ブログ「かわやん」

森羅万象気の向くままに。

日曜新聞読書欄簡単レビュー

2010年06月13日 09時00分06秒 | Weblog
アメリカ論の本がバーバラ・エーレンライク『ポジティブ病の国、アメリカ』(河出書房新社、1890円)ー朝日ーだ。ポジティブな思考がアメリカのイデオロギーにもなっていることを明らかにした本だが、歴史的にさかのぼると、元来悲観主義の極致とも言われるカルヴァン主義に支配されていたというから、建国時代と大きく変貌したわけだ。ポジティ心理学という学問、ポジティヴ思考を売り込むセミナー、本など一大産業にまで発展している。ところがこのポジティヴ思考は経営の行きすぎや経済の破綻を覆い隠すことにも貢献しているというのだから驚きだ。宗教者までが「神はポジティヴ」なのだと説く。ネガティヴになる考え方、生き方を180度変えるという意味でのポジティヴかどうかは本書の評者(久保文明)からではわからない。さて日本はどうなのか。

 門田隆将『この命、義に捧ぐ』(集英社、1600円)ー読売、朝日ー は、簡潔に読売の書評がまとめている。読売記者による紹介だが、門田隆将が第2次世界大戦敗戦時に、中国東北部の指令官だったが、ソ連軍と戦いながら4万人の在留邦人の北京退却に成功。中国・国府軍蒋介石の意志は敗軍の将を丁重に扱い、全員の帰国を許した。4年後に門田は台湾に密航、国府軍の軍事顧問となり台湾軍を助ける立役者になった。以上が読売の紹介文だが、引揚者を親にもつ紹介文を書いたこの記者はこのノンフィクション書いた著者がこれまで日台にとっては都合が悪い門田の活躍の封印を解き厳密な取材でよみがえらせたことに大きな意味を見いだしている。

 松本健一『わたしが国家について語るなら』(ポプラ社、1300円)ー読売ーがおもしろそうだ。国の漢字が城壁に囲まれた領土の意味をもくい、その城壁が低くなり、情報、お金、商品、人の動きが自由に行き交うグロバリゼーションの時代まで著者は論じる。素朴な直線に敷かれた国境線の国々のこと、目に見えない法律や制度デザインされたいまの国々について語る。評者野家啓一は子どもだけに読ませてくにはもったいないと書く。未来の子どもたちに松本は「何か卓越したもの」を説いた勝海舟の言葉を伝える。


 毎日新聞では神野直彦『「分かち合い」の経済学』(岩波新書、756円)を取り上げている。評者は中村達也。「オムソリー」というスエーデン語。これは「悲しみの分かち合い」「優しさの分かち合い」を意味する。「奪い合い」の日本社会にはまぎゃくのところにある。再配分のパラドックスでこの「オムソリー」の意味するものを解説する。貧困者に限定して現金を給付している国では格差が大きく、貧困が拡大すると説く。貧困者に限定した現金給付の少ないスエーデン、デンマークなどでは格差と貧困がはるかに少ない。貧困者限定の現金給付(「垂直的再配分」)、と所得の多寡に関わらず広く提供する方式(「水平的再分配」)の違いを検証する。「分かち合い」により社会サービスをくまなく給付することの方が垂直的再配分より少ない財政負担で済むという。そこらの具体的な論究は本書にあたるしかない。「小さな政府」を選んだ日本の突出した財政収支の赤字計上について根本的に考えるには絶好の書といえるかもしれない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 招かざる珍客 | トップ | 世論調査の怪 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事