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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

インタビューの後編とマジオペを読む。

2012-03-14 15:08:09 | お知らせ
先日、お知らせいたしました星海社様の「ジセダイ」のページで
インタビューの後編が掲載されました。

 こちらです。

インタビューをお受けしたのは、
確か昨年末でしたが、佐渡先生とは違う人に向かって、
「それパワハラだろ」と言っています。

私は、パワハラという言葉に何か特別な思い入れがあるのでしょうか?

・・・・・・どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、『憲法の急所』が書かれた経緯、
君が代訴訟や9条問題の考え方、今後の野望などについて
お話ししております。

お話しの中では、森下九段の有名な言葉も引用されていますので
将棋ファンの方は、ぜひ探してみて下さい!


・・・・・・・・・。

さて、星海社さんから、先日、なんと
芝村裕吏先生の『マージナル・オペレーション』を頂きました。

芝村先生は、ガンパレードマーチという作品で有名な
ゲーム作家の先生なのですが、
この度、はじめての小説を星海社さんから出版されたわけです。


その内容は、
30歳のニートが民間軍事会社に就職し、
中央アジアの戦いで非凡な軍事オペレーションの才能を発揮していく
という、
なるほど、それは面白そうだ!という内容です。


感想ですが、
もう少し、主人公の情緒面を掘り下げて欲しかった……
という箇所もなくはないのですが、
ものすごくしっかりした構成で、
読みやすく一気に読める非常に面白い小説です。

また、いろいろフィクションもまざっているようですが、
戦争のプロセス、兵站や後方活動の重要性、
民間軍事会社の業務内容、のような
普段、あまり意識しない(これは大変幸福な状況ですね)ことについて
想像力を刺激する芝村先生らしい作品でした。

と、いうわけで、芝村先生のファンの方、
ライトノベル好きの方には、ぜひおすすめです。

法令の審査方法(7)

2012-03-04 09:54:14 | 憲法学 憲法判断の方法
我々は、立派な運動場を過ぎ、理系の研究棟の広場へやってきた。
ここでは建築学科が、素材の耐久性を調べる実験をやっており、
ほとんど理不尽なまでの圧力をかけられた鉄筋コンクリートの柱が並ぶ。

悲しそうに立ち並ぶその柱たちは、佐渡先生の講義中に
不用意な発言をして廊下に立たされた学生たちのようであった。

「防御権の審査というのは、
 その法命題により基礎づけられた規制が、
 比例原則に適合しているかどうか、を審査するものだな。

 で、例えば、脅迫罪を規制する法文が全くないのに、
 裁判所や警察が、『脅迫をした者には、10年以下の懲役を科すべし』という
 法命題が妥当していると言って、脅迫の加害者を処罰したとするな。

 この場合、防御権の審査をするとどうなる?」

「えーと、法文の根拠があるかどうかは、さしあたり
 どうでもいい問題で、
 脅迫は人にメッセージを伝達する行為だから、表現行為の一種だが、
 まあ、ひどい行為だから、必要性や相当性があって合憲、
 ってことになるな。

 ・・・。あれ、合憲?」

「そうなんだ。防御権の観点というのは、
 規制を導く法命題の必要性や相当性を審査するものであって、
 その法命題に、ちゃんとした法源があるかどうかは、
 さしあたりどうでもいい問題なんだよ。」

「ふーむ。でも、法文の根拠がなかったら、
 そりゃ、違憲だろう?31条に反するし、21条にも反するはずだ。」

もっともな指摘であった。
我々は、生物学研究室の水槽実験棟の前を通る。
ここにはアメフラシや大小さまざまな貝が飼育されており、
毎日、新鮮な海水が運び込まれている。

私は、校内で海水が苦手な妖怪に会った場合、
まっさきにここに避難するように学生に指示している。

「それはそうだね。
 31条からは、法律の根拠なしに刑罰を科されない権利があるし、
 自由権条項には、比例原則に反しその自由を規制されない権利(防御権)の他に、
 法律の根拠なしにその自由を規制されない権利を保障する側面もある。

 後者の側面は、その自由の規制の可否を法律に留保する側面だから、
 法律の留保への権利なんて呼び方もできるだろう。」

…。最近、司法試験で行政法が必須科目とされたことにより、
行政法を勉強せずに、憲法を教えると学生から非常にバカにされるのだ。
つらいところである。

昔の司法試験では、憲法・民法・刑法・商法までが必修。
訴訟法選択では、民事か刑事どちらか一つ、
あと選択科目と教養科目から、一つずつ、とされていたもので、
訴訟法選択で刑事訴訟、選択科目で刑事政策、教養科目で心理学、が
王道(楽な選択)とされていた。

この時期、訴訟法選択で民事訴訟法、選択科目で行政法、教養科目で経済学。
この組み合わせで数々の秀才が散っていったのだ。

結果、民事訴訟がさっぱりな学生が弁護士になり、
一方、民事訴訟も行政訴訟もどんとこいの学生は司法浪人。

これからの正義の話もしたくなるところであろう。

それを考えると、司法試験制度も改善されたものだ……。
現行制度で、民訴と行政法が不十分な学生が試験をパスするのは難しい。

「ああ、そうか。
 じゃあ、法律の留保みたいな観点からの審査は、
 防御権とは独立に行われるわけだね。」

「そういうことだよ。
 そして、ポイントは、法律の留保の審査というのは、
 法律の文章、つまり法文と、そこで適用された法命題の関係を
 問題とする審査だ。」

「そりゃそうだな。」

「そう。そして、この場合、
 その法文をどう理解するのが自然か、
 一般人はその法文を見たらどう理解するか、
 という種類の事実は、参照するんだが、
 それ以外の、規制が目的達成に役立つか、とか
 被告人がどこでどんな行為をしていたか、とか、
 そう言う立法事実や司法事実と呼ばれる事実は、全く審査しないんだよ。」

「そりゃそうだろう。」

「そう。そして、一般人がその法文を見たらどう理解するか、
 なんて判断は、わざわざ『一般人』の代表つれてきて尋問しなくても認定できる。

 裁判官は『一般人』とは全く異質な宇宙人じゃないからな。」

「ふーん。そうすると、法律の留保に関する審査は、
 法文と法命題と裁判官の頭があればできるってことになるね。」

「そう。だから、法文だけをみて審査をする、とも言われる。
 だから、文面審査と呼ばれるんだよ。」

「・・・。あれ、さっき、防御権の観点からの文面審査って話も出てきたよね。」

「そう。でも両者は、質的に違うところがあるんだ。
 私は、『急所』では両方とも法令審査と呼んできたんだが、
 区別しといたほうが、分かりやすいかもしれない、とも最近考えている。」

こうして話は、文面審査の二類型の話に進んだ。

採点実感先生の「ありません」

2012-03-01 07:43:59 | Q&A 採点実感
騒動の発端は、次のような採点実感先生の一言であった。


原告の主張を展開すべき場面で,違憲審査基準に言及する答案が多数あった。

違憲審査基準の実際の機能を理解していないことがうかがえるとともに,
事案を自分なりに分析して当該事案に即した解答をしようとするよりも,
問題となる人権の確定,それによる違憲審査基準の設定,事案への当てはめ,
という事前に用意したステレオタイプ的な思考に,
事案の方を当てはめて結論を出してしまうという解答姿勢を感じた。

そのようなタイプの答案は,本件事例の具体的事情を考慮することなく,
抽象的・一般的なレベルでのみ思考して結論を出しており,
具体的事件を当該事件の具体的事情に応じて解決するという
法律実務家としての能力の基礎的な部分に問題を感じざるを得ない。




ここで思い出されるのは、しばらく前の東急将棋まつりでの出来事である。

羽生二冠と佐藤九段が対戦した。

このとき、佐藤九段は『佐藤康光の石田流破り』を公表した直後であった。
佐藤九段が石田流を破るというのだから、
売れ行き好調もよいところであった。

そんな中で羽生二冠がぶつけてきたのが
石田流であった。
本当にそれで破れるのか?と問うてきたわけである。

それで羽生を破れば、佐藤九段の著書の権威はゆるぎないものになろう。
これに対し、これに敗れれば、やっぱり破れない、となってしまう。
この戦いに、佐藤九段の著書の売れ行きがかかったわけである。

その結果については、……まあ、ここで書く必要はないだろう。

ちなみに将棋というゲームは、負けた側が
投了の意思を示す発言をすることによって終わる。
審判の宣言で終わらず、負けた側が負けを認めるというすごいゲームなのだ。

投了の一言には
「負けました」「ありがとうございました」「負けですね。」などがある。

私が好きなのは「ありません」である。
これは、「これ以上指す手はありません」という趣旨で、
負けを素直に認めたくない感じがでているところが、
何とも味わい深い・


・・・・・・。



さて、上記の採点実感先生の一言であるが、
私は、この言葉が「設問1で違憲審査基準に言及したら減点」と解釈されるのを恐れた。


平成23年度はいわゆる電撃戦答案というかステレオタイプ答案というか
「これ内容規制、だから厳格審査、やむにやまれぬ利益はない」
という答案が多かったらしく、
採点実感先生の言葉のほとんどが、そういう答案をかくなというメッセージであった。

上記記述もそうだろう、というのが私の解釈であったわけだが、
文言上は設問1違憲審査基準言及アウト説である。

この説が採点基準だとすると、これは
芦部憲法のような権威的著書から憲法の急所というピンクのクラゲに至るまで、
ほとんどの憲法基本書・演習書が、なぎ倒されることになる。

基本書・演習書は、学術的側面とともに、法学と言う分野の特性上
『司法試験破り』の性質をもっているのだ。

かくして、採点実感名人と憲法基本書軍団の非公式対局、
本当にそれで破れるのか?が開催されることになったわけである。
(たぶん1月のLSは、試験委員の先生含め
 多くの憲法の先生の前に、この採点実感先生は何を言っているのか、
 を聴こうとする人々の長蛇の列ができたはずである)


ええ、とまれ、
そもそも司法試験の問題や採点実感先生の手の全体を見れば、
また憲法学の水準を前提とすれば、
設問1で違憲審査基準に言及しないというのは無理な話であるが、
文言が文言であるため、次のようなご指摘も頂いた。


「(採点実感の言う)審査基準の機能とは、最後の最後で、
 裁判所がどっちにするかの問題と考えているのではないでしょうか。
 そうすると、原告が言及する必要は必ずしもない、ということになります。」
 (1月11日のたけるんさんのコメント)

「原告の主張を展開すべき場面で,違憲審査基準に言及する答案が多数あった。」
 との文言からすると、
 「私見(裁判所の見解)を展開すべき場面で、
 違憲審査基準に言及する答案なら問題ない」と読むことができるように思います。」
 (2月2日の振り飛車穴熊さんのコメント)


このような受験生のご意見に対し、私というか、おそらく憲法の先生の多くは、
採点実感先生の字面だけにとらわれず、
合理的な憲法学の理解から、言葉を分析すべきだと主張していたわけである。
判民方式の採点実感解釈と言えよう。

あるいは、こうも言えるかもしれない。
アメリカ政府が公式に「ロズウェルで宇宙人の乗り物を回収した」と
声明を出したとしても、
それは、本当に宇宙人がいることを意味するわけではないのだ。
全体の文脈から、そこで何を伝えようとしているのかを考えなくてはいけない。

……。つい、先日、ロズウェルとつづったため、
全く関係ない話をしてしまった。アホか?

まあ、そういうわけで、
今回は、採点実感先生の側があっさりと投了してくれて、
電撃戦答案、ステレオタイプ答案が悪かった、
という趣旨だということが明らかになったので、ほっと一息である。

今回の教訓としては、字面だけに依拠した解釈は、
法律条文でも、判例でも、採点実感でも、危険だ、ということであろう。

というわけで、次のようなコメントをよせてくださった
やすさま、シュナサンさま、ありがとうございました。
四千番さまも情報提供ありがとうございます。


佐渡先生が… (やす)
2012-02-28 20:12:58
採点実感の補足、読みました。
佐渡先生、意外とツンデレでした…。

木村先生の分析がことごとく当たっていることに脱帽です。
ありがとうございました!

Unknown (シュナサン)
2012-02-28 22:04:43
 先生の統治機構論楽しみにしています。憲法訴訟論についても、先生が担当されるのですか。
 いずれにしても、毎月読ませていただこうと思っております(合格したとしても)
 ところで、採点実感の補足がでましたが、先生の指摘したとおりでしたね(まいりました)最初から、あのように書いてくれれば、混乱せずに済みましたが・・・
 でもわざわざ、追加の補足を出すということは、各ローで、質問が殺到して、やばいと思ったのでしょうね。


いやよかった。よかった。

業務日報

2012-02-29 21:38:57 | お知らせ
本日、八王子は大雪(20センチくらいつもった)だったわけですが、
シンポジウムに向けて、パネリストの皆様と打ち合わせをしてまいりました。

詳細は明日、ご報告いたします。

あと、採点実感先生の補足について、情報提供ありがとうございます。
なにかしらコメントしようと思いますが、
佐渡先生に語らせるには、優しすぎる文章で、
佐渡先生ツンデレ疑惑まで発生しています。

うーん、どうしよう?

とまれ、また明日お会いいたしましょう!

佐渡先生編 完結

2012-01-31 07:11:32 | Q&A 採点実感
さて、先日の神様の黒板の2から4号機のどれかで処理できていれば
十分合格といってよいだろう。

ただし、二号機と三号機の論証はどちらかだけでは不十分なので
そこに気をつける必要があろう。

そこで私は、佐渡先生に提出する答案を作成した。
なお、()内は、違憲審査基準を使わない場合の表現方法である。

問題1 ▲原告の主張

  一 保護範囲の画定、制約の認定、違憲審査基準の設定

 ▲1 Z画像をネットに公開する行為は、「表現」として21条の保護を受ける。
      *ここは、昨日の神様たちの検討をば参照。

 ▲2 だから厳格審査になる。(だから価値の高い行為である)

  二  法令審査

 ▲3 まず、高レベルブリ画像等の権利利益侵害画像の
    修正勧告に従わない者等に命令を出すことを認める8条3項は合憲か?

 ▲4 目的①審査:目的①=不快感の保護審査
    まず、この法令が、なんとなくの不快感のような
    漠然とした利益を保護しようとするものなら、
    目的が重要とは言えない。
   (実現している価値がX社の行為の価値を上回るとは言えない。)

 ▲5 目的②審査:目的②=生活の平穏と犯罪防止目的の審査
    仮に、この法令が、生活の平穏や、犯罪防止を目的とするなら
    目的自体は重要。

 ▲6 手段審査:目的②審査を受けて    
    しかし、公道から見える範囲である以上、
    現に危険は存在しており、Z画像がそれを拡大するとは言えない。
    よって、関連性がない。必要性も当然ない。
   (よって、そういう目的は実現できていないので、
    本件法令により得られる利益が、被侵害利益を超えるとは言えない)

  三 処分(適用)審査

 ▲7 仮に、▲6で関連性があるとしても、
    今回はブリ画像一律修正が問題になっている。

 ▲8 審査基準については、先ほどの検討と同様でよい。
    まず、不快感の保護が表現価値の制約を正当できないことは▲4の通り。

 ▲9 目的②は重要なので、目的審査はパスするが、
    低レベルブリ画像まで一律禁止することは、関連性が欠ける。
    (今回の命令は、過剰に価値を侵害している)

 ▲10 今回の命令は、低レベルまで含めた修正に従わないという
     不当な理由によるもので、処分違憲ないし適用違憲。

 *処分審査では、目的手段審査をしないと言われているらしいが、
  これは、目的審査が法令審査段階で終わっているからである。
  (詳細は、以下の過去記事を参照)
   http://blog.goo.ne.jp/kimkimlr/c/e94e767006f59fc752227627bc619922/2

これは、憲法学者がこの問題を時間をかけて解いたときに、
自然と言える答案構成であり、
佐渡先生の出題趣旨・採点実感も概ねこうした解答を求めているように思われる。

このように原告の主張が組み上がってしまえば、
あとは、被告からの反論として、次のようなことをいえばいいはずだ。
 △1 ▲1に
 「営業行為にすぎない」
 「特定の思想表現だけを「表現」とすべきで
  単なる「システム」に過ぎない情報流通は、21条により保護されない」

 △2 ▲6や▲9には、
 「現場に行って情報を収集すれば、周囲の人に見られる虞がある一方、
  ネットでは、そういうこともなく、労力もかからないので
  犯罪をたくらむ者にとって有利な面があり、
  原告のいいぶりは、楽観的すぎる」

 △3 ▲4に、
  「現代社会は、相手から与えられない限り相手の情報を探知できない
   という前提で人間関係が形成される社会であり、
   今回のシステムは、
   住所を知られただけで自らの生活ぶりをも知られるようにするもので、
   著しく精神の平穏を害するもので、目的①は決して軽いものではない」

因みに、裁判官の落とし所はいろいろあるが、
私なら、▲9の言い分を認めるところだ。

まず、△1に対して、次のように再反論。
 「公権力が情報の流通に介入することは、極めて危険であり、
  将来的に、どのような情報が民主制・自己実現のために役立つかを判定するのは難しい。
  よって、X社の行為を単なる営業行為として保護するのは妥当ではない。」

続いて、△2に対しては、次のように認める議論。
 「被告の言うように、ネットによる情報の収集は、
  公道での情報の収集とは異なる性質を有している。
  公道にいる者であれば、誰が自分の家を見ているか確認し
  双方向のコミュニケーションが生まれ得るが、
  ネットでの公開にはそのような側面がなく、
  公道から見えるからよいだろうという原告の主張は、
  本件システムによる情報流通の性質を見落としている。
  よって、高レベルブリ画像を権利利益侵害画像として
  修正を求めること、修正に従わないことを理由に命令を出すこと
  自体は合憲で、それを認める法令はそれ自体違憲とまでいえない。」

そして、△3については、次のように再反論。
 「とはいえ、先に述べたように、
  本件システムが・・・・といろいろ便利で、
  公共の価値に資する面があることは事実。
  このことは、法律も一条で認めている。
  そして、ブリ画像一般というのは、あまりにも規制範囲として広すぎ、
  このようなZ画像で、ブリ画像を含まないものの方が少ないだろう。
  そうすると、それを削除させれば、Z画像は提供できなくなり、
  本件改善勧告はあまりに広すぎ、それに反したことを理由に停止命令は
  適用において違憲」


こんな感じで、▲9のラインでおとすかなあ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

さてさて、感想めいたものをば。

こうして書いて見ると、違憲審査基準を使っても、比較考量で書いても
大した違いはなさそうである。

違憲審査基準を使う場合も、
その行為が「表現」に該当するか(保護範囲の確定と制約の認定)、
目的は何で、手段として関連性必要性があるか?といったところで、
個別事情を考慮せざるを得ない。

また逆に、個別事情をあまりひろえず漠然として比較考量をすれば、
それは審査基準ステレオタイプ答案になるだろう・・・。

しかし、この「原告だったらどうする?」「あなたの見解は?」との
問題形式は、なかなか難しいものだ。
「あなたの見解」で請求認容なら、被告に再反論すればいいが、
請求棄却だと、被告の主張に輪をかけなくてはならない。
(・・・。出題者は、暗に、被告の主張を認める答案を書くな、と
 考えているのだろうか?いや、それは考え過ぎか。)

ふー、一応、My答案構成ができた。
しかし、ここまで書くのは実際には難しそうだから
法令審査として明確性審査、処分審査としてブリ画像命令審査とした人が
実際には、多かったのではなかろうか。
そして、恐らくそれで十分なはずである。

また、憲法答案の優劣は、
法令審査や違憲審査基準・比較考量等の形式面よりも、
問題文に掲げられた事情が
憲法上のどのような要件、主張に関わるものとして言及しているのか
を明らかにできているかどうか、という点で決せられることも多い。
ここはぜひ、注意が必要なことであろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

また、別途、明確性は問題になり得る。
明確性の問題を処理する場合の注意点は、以下の通りだろう。

1 今回の行為との関係で
明確性の論証というのは、「当該行為」と法文との関係で決まる。

今回は、ブリ画像の禁止ということが
「個人の権利利益侵害」禁止から読み取れるかが問題になるが、
ブリ画像禁止から得られる利益は、
これまで法的権利・利益として十分に画定・確立したものとは言い難い。
よって、今回の文言からは、今回の行為に適用されることは不十分、
的な書き方が必要になろう。

2 適用法条
また、今回は刑罰の事案ではないので、
憲法21条から導かれる明確性の要請を論じなくてはならない。

3 論じる順番
さらに、明確性の問題は、
防御権としての表現の自由とは次元の異なる
特定行為排除権の問題であり、
「そもそも明確か」として、防御権の検討の前に論じてもよいし、
「仮に、今回の命令が表現の自由との関係で正当化されるとしても」
として、防御権の後に論じてもよい。
(詳細は、『急所』第四問)

よしよし。
これで、ようやっと佐渡先生の出題の全貌がつかめた。

私は、答案をしたため、佐渡先生のポストに投函した。

・・・・・・・・・・・・・・。

というわけで、ここまで一カ月近い連載になってしまいましたが、
読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。

私としては、こうして問題を検討してみて、
「不親切なところは多々あるが、
 表現の自由、プライバシー、違憲審査基準論などの
 基礎概念をきちんと理解して、
 素直に解けば、十分にしっかりした論証ができる問題だ」
との感想を頂きました。

採点実感や出題趣旨がいっていることも、
憲法理論の観点からそれほど違和感がある点はなく、
きちんと解説すれば、受験生の皆様にも理解していただけるものなのかな、
とは思いました。

というわけで、長いですが、今回の連載参考にしていただけると嬉しいです。
ぜひ、採点実感先生の字面にまどわされることなく、
ここでどのような憲法理論が表示されているのだろう?と考えてみてください。

それでは、これまでどうもありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



エピローグ

さて、佐渡先生のポストに投函して数日後、
私を廊下で呼びとめた者がいた。佐渡先生である。

「アナタね。この前、私のポストにわけのわからない物体を
 放り込んだのは。」

 いや、放り込んだのはわけわからん物体でなく
 答案です、と言おうとしたところ、
 佐渡先生は、威圧的に発言を続けた。

「アナタの投函した答案らしきものね、
 1行全てを使っていない、原稿用紙に失礼なものになってるわ。
 すこし原稿用紙の気持ち考えたらどうなの?」

 はあ・・・。でも内容がよいからよいでしょ、
 と言おうとしたとき、佐渡先生は、とどめをはなった。

「だいたい、私は答案をかいてよこせといったのよ。
 別に、ピロリ菌みたいな存在のアナタに
 達筆でなければならない、とは言わないわ。
 ワタシはやさしいの。」

 ・・・。はあ。

「でも、アナタの書いた答案らしきもの、悪筆を通り越して
 ミミズの魚拓ね。文字を書く練習からやり直しなさい。

 このくそ忙しい中で、あんな紙を読ませようとするなんて、
 アカハラもいいところだわ。もうやめてちょうだい。
 今度、ミミズの魚拓を私によこしたら、
 アカハラ対策委員会(委員長佐渡里子教授)に付託するわよ。
 分かったわね。」

 こう言うと、佐渡先生は答案の内容には何も言及せずに
 私の目の前から去って行った。

 佐渡先生の講義は、今日も絶好調なことであろう。