行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

日本人留学生の体験記「愛国と新聞」①

2017-09-30 10:08:39 | 日記
先日、上海の復旦大学新聞学院(ジャーナリズム学部)で1年間留学した東京外国語大学中国語学科3年の松本祐輝くんからメールが届いた。留学の成果を書き綴った文章と写真が添えられていた。3月末には無錫の桜祭りにも参加してくれた。彼とは、私が主催にかかわった講演会で知り合った。ちょうど1年前は井の頭公園で、無錫での桜植樹を続けている新發田夫妻と一緒に花見をした縁があった。


(2017年3月、無錫・太湖畔で開かれた桜植樹30周年記念式典で)

彼の通った復旦大学は、中国でも有数のエリート校なので、すべての大学生を代表するわけではない。むしろ特殊な環境かも知れない。1年間の時間的な制約や、大学内の空間的な制約もあるだろうが、素直な学生の目に映った隣国の情景に偽りはない。私も1980年代、北京に留学した際、日本の新聞の読者欄に投稿し、何度か掲載もされた。そんな昔の自分を思い出させてくれた。松本くん本人の了解を得て、3回に分け彼の留学感想記全文を掲載する。

湖面に投げた石の波紋が広がるように、彼の貴重な経験ができるだけ多くの日本の若者に共有されることを願って。



「愛国と新聞の隣り合わせで――復旦大学ジャーナリズム学院留学 松本祐輝」

 初めまして。東京外国語大学昨年の9月から今年の8月まで、中国のジャーナリズム学院である復旦大学新聞学院に留学していました。今回は、自分が新聞学院でしてきた経験から、中国の、特にジャーナリズムを学ぶ学生を取り巻く環境や彼らの考え方、そしてそこから日本が学ぶべきことについても共有したいと思います。

復旦大学とは
 上海にある復旦大学は、1905年に設立された総合大学で、中国では北京大学、清華大学などと並ぶ名門校の一つです。特に有名な学部がジャーナリスト養成学部である新聞学院で、これまで、大メディアの編集長から党幹部まで、中国メディアを支える学生を輩出してきました。学部には、比較的リベラルなメディアを研究する先生や学生がいる一方で、党に近い仕事をしてきた先生や、学生党員や「武警班」とわれる、将来武装警察に入ることを前提としたコースに入学してきた学生もいる、まさに愛国と新聞が隣り合わせに共存する、日本人からすると不思議な学部でもあります。
 僕がこの大学を選んだ理由は二つあります。一つは、将来中国メディアを支えるだろう立場の人たちが日本をどう見ているのかを知るためです。大学に入ってから、中国人留学生や日本語学部の学生と交流を重ねる中で、日中関係や歴史問題についても多く議論してきましたが、比較的日本に近い学生だけでなく、その世論を作っている中国のメディアとその中にいる人たちについてもっとよく知りたいと思いました。もう一つは、インターネットと社会の関わりが日本以上に強まる中国で、メディアがどう変化しているかを見ようと考えていたからです。僕自身がメディアと、中国のメディア事情に興味があったのもありました。

「デジタル化」していく授業と関係性
 新聞学院で授業に出て最初に驚いたのは、授業が「デジタル化」されていることでした。授業の板書は全てパワーポイント、学生もパソコンでノートを取るのは当たり前で、資料や宿題も全て、授業毎に先生が作ったチャットアプリのグループの中で共有されていました。新聞学院では各授業で、グループによる制作や発表の課題があるのですが、そのグループも、教室内で決められるのではなく、チャットグループの中でお互いに連絡を取りながら決めるので、留学生も積極的にアプリ内の会話に加わる必要があり、最初は戸惑いました。
 もちろん、今では日本の大学でもパワーポイントを使って授業をすることは普通にありますし、パソコンで板書を取ることも大学によってはあると思います。ただ一方で、高齢の先生までが、アシスタントの学生と協力しながらこうしたツールを使いこなしている様子は、日本とは大きく違うように感じました。

 僕が特に面白いと感じたことが、先生と生徒の距離が「グループチャット」というネット上の空間を通じてより近いものとなっていることでした。授業外でも、先生が興味深いニュースを投稿し、学生と議論をしたり、お互いがイベントに誘いあうようなことが起きます。先生に質問をしたいときにも、気軽に会話ができるメリットもあります。また、チャット上でつながると、先生や学生が日々投稿している書き込みを見たり、そこにコメントをすることもできるので、先生と生徒という立場を越えて、人となりを理解することにも繋がります。
 印象的だったのは、中国の祝日である「教師の日」や、先生の助手の結婚といった慶事の時に、様々なチャットグループで先生に対するお祝いのメッセージが送られていたことでした。インターネットは現実での人の結びつきを希薄にさせるという意見もあります。確かにチャット上でのあいさつは現実でのあいさつよりも希薄なのかもしえません。しかし、チャットが先生と学生の垣根を低くしたことが結果的にコミュニケーションの総量を増やすことに繋がったことは確かだと感じました。

(続)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿