行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【2019古都取材ツアー⑩】京大短歌会に中国語で参加

2019-05-13 16:27:20 | 日記
京都・城南宮で「曲水の宴」を取材し、和歌の伝統に触れたことはすでに述べた。学生はさらに現代の若者に目を向け、自由な「短歌」という形式が静かなブームを呼んでいる現象について取材の計画を立てた。インターネットで京大短歌会の存在を知り、ちょうど私たちの滞在中、開催が予定されていた定例歌会への取材を申し込んだ。幸いなことに、会長の金山仁美さんから快諾の返事があり、あわせて、中国の学生も歌を提出し、全体の交流にも参加してはどうかと誘われた。「日中文化コミュニケーション」のクラスで日中の短歌翻訳には実績があったので、喜んで引き受けた。



定例の歌会は4月28日午後1時から、京大の西部課外活動棟で行われた。私は取材チームの学生3人(蒋楚珊、董柴玲、鄺靖怡)と通訳として立命館大博士課程の中国人留学生、向静静を伴って参加した。普段よりも多い12人が集まった。京大生のほか、近隣の学生、社会人もいた。最初に、各自が提出した歌をまとめた一枚の紙を渡され、作者が明らかにされないまま、一首ごとに参加者が感想を述べていく。作詞の技巧から言葉遣い、鑑賞、共感など、幅広く意見が飛び交う。最後に作者が紹介され、詩の種明かしがされる流れだ。

本件の取材の担当者、ジャーナリズム専攻3年の蒋楚珊は事前に計三首を作り、私が日本語の翻訳を添えて提出していた。余韻を残す日本人の歌に比べ、写実的な表現の多いのが彼女の作品の特徴だった。いずれもみなから高い評価を受け、本人は大喜びだった。私も交流に参加したので、蒋のそばにいて同時通訳をする仕事が重要だったが、向静静は十分に役割を果たしてくれた。彼女は非常に力強い存在だった。

以下が、蒋の詠んだ中国語の作品である。


仰望六十三层的高楼 汽车鸣笛催促 我回头看 流浪汉的胡须染上七彩的灯光
ビルの谷間 クラクションの音 轟いて ネオンが染める ホームレスのひげ


路过废弃工地 踏着雨声 在生锈的瓶罐中 发现新绿 工事現場
雨音を踏み そぞろ歩き さびついた缶に 新緑からむ


大雨如注 我向便利店的玻璃呼气 画出雨伞 附加一道彩虹
雨のコンビニ ガラスに吐息 吹きかけて 傘の上に 虹の橋描く



この日の歌会は盛り上がった。学生たちにとっては、日本の学生が自由に伝統的な歌を楽しんでいる姿が新鮮だったようだ。有意義な取材だった。宿舎に戻り、記念写真をメールで送ると、金山さんから、

「会員みな、はじめての歌会経験にとても喜んでおりました。こうしたかたちでお互いの文化の共有、発展が進むことを京大短歌一同望みます」

と返事をもらった。取材の成果が十分だったことに加え、若者たちの交流としても大いに意義深い機会だった。京大短歌会のサイトにも蒋の作品が一首紹介されていた。学生たちにとっては忘れ難い思い出になったことだろう。




(続)

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