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二次創作小説 『レッスルエンジェルス サイドストーリー 南 利美編』其の三

2010年05月04日 | Novel

 先日のイベントでの激しい遺恨劇が功を奏し、この日のビッグマッチは満員御礼となり、試合会場は人で溢れかえっていた。勿論彼らのお目当ては総合格闘家・柿本裕子対《関節のヴィーナス》南 利美の異種格闘技戦だ。

……総合格闘技対プロレス、強いのはどっちだ!?

 両雄の格闘競技を全面的に出して“格闘技戦争”と煽りたてる記事も多々あったが、南本人はそんな事は露ほども思わなかった。

 二人の《女》がどちらが強いかを競うだけよ…

 専門誌のインタビューで彼女はそう答えている。つまり南自身は大事と捉えておらす、日本各地を廻って年間数百試合をこなす内の一つと位置付けているのだ。

 この日の興行は白熱した物となっていた。
 
 若手選手たちによる前座試合から熱の入った好勝負で、それから様々なビジュアルやスタイルの選手たちが次々とリングに登場し、観客を興奮の渦に巻き込んでいく。選手たちの頑張りのおかげで、南たちの試合が始まる前には、すでに会場は8割方温まっていた。



「さぁて…行きますか?」

 入場ゲートのカーテンで仕切られた内側では、南が気合いを入れるため、自分の頬をピシャン!と張った。

 いくら百戦錬磨のトップクラスの選手でも、初めて肌を合わせる相手ともなると多少ナーバスになってしまうものだ。しかも今回の対戦相手は同じプロレスラーではなく、似て非なる競技の総合格闘家。向こうがどんな攻撃を仕掛けてくるかも判らない。だからこそ、今まで培った技術や戦略、それに運動能力といった個人の持つ技量というものが大きな意味を持つ。


うぉぉぉぉぉ!


 南の入場曲が会場に流されると観客たちは一斉に唸り声を上げた。

「南さん、お願いします!」

 若手選手が入場ゲートのカーテンを開ける。

 南の目の前には漆黒の闇の中にポツンと七色の照明によって浮かび上がるリングが映っていた。今まさに彼女の周りの世界が日常から非日常の世界に移り変わろうとしている。

 会場内に設置された大型モニターには入場ゲートの踊場でリングを凝視している南の姿が映し出された。

 その視線の先には一足先に入場し、軽いウォーミングアップをしている柿本裕子の姿が映っているはずだ 黄色と黒のツートンカラーで構成されたセパレートのコスチュームに、手にはオープンフィンガーグローブを装着している。

 新女サイドからは怪我防止策として柿本にレガース着用を求めたが、これを彼女は拒否。キック出身の柿本はあくまで得意の打撃での勝ちを狙っているので、威力が数倍落ちるレガースの着用だけは頑として拒んだ。

 リングまで続く花道をゆっくりとした足取りで進み、そして時折立ち止まっては会場をぐるりと眺めて期待のこもった視線を感じ取る。

 南がリングに一歩足を踏み入れた瞬間、会場の興奮は最高潮に達した。唸り声の様な大歓声と激しい雨音の様な拍手がリング上の彼女に浴びせかけられた。

……ありがとう

 本当なら、腕を上げるなり何かしらのボディランゲージをして声援に応えるべきだろう。しかし、異種格闘技戦とも云えどもあくまで自分のキャラクターを貫き通そうとする南は、感謝の言葉が喉まで出そうになるのをグッと押し留め、心の中でそう呟いた。

「とうとうこの日が来たな、プロレス屋」

「ありがとう。最高の誉め言葉だわ」

 何時もと変わらず派手な衣装は一切身に纏わず、イメージカラーである紺色のコスチューム、白いソックス、短いレスリングシューズ。頭には大きめの白いタオルを被り、その奥からは闘志に燃えた眼が見えた。

 柿本裕子が余裕たっぷりの態度で、南の前に現れた。が、虚勢を張っているのだな。と、この業界ではベテランの域に達しようとする彼女の眼にはそう映った。

……憎まれ口叩いているけど可愛い所あるじゃん。

 レフェリーによるボディチェックを受けながら、相手の身体を品定めしていく。柿本の身体にはムダな脂肪は付いておらず密度の高い筋肉が、強さの証と言わんばかりに自己主張していた。つまり攻撃するためだけの肉体である。

 一方、南の肉体は、パッと見一般人と大差ないが、それでもよく観察するとガチッとした筋肉の上に程よく脂肪がまわっていて、一寸した攻撃など跳ね返してしまうような印象だ。首周りもかなり太く、いわゆる理想的なプロレスラー体型だ。


「総合とプロレス、今夜どっちが強いかハッキリさせてやるよ」

「…違うわ」

 精神的優位に立とうと口撃を仕掛ける柿本だったが、そんな事では南の気持ちは微塵もグラつく事はなかった。

「?」

「柿本裕子と南 利美のどちらが強いか…よ」

 南はサラリと言うと、くるりと背を向け、自分のコーナーへと歩いていった。


……セコンドアウト、セコンドアウト……


 セコンド退陣を指示するアナウンスが会場内に告げられると、しばらくコーナーポストに頭を付け精神統一していた南が、まるで雑念を吐き出すように深く息を吐いた。

……身体もいい感じ、何の問題もないっ!


―――― ラウンドワン、ファイトッ!

 カァァン!


 遂に、数万人の観客が待ちに待った大勝負の試合開始のゴングが鳴らされた。それまで対角コーナーにずっと背を向けていた南がクルッと正面を向いた。彼女の視線の先には、既に戦闘態勢の柿本の姿があった。

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