カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第一話   戦国への入り口

2008-07-22 00:16:20 | Weblog
授業の終わった教室に一人の男がいた。
片隅の机で答案用紙を眺めていた。その中の一枚をじっと見つめる。

廊下を二人の女子学生が歩いてくる。学園祭でミス浜奈高に選ばれた本河田愛美とクラスメイトの大庭さゆみだ。
「ねえ愛美、ほら“センミツ”よ。」
教室で答案用紙を見ていたのは、歴史の教師三津林慶大である。戦国の歴史ばかりを話す三津林先生ということで生徒から“センミツ”と呼ばれている。
「センミツのテストは、マニアックすぎるよね。」
「そうね・・・。」
二人は、三津林のいる教室を通り過ぎた。
「さゆみ、先に行ってて、教科書忘れたから取って来る。」
愛美は、走って自分の教室へ戻った。そして教科書を手に再び三津林のいる教室の前へ来た。愛美はガラガラと扉を開け教室に入った。
「先生・・・。」
「ほ、本河田、どうした?」
突然の訪問者に、三津林は戸惑った。
「先生、それ・・・。」
三津林が手にしていた答案用紙は、愛美のものだった。
「あっ、これ、今丁度お前のを見始めていたところなんだ。」
「どうですか?」
「あ、ああ、あっお前は歴史が好きなのか?解答が素晴らしい。」
「はい、好きです。それに先生にも興味があるんです。」
三津林は目を丸くした。
「お、俺に・・・?」
ミス浜奈で男子生徒達のアイドルが、こんなボサボサ頭で冴えない歴史オタクの教師に興味があるとは、どういうこと・・・。
「先生、明日双俣の近くにある史跡を見に行こうと思っているんですけど、あそこに詳しかったら案内して頂けませんか?」
答案用紙にも、解答ではない味方ヶ原の戦いに至る歴史のことを知りたいと、解答欄の横に書いてあった。
「じゃあ、明日、家康の像の前で9時に待ってます。それじゃ、友達が待ってるんで行きますね。」
「ほ、本河田!」
三津林が返事をする間も与えずに、愛美は行ってしまった。



翌日の朝。愛美は、浜奈城跡にある家康像の前にいた。
そこへ帽子とサングラスをした男がやって来た。
「先生、来てくれたんですね。ありがとうございます。・・・でもその格好・・・。」
「あ、いや、これは、たとえ勉強のためであっても、生徒と教師がおおっぴらには二人っきりで行動出来ないだろうと・・・。」
「世間体ですね、でもその格好自体が怪しいかも・・・。」
愛美が笑みを見せる。
「そ、そうかな・・・。」
「ま、とにかく行きましょ。」
三津林は、女生徒にリードされて史跡巡りへと出掛けた。

二人は、車で30分程の双俣町にある史跡へたどり着いた。
車を止め、三津林が愛美に史跡を説明しながら歩いた。史跡のほとんどが山の中にあると言っていい。そんな木々の中を二人は進んだ。
「先生は、なぜ歴史が好きなんですか?」
「子供の頃から好きだったんだけれど、きっかけは三津林家の先祖が武士だったって聞いたからかな・・・。」
「そうなんだ、私も一緒です。本河田家も武士だったってお祖父ちゃんから教えられて、それで自分の祖先を調べようと思ったからなんです。」



二人が山の奥まで進んだ時、愛美が何かを指差して言った。
「先生、あの林の奥の方に何か黒いものがありますよ。行ってみましょ。」
「本河田、そっちは道が無いからやめろ!」
三津林の制止も聞かず、愛美は木の間を入って行ってしまった。

「先生!ど、洞窟じゃないですか!」
大きな木と木の間に、人一人がやっと入れそうな洞穴があった。
「これも史跡ですか?」
「判らないな、でも史跡なら調査されて何か記してあると思うけど・・・。」
二人が見回しても、辺りには何も無い。
「たぶん動物が掘った穴だろう、さあ行こう。」
三津林は、元の道へ戻ろうとした。
「先生、中は広いよ!」
三津林が振り返ると愛美の姿が無かった。
「本河田!」
すぐに三津林は悟った。好奇心旺盛な愛美が洞穴の中に入ってしまったことを・・・。

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小説 『戦国に散る花びら』

2008-07-22 00:15:45 | Weblog
    はじめに

私は、城巡りをし、その城の写真を撮り、その歴史を少しではありますが知り、戦国時代や江戸時代の人達が、私達とは違う状況の中で、今の日本では考えられないような人生を送っていたことをほんの少しだけではありますが感じられました。
そこで、私は小説家ではありませんが、戦国の歴史を織り交ぜたフィクションのお話を不定期ですが綴っていきたいと思います。


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