逆転と講演会クイズの出題趣旨 2012-01-24 07:56:50 | Q&A 採点実感 たくさんのご回答ありがとうございました。 各大学によってプライバシー権の教え方は違うと思いますので こういうところで、お話を聞かせていただくと 大変勉強になります。 みなさん、かなり考えて下さったようで、とてもうれしいです。 さて、クイズの趣旨です。 逆転判決(前科の実名での公表)と 講演会事件(参加者氏名等の警察への情報提供)とでは、 同じ「プライバシー侵害」の事案とされていますが、 認定された被害額が大きく違います。 前者は数千円、後者は数十万円ですね。 この違いはどこからきているのでしょう? これを考えてみようというのが、今回のクイズの趣旨です。 (そして、これは、昨年の司法試験の分析のために 非常に重要なポイントにかかわります。) この点の説明の仕方は、二つあります。 説明1 両者で、被侵害利益は同じプライバシー権だが、 法益侵害の<程度が>違う。 説明2 両者は、そもそも侵害された権利の〈性質が〉違う。 但し、たまたま二つの権利がプライバシー権の名の下に 包摂されているだけである。 (「憲法上の権利」の名の下にも 営業の自由と表現の自由が包摂されているように) この二つの説明、それぞれ課題があります。 説明1については、 両事案で共通している法益の内容をきちんと説明する必要があります。 この点を説明するとしたら、 「個人情報をコントロールする権利と言う点で共通だ」 くらいでしょうが、 個人情報コントロールができないと、 どのような問題がおきるのでしょう? 以下、説明1に依拠した皆さんへのコメントです。 >Jiroさま 概ねgoodですが、③の部分で両者が 同じ権利の下に包摂される利益である理由が 説明できていないと思いました。 >D-Mさま 公開されない権利を保障すべき理由が観念的になっているように 思いました。 >TORAJIROさま 「社会生活上の不利益」というキーワードよいと思いますが、 そこで具体的にどのような不利益(特に講演会事件)が 生じるか、考えてほしいところでした。 説明2については、 侵害された異なる権利の内容を明確に定義してもらう 必要があります。 以下、説明2に依拠した皆さんへのコメントです。 >平民Aさま ③のところで、説明が不十分な気がしました。 個人の尊厳に不可欠、人格的な権利利益をそこなう。 これは、具体的どのような損害が生じるイメージなのでしょう? かんがえてみてください。 >gsskさま ③のところが不十分です。 逆転判決の部分について、どのような悪いことがおきるのか、 もう少し書いてほしかったです。 講演会事件の方は、よくかけています。 >orsさま ふーむ。講演会事件の被告は 国家に情報をもらした学校法人です。 もう少し事案に踏み込んでほしかったです。 >k.sさま 逆転判決OKです。 講演会事件ですが、介入探知されない権利が保障されるべき 理由もすすこし具体的にほしいところでした。 >ますおさんさま こんにちは。いつも日曜日の6時30分より おたくの私生活を無許可で撮影した番組を 視聴させていただいております。 はい。かなりグッドです。 その権利が侵害されるといけない理由が かなり具体的に書かれていると思いました。 はい。まことにありがとうございました。 最後に、私のきき方のせいか、 質問に対応していない解答になってしまっていた 方々についてのコメントです。 >四千番さま ちょっときき方がわるかったですね。 「侵害された権利」とは、判決により制約された権利ではなく、 不法行為の被侵害利益のことです。 >法学男子様 「②の質問に答えられていないわね。 キムラは、同じか違うか、をきいてるの。 下手に質問の趣旨をさぐろうなんてしないで 素直に問題に応えるべきだったわね。 あなたを「F」なんて評価したら、 他の「F」の子に失礼だわ。」 以上佐渡先生のコメントでした。 講演会事件の方を情報コントロール権としますが、 そうした権利を保障すべき理由はなんですか? そこが説明できていないように思いましたので 考えて見て下さい。 >ごんはるさま 質問に対応していない部分があります。 情報自体の価値をどう判断するのか不明確だと思いますので かんがえてみてください。
休憩のお知らせ&クイズ 2012-01-22 06:14:44 | Q&A 採点実感 佐渡先生シリーズが続いておりますが、 所用で、次の更新は3日後位になります。 カレンダーを確認。うん。2日後でした。 せっかくですので、一つクイズです。 「ノンフィクション逆転事件と江沢民氏講演会事件、 ①そこで侵害された権利は、それぞれ何でしょう? ②両者で侵害された権利は、同じものですか、違うものですか? ③そうした権利を法的に保護すべき理由は、何でしょう? (②で違うものとお答えになった場合には、 それぞれお書き下さい。) 」 はい。それでは、また、2日後にお会いいたしましょう。
佐渡先生のオフィスアワー(2) 2012-01-21 07:27:55 | Q&A 採点実感 インテリアは、白い色で統一され、ちりひとつない。 佐渡先生の研究室は、病室のようだった。 研究室に入ると、佐渡先生は言った。 「アナタ、最近、うちの准教授にとってやったキタムラね。 何?アナタのあの論文。読むのが苦痛で、論文審査は拷問のようだったわ。 アナタ、あんな論文書いて、私に対するアカハラのつもり?」 すごい入り方だ。そして、私の名前はキムラである。 「ところで、アナタ、新司法試験って受けたことある?」 「……ありません。」 当たり前だ。私が学部にいたころには、法科大学院も新司法試験もなかったのだ。 「じゃあ、アナタ、学部時代の憲法の成績は?」 「……。はあ、そんなに悪くはなかったですけど。」 学部時代、いろいろひどい答案は書いたが、これは本当である。 生涯打率1割3厘では、プロ野球の打撃コーチはつとまらない。 しかし、佐渡先生の攻撃はし烈だった。 「『そんなに悪くなかった』ですって? あのね、私がいつ、『昨日見た面白い夢の話』をしろって言ったの?」 いや、夢の話ではなくて……と言おうとしたところ、 佐渡先生はたたみかけた。 「正確に、『憲法の順位は、ピロリ菌とアオコケの間くらいでした』って言いなさい。」 面倒なので、適当に復唱して流すことにした。 「……はい。憲法の順位は、ピロリ菌とアオコケの間くらいでした。」 そういえば、このオフィスアワーは、ラウンジに中継されている。 中継は、アカハラ防止というより、屈辱公開プレイのためと言っていいだろう。 「まあ、いいわ。私の試験問題は見てるわね。 そして、アナタは、『この問題で違憲審査基準を立てろ』、って言ってるそうね。 でも、具体的な分析ができているにもかかわらず, 結論に近づいたところで,急に審査基準のパターンを持ち出したために 争点から遊離して説得力を失う答案も多かったの。 違憲審査基準をつかったせいで、 事案の検討ができなくなってる人がいるのよ。わかってる?」 私は違憲審査基準ではないのだが、佐渡先生はまるで私が違憲審査基準であるかのように 怒りをぶつけてきた。 「はあ。私は別に、違憲審査基準の枠組みでもちゃんとした解答ができるといってるだけで、 絶対に、そうしろ、とまでは言って・・・。」 「はあ?ちょっと黙んなさい。いい? 私が求めているのは、この問題のシステムの提供により個人情報が公にされ, ①プライバシーや肖像権の侵害の問題が生じることから, ②表現の自由とそれらの憲法上の権利が衝突してしまい、 ③それを調整しなくちゃいけない場面だ、 というところを踏まえた答案なの。 目的手段審査の枠にとらわれず, 両者の人権価値が本問においてどのように衝突しているのかを具体的に分析し, 解決を見いだそうとすることを求めているの。わかる?」 佐渡先生は、私をずぶの素人ないしアオコケよりもややましな存在として扱う方針のようである。 「……はあ。あの、違憲審査基準論というのは、比較考量を精密にやるための枠組みなわけですよ。」 この主張を否定する憲法学者は、おそらくおるまい。 「ですから、別に違憲審査基準をつかっても、 それは、比較考量を精密にやるだけで、 比較考量と違う結論が出たり、 ただの比較考量の論証レベルに劣ったりするはずないですよね? ですから、『違憲審査基準を立てるな』という先生のご発言は言いす……。」 私も研究者なので、しっかり反論してみた。 しかし、佐渡先生は、また、それを遮った。 「うるさいわね。ガタガタガタガタ、壊れた扇風機みたいな喋り方するんじゃないわよ。 だいたい、誰が違憲審査基準を立てて解答するな、って言ったの? 私が批判しているのは、 『原告の具体的事情を分析すべきところで、抽象的な違憲審査基準の話ばっかりする答案』 『違憲審査基準論を振り回すだけの形式論』 『審査基準のパターンを持ち出したために争点から遊離して説得力を失う答案』 『違憲審査基準の設定,事案への当てはめ,という事前に用意した ステレオタイプ的な思考に,事案の方を当てはめて結論を出してしまうという解答』 『最初から終わりまで違憲審査基準を中心に書きまくる答案』 『この基準でいく,と判断すると,後は「当てはめ」と称して,ほとんど機械的に結論を導く答案』 こういう答案なの。」 ……電光石火答案・出会いがしら一撃答案・一行問題答案のことではないか。 「それを『違憲審査基準を書くな』って言っていると早合点して、 私を非難するなんて、誤解もいいところだわ。 やっぱりアナタの理解力、ピロリ菌以下ね。。」 ……どうやら、佐渡先生が違憲審査基準はゴミ箱行きだと 考えているわけではないらしい。 「はあ。すいません。」 「いい。私は、違憲審査基準を使うなと言っているわけじゃあないの。 バカの一つ覚えみたいに、違憲審査基準のパターンのことだけ考えて、 具体的な事案を分析できないのがダメだと言っているの。」 「はあ。そうすると、違憲審査基準論を『ちゃんと』使えば、 この問題でも、適切な議論ができる……と。」 「当たり前じゃない。アナタ、憲法勉強したことあるの? 美濃部達吉の墓の角に頭ぶつけて死ぬといいわ。」 ・・・。すごい死に方だ。 「よく聞きなさい。私が言いたいのは、この問題で 違憲審査基準を使っても、きちんと書けば書けるでしょうけど、 アンタみたいなシロートは、違憲審査基準使うと、 パターンに引きずられて自滅するから、 それを意識しないで、 表現の自由とプライバシーを調整する議論をしてごらんなさい、 ってことなのよ。」 あー、そういうことか。 将棋でも、 プロ同士が正しく指すとと先手必勝だが、 正しく指すことが難しいため、 アマチュア同士でやると普通は後手が勝つ、 という局面がある。 今回の問題はそれに近く、 違憲審査基準を立てて「ちゃんと」解けば、 正解に到達できるが、 中途半端に違憲審査基準を使うと自滅しやすい問題で、 実際、自滅した答案が多々あった、ということだろう。
佐渡先生のオフィスアワー(1) 2012-01-20 07:14:09 | Q&A 採点実感 私の勤める法科大学院は、なかなか楽しい場所にある。 大学院の7階からは、どんどん高くなってゆくスカイツリーを観察することができ、 通勤途中の橋から見える水門は美しい。 これ以上にタモリ倶楽部ポイントの高い法科大学院はなかなかなかろう。 さて、法科大学院に行くと、ラウンジに人だかりができていた。 私の学部ゼミ出身で本院に出身した院生(仙台出身・嫌いなもの寒中水泳)に、 なにをやっているのか、と聞くと、佐渡先生のオフィスアワーが中継されているのだという。 なんでも、佐渡先生は 「オフィスアワーに来た者だけが期末試験で有利になったりしないように、 また、アカハラなどのつまらない疑いをうけないように」 オフィスアワー時間中は、その様子を院生ラウンジに中継しているのだという。 モニタをみると、確かに佐渡研究室の様子が映っている。 佐渡先生がアカハラの「疑い」を受けないよう意識しているという点が まず驚きだが、 その上、それを公明正大に中継し、厳格審査に付しているというのもすごい。 街中でのビラ配りに拷問の上、火あぶりで処刑しておいて 表現の自由からの厳格審査を受けて立とうというようなものだ。 まあ、佐渡先生のオフィスアワーなどという地獄に好んで身を投じる者はおらんだろう と思って、見ていると、なんとノックの音がする。……。フジイだ。 フジイは、いつものようにモジモジしているが、自信に満ち溢れて、質問を開始した。 「あのー、先生、違憲審査基準なんか、ごみ箱行きだ……っていっていましたよ…ね。 違憲審査基準の、あの、何が悪いのですか?」 ごみ箱とは言っていない気もするが、フジイは、 どうやらそこで頑張るらしい。 佐渡先生は、このフジイの態度に腹を立てたらしい。 (佐渡先生が学生に腹を立てるということをわざわざ描写するのも間抜けだが) 「いい。アナタの答案は、原告,被告の主張を戦わせるのに, 表現の自由とプライバシーとの実体的な関係について論じないで, 審査密度の濃淡だけで優劣を論じているだけなの。」 フジイの原告主張は、要するに、 「本件は内容規制なので厳格審査基準だ」として、 「プライバシー保護は、やむにやまれぬ政府利益じゃない」といった答案だったのだろう。 厳格審査基準となったら、ほぼ違憲。 よって、ほとんど理由なく3行であてはめて違憲。いわゆる電光石火答案なわけだが、 「プライバシー保護は、やむにやまれません。違憲です。」では、立法府も納得しないだろう。 本件で厳格な審査基準を設定することは必ずしも誤りではないが、 被告の側にも、この目的はやはり重要です、規制は必ずしも強力ではありません といった、いろいろ主張できるポイントがあるのだ。 しかし、フジイは頑張った。 「あの…、ふふ、僕の答案ですね、ほら、なんで表現内容規制には 厳格審査を適用するか、2ページかけて論じているでしょ。 それ、読んでないんですか?」 このセリフに、中継を見ている院生たちは凍りついた。 佐渡先生に反論している。 「……。どうやら、私の目の前にいるのは、人間ではなくて、穴のあいた靴下だったようね。 さっさと、 違憲審査基準論を振り回すだけの形式論では説得力が生まれないことに気付きなさい。」 「え?でも僕、違憲審査基準論、詳しいんですよ。 ほら、比較考量論がいけなくて違憲審査基準立てなきゃいけない理由も1ページかけて書いてあります。」 「……。答案は、アナタのミジンコ並みの脳みそに記録されたゴミ情報を書く場所じゃないのよ。 さっさとこの部屋から出て行って、5階から飛び降りなさい。」 佐渡先生は、こう言って、ミジンコ・・・フジイを追い出した。 フジイの答案の全貌が見えてきた。 フジイの答案は、審査基準の後、3行で終わっているのみならず、 なんと「違憲審査基準論」に3ページかけているらしいのである。 「違憲審査基準論」。これは、本件で厳格審査すべき理由の論証ではない。 違憲審査基準とは何か?比較考量論と何が違うのか? 芦部説だとこうで、初期の判例を高橋説がこう批判して、といった 事案と何の関係もない「違憲審査基準」という概念に関する「論」である。 このあたりは、司法試験に直結するということで、 妙に詳しい受験生も多いのだが、それ自体の知識を書くことは試験では問われていない。 これを「違憲審査基準について」という一行問題への解答のような答案という意味で 一行問題答案という。 笑い話のようだが、そういう答案はしばしばあるのだ。 しかし、一行問題答案は、やはりだめだ。 ふーむ。やはり、きちんとした答案というものの組み立てを問題に即して解説する必要があるな。 だいたい佐渡先生は、あんな難しい問題を出した以上、 模範というか求めている答案のモデルを示す必要がある。 それが責任というものだろう。 ……さて、フジイに続く勇者がいるわけもなく、 佐渡先生は、しばらくボケーとしていたが、ふと何か思いついた様に携帯電話を取り出した。 院生たちはビビっている。なんでも佐渡先生は、 オフィスアワーに客がこないと、自ら呼び出すという。怖い。 まあしかし、犠牲者は可哀そうだが、見世物としては面白い。 だれになるのだろう? そう思っていると、イッツァスモールワールドが鳴った。 私の携帯電話の着信だ。 着信を確認すると、「佐渡先生」と表示されていた……。 * 明確性の問題は、防御権からの審査が終わってから 説明した方がよいかと思うので、ちょっと置いておかせて下さい。 とりあえず、防御権問題を検討していきます。 * 私の実際の着信音はイッツァスモールワールドではありません。
佐渡先生対策講座(5・完) 2012-01-18 07:42:38 | Q&A 採点実感 さて、いろいろな解答をいただきました。 1 立法事実・司法事実と二段階審査 二段階審査Bの二段階目処分審査B、 『急所』では処分審査Bと書いたとこですが、 この問題の処分審査では、 「アカツキ住宅の共有ラウンジのような 開放性の高い共有ラウンジの連続訪問による選挙運動を 規制することの合憲性」 が問われています。 ここで芦部先生の定義を思い出してください。 立法事実とは、「法令の合憲性を支える事実」です。 そして、この規制を合憲とするには、 <開放性のたかい住宅の共用ラウンジでは、贈収賄の恐れは高い>という 立法事実=合憲性を支える事実が必要です。 「開放性のたかい住宅の共用ラウンジでは、贈収賄の相談は極めて困難だ」 という事実の主張は、こうした立法事実の不在の主張になります。 (そういう意味で、「」内は、立法事実ですか司法事実ですか という問題は、よくない問い方でした。) というわけで、少なくとも、「」を司法事実とした方は誤りで 立法事実、または立法事実の存在を否定する事実、と解答するのが正解です。 (なお、 アカツキ住宅のような住宅が、日本に一つあるいは一群しかなかったとしても、 「開放性の高い共有ラウンジの連続訪問による選挙運動は処罰すべきだ」 というのは、一般的・抽象的法規範であり、 「」内は個別の司法事実ではなく、それを抽象して得られたものです。) 憲法判断で、その有無が検討されるものは、 芦部先生の用語法に従う限り、 法令審査A・Bであれ、処分審査Bであれ、すべて、立法事実です。 処分審査Bで、どのような立法事実が必要かどうかを判断するのに その処分の要素(司法事実)の参照が必要になるので、 処分審査Bでは、「司法事実を参照する」と言われますが、 これは、処分審査Bでは「立法事実の有無を検討しない」という意味ではないので 注意をしてください。 *尚、芦部先生は、司法事実やや広めに定義しますが、 厳密には、司法事実というのは要件事実のことを言います。 そして、何が要件事実であるかは、 憲法判断をして違憲部分を画定してみないと分からないので、 そういう意味での要件事実は、処分審査Bでも参照しません。 第一問・正解 平民Aさま、k.sさま、YSさま、しがないさま、jiroさま、monaさま になります。 正解者の多くが、立法事実の不在の主張と指摘できている点、すばらしいです。はい。 さて、話はだいぶ整理されてきました。 二段階審査Bと言うのは、要するに、適用審査を二回やる審査です。 なので、処分審査Bでも ①権利保障の根拠・②保護範囲・③制約の認定 ④違憲審査基準の設定・⑤目的審査・⑥手段審査 と全て、議論しなくてはなりません。 ただし、先行する法令審査Bと処分審査Bで問題になる権利が同じ場合、 ①から④くらいまでは、同じになることが多く、 また、その法令を根拠にする限り、 ⑤目的は共通なので、ここの審査もかぶることが多いわけです。 そうすると、手段審査だけをするようなことが多くなります。 というわけで、槇さんの答案が目的手段審査してないように見えるのは 目的審査が一段階目とかぶっているから、省略しているだけ ということになります。 正解は colさん、YSさん、しがないさん、monaさんです。 Jiroさんは、目的審査だけをやりなおしているとのことですが、 目的審査はかぶっているので、ちょっと違うということになるでしょう。 ここで重要な注意です。 まず、法令審査Bと処分審査Bでは、①から⑤までが被ることが多い、 というだけで、かぶらない場合は、処分審査Bで重複しないところから書く必要があります。 例えば、 法令審査Bを営業の自由の観点からやって、 処分審査Bで表現の自由を議論するような場合は、 後者で、①から書きなおし。 あるいは 典型的適用事例は内容中立規制なんだけど、 この事例は内容着目規制だ、という場合は、処分審査Bでは③か④から 書きなおしになります。 また、 普通、法令審査Bと処分審査Bでは、目的審査が重複しますので、 後者では、その事案は、目的との関連がない、必要性がないと言う議論をします。 ただ、処分審査Bでは、手段審査が共通しつつ、目的審査がずれることもあります。 たとえば、プライバシーに基づく差止請求の場合、 典型事例は、①塀越しに部屋を盗撮して公開すること、で、 今回事例は、②家の外観を撮影し表札部分を含めて公開した事例、だとします。 この場合、 プライバシー侵害を止めるのに差止め制度が、 目的に関連し必要(一度公開されると取り消せないのでLRAがない)だ、 という議論になることが多いですが、 ①と②で手段審査は、ほぼ共通になります。 ただ、①と②では、 保護法益は、同じプライバシーに包摂される利益ですが、 その価値は大きく異なるでしょう。 この場合、それが表現の自由の価値を上回るだけの重要な利益かどうか、 という目的審査の内容が、かなり違ったものになる可能性が高いです。 こういうケースもしばしばあります。 そして、目的審査というのは、要するに、立法目的と制約される権利の価値の比較ですから 「処分審査Bは比較考量だ」という説明が流行することになります。 この説明は、概ね正しいのですが、正確には 「処分審査Bは、手段審査が法令審査Bと重複するため 目的審査つまり目的と権利の価値の比較考量だけを書きなおすことが多い」 ということになります。 これで、二段階審査Bの内容が明確になりました。 ポイントをまとめると、 法令審査Bとは、典型的適用例(を基礎づけている法令の部分)の憲法判断である。 処分審査Bとは、当該適用例(を基礎づけている法令の部分)の憲法判断である。 両方とも憲法判断なので、違憲審査基準を適用し目的手段審査をするが 処分審査Bで法令審査Bと重複する項目はわざわざ書かない。 と、いうことになります。 また注意していただきたいのは、 以上の審査方法は、防御権制約の合憲性を検討する方法にすぎず、 請求権や明確性の判断は、別次元に存在する、ということです。 それでは、みなさん、話を採点実感に引き戻し 「佐渡先生のオフィスアワー(1)」でお会いいたしましょう。