はやしんばんぱくの、めげてめけめけ、言論の不自由ブログ

全国各地へ飛び回り、めげてめけめけめげまくり、色々書いていましたが、ブログ終わりました。過去を読めばいい!サラバじゃ~!

『らーめん放浪記』麺18 本目。

2009年03月21日 12時05分45秒 | 連載書き物シリーズ
『らーめん放浪記』

〈1-(17)・沖縄〉


“ぶっ殺す”

「!?……」
ベ子は何故だか寒気を感じた。
南国沖縄の初春は暖かいイメージだが
時折冷たい風が吹く。
ベ子はそんな冷たい風を
世間の風当りと比較して
まだまだこんなの生ぬるいと
よく自分で自分に気合をいれていた。
辺りをうかがい、ゆっくりと階段を下る。
階下一般病室の入院患者達。
この部屋は子供が多い。
腕に点滴をしながらはしゃぐ子供
パジャマ姿で走り回り付き添いのママに注意されている子供
友達がお見舞いに来てくれたのか
ワイワイと賑やかだ。
こんな病院に入れられた、そんな子供達が
なんとも不憫でならない。
ベッドを囲み何かで夢中になっている。
ポータブルゲーム機か?
いや、『ルービックキューブ』だ。
誰かが入院中退屈しないようにと持ってきてくれたのか
今時ルービックキューブとは珍しい。
手の平の中でカチャカチャと回転を繰り返すルービックキューブ。
赤、青、黄、緑、白、橙
混じり合って重なりあって
揃っていってるのか、はたまた散らばっていっちゃってるのか
見ていて方向性の収拾がつかない。
めまぐるしいスピードで細かなキューブの細かな色が入れ替わり立ち代わり。

“カチ、カチ、カチ、カチ”

子供の手の中で回転を繰り返す四角い塊に
いつのまにか見入っていたベ子である。

“カチ、カチ”

うるさいガキどもだ。
と、思ってしまった瞬間
犬山は自分の感情に寒気を感じた。
ワシってこんな男だったか?
比較的子供は好きな方で
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい的発想の持ち主だった筈が
一瞬、無邪気な子供達が餓鬼に見え自分の中に邪気を感じ殺気が芽生えてしまっていた。
この病院に来て以来どうもおかしい。
いかんいかん。
しっかりせねば。
おや?
おやおや?
あの子、どこかで見た……ああ!
ソーキそば屋のお嬢さん!
何故病院なんかに?
誰かの見舞い?
まさか『ウシ男』氏?
ワシとはぐれた後、何かあったのか?
しかしお嬢さん、そんな所で何やっとるんだ?
ぼーっと何つっ立って見とるんだ?

“カチ、カチ”

ほっほ~!ルービックキューブ!
ワシそれ結構得意なんだな。
どれどれ、貸してみぃ。
爺さんが6面揃えて進ぜよう。
お嬢さんもそんな所でつっ立っとらんと
中に入った入った!
と言ってのけた筈だったのに
犬山の口から出た言葉は
「あ~~~う~~~かしてうぇぇぇ~入ったらぁぁぁ…」
まったく生気がなかった。

“カチ、カチ”

レンタカーを借りるよりモノレールで来ちゃった方が便が良いと白烏に教えられ
すぐさま沖縄都市モノレール『ゆいレール』の
『那覇空港駅』へ向かった鳩山豆郎刑事であったが
もう何が何やらパニックで、足元フラフラ汗ダクダク。
やっとの思いで駅に到着し、切符を買ってモノレールに乗り込む。
暑い!
なんじゃこの暑さは!
脱いだジャケットは汗が染みてすっかりビチョビチョだった。
沖縄入りして間もないのにこれじゃ
先が思いやられるな。
「ああ、痒い痒い!」
汗ばんだ体をかきむしる。
『那覇空港駅』よりおおよそ16分で『牧志駅』到着。
ここは国際通りの北側入り口にあたり
観光客でごった返していた。
「あいつ南国沖縄にそんな厚着で来てアホか?」
って思われてんじゃなかろうか。
そう思うとまた汗が吹き出てくる。
実際は鳩山の事なんて誰も見ちゃいないのに。
とりあえず目に付いたショップに入り
アロハシャツを購入。
その場で急いで着替え、懲りずに機内でもらった“レイ”を首にかけ直し
すっかり観光客ルック。
まんざらでもない。
鳩山刑事は鏡にうつった自分の姿を見て
ポーズを決めニヤリ微笑んだ。
横の店員が「ぷっ」と吹き出していた事にも気づかずに。

“カチ、カチ”

プー!ププーーーッ!
トマトの様な赤い車『パッソ』の中で
白烏はイラついていた。
何ゆえ今日にかぎって混む!
『ヤンバル病院』はもうすぐそこだというのに
渋滞の列はまるっきし動く気配を見せない。
「ちょっと、何待ち?これ!」
イライラな白烏の目の前を数匹のブタが駆け抜けた。
「え!?何!?」
窓を全開。
「ちょっとーーー!何よこの状況!」
慌て勇んでブタを追いかけるおじさんが叫ぶ。
「すまんさ~!“アグー”がトラックから脱走しちまったもんだからっさ~!」
“ぶひぶひ”言うブタを追い回すおじさん。
「こりゃ!またんかさっ!」
「ぎゃはっ!
ちょーウケるんですけど」
白烏は、あれあれといったポーズで窓を閉め
ハザード点灯で車を路肩に寄せ駐車。
手帳に何かを書き書きし、破り
ワイパーでそのメモを固定して
歩いて『ヤンバル病院』へ向かうことに。
沖縄高級ブタ“アグー”が『パッソ』の車体下に潜り込む。
「こりゃ!出てこんかいさ~!」
と叫ぶおじさんの目に
白烏のメモが。
『只今この車は、ブタちゃんのお家になってます。
駐禁切らないでね。ハートマーク』
「何さこりゃ」
“ブヒブヒヒヒ”
と、ただただブタだけが笑っていた。

“カチ、カチ”

『陽罵琉3兄弟・集結メール』が
『トン吉』から『チン平』『カン太』それぞれの元へと届く。
沖縄ヤクザ『みたらし組』組長、次男の『陽罵琉チン平』は
若い衆連中を引き連れ
肉屋店主、三男の『陽罵琉カン太』は
幅の広いデカめの『牛刀』を握り締め
それぞれ急ぎ足で長男『トン吉』が院長を務める『ヤンバル病院』へと向かっていた。
“どいつもこいつもぶっ殺す!
きっと極上の美味いダシが揃うゼ!ブラザー!”
そうメールに記した『陽罵琉トン吉』も
鉛筆銀のアパートを後にし
黒塗りベンツで病院へと突っ走ってゆく。

“カチ、カチ、カチ、カチ”

あまりの巧みな手さばきに見とれてしまっていたベ子は
「はっ!」
と我に返ってまた歩きだす。
ルービックキューブの点と辺と線とが回転するかの様に
病院の螺旋状の階段を
下へ下へとくだって行く。
目指すべき場所は地下1階の『分娩室』
そこに何があるかは分からない。
しかし、全ての不幸はそこから始まった気がする。
『ムネ彦さん』…
『ギュウ太郎』…
放牧牛の様にのっそりと
しかし闘牛の様に勇ましく
ベ子の足は先の見えぬ未来へと進む。

“カチ、カチ”

「お客さんどちらまで?」
「あ、えっと、その」
タクシーに乗り込んだ鳩山刑事はしどろもどろになっていた。
目的地の病院名を忘れてしまったのだ。
「病院なんですが」
「病院て言ってもさ~、色々あっからね~」
「えっと、うんと、あーもうここまで出てるんだけどなー!」
アゴの上部を手でトントンと叩く。
「何だっけ、何だっけ」
「まーまーお客さん落ち着いて。これでも食いな」
沖縄黒糖のど飴。
「お!ありがとうございまっす!」
「いっぱいあっから、食いな、食いな」
「食いな?…クイナ…ヤンバルクイナ!」
「はぁ?」
「ヤンバルクイナ病院!」
「あ~!はっはっは!ヤンバル病院ね~!了解、了解!」
「ぽぽぽぽぽ」
「ほいさ~しゅっぱーつ!」
メーター入れてタクシーは、いざ『ヤンバル病院』へと走り出す。
暫くして渋滞。
「…なんすかこれ」
「何だろね~。
ちょっくら見てくるさ~」
運転手はメーターを止めて車を降り前方へと走って行くも
すぐさまブーメランの如く戻って来て
「お客さん、こりゃダメだ。
ブタが逃げたんだってさ~。
ブタ渋滞。
赤い車にうじゃうじゃ隠れてんの!
わっはっはっは!」
「ええ!何それ!困ったなぁ」
「ヤンバル病院すぐそこだから
歩いたほうが早いさ。
ほいさ1060円ね」
鳩山は2000円渡し
領収書、お釣りといっしょに沖縄黒糖のど飴を7粒受け取る。
「これあげっからさ。
急いだってロクな事ないさ。
ロクな事がないからナナっつあげる。
ラッキーセブン!
食いなっ!わっはっは!」
「あ、ありがとうございます…ぽぽぽ」
さっきもらった飴もあっという間になめちゃっていたので
鳩山刑事はもう1個
ぽーいと口のなかに飴を放り込んだ。
甘い風味が口いっぱいに広がって何だか優しい気分になった。

“カチ、カチ”

鳩山の到着を
遅い遅い!待ちきれないとばかりに
『ヤンバル病院』の裏口からこっそり1人先に潜入した白烏は
カバンからコンパクトなデジカメを取り出し準備万端。
潜入取材はこのくらいコンパクトなカメラが丁度良い。
デカいと身動きとりにくいしね。
さてさて、産婦人科はどこかいな。
「さても、さぁてぇもぉ~」
とお能の真似してふざけつつ
壁に貼ってあった案内を指差し
「あ、ちゅうちゅう~たこかいなぁ~。
ぎゃはっ。地下1階」
お忍び取材だから階段を…使えば良いのに
何故かエレベーターに乗り込むオマヌケ白烏。
このエレベーター、下へくだらず、上へまいりま~す。

“カチ、カチ”

病院へ向かう坂道を
そっくりな3人のおっさんと
ガラの悪いヤーさん軍団が
ブタを蹴散らしズンズン上っていた。
強風にあおられ、桜の花びらが吹雪の様に舞い散る。
トン吉が婦長へ電話をかけ
“ウシの生き残り”と“迷い込んだイヌ”
の抹殺準備を行えと指示。
今後現れる全ての邪魔者も殺せと伝える。

“カチ、カチ”

婦長が院内放送を流す。
♪ピンポンパン♪
「ワクチンが届いております。
ワクチンが届いております。
至急ナースセンターへお集まり下さい」
緊急事態をしらせる暗号だ。

“カチ、カチ”

病院内が慌しい。
看護師連中がバタバタと走り回っている。
そんな様子をポッカーンと見つめる犬山。
すると階段横のエレベーターの扉が開き
中からおかしな女、白烏が現れた!
「ぎゃはっ!上行っちゃったわ」
「フガッ!?」
「え?えええええ!?」
「フガガガッ!」
「ワンちゃん!!!いたーーー!!!」
猛烈な勢いで犬山へ駆け寄る白烏。
「ぬぁ…ぬぁにやってんだ、お前…!」
驚きつつ、蚊の鳴く様な声の犬山。
「ちょーウケる!ワンちゃん入院!?みたいな!」
「ぬぁんでお前がここにいるんだぁ~…」
「そう!大変な事がわかっちゃったの!」
周囲を見回し
「あのね…」

“カチ、カチ”

何だこの病院。
受付にもどこにも、誰もいないじゃないか。
『ヤンバル病院』に到着した鳩山。
来いと言われて来たものの
一体ここから先をどうしたものか途方に暮れていた。
とりあえず白烏に電話をかける。

“カチ、カチ”

ベ子は階段の影に隠れながら
慌しく通り過ぎる看護師連中や医師の姿を見送っていた。
何があった?
嫌な予感がする。
誰もいなくなったフロアー。
それは今のベ子にとって好都合な状況の何物でもない訳だが
何だか事の流れに気味の悪さを感じる。
しかし
道は前にしかない。
進むべき道は1つだけ。
意を決して再び『ヤンバル病院』の
奥の奥、闇の闇へと歩を進める。

“カチ、カチ”

「むむむむむむむむむう…!!!」
数々の真実を聞かされた犬山は噴火寸前となった!
サウナで耳にした話の全てがここで繋がった!
体内の獣の血がガンガンと駆け回り
興奮のお祭り騒ぎと化す!
「むわおーーーーーん!!!」
“ブッチーン”
と点滴の管を引き抜き、
「わんわんわんわん!!」
めちゃくちゃに引きちぎる!
「ぎゃはっはっ!出たっ!ワンちゃんのオタケビ!」
周りの入院患者がびっくりした目で犬山をみつめる。
まるで動物を見たかのようにはしゃぎまわる子供達!
そこへ
「源さ~ん!!!」
今にも泣きそうな顔で鳩山が病室へ飛び込んできた!
「源さん!心配したんすよ!」
「ダーリンちょー遅い!
ぎゃはっ!何それダーリン!」
「何だ!お前その格好!」
アロハにレイにまるでイカれた観光客だ。
「ちょーウケるんですけど!」
「えぇ!ご、ごめんなさ~い!痒い痒い!」
「ワンちゃんどうする?」
「屋台だ!」
「え?」
「『黒猫』の屋台だ!」
「屋台?」
「ちっきしょー、ひでーやっちゃ!
こてんぱんにやっつけたる!」

“カチ、カチ”

最上階の個室。
ベ子が寝ているハズの部屋に婦長がたたずむ。
さっきまでおとなしくここにいた“良い娘”の姿が消えていた。
「悪い娘…お仕置きね」

“カチ、カチ”

ベッドを抜け出し身支度を始める犬山。
「『ガジュマル』そば屋のお嬢さんもいるんだ」
「ここに?」
「さっき見かけた。
下におりてった」
「ウケる…。
そりゃまずいわ」
「何?何?痒い痒い!」
「とりあえずワシは『黒猫』へ急ぐ!
お前さん達はお嬢さんの安全を最優先に…」
「あなた達!何やってるの?」
そこへ婦長登場。
「犬山さんは安静にしていていただかないと
治るものも治りませんよ」
「心配ご無用。
あいにくワシの体は頑丈に出来ているんでね」
婦長が胸元からナイフを取り出す。
「聞き分けの悪い頑固爺さんには
強めのお灸をすえないとね」
ナイフ振り回しながら突進して来る婦長!
「何何何!??これ、どーなってんの!?」
わけもわからず怯えるヘタレ刑事鳩山を
「ダーリン!行きなさい!」
“ドンッ”と突き飛ばす白烏!
「うわっ!」
反動で躓きコケた鳩山に、これまた躓きコケる婦長!
「ふぐ!」
強か頭部を強打して意識を失う。
「ちょー弱っ!」
足元で鳩山が泣きべそ。
「痛っ!な、なにすんのぉ~!」
「ぎゃはっ!ヘタレダーリンにしちゃ上出来!みたいな!
こんな部下だけど、後はまかせてワンちゃん行って。」
「毎度の事ながら、まったくお前は情けないな」
「ごごごめんなさ~い!」
「よし、行くわ!」
颯爽と立ち去る老いぼれ爺さん犬山が
ちょっぴりカッコよく見えた。

“カチ、カチ”

陽罵琉3兄弟が病院に到着。
すぐさま院長室へ。

“カチリ…”

ルービックキューブ全ての面が揃った。
窓から差し込む夕日の灯りが
少年の手の中の
カラフルな立方体のキューブを
オレンジ1色に染め上げ
奇妙に色あせたセピアの世界へと変えていたのだった。

ベ子が
分娩室の重い扉を開ける。
誰もいない。
冷たい空気。
1歩、1歩
歩を進める。
何かに吸い寄せられる様に
1歩、1歩。
奥にあるもう1つの扉を開く。
“ギギギ…”
!!
寒い!
痛い!
冷たい!
ここは…どこ…?
明かりが
灯った。
“カッ”
一瞬視界が真っ白に。
徐々に
徐々に
影が現れ
白がセピアに変わり
セピアが色を成し
形が姿を成す。

“「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」”

懐かしく愛おしい姿達が
そこにあった。

そんな頃。

らーめん屋台『黒猫』では
陽罵琉トン吉より
“極上の材料を大量に納品しまっせ!ブラザー!”
と書き記されたメールを受け取った猫田が
ニヤ~~~っと
気味の悪い笑みを浮かべていたのだった。


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。
登場する人物、建物、団体名等はすべて
架空のものです。

写真。来週は、僕の出番にゃりん!