12月27日(金)
午前11時 渋谷センター街の通りは閑散としていた。
夕闇迫る頃からのネオンと、けたたましい音楽が響き渡り
匂い立つギャル達が群れ集う姿はない。
今日は。この先にある会社への集金。
毎年年末、手形で受け取る。
今時、手形支払いは珍しい。
現在では下請法により手形支払いは厳しく制限されているのだが
この会社とは30年来手形だ。
海外品のため、既に10月末には海外に送金済みであり
11月末請求、12月末に3ヶ月サイトで
3月末現金化する。約五ヶ月だ。
大手会社のハウスエージェントなので
不渡りの懸念はないが、零細企業虐めの
優越的地位の乱用であると感じる。
発覚するとペナルティーが待っている。
年末 どこの企業も終わりの日に慌しいことだ。
受付で立ったまま確認して、60秒にも満たない支払い後
玄関を出る。
お袋が入院している介護病院へ向かう。
山手通りに向かうが、途中左折して
閑静な住宅街の坂道を歩く。
前方に警察官が立っていた。
近づくと、警察官はこちらをじっと見詰める。
私も見返した。
屈強そうな若い警察官は睨み返す。
更に進むとお城の城壁のような囲い塀の通りに
パトカーがエンジンを掛けたまま停まっていた。
車内には警察官が二人。
私を見詰める。
先の通り角には全て警察官が見える。
弟が言っていたことを思い出した。
「車で富ヶ谷を抜ける時、警察の厳しい検問を受ける」
「安部総理の自宅があるから」
いやあ~、えらいとこに、紛れ込んでしまった。
総理靖国参拝で緊張感が漂う。
私の人相はハンチング帽を被り、マスクをして
ダウンコートにバッグを背中にかけ
手袋をしている。
典型的怪しい中年男だ。
スマホで写真撮るわけにも行かず
左右キョロキョロせず真っ直ぐ歩き
山手通りに出た。
通りにも警察官が立っていた。
山手通りを246号に5分程歩くと
介護ホスピタルがある。
3階の病室に入るとお袋は車椅子で食事中だった。
食事といっても、栄養剤を血管から流し込むだけ
水分も取れない。
私は背後に回り、背中に手を差し込み
手の平で肉の殆ど無くなった背中を
円を描くように掻いた。
お袋は、手で大きく回す仕草をして
もっと回せと催促する。
先日、兄からの電話で痒いから、痒み止めが必要だと連絡があった。
口からヨダレが出るのでティッシュで度々拭き取る。
看護婦さんが入って来て、喉の吸引をする。
看護士さんが「院内で2番目にしっかりしていて
先ほども、計算とお絵描きをした」
紙を見せてくれた。
足し算、掛け算に書き入れていた。
ほぼ正解で掛け算を足し算と勘違いしたのがあった。
塗り絵もしていた。
歩く事、しゃべることも出来ない90歳だ。
脳だけはしっかりしている。
病室から外を眺める。
対面には本館、その隣には別館
お袋は新館にいるのだ。
13時病室を出て松涛の道を歩く。
そうか、ここには副総理が住んでいるのだ
総理と副総理はご近所なのだ。
ブルジョア階級出身のご両人と
那須の寒村で貧しい農家の次女として生まれた
お袋が同じ静かな場所で夜は過ごしているのだ。
13時半 道玄坂途中にラーメン屋を見た。
カウンターは満席。少し待って座る。
店主推薦の塩ラーメンを食べたが、
豚骨スープのどろっとした味は苦手だ。
どうも、若者が好む味はダメだな!
14時半 日本橋で下りて、金融機関に
手形取立手続きしたら、最後に代表印を持参していなかった。
がっくりと柳橋まで徒歩で戻った。
八百屋でしたら、仕方ありませんょ。