カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第十四話  新武将誕生 

2008-10-14 23:52:58 | Weblog
少しずつではあるが、愛美の容態も回復に向かっていた。
武田軍は、甲斐へ戻ったとの知らせがあり、ひとまず安堵の時が訪れていた。
「長い間、お世話になりました。」
「まだ、居てもいいんですよ、私達は・・・。」
「お瑠衣、この二人夫婦になってもろくに二人で暮らしておらんのだ、早く二人だけの暮らしがしたいのだろう。」
「は、はい。」
愛美は、恥ずかしがりながら返事をした。
「じゃ、引き止められないわね。」
三津林と愛美は、榊原の屋敷を出て、足軽長屋に戻ることになり、榊原夫妻に見送られて渡名部等と共に屋敷を出た。
ところが榊原の屋敷を出ると、徳川の家臣達が並んでいた。そしてその間から馬に乗った家康が現れた。
「これは・・・。」
三津林が榊原の方へ振り返ると、榊原がニヤリと笑った。
「三津林、そなたの行き先は、それがしが決めてある、ついて参れ。」
家康を先頭に行列が城下を進んだ。三津林、渡名部、さゆみや久留美も行列に加わり、愛美は駕籠に載せられて後について行った。



やがて行列は、やや大きな屋敷の前で止まった。
「三津林、これへ参れ。」
家康に呼ばれて、三津林は家康の乗る馬の横へ来て、膝をつき頭を下げた。
「ここは、今日からそなたの屋敷だ。」
「えっ!」
三津林は、思わず驚嘆の声を上げた。
「そなたの三河での活躍は見事であった。そして何より生きて帰って来たことが大きな手柄である。これはその褒美である。・・・奥方に約束しておったからな。」
「は、ありがとうございます。私のような者にこんな屋敷をご用意くださり、このご恩は生涯忘れません。」
「くわえて、渡名部と茂助らを家臣とし、その家族と三河の薬師どのを愛美どのために住まわすようにせよ。」
「は、はい。・・・えっ!」
「三津林君、俺が君の重臣になってやるよ。」
「でも・・・。」
「俺は、お前のような男のためだったら、命を懸けて働けるよ。」
「渡名部さん・・・。」
「そういうことだ。三津林、これからもわしが天下を取るためにしっかり働いてくれ。」
そこへ、駕籠から降りてきた愛美が来た。
「お殿様、ありがとうございます。」
「愛美どの、まずはしっかり養生するんだな。そして早く子を作り、三津林家を大きくしてわしに仕えてくれ。」
「子・・?」
愛美は思わず顔を赤くした。
「ははは、愛美どのはまだわらべだったかな。・・・では城へ帰る。」
家康は、三津林達に見送られ家臣等とともに浜奈城へ戻った。


城へ戻った家康は、家臣と話をしていた。
「隆作とお良は、まだ見つからぬのか?」
「は、敵方に流れたやもしれませぬ。」
「お良とやらしたたかな女だな。危機を察して逃げるとは・・。また愛美どのを狙ったりしなければ良いが・・。」
家康は、家臣に詮議を指図していた阿下隆作とお良を取り逃がし、その行方を追っていた。
「見附辺りには、敵方の残党が忍んでいるようです。」
「そうか、その者達をお良が利用するやもしれん、三津林の身辺に怪しいものが寄らぬように見張りを出しておけ。」
何がしかの不安を感じる家康だった。


「殿、一杯どうぞ。」
「やめて下さい、渡名部さん。そんなんじゃないですよ俺は・・・。」
「先生、とにかく、少しでも皆と一緒にいられるならいいじゃないですか。」
「さゆみさんの言うとおりですよ、愛美さんも心強いと思いますよ。」
「そうだな、愛美も少しずつ元気になってるし、戦もしばらくないだろうし。」
愛美は、寝床で休んでいたが、三津林と渡名部、さゆみと久留美、茂助夫妻は、囲炉裏を囲んで話をしていた。
「ところでお屋形様、愛美様が毒茸をお食べになったのは、お良と言う足軽大将の奥方が毒茸を食べさせるために持って来たからではないかとのことです。」
茂助は、家康の家臣から内密に聞いていたのだ。
「えっ、なぜです?なぜ愛美に毒茸を食べさせたりするんですか?」
「そうよ、愛美が何かその人に恨まれるようなことしたの?」
「お良様は、綺麗な方や可愛らしく明るい方を酷く嫌うお方で、以前にも新しく足軽屋敷に住まわれた綺麗なお方を川に突き落としたと疑われたこともあったんです。」
「他にも同じようなことがあったんですが、知らぬ存ぜぬの一点張りで、見たものもなくおとがめがなかったんです。」
茂助とおよねが説明をした。
「だから、愛美さんもその毒牙にかかってしまったということですか?」
久留美も呆れ顔で尋ねた。
「そうよ、なんで愛美がそんな女に殺されそうにならなきゃならないんですか?捕まえてくれたんですか?」
さゆみが不満をぶちまけた。
「それが、詮議をしようと屋敷に行った時には、夫の阿下隆作とともに姿を消していたそうです。」
「そうか、それならもう城下にはいないだろう・・・。三津林君、いや、お屋形様、逃げたとはいえ、一応気にかけていた方が良いかもしれないな。」
「そうですね、とにかく愛美には言わないで下さい。」
皆は頷いた。


古い山小屋に数人の雑兵が集まっていた。そこへ女が甲冑の男と入って来た。
「まず手間賃は、この金よ。そしてことが旨く運べば、皆を武田の家臣尾山田様の足軽として取り立てて頂くように話はつけてあるわ。」
鋭い目つきで女は雑兵達に言った。
「本当だろうな?」
雑兵の一人が尋ねると甲冑の男が答える。
「間違いない。すぐにまた戦になるから、そこでまた手柄をたてれば出世もありうる。」
「そうよ、女を一人仕留めてくれれば、こんな所に潜んでいなくても済むのよ。」
「よーし、皆、陽の当たる場所へ帰るぞ!」
「おお!」
男達は、弓や刀を手に小屋を出て行った。


                   つづく


             ※ この物語は、すべてフィクションです。
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