goo blog サービス終了のお知らせ 

木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

居酒屋にて(5・完)

2012-01-30 06:56:54 | Q&A 採点実感
「キウイサワーを頼んだつもりだったが、
 何かこう、アルコールが足りない感じがするの。」

 神様は、全部のみほしてからサワーがジュースだったことに気付いたらしい。
 そして、神様は、さらにキウイパフェを注文した。

「さーてと、この問題で原告側から主張を立てる場合、
 まず、X社の行為が『表現』(憲法21条1項)に該当するかが、
 問題になるのぅ。」

  表現の自由の権利内容の新たな構築が必要となる。
  つまり,自由な情報の流れを保障する権利としての表現の自由である。

  本問における判断枠組みに関する最大のポイントは,
  判例や学説を参考にしつつ,相応の説得力を有する論拠を示して,
  自由な情報の流れを保障する表現の自由論を論述することである。

「佐渡先生は、こういう風に書いてあるので、
 まあ、ここが一つの争点じゃ。」

 この問題では、
 主体が法人という固有の自己価値を持たない存在であるため、
 Z画像の公開は「自己実現の価値に資する」と単純に書くと、説得力が弱い。
 また、直接民主制プロセスに役立つかどうかわからないため、
 Z画像の公開は「自己統治に資する」と単純に書くのも悪い。

 「Z画像の公開は、自己実現・自己統治の価値を有するので、
  憲法21条1項により保護される」とこの論点を1行で済ませるのは
 いわゆるステレオタイプ答案コースである。

「ここは、まず、
 『民主制プロセスの実現のためにどのような情報が
  役立つかは、容易には判断できず、
  流通すべき情報を、国家が判断することは、危険が大きい。
  Z画像も、公共団体の策定した都市計画や開発計画を評価するために
  重要な資料になる可能性があり、
  Z画像の差し止めは、民主制プロセスをゆがめる可能性がある。
  (自己統治の価値を損なう恐れがある)』
 とかとって、表現の自由を、情報を伝達する自由として提示することが
 求められとるんじゃろうのう。」

「国民の知る権利はどうなんです?」

「うん。それはあり得る。ただ、それを第三者の権利の主張だといって
 議論するようでは、ダメだろうな。
 博多駅事件なんかでは、マスコミの報道の自由を知る権利への奉仕
 を理由に基礎づけているが、アレは、
 第三者の権利主張ではなく、
 保障の根拠として、国民の知る権利への奉仕を挙げているにすぎない。」

「え!そうすると、ここではサービスを受ける国民は無視ですか?
 X者、ロンリーですか!」

 タケオカ先生の無駄に大きく通る声が響いたところで
 キウイパフェが届いた。

「うーん、そうでもないだろう。
 『多様な情報を受領することは、
  個人の精神生活・経済生活を豊かにすることにつながり、
  国民は、自由に流通する情報を受領する権利(知る権利)
  を保障されるべきである。

  Z画像についても、、、、(問題文指摘のZ画像の利便性を指摘)
  であり、そうした情報を流通させることは、
  国民の知る権利に奉仕する。  

  判例は、マスメディアの報道を、
  国民の知る権利に奉仕する重要な行為であることを根拠に
  憲法21条1項により保護する姿勢を示しており、
  Z画像の公開も、これに準ずるものとして、
  同項による保護を受けると解すべきである』

 こんな感じで書くべきかの。」

 佐渡先生の出題趣旨は、知る権利と書くとアウトかのような言いぶりだが、
 よく読むと、ユーザーの知る自由の侵害をX社が主張することを
 切り捨てているだけであり、
 保障の根拠論として知る権利への奉仕を挙げる博多駅事件の構成を
 『有害』認定しているわけではない。

「というわけで、こんな感じで、
 本件法律8条3項の停止命令一般が、表現の自由の制約となる、
 と認定してやれば、厳しい審査基準を設定できるだろうの。」

「あのう、法令審査終了後に、処分審査に移るとき、
 本件命令が、表現の自由の制約となる、ということも論じるのですか?」

 ツツミ先生は、もっともな疑問を提示した。

「確かに佐渡先生は、ブリ画像の提供の価値についても一言してほしそうじゃからの、
 『本件で問題となっているブリ画像の提供も、
  公共団体の策定した住宅政策の評価の一資料となる可能性があり、
  また、個人の生活においても、不動産売買の資料となる可能性があり、
  憲法21条1項で保護される』くらいのことは書いてもいいかもしれんの。」

 今、神様が述べたようなことは、
 法令審査のところで、Z画像提供一般は保護され、ブリ画像についても同様と
 まとめて論じておいてもいいだろう。

「さて、、、次は①高レベルブリ画像と②低レベルブリ画像の書き分けじゃの。
 法令審査・処分審査の二段階じゃから、
 後者の規制は前者の規制よりもよろしくない、と主張しておく必要がある。」

 そして、神様はパフェ頂上付近のキウイシャーベットを
 バクバクバクバク食べると、先ほど、本日のお勧めメニューを抹消した黒板に
 次のような図を書いた。

  論証一号:権利侵害の度合いは同じだが、表現価値が違う
   ①高レベルブリ画像の提供の表現としての価値は低いが、
   ②低レベルブリ画像の提供の表現としての価値は高い。
   よって、処分審査では、審査基準がますます厳格になる。 

  論証二号:①と②では、保護される利益が違う。
   ①高レベルを規制して実現される目的は「目的1(犯罪防止等)」であり、
   ②低レベルを規制して実現される目的は「目的2(気持ちの問題)」であり、
   ①は重要な目的だが、②は重要な目的とは言えない。
   よって、基準は同じでも、処分審査の方がパスしにくい。

  論証三号:①と②では、関連性の評価が違う。
   ①高レベルも②低レベルも、規制の目的は共通(犯罪防止、生活平穏等)だが、
   ①は、目的実現のために役立つ(関連性があり)と言いやすく
   ②は、目的実現のために役立つ(関連性がない)と言いにくい。
   よって、基準は同じでも、処分審査の方がパスしにくい。

  論証四号:②については同意がある。
   ①も②も、規制目的は共通だが、
   ②については、公道から見られる程度のことなので、
   そもそも、それが人に見られることに同意がある。
   よって、②は、権利制約を構成しない、同意により制約される。

「ほほほ。タケオカよ。この中には、1つだけ、どうしようもない
 解答パターンがあるの。どれじゃ?」

「それは、一号機でしょう!どっちも、大した違いのない画像で、
 これが違う価値を持つなんてことは、問題文に材料がないです。
 でも大丈夫。失敗をしたっていいんだよ。
 失敗は、お前の肥料だ。
 キリマンジャロだって、肥料でできてるから、大きいんだよ!」

 タケオカ先生は、こういうと、神様のパフェから
 ウエハウスを奪い、バリバリバリバリ食べつくした。

「ええと、この2号から4号のどれで行くかで、
 処分審査どこからやるか、変わってきますね。
 ええと、
 二号機だと、処分審査では、目的審査からやりなおし。
 三号機だと、目的審査共通だから、処分審査では手段審査のみ。
 四号機だと、次元が違う話になりますので、
       処分審査では目的手段審査やらないですね。」

 こうして、連中はすっきりした面持ちで、法の女神を出て行った。

 構成としては、こんなもんだろう。
 確かに、神様指摘の論証なら、審査基準でも十分解答できる。

 逆に比較考量でも、論証二号機から四号機のどれかを想定して、
 書いていかないと、議論がぐちゃぐちゃになろう。
 (審査基準には、議論を整理し道筋を明確にする機能もあるのだ)

 残るは、明確性の論証をしてやればおしまいである。
 と、いうわけで、どうやら、
 この長きにわたる連載も終わりの時が近付いているようである。

居酒屋にて(4)

2012-01-29 07:45:28 | Q&A 採点実感
タケオカ先生の雄たけびにつづけ、ツツミ先生が指摘をした。

「うーん、こう考えてくると、
 法令審査として、明確性の審査をして、
 処分審査でブリ画像停止命令の審査をする、
 という流れが自然な気がしますが・・・。」

「それで済むなら話は早いわい。
 しかしの、ホレ、佐渡先生は、出題趣旨でこう書いとるのじゃ。」

  法令違憲に関して本問で問題となるのは,
  実体的権利の制約の合憲性である。
  この点での本問における核心的問題は,
  肖像権やプライバシーを護るために制約されている
  憲法上の権利は何か,である。


「この記述は、明らかに明確性とは違う表現の自由からの
 法令審査を要求する言葉じゃ。」

「じゃあ!やっぱり、ブリ画像を典型的適用例とした
 法令審査Bを要求しているんですよ。
 それで、明確性審査+ブリ画像法令審査Bの二段階で処理。
 完璧じゃあないですか!うん。この完璧っぷりに乾杯!」

 タケオカ先生は、こういうとトマトジュースを一気飲みした。
 彼は、スポーツマンなので、飲酒喫煙を控えており、
 居酒屋ではトマトジュースを飲むのだ。

「それも違うの。佐渡先生は、採点実感を語りながらこう言っていたはずじゃ。」

 処分違憲の審査で,法律適用の合法性,妥当性のみを論じる答案が
 今年も多かったわね。
 憲法との関係を論じないと,合憲性審査を行ったことにならないの。
 そこのとこ、分かっているの?
 本問では,「生活ぶりがうかがえるような画像」の公表を禁じることの
 合憲性をきちんと論じる必要があるのよ。


「ほれ、どう見ても、ブリ画像の処分審査Bを要求しとる。」

 一同は、しばし沈黙した。ツツミ先生もタケオカ先生も
 アイデアはないらしい。

 そうこうしていると、憲法の神様は、キウイサワーを注文した。

「そこでじゃの、ヒントになる佐渡先生の発言はコレじゃ。」

  当該画像が公道で撮影されたもので,
  カメラの高さ制限は守られていることなどに留意しつつ,
  生活ぶりがうかがえる画像として
  どのようなものが映し出されるのかを具体的に想定した上で,
  具体的にどのような権利利益に影響が及び,
  どのような被害が生じる危険性があるのかなどを,
  インターネットの特性をも踏まえながら丁寧に論じることが求められるのよ。


「どうやら、佐渡先生は、
 ブリ画像の中にもいろいろランクがあることを指摘しておる。
 例えば、
 『その住居が、女性や老人の一人暮らしであることがうかがえる画像』
 これは、犯罪ジャッキの危険性からして、かなり利益侵害の程度が高そうじゃの。」

 ふむふむ。高レベルブリ画像と呼ぼう。

「これに対して、
 『単に、ふとんがほしてあったり、洗濯物がほしてあったりして、
  なんとなくみっともない思いをする画像』
 『家の外観が分かる画像』
 『家の庭から、家庭菜園が趣味であることが分かる画像』
 なんかじゃと、まあ、なんとなくイヤという気もするが、
 権利利益侵害とまで言えるか、かなり微妙じゃろ。」

 ふむふむ。低レベルブリ画像だ。

「おそらくの、佐渡先生が法令審査Bで検討させたい典型的適用例とは
 <高レベルブリ画像を限定して、停止を要求する命令>じゃな。」

「ああ、そう言えば、この事案、ブリ画像のレベルにかかわらず一律に
 禁止命令が出てますね。
 この『一律の禁止』という事情は、
 高レベルブリ画像への『限定した禁止』の事例よりも
 原告の憲法上の主張にとって有利に働きます。」

「と・い・う・ことは、処分審査Bで扱ってほしいのは、
 <低レベルブリ画像を含め一律に禁止する、今回の命令の合憲性>
 なのですね!

 おおおお!確かに、違う問題を混同していた気がします。
 ブリ画像、確かに中にはいろいろあります。
 私の頭の中で、ナスの一本漬とラーメンがごっちゃになっていたのと一緒だ。
 すっきりしました。すっきりしましたよ。
 これは、富士急ハイランド全絶叫マシン終了後並みのすっきりだ!!」

 富士急ハイランドの絶叫マシンは恐ろしすぎるので、やめてほしいが
 タケオカ先生は、すっきりするらしい。恐ろしい人である。

 ここで、神様の手元にキウイジュースが運ばれてきた。

「ほほほ。その通りじゃ。」ごくごく。

「こうして、今や審査対象は画定し、違憲審査基準の意味も判明した。
 これで、佐渡先生の想定する模範解答を画定する舞台はととのった。」ごく。

「あとは、ほれ、この舞台の上で、演技をすればよいわけじゃ。」ごくごく。

「まあ、これを比較考量で処理するのは簡単じゃ。
 そこで、違憲審査基準で処理してみるかの。ほほ。」ごくごく。

 こうして神様はキウイジュースを飲みほした。

居酒屋にて(2)

2012-01-27 16:40:25 | Q&A 採点実感
さて、日本酒を一杯ひっかけると、
憲法の神様は少し難しそうな顔をした。

「うーむ。じゃあ、少し腰を据えて分析をするか。
 よいか、ツツミよ。
 今回の問題じゃが、佐渡先生が『法令審査』と『処分審査』の
 二段階審査を求めておることは、ほぼ確実じゃ。

 じゃが、それぞれで何をするかが問題なんじゃ。

 まず、こういう時は、根拠条文のチェックじゃ!」

 そして神様は、ここを見ろ、という。

  8条3項
   A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,
   正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,
   第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため
   特に必要があると認めるときは,その者に対し,
   その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる
   特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。

「よいか。この条文は「被害」の申し立てに基づく命令という文言になっている。

 そして、定義規定を見ると、「被害」をもたらす情報として
 ①個人識別情報、
 ②個人自動車登録番号等、そして
 ③個人権利利益侵害情報
 という分類があることが分かる。
 
 さて、ブリ画像は、①から③のどれじゃ?」

 神様は、さらに日本酒をくいっとやって、ナスの一本付を一口食べた。
 なかなか渋い。

「うーんと、①個人識別と②自動車番号は修正したって問題文に書いてあるので
 ③個人権利利益侵害情報でしょうねえ。」

「その通りじゃ。佐渡先生の出題趣旨も、
 『個人の権利利益の侵害という文言一般の明確性じゃなくて、
  その文言がブリ画像との関係で明確かが問題なんだよ、アホ』って
 書いてあるから、③ということでいいじゃろ。」

 ただのおや・・・おじいさまに見えた憲法の神様が、ずいぶんとまじめに検討している。

「さて、よいか、法令審査・処分審査の二段階審査をする場合、
 考えられるパターンは次の通りじゃ。」

 こういうと神様は、「本日のオススメ」が書かれた黒板を全て消し
 次のような図を描いた。
 (威力業務妨害の現行犯であるが、だいぶ酔っぱらっているので責任能力が怪しい。)

 パターン1
  法令審査 ①や②を修正しない奴に対する停止命令、
       という8条3項の典型的適用例      の審査
  処分審査 ブリ画像という今回の適用例      の審査

 パターン2
  法令審査 ③の典型例を修正しない奴に対する停止命令
       という8条3項の典型的適用例      の審査
  処分審査 ブリ画像という今回の適用例      の審査

  *ブリ画像=生活ブリがうかがえる画像

 ツツミ先生は、それを見てうなった。

「うーん。パターン1の検討は、だいぶ今回の議論から外れるので、
 パターン2の方が、いい気がしますね。」

「まあそうじゃろの。しかし、個人権利利益侵害情報の典型例を
 想起するのが難しいんじゃよ。」

「そういえばそうですね。個人識別情報ではないのに、
 個人の権利を侵害するなんて、これは、なかなかできないですよ。」

「そうなのじゃ。そうなると、むしろブリ画像が③の典型であるかのように見える。」

「しっかし、そうなると、法令審査だけで話がおわっちゃいますねえ。」

「ほほほ。そこで、今回の解答のパターンは、さらに二つに分岐する。」

 神様は続いて、「今月新入荷のお勧め焼酎」の看板の占有を取得した。

 パターン2A
  法令審査 ブリ画像以外の③画像を
       修正しない奴への停止命令の審査
  処分審査 ブリ画像を
       修正しない奴への停止命令の審査

 パターン2B
  法令審査 ブリ画像のうち、停止させる必要度の高い画像を
       修正しない奴への停止命令の審査
  処分審査 ブリ画像のうち、停止させる必要度の低い画像を
       修正しない奴への停止命令の審査


「さて、パターン2Bは、ちょいとおいとくとして、
 パターン2Aから考えるぞ。
 よいか。これが成立するかどうかは、
 『ブリ画像以外の③個人権利利益侵害情報』を思いつけるかどうかが勝負じゃ。
 どうじゃ?」

「うーん、さっぱりです。どうすればいいのでしょう?」

「そういう場合、出題者が、いったい何を参照してこの条文作ったかじゃな。
 メタスコ星人の薫陶を受けた妄想族の連中ならともかく、
 妄想だけで条文を作るのは、簡単ではない。」

「そういえばそうですね。佐渡先生も、
 『本件の法律の規定は,個人情報保護法や
  個人情報保護条例に一般に見られる規定だろ。
  お前らの目は靴下の穴か?』って言ってます。」

「そういうことじゃ。そして、恐らくこの条文を作る際参照したのは……。」

 ああ、そういえば、この条文見たことある気もする、
 と思っていると、店の奥にあるトイレから、事態を複雑にする人物が現れた。

「参照したのは、
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
 及び発信者情報の開示に関する法律、
 通称、プロバイダ責任制限法ぅううううううですねええ!!

 ほら、その4条には!」

 タケオカ先生は、白い歯を輝かせ、
 許可を得ることなく、ツツミ先生たちのテーブルへ向かった。

「『特定電気通信による情報の流通によって
  自己の権利を侵害されたとする者』は、
 情報開示を請求できマス!
 著作権、特許権、知財一般、営業秘密、
 名誉、肖像、プライバシーにパブリシティ、24時間、戦いますよ!
 おう、戦うよ。戦えば、権利は回復できるんだ。
 さあ、みんなで戦おう。あなたの知財、営業秘密、人格権。
 インターネットも怖くない。らららー。」

 どうやら、今日のタケオカ先生は、宝塚方面に出張する気配である。

 事態は複雑になったが、タケオカ先生の助言があれば、
 確かに、ブリ画像以外の権利利益侵害情報を発見できるかもしれない。

 何か、素直な解き方(パターン2B)からは乖離するやもしれぬが、
 しばし、この方向をつきつめているのもいいだろう。

佐渡先生のオフィスアワー(3・完)そして居酒屋にて(1)へ

2012-01-26 05:36:48 | Q&A 採点実感
私と佐渡先生との間に、微妙な沈黙がながれていた。
そして、沈黙を破ったのは佐渡先生であった。

「アナタは、
 違憲審査基準論と比較考量論の違い、わかってる?
 その辺がごちゃごちゃしてるから、
 私のいってることが理解できないのよ。

 まあ、イイわ。アナタにすこし宿題を出してあげましょう。」

 ・・・。私は一応教員なので、呼び出されて宿題を出されるとはおもわなかった。

「今回の答案、違憲審査基準での書き方と比較考量論での書き方、
 少し考えていらっしゃい。
 そしたら私の言っていることわかるから。」

 いや、わからないわけではないのですが、
 と言おうとした時、ノックの音がした。

 何かと思うと、フジイがさらに質問をしたいといって
 オフィスアワーにおしかけてきたのである。
 
 どうやらフジイは、違憲審査基準に関する思いを伝えたくて、
 再びやってきたようであった。
 フジイの手には、ペリイやらセイヤーやら、
 アメリカの違憲審査基準に関する論文がある。

 どうやら、この男はかなり根性のはいった審査基準論マニアらしい・・・。



 私が佐渡先生の部屋から追い出され、事務を終え、
 さらに宿題に途方に暮れ法科大学院を出ると、すでに暗かった。
 気晴らしにウチの法科大学院関係者御用達の居酒屋「法の女神」に行くことにした。

 この店の前には、大きな法の女神テーミス像があり、
 周囲を威圧している。

 店の中に入ると、憲法の神様とツツミ先生が飲んでいた。

 連中は、盛り上がっており、私に気づく様子もない。
 観察をしていると、なんと私が佐渡先生に出された宿題の話をしていた。
 ・・・。佐渡先生のオフィスアワーは中継されている。
 それを見ていたのだろう。

「あのう、神様、佐渡先生がああだこうだと言っていた
 違憲審査基準と比較考量ってどうちがうんですか?」

 ツツミ先生が聞いた。

「わはは。あれはの、要するに、
 重量計を使った比較と天秤をつかった比較の違いなんじゃよ。」

 憲法の神様は、赤ら顔に、ネクタイの鉢巻、片手にビール瓶という
 コント以外では見たことのない酔っ払いの姿をしていた。

 ちなみに、法の女神は、無表情に、目隠し、片手に刃物という 
 これは実際にいたらほとんど通り魔の姿をしている。

「はあ。重量計ですか?」

「そうじゃ。よいか、まず、憲法上の防御権というのはの、
 そこで保護された行為を、比例原則に反して規制されない権利
 とまあ、そういう権利じゃ。」

 ふむ。正しい定義だ。確かに憲法の神様である。

「比例原則っちゅうのは、要するに、
 規制によってえられる利益が、うしなわれる利益を下回ったらいかん
 という原則じゃな。」

 はあ。そうですねえ。

「さあ、ツツミ、二つのものの重さを比べるには、
 どんな方法がある?」

「うーん、重量計をつかって一つ一つの重さをはかって数値を比べる方法と
 天秤の両皿に、同時にのっけて重さを直接比べる方法がありますね。」

 ツツミ先生は、さきほど神様の言ったセリフをほぼそのまま繰り返した。

「わはは。よくしっとるのう。さすがじゃ。」

 いや、アンタ、さっき自分でいったじゃん。
 どうやら神様は、だいぶ出来上がっているようである。

「その通り。比較考量というのは、秤を使った方法で
 制約された権利を特定し、また規制により得られる利益も画定し、
 両者を比較する、という手法じゃな。」

 ふむふむ。

「それに対して、違憲審査基準というのはの、重量計のメモリみたいなもんじゃな。
 違憲審査基準論で事案を処理する場合、まず最初に
 憲法上の権利の制約がどの程度、重いかということを計測する。

 その結果、重たい規制だ、ということになると、
 失われている利益の値が重くなるから、
 それを正当化するための値が高くなる。

 このように、
 ①失われる権利がどの程度強く規制されているか特定する。
 ②その権利の価値をはかる。
 ③得られる利益の価値を測ることで、
  ②でたたき出した数値を上回るかどうか計測する。
 これが、違憲審査基準、重量計をつかった比較考量じゃな。」

 違憲審査基準の定義は、
 防御権の制約がある場合、それが正当化可能であるかどうかを判断するための基準 
 である。

 生存権の要件である「最低限」かどうか、の判断基準や
 国家賠償責任の免除制限を正当化できるかどうか、の判断基準も
 違憲審査基準ということがあるが、
 それはせまい意味での違憲審査基準には該当しない。

 神様の説明は、まあ妥当といえるだろう。
 (このような評価をすることが不遜といえば不遜だが)

 ツツミ先生は、ここでつっこみをいれた。

「あのう?目的手段審査で出てくる
 必要性とか関連性というのも比較考量の要素なのですか?
 なんか、目的の重要性=得られる利益の重要性っていうのが、
 比較考量の要素だというのはよくわかるのですが。」

「あたりまえじゃ。
 よいか、どんなに立派な目的を掲げていても
 その目的を達成できない規制からは、
 得られる利益『0』、ゼロ、ゼロ、ゼロじゃ。
 ちなみにドイツ語で言うと、ヌル。
 ヌルヌルヌルヌルヌルヌルじゃ。」

 やはり、かなり出来上がっている。

「それに必要性がないっちゅうのは、
 要するにLRAがあるっちゅうことじゃな。

 よいか、LRAがあるということは、
 そこで得られて居る利益は、
 その規制によらないと達成できない利益でないということになり、
 その規制から得られる利益とは認定できない。
 必要性のない規制から得られる利益もやはり
 ヌル!ヌルヌルヌルヌルヌルじゃ!!」

 発言はほぼ変態だが、言っている内容はおおむね正しいだろう。

 厳しい審査基準を設定するとは、
 失われるものが多い規制なので、
 それを正当化するには、これだけ高い目盛をたたき出す必要がありますよ
 (=要件を満たす必要がありますよ)、という意味なのである。

 したがって、違憲審査基準の設定の際に参照するのは、
 制約される権利の価値および規制の厳しさという、
 制約される側の事情だけということになる。

 得られる利益を審査基準設定の際に考慮するのだ、
 と平気でおっしゃる方もいるが、
 それは違憲審査基準の定義を十分に理解していないことを吐露しているようなものである。

「あのう、しかし、秤にしても重量計にしても
 結果はいっしょになるはずです。
 なんで、憲法学者は重量計を使えというのでしょう?」

「わはは。それはの、単純に秤にのせると、
 なんかこう、公権力が主張する利益の方が重要そうに見えるし、
 個人の権利の側はワガママっぽく見えるからじゃ。」

「ああ、確かにそうですね。
 今回の佐渡先生の問題でも、原告主張の利益は一部のネット産業の利益で
 保護される利益は、広く国民一般の利益に見えます。」

「そうじゃろうそうじゃろう。
 じゃが、憲法上の権利を甘く見てはならんのじゃ。
 それを保護することに大きな価値がある権利じゃからの。

 じゃから、あえて対立利益(規制によって得られる利益)を無視して
 そこで侵害された利益だけを見て、価値を評価する。
 対立利益を目に入れちゃうと、権利の価値を過小評価しがちになって、
 目盛がゆがむわけじゃな。 

 表現もそうで、この規制国民一般の利益になるな、ちゅうことを一回忘れて
 この行為が、表現と呼ばれる他の行為と同列に扱えるか、
 をとうわけじゃ。」

「なるほどなるほど。そうすると、他の表現と同列に扱えれば、
 厳格審査をしていい、ということになるわけですね。」

 神様は酔っ払いながらも、適切な解説を続けた。

「わはは。そこまではよく分かりましたよ。それでは、聞きますが、
 今回の問題、違憲審査基準論で解いて見てくれます。」

「ふーむ。やってもよい。やってもよいが、
 この事案の典型的適用例のあり方が問題じゃな……。」

神様はこういうと、日本酒を注文した。



もひとつクイズ

2012-01-24 07:57:25 | Q&A 採点実感
ここで、佐渡先生のオフィスアワーに戻りたいところですが
もうひとつお付き合いください。


週刊誌などが不倫の事実を公表することは、
名誉権ないしプライバシー権の侵害になります。

ここで二つの事例をみてください。

①週刊電柱が、一般人Aさんの不倫の事実を公表した。

②週刊夕日が、国会議員Bさんの不倫の事実を公表した。

おそらく、
①を不法行為として賠償命令出すことは違憲ではないとされますが、
②を不法行為として賠償命令出せば違憲と言われるでしょう。

問題
なぜ、憲法判断について、このような違いが生じるのでしょうか?
次の中から選んでください。

解答A 
 ①ではAさんの権利侵害がある(ないしその度合いが高い)が、
 ②ではBさんの権利侵害がない(ないしその度合いが低い)から。

解答B 
 ①も②もA・B両名の同程度の権利侵害があるが、
 ①の表現の価値は低く、②の表現の価値は高いから。

解答C
 ①も②もA・B両名の同程度の権利侵害があり、
 表現の価値は①も②も、
 規制の憲法21条適合性判断においては同程度である
 と評価せざるを得ないが、
 ②については表現の自由の制約を正当化できない
 「何か特別な理由」があるから。


はい。解答A~Cのどれが正しいか、
理由とともにおこたえください。
(解答締め切りは1月25日午前1時です)