照る日曇る日第965回
新潮日本

「平家」の後に「源氏」というのは順序が逆かもしれないが、とりあえず2巻目から入ってみたら、それまでの与謝野や谷崎や林や橋本やウェイリーなんかより物語がガッツリ頭と体に沁み込んだのは、つまり他人のホンヤクという回路なんて不要だったというあたりまえのことに気づかされたわけで、えらい遠回りしてホンマ御苦労さんじゃった。
思えば平安から平成まで日本語の文法なんて基本的にはちっとも変っていないから読めば分かるんである。
本巻が取り上げているのは「紅葉賀」から「明石」までであるが、本職の政治なんかなーんもやらないで情事にうつつを抜かし、ちょっといい女と見れば飛びつくこの稀代の色魔が、右大臣に娘、朧月夜との事後の現場を押さえられては官位を召しあがられ、「須磨」への左遷もむべなるかなと言わざるを得ないなあ。
「須磨」から「明石」へ移動した「無実」の源氏が政界にカムバックするのは、桐壺の亡霊が朱雀帝を恫喝して眼病にし、太政大臣を冥界に追いやって弘徽殿の大后をも病の床にちかせるからであるが、ちょっと出来過ぎのシナリオのような気もするんですね。
三権と日本国憲法を乗っ取った岸信介亡霊内閣 蝶人