あまでうす日記

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大原富枝著「婉という女 正妻」を読んで

2024-09-29 09:57:37 | Weblog

照る日曇る日 第2111回

 

江戸時代初期の土佐藩の家老、野中兼山は、そのドラステイックな藩政改革の実を挙げて立身出世を極めたが、その苛斂誅求が災いして同僚や領民の不平不満も絶えず、彼を一貫して支持してくれた老領主にもついに見捨てられ、憤死の止むなきにいたった。

 

彼の死後、無能な政敵による怨念の籠った懲罰は、無辜の一族郎党にまで及び、後継者の最後の男子が死亡するまで、じつに40年間の僻地幽閉を強いられたのである。

 

本書は、女ざかりの40年を残酷にも棒に振らざるを得なかった兼山の正妻、市と、四女の婉に寄り添う、というよりも、「その身に成り代わって生き直した」、知情意兼ね備えた小説というよりも、驚異的な想像力と執念の塊魂である。

 

かつて吉本隆明は、大原富枝を「わが国最大の女流作家」と褒め称えたが、今ならその「女流」を外すことに異存はないだろう。

 

一夜にして大将軍となりにけり「麻雀放浪記」の「坊や哲」 蝶人

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