
私も職人さんの仕事を見るのが好きです。
どの仕事でも名人はいます。
そんな職人さんの手先を見ていると、ほれぼれするほど無駄のない動きをします。

たとえば大工さんの、仕上げのカンナがけなどは、向こうが透けるほどのカンナ屑がでて、ヒノキの表面が鏡のようになります。
石工の職人さんが、岩のような石材に数本の鉄杭を打ち込むと、見事にまっすぐ割れていきます。
木材も石材も「目」があるそうで、その道のプロだけがわかるものでしょう。
同じものを見ているのに、プロの職人にはわかるのです。

ある程度は教えるが…
しかし、どの名人も初めがあってここまできました。
技術を上げるには、どの職種でも、現場で学んでいくことを通してのみ、得られます。
自分が十年かけて得られるものを、十年、二十年のベテランから学ぶのです。

歌舞伎座の着付けの名人いわく、「ある程度は教えても、肝心のところは教えない」。
だから、名人が隠している技を盗むしかないのです。
どうして盗むのかって…。
盗みたいものがあれば、見えてくるのですよ。
技を盗むためには、本当に欲しいものがあると、盗める力が備わってくるという事でしょうか。

「わかりました。これは○○○ということですよね?」といっても、盗まれた先輩は返事もしてくれませんよきっと。

技術を盗ませていただいた先輩に感謝しています。
私も舞踊の舞台裏で、小林衣裳の着付けの名人に着付けを見せてもらいました。
普通はありえないことです。
一日中、立ったままでメモも取らず、目で技術を盗む。
言葉でなど絶対教えてくれません。「盗んでみな…」です。
もちろん質問などは出来ず、目の前で展開される着付けの表わざ・裏ワザを学びました。
いまはこの名人もリタイヤされて、お会いすることもなくなりました。

松竹衣裳常務の岸田先生から教えてもらったことも大きな出会いでした。
亡くなられる一週間前まで、お電話でご指導頂いていました。
若いときに、名女優・山田五十鈴のお付の衣裳方でしたが、山田先生のあとを追うように亡くなられました。
歌舞伎衣裳着付けの図書館がまたひとつなくなりました。
もっと早く多くのことを学んでいればと思うと残念でなりません。
技術はやっぱり盗むものだと思います。与えられたものはあまり力にならない気がします。
欲しい技術は、盗みたいほどの情熱があってこそ身に付くのではないでしょうか。





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