行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【期末雑感】日本人教師の作るカレーライス

2018-01-19 10:58:12 | 日記
汕頭大学に来て計三学期、1年半がたった。最初はもっぱら食堂や周辺のレストランで食事をしていたが、落ち着き始めた二学期目から、時間のある時は市場で食材を買い求め、自炊するようになった。とはいっても大したものが作れるわけではない。炒め物か生野菜がほとんどになる。2LDKの宿舎に学生を集めてパーティーを開くようにもなった。私が作るのは決まって、大勢に振る舞えるカレーライスだ。学生たちはそれぞれ故郷の料理を披露してくれる。一人っ子として大事に育てられた学生が多いので、家ではほとんど家事を手伝った経験がない。あわてて母親に作り方を聞いたり、携帯でレシピを検索しながら料理したりする。私はそれを楽しみながら見ている。

宿舎でのパーティーはもう10回以上になる。学生はすぐに写真を携帯で流すので、私のカレーライスはいつの間にか学部中に知れ渡ってしまった。かなり好評のようだ。日本製カレー文化もすでに幅広く浸透していて、みながすんなり受け入れてくれる。







私は早朝、学生と一緒に買い出しをする。市場では野菜も肉も、いつも同じ店に寄るので、すっかりなじみになっている。鶏肉のモモ二つをその場で大きく切ってもらい、ムネ肉も三切れほど足す。中国では骨付きで料理した方が喜ばれる。リンゴのすりおろしやトマト、ワインをふんだんに入れる。半日煮込んで夕食に出す。各自が持ち寄った料理を合わせると、大変なごちそうがそろう。場所も狭く、家具や食器も限られているが、学生たちの熱気が場を盛り上げてくれる。











男子学生が少なく、酒の相手がいないのを寂しく思うときがあるが、無理は言えない。学生たちが楽しんでくれればそれでよい。それぞれ異なった環境で育ち、多くの複雑な思いを胸に寄宿生活を送る学生たちだ。勉強の悩みや将来への不安、個人的な問題、少しでも共有できる場を設けられればと思う。

授業をさぼってばかりいる4年男子学生がいた。宿題も提出しない。言い訳をする。ひどいときにはウソもつく。同級生との関係も悪く、疎んじられる存在だった。果たして卒業できるのか、卒業させるべきなのか、学部内でも問題になっていた。

私が赴任したばかりの時、彼は三年生で、私の授業を取っていた。私がある日、ネットの接続が不具合で、パソコンを抱えて学内のネット管理センターに出かけた。途中、彼が私を見つけ、声をかけてきた。男子学生は少ないので、私はすぐに彼がクラスの生徒だとわかった。すると彼は私に付き添ってセンターまで来て、問題を解決してくれた。その印象があるので、私は彼が根っから腐っているわけではないと思っていた。

その彼が、私を訪ね、卒業作品の指導をしてほしいと頼みに来た。四年間の集大成として、長編の記事を書きたいのだという。他の先生から断られ、やむなく外国人教師の私を頼ってきたのだ。私は受け入れたが、その前に、自分がしてきたことをしっかり振り返り、初心にかえってやり直すつもりで励むよう求めた。彼との話は昼食時、私の部屋でした。まず、私の作ったカレーをごちうそうした。彼は「うれしいです」と言って、おいしそうに食べた。お代わりまでした。

私たちは、卒業作品の問題を離れ、お互いのプライベートを語り合った。彼の不安定な心理状態、不可解な言動の根が、どうやら複雑な生い立ちにあるようだと感じた。彼に足りないのは、人から愛されること、人から関心を持たれることなのかも知れない。そこで私は言った。「このカレーには先生のたくさんの感情が込められているんだよ。夕べから煮込んだのだから」。彼は目に涙を浮かべ、うつむきながらスプーンでカレーを頬張った。きっと彼は大丈夫だと、確信が持てた。愛情の詰まったカレーライスの効用は、捨てたものではないかも知れない。自炊も悪くない。

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1 コメント

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忘れがたき味 (Unknown)
2018-01-20 08:33:41
 愛情がたっぷり詰まったカレーの味を、彼は生涯忘れないでしょうね、きっと。中井
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