あまでうす日記

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角川ソフィア版「西東三鬼全句集」を読んで

2018-04-09 11:45:29 | Weblog


照る日曇る日第1053回



 水枕ガバリと寒い海がある

の強烈な一発で前衛俳句の頂点に立った三鬼であるが、「旗」から「空港」「夜の桃」「今日」「変身」「変身以後」「拾遺」と全巻を通読してみると、誰の全集でもそうであるが、凡庸な作品も多いことがよく分かる。

以下、私の好きな句をアトランダムに挙げてみようか。

 絶叫する高度一万の若い戦死
 中年や遠くみのれる夜の桃
 ひげを剃り百足虫を殺し外出す
 びびびびと死にゆく大蛾ジャズ起る

新興俳句の勃興期に句作を開始した三鬼の特徴は、五七五の規矩を超越して「心中の真」を徹底的に追求したことで、その華麗なる詩魂の散乱と、純乎たるパトスの炸裂が、意味内容の解読とは無関係に読む者を魅了するのである。(本書の末尾に置かれた作者自身の手になる「自句自解」が、逆説的にそのことを物語っているようだ。)
 甲虫縛され忘れられてあり
 耶蘇ならず青田の海を踏み来るは
 女医の手に抜かれし臓腑湯気を立つ
 電柱も枯木の仲間低日射す

1940(昭和15)年、「京大俳句事件」に連座した三鬼は特高に逮捕され、以後5年間の表現の自由を剥奪される。

 餅搗きし父の鼾声家に満つ
 菊咲かせどの孤児も云ふコンニチハ
 五月の地面犬はいよいよ犬臭く
 わが悪しき犬なり女医の股噛めり

たかが詩歌の1字1句が、反戦厭戦思想の表明であると警察官によって恣意的に判断され、投獄される状況は、つい最近安倍蚤糞内閣が強行した「共謀罪」法案成立後の、この国の現況であることを、忘れてはなるまい。

 ボートの腹真赤に塗るは愉快ならむ
 梅雨はげし百足虫殺せし女と寝る
 鉄板に息やわらかき青蛙
 暗く暑く大群衆と花火待つ

しかし彼のすべての作品にもまして凄いと思うのは、彼の「西東三鬼」という俳号で、本名、斎藤敬直のサイトウを西東に3匹の鬼がいると「改竄」したひらめきにこそ、彼の才能の真骨頂があるのではないだろうか。

 群衆のためよろよろと花火昇る
 共に寒き凶者非凶者手をつなぐ
 蝮の子頭くだかれ尾で怒る
 栗の花われを見抜きし犬ほゆる



   加藤さんちの枝垂れ桜が満開となり鎌倉浄明寺に春来たる 蝶人




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