文明批評は「野蛮」とラベリングされたマイナスの文明を先端の文明とよみがえらせることだ。その1つの成果は実松克義『アマゾン文明の研究 古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか』(現代書館、3990円)―朝日―にあらわれている。アマゾン文明はアメリカ最古の文明の地であり、アンデス山地や太平洋岸地帯ではないことを証明する。これは1950年代にドナルド・ラスラップが唱えたもので、著者はその裏付けを本書でやりとげている。レヴィ=ストロースが『野生の思考』で見出した文明観を覆す。都市を形成し農業文明を発展させたアマゾン文明は遺跡を残さなかった。それは石を使う文明とは異なり、土を利用する自然との共生を進めた文明であったからだ。その末裔がいまアマゾンに住む人たちなのだ。ヤノマミ族を好戦的な「未開人」として描いたのは人類学者が捏造した報告であることにもふれている。文明史観は実証的研究により新たな視点が甦るものだ。評者は柄谷行人。
文明批評というジャンルでは情報化時代のツイッターをどう見るかも現代では重要な視点を提供する。シェル・イスラエル『ビジネス・ツイッター』(日経BP社、1800円)―日経―ではビジネスとのかかわりを論じている。顧客サービスでの素早い対応で効果を上げているという報告など70もの実践報告が書かれている。
文学関係では、これは買い求めたいと思わせたのが『源氏物語』研究に碩学西村亮の『源氏物語とその作者たち』(文春新書、809円)―毎日―だ。『源氏物語』の入門書であると同時に、最高の良質の「批評」でもあると評者渡辺保は書いている。コピー時代の産物ではない。1000年前の文学作品は、好みに応じて紫式部以外の書き手が書き入れをしていく。その結果、つじつま合わないところがでてくる。それを著者は証拠をあげて示す。さらに当時の権力者藤原道長の娘、中宮彰子に仕えた紫式部がたびたび遭った「被害」は、道長が作品を自分のものだと勝手にもっていく。失われた部分はつじつまが合わない。どこが合ないかを実証してみせる。そこで浮かび上がるのは紫式部が書いた部分がいかに文学的に、小説家として優れているかということなのだ。読者は知らず知らずのうちに『源氏物語』の世界に惹き込まれるというわけだ。「自由な空想をめぐらしながらもシッカリ実証している。実証の上に立つ空想は小説よりもはるかに面白い」と評者は書く。
9日に他界した井上ひさし『井上ひさし全批評』(白水社、5800円)―毎日、日経―は、36年に及んだ選考という批評の井上の集大成。関わった賞の数は30をこえる。本書800ページに登場する作家は700人。その数驚異であるが、選考が最大の批評とみていた。「揺るぎない規範を自分の内に持ちながら、選考の場ではしなやかで融通無碍。その思考のみちすじがそのまま選評に表れる」と毎日の評者池澤夏樹は書いている。宮部みゆき、高村薫らの作品評が日経には紹介されている。
香納諒一『虚国』(小学館、1800円)-日経―は、田舎の濃密な人間関係を再現さしてハードボイルドの物語を創り上げた作品。まったくのよそものであるカメラマンが飛び込む世界として日本の原風景が現出する。また長引く不況で疲弊する地方を舞台とするが、社会的な問題は抑え気味に書いているという。この手法は横溝正史の手法につながる。「じっくりと時間をかけて読んでほしい」と、評者関口苑生は書いている。文中敬称略。
文明批評というジャンルでは情報化時代のツイッターをどう見るかも現代では重要な視点を提供する。シェル・イスラエル『ビジネス・ツイッター』(日経BP社、1800円)―日経―ではビジネスとのかかわりを論じている。顧客サービスでの素早い対応で効果を上げているという報告など70もの実践報告が書かれている。
文学関係では、これは買い求めたいと思わせたのが『源氏物語』研究に碩学西村亮の『源氏物語とその作者たち』(文春新書、809円)―毎日―だ。『源氏物語』の入門書であると同時に、最高の良質の「批評」でもあると評者渡辺保は書いている。コピー時代の産物ではない。1000年前の文学作品は、好みに応じて紫式部以外の書き手が書き入れをしていく。その結果、つじつま合わないところがでてくる。それを著者は証拠をあげて示す。さらに当時の権力者藤原道長の娘、中宮彰子に仕えた紫式部がたびたび遭った「被害」は、道長が作品を自分のものだと勝手にもっていく。失われた部分はつじつまが合わない。どこが合ないかを実証してみせる。そこで浮かび上がるのは紫式部が書いた部分がいかに文学的に、小説家として優れているかということなのだ。読者は知らず知らずのうちに『源氏物語』の世界に惹き込まれるというわけだ。「自由な空想をめぐらしながらもシッカリ実証している。実証の上に立つ空想は小説よりもはるかに面白い」と評者は書く。
9日に他界した井上ひさし『井上ひさし全批評』(白水社、5800円)―毎日、日経―は、36年に及んだ選考という批評の井上の集大成。関わった賞の数は30をこえる。本書800ページに登場する作家は700人。その数驚異であるが、選考が最大の批評とみていた。「揺るぎない規範を自分の内に持ちながら、選考の場ではしなやかで融通無碍。その思考のみちすじがそのまま選評に表れる」と毎日の評者池澤夏樹は書いている。宮部みゆき、高村薫らの作品評が日経には紹介されている。
香納諒一『虚国』(小学館、1800円)-日経―は、田舎の濃密な人間関係を再現さしてハードボイルドの物語を創り上げた作品。まったくのよそものであるカメラマンが飛び込む世界として日本の原風景が現出する。また長引く不況で疲弊する地方を舞台とするが、社会的な問題は抑え気味に書いているという。この手法は横溝正史の手法につながる。「じっくりと時間をかけて読んでほしい」と、評者関口苑生は書いている。文中敬称略。