韓国LG電子の携帯電話事業が7四半期ぶりの営業黒字に転換した。
スマートフォンの不振を他部門でカバーできず、同社は四半期ベースでこの2年間に3度、全社で営業損失を計上していた。スマートフォン市場で米アップルと韓国サムスン電子の2強に圧倒される構図は、日本メーカーと同じ。
雌伏の時を経て掴んだ再浮上のきっかけは、高速携帯電話サービス「LTE」だった。
●スマホで復活の芽
「1年間、製品構成を変える努力をしてきた。再び赤字に陥ったりはしない」。1日に開いた2011年10-12月期決算説明会で鄭道鉉(チョン・ドヒョン)副社長はスマートフォンで復活の芽が出てきたことを強調した。
ソウル市内のモバイルコミュニケーション部門の事業所を訪れると、半年前までの沈んだ空気が一変していた。「自信もついて、社内の雰囲気もよくなってきた」。羅英塔(ナ・ヨンベ)海外マーケティングセンター長・専務の表情も明るい。
この2年間、LG電子の携帯電話事業は散々だった。
従来型携帯電話では世界3位だったのに、需要がスマートフォンに一気にシフトすると赤字に転落。10年秋には、南(ナム・ヨン)最高経営責任者(CEO)が引責辞任に追い込まれた。
後任は具本茂(グ・ボンム)グループ会長の実弟の具本俊(グ・ボンジュン)氏。本来はサラリーマン社長が務めるポストに創業家を起用、背水の陣を敷いた。
失敗の原因は明白。従来のLG電子はサムスンに比べると製品投入がやや遅いものの、成熟した技術を用いて安定した製品を繰り出すのが持ち味。
だが、携帯音楽プレーヤーに始まり、スマートフォン、タブレット端末と続く急速なデジタル製品需要の変化に過去の手法は通用しなかった。
アップルやサムスンに比べてブランドカが弱いのも致命的で、折からのテレビの価格下落や白物家電の競争激化により、携帯電話の赤字をカバーできなくなった。
●LTEで立ち直り
立ち直りのきっかけは、韓国で広がり、日本や米国で市場が開き始めているLTE。10月には4.5型パネルの「オプテイマスLTE」を投入。従来の第3世代携帯電話に比べ、ダウンロードの速度が最大10倍になる。
08年、LG電子は世界で初めてLTE端末向けモデムチップを開発した。関連特許の保有数はサムスン、米クアルコムを上回り、世界首位。通信技術で優位に立つLTEで先に勝負を仕掛けた。
ソウル近郊の京畿道平沢にあるLG電子の主力携帯電話工場。1カ月の生産台数400万台のうちスマートフォンが8割を占める。清潔で整理が行き届いた生産性の高い工場という印象だが、現状では手作業が多く、自動化は遅れている。
海外での本格生産もこれから。上向き始めた事業を軌道に乗せるには、生産、販売量の拡大は必須。そのためには、LG電子と同じ米グーグルの基本ソフトを採用するサムスンのシェアを奪うことが必要条件となる。
「興味深いでしょう」。昨年10月、LG電子がLTEのスマートフォンを公表したのに合わせて、液晶パネルを供給するLGディスプレーはLG電子とサムスンのスマートフォンにラップを巻き、バターを載せた動画を披露した。
サムスン機の上ではバターが溶けるのに対し、LG機では変化がない。サムスン機の有機ELパネルの発熱量が大きいのか、電池が熱を持つのかははっきりしないが、LGディスプレーの役員は満足げな表情を浮かべた。
LG電子はサムスンの有機ELパネルへの攻撃を強める。LG電子の「トゥルーHD IHS」と呼ぶ液晶は自然な色合いの再現が得意だという。
LG電子の担当者は、有機EL機を指して「スマートフォンを使って通信販売サイトの商品を買うと違う色のものが届いてしまう」とまで言う。とにかく、サムスン製品と比較して優位性を訴える打倒サムスンの意志がはっきりしているのである。
●軒並みシェア下落
日本勢はどうか。MM総研によると、11年度の国内スマートフォン市場では、海外メーカーの製品シェアが約6割となる見通し。
冬商戦では富士通の「ARROWS S LTE」がサムスンの「ギャラクシーSⅡ LTE」を上回るなど健闘するケースもあるが、NECカシオやパナソニックモバイルなどは苦戦を強いられており、軒並みシェアを落とす見通し。
国内メーカーは、こぞってスペインのテレフォニカや米ベライゾンといった欧米の大手キャリアヘの製品供給を狙うが、国内メーカーの幹部は「大手通信事業者の調達は約50%がアップルのiPhone、25%がギャラクシーという状況。残り25%の調達枠を奪い合う非常に厳しい状況だ」と漏らす。
LG電子の11年のスマートフォン販売台数は2020万台。1億台近いサムスンに比べて5分の1だが、LTEをテコに製品の競争力を高めたことで社員の士気は高まった。
次の課題はiPhone、ギャラクシーの圧倒的なブランドカにどう対抗するか。製品力を消費者の好感に結びつけるマーケティング戦略がLG電子の携帯電話事業復活のカギとなる。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年2月10日(金)/20面」