あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

奥村晃作最新歌集「象の眼」を読んで

2022-07-27 13:44:58 | Weblog

照る日曇る日第1768回

 

2019年7月から今年22年の3月までの598首を精選した、尊敬する歌人の最新歌集である。

 

「象の眼」というタイトルは、「<象の眼>と妻が言いたり<象の眼>は疲れ切ったる時のわれの眼」という歌に拠るものだが、今年86歳という高齢ながらZoomを駆使して歌会にセミナーに日参。その若者を凌ぐ若さと情熱にうたれる。

 

氏の師匠は宮柊二であるが、ここでは「日中戦争と宮柊二の戦闘参加」と題された数首を紹介しよう。

 

 団長を二回務めき『山西省』<柊二の旅>に三度参加し

 柊二らが戦いし敵は中共の朱徳指揮下の八路軍なりき

 伸びきったゴムみたいだね七十万の日本兵中国に釘付けされて

 殺・奪・焼の限りを尽くす作戦を剿共作戦と書物は記す

 包囲され隊全員が殺されたいくさも数多「山西省」で

 

1939年以来5年間に亘って、大陸で中国兵と戦った宮柊二は、その戦闘体験を歌集「山西省」で生々しく歌っている。

 

 磧より夜をまぎれ来し敵兵の三人迄を迎へて刺せり

 ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば聲も立てなくくづをれて伏す

 息つめて闇に伏すとき雨あとの土踏む敵の跫音を傳ふ

 

まるで映画の中のワンシーンなのに、自分が主体になっている劇的な行為が、冷静かつ写実的に歌われている。この、自分と自分を取り囲む環境を、両の目玉が見た通りに描写する「只事歌」の極意を、奥村氏は、おそらく師から学んだのだろう。

 

奥村氏は、宮柊二が1986年に「歌集 純黄」で詠んだ代表歌、「中国に兵なりし日の五ヶ年をしみじみと思ふ戦争は悪だ」を再三再四に亘って引用し、直近のウクライナ戦争に際しても即時停戦を願う歌をツイッターを通じて発信されているが、それは世間一般の単なる反戦歌ではない。

 

それは師の作品と生き方に親近する中で、おのずから血肉化された、「宮修二直伝の反戦思想」であり、氏は戦後77年間、これを武器として老骨に鞭打ち、日々風化する日常に抗して戦い続けてきたのである。

 

  瓶の中にメダカの子供がいるかいないか確かめてから水捨てる妻 蝶人


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