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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

居酒屋にて(4)

2012-01-29 07:45:28 | Q&A 採点実感
タケオカ先生の雄たけびにつづけ、ツツミ先生が指摘をした。

「うーん、こう考えてくると、
 法令審査として、明確性の審査をして、
 処分審査でブリ画像停止命令の審査をする、
 という流れが自然な気がしますが・・・。」

「それで済むなら話は早いわい。
 しかしの、ホレ、佐渡先生は、出題趣旨でこう書いとるのじゃ。」

  法令違憲に関して本問で問題となるのは,
  実体的権利の制約の合憲性である。
  この点での本問における核心的問題は,
  肖像権やプライバシーを護るために制約されている
  憲法上の権利は何か,である。


「この記述は、明らかに明確性とは違う表現の自由からの
 法令審査を要求する言葉じゃ。」

「じゃあ!やっぱり、ブリ画像を典型的適用例とした
 法令審査Bを要求しているんですよ。
 それで、明確性審査+ブリ画像法令審査Bの二段階で処理。
 完璧じゃあないですか!うん。この完璧っぷりに乾杯!」

 タケオカ先生は、こういうとトマトジュースを一気飲みした。
 彼は、スポーツマンなので、飲酒喫煙を控えており、
 居酒屋ではトマトジュースを飲むのだ。

「それも違うの。佐渡先生は、採点実感を語りながらこう言っていたはずじゃ。」

 処分違憲の審査で,法律適用の合法性,妥当性のみを論じる答案が
 今年も多かったわね。
 憲法との関係を論じないと,合憲性審査を行ったことにならないの。
 そこのとこ、分かっているの?
 本問では,「生活ぶりがうかがえるような画像」の公表を禁じることの
 合憲性をきちんと論じる必要があるのよ。


「ほれ、どう見ても、ブリ画像の処分審査Bを要求しとる。」

 一同は、しばし沈黙した。ツツミ先生もタケオカ先生も
 アイデアはないらしい。

 そうこうしていると、憲法の神様は、キウイサワーを注文した。

「そこでじゃの、ヒントになる佐渡先生の発言はコレじゃ。」

  当該画像が公道で撮影されたもので,
  カメラの高さ制限は守られていることなどに留意しつつ,
  生活ぶりがうかがえる画像として
  どのようなものが映し出されるのかを具体的に想定した上で,
  具体的にどのような権利利益に影響が及び,
  どのような被害が生じる危険性があるのかなどを,
  インターネットの特性をも踏まえながら丁寧に論じることが求められるのよ。


「どうやら、佐渡先生は、
 ブリ画像の中にもいろいろランクがあることを指摘しておる。
 例えば、
 『その住居が、女性や老人の一人暮らしであることがうかがえる画像』
 これは、犯罪ジャッキの危険性からして、かなり利益侵害の程度が高そうじゃの。」

 ふむふむ。高レベルブリ画像と呼ぼう。

「これに対して、
 『単に、ふとんがほしてあったり、洗濯物がほしてあったりして、
  なんとなくみっともない思いをする画像』
 『家の外観が分かる画像』
 『家の庭から、家庭菜園が趣味であることが分かる画像』
 なんかじゃと、まあ、なんとなくイヤという気もするが、
 権利利益侵害とまで言えるか、かなり微妙じゃろ。」

 ふむふむ。低レベルブリ画像だ。

「おそらくの、佐渡先生が法令審査Bで検討させたい典型的適用例とは
 <高レベルブリ画像を限定して、停止を要求する命令>じゃな。」

「ああ、そう言えば、この事案、ブリ画像のレベルにかかわらず一律に
 禁止命令が出てますね。
 この『一律の禁止』という事情は、
 高レベルブリ画像への『限定した禁止』の事例よりも
 原告の憲法上の主張にとって有利に働きます。」

「と・い・う・ことは、処分審査Bで扱ってほしいのは、
 <低レベルブリ画像を含め一律に禁止する、今回の命令の合憲性>
 なのですね!

 おおおお!確かに、違う問題を混同していた気がします。
 ブリ画像、確かに中にはいろいろあります。
 私の頭の中で、ナスの一本漬とラーメンがごっちゃになっていたのと一緒だ。
 すっきりしました。すっきりしましたよ。
 これは、富士急ハイランド全絶叫マシン終了後並みのすっきりだ!!」

 富士急ハイランドの絶叫マシンは恐ろしすぎるので、やめてほしいが
 タケオカ先生は、すっきりするらしい。恐ろしい人である。

 ここで、神様の手元にキウイジュースが運ばれてきた。

「ほほほ。その通りじゃ。」ごくごく。

「こうして、今や審査対象は画定し、違憲審査基準の意味も判明した。
 これで、佐渡先生の想定する模範解答を画定する舞台はととのった。」ごく。

「あとは、ほれ、この舞台の上で、演技をすればよいわけじゃ。」ごくごく。

「まあ、これを比較考量で処理するのは簡単じゃ。
 そこで、違憲審査基準で処理してみるかの。ほほ。」ごくごく。

 こうして神様はキウイジュースを飲みほした。

居酒屋にて(3)

2012-01-28 09:30:43 | Q&A 採点実感
さて、連中は、ここから
「個人を識別できないにもかかわらず、
 個人の権利利益を侵害できる画像」として、
どのようなものがあるか、考え始めた。

「まあ、さらっと思いつくのは、著作権侵害じゃの。
 例えば、彫刻家が、
 『公道で公衆に提示するのはよいが、
  写真をネットに流すのはダメ』という許諾をして、
 公道に作品を置いといたとするの。
 そこが写真にうつっていたら、これは権利侵害画像じゃ。
 問題文には、二次利用も相次いでいると書いてあるしの。」

 神様は言った。
 確かに、それ写真にとってながしたら、著作権(公衆送信権?)侵害だ。
 それはスマートな例な気がする。

「いやいや、営業秘密ですよ。
 例えばですね、ラーメン屋さんが、秘伝のたれに
 にんにく、つかっているとするじゃないですか。

 そして、『青森にんにく』とかって書いた
 ダンボールが運び込まれるところ、たまたま写真にうつったと。
 どうですか?
 心血込めたたれの秘密がですよ、ネットで公開されるんですよ!!
 おいどうするんだよ。俺のラーメン。ラーメンだよ。
 ああ、なんか、このナスの一本漬、ラーメンなんだか箱根登山鉄道なんだか、
 よく分からなくなってきた。」

 基本的に意味不明な発言だが、
 営業上の被害が生じることは考えられるかもしれない。

 普段とちがってお店に極端な行列ができているところとか、
 たまたま何かの事情があってお店が汚れていたとか、
 そういうところを公開されたら、それは嫌だな。

 と思っていると、ツツミ先生が突っ込みを入れた。

「まあ、公道から見えるところで、営業秘密が侵害される
 って、なかなか難しそうですけど、
 お店を休んでいるときに、たまたまシャッターにひどい落書きされて
 その写真が公開されてたら、
 すごいイヤな気分になりますよね。売り上げに響くかもしれない。」

「法人がらみの名誉権なんかも、問題になるかもしれんの。
 不祥事起こした企業の本社ビルの写真なんか、
 いろいろ加工して、不愉快な画像にすることなんか簡単じゃ。
 名誉毀損のほう助になる。」

「うーん、さっき神様が言ったことですが、
 本社ビルとか企業マスコットの写真なんかは
 パブリシティの問題が生じそうですね。」

 さて、ここまで挙がった例の中には、
 今回の特別法がなくても、普通に、差止めがかけられるようなものが含まれている。

 神様は、根本的な問題を指摘した。

「ふーむ。こうやって見て見ると、
 差し止められて当然の情報も結構出てくるのう。

 そうすると、
 ブリ画像以外の個人の権利利益侵害情報の停止命令の審査なぞ、
 やるだけ無駄じゃな。」

「いや、そうなんですよ、川崎さん。」

 ツツミ先生も同意した。因みに、そうなんですよ川崎さんというのは
 おそらく、現在は、みなさんのお父さん、いやおじいさんにきかないと
 分からないレベルに古い表現である。

「じゃあ、どうするんですか!?神様。
 これ、大変ですよ。この問題、二段階審査やれっていっときながら
 ものすごく二段階審査なんてやりにくいじゃないですか。
 おい、考えるんだ。考えるんだよ。自分で問題つくるときにさ。
 つくって、うなって、はいおしまいじゃあ、解く方が困るんだよ!」

 というわけで、我々に残された道は以下の三つである。
 さしあたって、

 表現の自由などの防御権との関係では、

 ①ブリ画像停止命令を典型的適用例として法令審査をする、

 ②ブリ画像停止命令についての処分審査をする

 ③ブリ画像を二種類に分けて、
  「比較的悪質なブリ画像 等」の停止命令を典型的適用例として
  法令審査をし、
  「比較的悪質でないブリ画像まで巻き込む今回の停止命令」について
  処分審査をする。(パターン2B)

 こう整理していると、タケオカ先生の雄たけびがきこえた。

「うおおお、おれたちは、どおすればいいんだ!!
 教えてくれよ。ああ、もう神頼みだよ。
 困ったときは、神様にたよっていいんだよ。
 困ったときに、神様に頼れるのも、お前の強さなんだよ。
 ああ、でも、神様どこにいるんだよ?おい。さあどおする、おれ?
 神様あああああああああああ、俺の進むべき道を教えてくれ。」

 ・・・・・・・・・・・・・・・しかし、この連載、長いな。ぼちぼちまとめにはいろう。

居酒屋にて(2)

2012-01-27 16:40:25 | Q&A 採点実感
さて、日本酒を一杯ひっかけると、
憲法の神様は少し難しそうな顔をした。

「うーむ。じゃあ、少し腰を据えて分析をするか。
 よいか、ツツミよ。
 今回の問題じゃが、佐渡先生が『法令審査』と『処分審査』の
 二段階審査を求めておることは、ほぼ確実じゃ。

 じゃが、それぞれで何をするかが問題なんじゃ。

 まず、こういう時は、根拠条文のチェックじゃ!」

 そして神様は、ここを見ろ、という。

  8条3項
   A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,
   正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,
   第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため
   特に必要があると認めるときは,その者に対し,
   その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる
   特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。

「よいか。この条文は「被害」の申し立てに基づく命令という文言になっている。

 そして、定義規定を見ると、「被害」をもたらす情報として
 ①個人識別情報、
 ②個人自動車登録番号等、そして
 ③個人権利利益侵害情報
 という分類があることが分かる。
 
 さて、ブリ画像は、①から③のどれじゃ?」

 神様は、さらに日本酒をくいっとやって、ナスの一本付を一口食べた。
 なかなか渋い。

「うーんと、①個人識別と②自動車番号は修正したって問題文に書いてあるので
 ③個人権利利益侵害情報でしょうねえ。」

「その通りじゃ。佐渡先生の出題趣旨も、
 『個人の権利利益の侵害という文言一般の明確性じゃなくて、
  その文言がブリ画像との関係で明確かが問題なんだよ、アホ』って
 書いてあるから、③ということでいいじゃろ。」

 ただのおや・・・おじいさまに見えた憲法の神様が、ずいぶんとまじめに検討している。

「さて、よいか、法令審査・処分審査の二段階審査をする場合、
 考えられるパターンは次の通りじゃ。」

 こういうと神様は、「本日のオススメ」が書かれた黒板を全て消し
 次のような図を描いた。
 (威力業務妨害の現行犯であるが、だいぶ酔っぱらっているので責任能力が怪しい。)

 パターン1
  法令審査 ①や②を修正しない奴に対する停止命令、
       という8条3項の典型的適用例      の審査
  処分審査 ブリ画像という今回の適用例      の審査

 パターン2
  法令審査 ③の典型例を修正しない奴に対する停止命令
       という8条3項の典型的適用例      の審査
  処分審査 ブリ画像という今回の適用例      の審査

  *ブリ画像=生活ブリがうかがえる画像

 ツツミ先生は、それを見てうなった。

「うーん。パターン1の検討は、だいぶ今回の議論から外れるので、
 パターン2の方が、いい気がしますね。」

「まあそうじゃろの。しかし、個人権利利益侵害情報の典型例を
 想起するのが難しいんじゃよ。」

「そういえばそうですね。個人識別情報ではないのに、
 個人の権利を侵害するなんて、これは、なかなかできないですよ。」

「そうなのじゃ。そうなると、むしろブリ画像が③の典型であるかのように見える。」

「しっかし、そうなると、法令審査だけで話がおわっちゃいますねえ。」

「ほほほ。そこで、今回の解答のパターンは、さらに二つに分岐する。」

 神様は続いて、「今月新入荷のお勧め焼酎」の看板の占有を取得した。

 パターン2A
  法令審査 ブリ画像以外の③画像を
       修正しない奴への停止命令の審査
  処分審査 ブリ画像を
       修正しない奴への停止命令の審査

 パターン2B
  法令審査 ブリ画像のうち、停止させる必要度の高い画像を
       修正しない奴への停止命令の審査
  処分審査 ブリ画像のうち、停止させる必要度の低い画像を
       修正しない奴への停止命令の審査


「さて、パターン2Bは、ちょいとおいとくとして、
 パターン2Aから考えるぞ。
 よいか。これが成立するかどうかは、
 『ブリ画像以外の③個人権利利益侵害情報』を思いつけるかどうかが勝負じゃ。
 どうじゃ?」

「うーん、さっぱりです。どうすればいいのでしょう?」

「そういう場合、出題者が、いったい何を参照してこの条文作ったかじゃな。
 メタスコ星人の薫陶を受けた妄想族の連中ならともかく、
 妄想だけで条文を作るのは、簡単ではない。」

「そういえばそうですね。佐渡先生も、
 『本件の法律の規定は,個人情報保護法や
  個人情報保護条例に一般に見られる規定だろ。
  お前らの目は靴下の穴か?』って言ってます。」

「そういうことじゃ。そして、恐らくこの条文を作る際参照したのは……。」

 ああ、そういえば、この条文見たことある気もする、
 と思っていると、店の奥にあるトイレから、事態を複雑にする人物が現れた。

「参照したのは、
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
 及び発信者情報の開示に関する法律、
 通称、プロバイダ責任制限法ぅううううううですねええ!!

 ほら、その4条には!」

 タケオカ先生は、白い歯を輝かせ、
 許可を得ることなく、ツツミ先生たちのテーブルへ向かった。

「『特定電気通信による情報の流通によって
  自己の権利を侵害されたとする者』は、
 情報開示を請求できマス!
 著作権、特許権、知財一般、営業秘密、
 名誉、肖像、プライバシーにパブリシティ、24時間、戦いますよ!
 おう、戦うよ。戦えば、権利は回復できるんだ。
 さあ、みんなで戦おう。あなたの知財、営業秘密、人格権。
 インターネットも怖くない。らららー。」

 どうやら、今日のタケオカ先生は、宝塚方面に出張する気配である。

 事態は複雑になったが、タケオカ先生の助言があれば、
 確かに、ブリ画像以外の権利利益侵害情報を発見できるかもしれない。

 何か、素直な解き方(パターン2B)からは乖離するやもしれぬが、
 しばし、この方向をつきつめているのもいいだろう。

佐渡先生のオフィスアワー(3・完)そして居酒屋にて(1)へ

2012-01-26 05:36:48 | Q&A 採点実感
私と佐渡先生との間に、微妙な沈黙がながれていた。
そして、沈黙を破ったのは佐渡先生であった。

「アナタは、
 違憲審査基準論と比較考量論の違い、わかってる?
 その辺がごちゃごちゃしてるから、
 私のいってることが理解できないのよ。

 まあ、イイわ。アナタにすこし宿題を出してあげましょう。」

 ・・・。私は一応教員なので、呼び出されて宿題を出されるとはおもわなかった。

「今回の答案、違憲審査基準での書き方と比較考量論での書き方、
 少し考えていらっしゃい。
 そしたら私の言っていることわかるから。」

 いや、わからないわけではないのですが、
 と言おうとした時、ノックの音がした。

 何かと思うと、フジイがさらに質問をしたいといって
 オフィスアワーにおしかけてきたのである。
 
 どうやらフジイは、違憲審査基準に関する思いを伝えたくて、
 再びやってきたようであった。
 フジイの手には、ペリイやらセイヤーやら、
 アメリカの違憲審査基準に関する論文がある。

 どうやら、この男はかなり根性のはいった審査基準論マニアらしい・・・。



 私が佐渡先生の部屋から追い出され、事務を終え、
 さらに宿題に途方に暮れ法科大学院を出ると、すでに暗かった。
 気晴らしにウチの法科大学院関係者御用達の居酒屋「法の女神」に行くことにした。

 この店の前には、大きな法の女神テーミス像があり、
 周囲を威圧している。

 店の中に入ると、憲法の神様とツツミ先生が飲んでいた。

 連中は、盛り上がっており、私に気づく様子もない。
 観察をしていると、なんと私が佐渡先生に出された宿題の話をしていた。
 ・・・。佐渡先生のオフィスアワーは中継されている。
 それを見ていたのだろう。

「あのう、神様、佐渡先生がああだこうだと言っていた
 違憲審査基準と比較考量ってどうちがうんですか?」

 ツツミ先生が聞いた。

「わはは。あれはの、要するに、
 重量計を使った比較と天秤をつかった比較の違いなんじゃよ。」

 憲法の神様は、赤ら顔に、ネクタイの鉢巻、片手にビール瓶という
 コント以外では見たことのない酔っ払いの姿をしていた。

 ちなみに、法の女神は、無表情に、目隠し、片手に刃物という 
 これは実際にいたらほとんど通り魔の姿をしている。

「はあ。重量計ですか?」

「そうじゃ。よいか、まず、憲法上の防御権というのはの、
 そこで保護された行為を、比例原則に反して規制されない権利
 とまあ、そういう権利じゃ。」

 ふむ。正しい定義だ。確かに憲法の神様である。

「比例原則っちゅうのは、要するに、
 規制によってえられる利益が、うしなわれる利益を下回ったらいかん
 という原則じゃな。」

 はあ。そうですねえ。

「さあ、ツツミ、二つのものの重さを比べるには、
 どんな方法がある?」

「うーん、重量計をつかって一つ一つの重さをはかって数値を比べる方法と
 天秤の両皿に、同時にのっけて重さを直接比べる方法がありますね。」

 ツツミ先生は、さきほど神様の言ったセリフをほぼそのまま繰り返した。

「わはは。よくしっとるのう。さすがじゃ。」

 いや、アンタ、さっき自分でいったじゃん。
 どうやら神様は、だいぶ出来上がっているようである。

「その通り。比較考量というのは、秤を使った方法で
 制約された権利を特定し、また規制により得られる利益も画定し、
 両者を比較する、という手法じゃな。」

 ふむふむ。

「それに対して、違憲審査基準というのはの、重量計のメモリみたいなもんじゃな。
 違憲審査基準論で事案を処理する場合、まず最初に
 憲法上の権利の制約がどの程度、重いかということを計測する。

 その結果、重たい規制だ、ということになると、
 失われている利益の値が重くなるから、
 それを正当化するための値が高くなる。

 このように、
 ①失われる権利がどの程度強く規制されているか特定する。
 ②その権利の価値をはかる。
 ③得られる利益の価値を測ることで、
  ②でたたき出した数値を上回るかどうか計測する。
 これが、違憲審査基準、重量計をつかった比較考量じゃな。」

 違憲審査基準の定義は、
 防御権の制約がある場合、それが正当化可能であるかどうかを判断するための基準 
 である。

 生存権の要件である「最低限」かどうか、の判断基準や
 国家賠償責任の免除制限を正当化できるかどうか、の判断基準も
 違憲審査基準ということがあるが、
 それはせまい意味での違憲審査基準には該当しない。

 神様の説明は、まあ妥当といえるだろう。
 (このような評価をすることが不遜といえば不遜だが)

 ツツミ先生は、ここでつっこみをいれた。

「あのう?目的手段審査で出てくる
 必要性とか関連性というのも比較考量の要素なのですか?
 なんか、目的の重要性=得られる利益の重要性っていうのが、
 比較考量の要素だというのはよくわかるのですが。」

「あたりまえじゃ。
 よいか、どんなに立派な目的を掲げていても
 その目的を達成できない規制からは、
 得られる利益『0』、ゼロ、ゼロ、ゼロじゃ。
 ちなみにドイツ語で言うと、ヌル。
 ヌルヌルヌルヌルヌルヌルじゃ。」

 やはり、かなり出来上がっている。

「それに必要性がないっちゅうのは、
 要するにLRAがあるっちゅうことじゃな。

 よいか、LRAがあるということは、
 そこで得られて居る利益は、
 その規制によらないと達成できない利益でないということになり、
 その規制から得られる利益とは認定できない。
 必要性のない規制から得られる利益もやはり
 ヌル!ヌルヌルヌルヌルヌルじゃ!!」

 発言はほぼ変態だが、言っている内容はおおむね正しいだろう。

 厳しい審査基準を設定するとは、
 失われるものが多い規制なので、
 それを正当化するには、これだけ高い目盛をたたき出す必要がありますよ
 (=要件を満たす必要がありますよ)、という意味なのである。

 したがって、違憲審査基準の設定の際に参照するのは、
 制約される権利の価値および規制の厳しさという、
 制約される側の事情だけということになる。

 得られる利益を審査基準設定の際に考慮するのだ、
 と平気でおっしゃる方もいるが、
 それは違憲審査基準の定義を十分に理解していないことを吐露しているようなものである。

「あのう、しかし、秤にしても重量計にしても
 結果はいっしょになるはずです。
 なんで、憲法学者は重量計を使えというのでしょう?」

「わはは。それはの、単純に秤にのせると、
 なんかこう、公権力が主張する利益の方が重要そうに見えるし、
 個人の権利の側はワガママっぽく見えるからじゃ。」

「ああ、確かにそうですね。
 今回の佐渡先生の問題でも、原告主張の利益は一部のネット産業の利益で
 保護される利益は、広く国民一般の利益に見えます。」

「そうじゃろうそうじゃろう。
 じゃが、憲法上の権利を甘く見てはならんのじゃ。
 それを保護することに大きな価値がある権利じゃからの。

 じゃから、あえて対立利益(規制によって得られる利益)を無視して
 そこで侵害された利益だけを見て、価値を評価する。
 対立利益を目に入れちゃうと、権利の価値を過小評価しがちになって、
 目盛がゆがむわけじゃな。 

 表現もそうで、この規制国民一般の利益になるな、ちゅうことを一回忘れて
 この行為が、表現と呼ばれる他の行為と同列に扱えるか、
 をとうわけじゃ。」

「なるほどなるほど。そうすると、他の表現と同列に扱えれば、
 厳格審査をしていい、ということになるわけですね。」

 神様は酔っ払いながらも、適切な解説を続けた。

「わはは。そこまではよく分かりましたよ。それでは、聞きますが、
 今回の問題、違憲審査基準論で解いて見てくれます。」

「ふーむ。やってもよい。やってもよいが、
 この事案の典型的適用例のあり方が問題じゃな……。」

神様はこういうと、日本酒を注文した。



表現の自由対プライバシーにおけるいくつかの技巧

2012-01-25 06:46:29 | Q&A 採点実感
さてさて、それでは解説です。

まず、Aですが、全く同じ内容の記事なので、
表現規制の保護法益である人格権侵害の程度が違う
という議論は、なかなか成立しにくいですね。

但し、同意の理論からAを選んだ方は、話は別です。


次に、解答Bですが、これは割と素直な回答ではないでしょうか。


そして、解答Cですが、「特別な理由」としては
政治家になる以上、プライバシーの範囲は縮減することに同意がある
という同意の理論が考えられます。
同意の理論から、要保護性が下がりAになる
という説明をしてくれた方もおりますが、
こちらに分類させていただきましょう。

そうすると、意見の分布は次の通りになります。
これは、ご本人の分類ではなく、解答理由から実質的に分類し直した分布です。k

解答A 0人

解答B 11人
monaさん:国会議員の判断に資するという表現の価値
ますおさん:素直なB解答ですね。
loviさん:実質的には国会議員関連情報の価値が高いという議論ですね。
十一月のホムサさま:ムーミン谷はもう冬眠の時期でしょうか?
          ありがとうございます。
Jiroさま:うーん、これも実質的には表現の価値が高い、ですね。
TORAJIROさま:はい。もう標準的な解答Bです。
N山さま:はい。これもBですね。
冥王星さま:ふーむ。だいぶ先を読んだ解答ですね。深いです。
みいたろうさま:はい。もうB解答といってよいでしょう。
法学男子:はい。B解答です。
gsskさま:丁寧に表現価値が高いということでB解答の王道といっていいです。

解答C 4人
四千番さん:うーん、理由づけが不十分かな。
colさん:せっかくなので「特別な理由」の内容の説明がほしかったです。
ララオさん:きれいな「同意の理論」解答です。
k.sさま:大変分かりやすい議論ですが、同意の理論はCに分類させて頂きます。
    Cが怪しいと考え、それを避け、
    結局ほぼ正解に近いCという面白い現象です。



はい。どうもありがとうございました。
私の予想は、実質的分類ではBが最大派閥というものですが
予想通りでした。


さて、今回の二つのクイズは、昨年の司法試験の問題分析に
かなり重要な関係があります。

今回の週刊誌事例を、解答Bを前提に、単純に処理すると

 ①一般人も②政治家も表現内容規制なので最上級厳格審査になります。

 次に、解答Bは解答Aを拒否していますから、
 ①一般人も②政治家も規制によって守られる利益(プライバシー)の大きさは
 変わらない、ということになります。

 そして「①の表現規制は合憲だ」というのは、要するに、
 <プライバシー保護という目的は極めて重要だから厳格審査をパス>
 と言えるということです。

 しかし、②の表現規制も審査基準は①と同じなので、
 また、解答Bでは、その他の理由(解答C)を示せないので、
 以上の議論からは、②の表現規制も合憲だ、ということになってしまいます。


このように表現価値が高い説(解答B)は、
単純な違憲審査基準論の組み立ての中で、議論を反映できないのです。
(因みに、冥王星さんは、解答Bのこのような欠点に気付いて
 先回りで対応していますね。)

これがプライバシーが出てくると、
単純な違憲審査基準論では処理しにくい
、という現象です。

さて、この現象を回避するには、
解答Bを維持しつつ、
①と②の表現価値の差異に着目し違憲審査基準を変える、という方法や、
「目的審査を、規制によって失われる価値を上回るほど重要」と設定し、
表現価値の高さを審査に反映させる方法
があり得ます。

但し、こういう手法は、私はあり得ると思いますが、
colさんの指摘する結構重大な問題があります。
(気になる人は、前回記事のcolさんのコメント参照)

そんなわけで、colさん指摘の重大問題を回避するために、
プライバシー権の分野では、「同意の理論」という
かなり技巧的な解決策(解答C)
も提唱されているわけです。

これに対し、比較考量で処理する場合、
表現価値が高いという議論から、比較的スムーズに結論を導けます。


また、前回、逆転判決と講演会事件判決の違いを議論しましたが、
「プライバシー」という言葉には、いろいろな権利が包含されています。
なので、
「プライバシーの保護は、重要な目的だ」あるいは
「プライバシーの保護は、重要でない」として
目的審査をプライバシー一般についてやろうとすると、
やはり硬直的な結論になってしまいます。

なので、違憲審査基準で議論していくと、
プライバシーを一括して議論するのではなく、
事案ごとに問題となっている法益(規制目的)を画定する必要がありますが、
比較考量論だと、
そのような被侵害利益側の違いも、比較的、スムーズに反映できます。


以上が、
表現の自由対プライバシーでは、比較考量の方がスムーズという経験則ですね。

これは違憲審査基準・比較考量で結論が違うということではなく、
違憲審査基準を使って、この種の事例を処理する場合、
違憲審査基準を事案によって微妙に変えたり、
規制によって得られる利益(プライバシー)の内容を
厳密に特定したりと、
かなり慎重な運転が必要になる、ということです。
(玄人向き)



さて、昨年の司法試験問題ですが、

法令審査では、
①Z機能画像のうち規制の必要の高いものに対する停止命令の審査
 例:センシティブな個人特定情報が写りこんだ画像
   精神科や不妊治療の病院に通っている個人が分かる画像や
   ある思想と結びついた集会の現場の画像など
処分審査では
②個人は特定できないが生活ぶりがうかがえる画像の審査
 例:洗濯物がうつりこんでいる画像など
   (ただなー、これ、個人は特定できなくても、
    そのマンションの部屋に女性が一人で住んでいる
    ことが分かる画像とかだと、規制やむを得ずな
    気がするんだよな。まここは独り言。)
が要求されます。

採点実感先生の言いぶり(生活ぶり云々画像との比較をきちんと!)をみると、
(明確性の問題を措けば)法令審査は、あまり本気でやる必要はなさそうで、
「①の規制は合憲だとしても、②はいかん」という議論の是非が
メインになりそうです。

ここで、
①も②も、被侵害利益はプライバシーと一括したり、
①と②は、いずれも「表現」という点で変わりはないと一括して、
単純に違憲審査基準を立てると、
原告から、①は合憲だとしても②は違憲という主張をしたり、
裁判所から、①は合憲だが②は違憲と議論する、
細かな考慮ができなくなり、
しょうがなく、まあとにかく両方違憲(両方合憲)という議論になるでしょう。

これがまさしく、違憲審査基準ステレオタイプ答案ですね。

そこで、①と②では、
被侵害利益の性質が違う、という議論(逆転と講演会クイズで見ました)や
「表現」としての性質が違うという議論(今回解答B)
②の範囲では同意がある、という議論(今回解答C)といった
プライバシー保護のための表現規制特有の枠組みを駆使する必要があるわけですね。

ではでは、また。
たくさんのご回答ありがとうございました。