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はやしんばんぱくの、めげてめけめけ、言論の不自由ブログ

全国各地へ飛び回り、めげてめけめけめげまくり、色々書いていましたが、ブログ終わりました。過去を読めばいい!サラバじゃ~!

X'mas♪

2013年12月25日 17時55分46秒 | 連載書き物シリーズ
あのな、今日ってX'mas(エックスマス)ていう日なんだぜ★
知っていたかい★
生まれて今日まで、狼と呼ばれる浮浪者に育てられてきた俺は
X'masを今、拾った東スポで知ったんだ★
全身赤いやつが、赤い鼻の四つ足歩行生物に乗り、ぶらり旅に出て
赤いやつんちにたまった1年分のゴミを世界中に捨てて回る日らしい★
常人の俺には、変人の考えることは分からん★
というか、そんなやついるのか?俺は“こちら側の世界”しか知らないから
そこらへん皆目見当がつかないが★
が、なんだろうそいつ、すげーワクワクするじゃない★
もしそいつらが存在するならば、是非とも弟子にしてもらいたい★
存在しないなら、俺が赤いやつになってやりたい★
東スポとやらをなめるように読みあさりそんな想いを巡らせる年の瀬さ★
今宵の寒さに乳首ピーンッ!★背中にぴったりテンテンテン天使の羽!★
俺は吉錦★よしにしき★
育ての親狼が大好物だった相撲という肉からインスパイアして付けた名前だ★
今日も俺は俺の街をうろうろ★俺の縄張りをうろうろ★
そして今日も一日中ゴミハンティングさ★
ボーっとしていたら、カラスに目玉をつつかれちまわ~★
お!向こうからアル中の俊彦が這いつくばってこちらへ近寄ってきたぜ★
臭ぇな!チキショー!★
やい!俊彦!未だ不眠不休飲んだくれな毎日かい!★
笑うな!臭いから!★
俊彦は生まれてこの方一睡もしていなけりゃ、酒を切らしたことも無ぇて奴★
だからほら、足腰ボロボロで四つんばいでしか歩けねぇのさ★
俊彦!コノヤロー!また鼻を真っ赤にさせやがって!この万年泥酔野郎が!★
しかし、それが俊彦の個性!★臭い!笑うな!★
ん?あーーーっ!俊彦!お前まさか!赤い鼻の四つ足歩行生物だったのか!?★
東スポ物語のヒーローが、こんな近くにいたなんて!感動だ!★
よし!俺が赤いやつになる!★こんな所に赤いペンキ缶が!
かぶるぜ!★バッシャーッ!★ひゃっほーっ!赤いやつさ!★
赤鼻の俊彦にまたがって、X'mas(エックスマス)!世界中ぶーらぶらだーっ!★

♪紅に染まったこの俺を
慰めるやつはもういない♪

赤鼻の俊彦にまたがった吉錦は
世間が垂れ流したゴミくずを
まるで元へかえすように
街中へボンボコぶん投げばらまいた。
まるで横綱が土俵へ塩をまくかのように。
モノがあふれた現代で、捨てられるものあれば拾われるものもあり
どこまでが本当に必要で
なにが不必要なのかの価値観のバランスのナンセンスさを
吉錦は無意識のうちに世間に問うていたのである。
なんてそんなテーマ性なんて所詮受け手しだい。
愉快、不快も人の数だけあろう。
テーマなんてでっちあげればいくらでも出る。
そんなんも全て、なんだっていいじゃん。
吉錦と俊彦が今、楽しいかどうかが重要で
ゴミプレゼントを受け取った受け手が
それぞれ何を思うかが大事だったりする。
それすらも、どうだか。
ゴミも人によれば宝で、ある人には不愉快な汚物だ。
この日、表の世界は裏にかくされていたゴミにまみれた。

メリーX'mas。

めけめけ~。

写真。某ショッピングモールのツリー。
この話はかわいくないけど
これは、かわいい!

以上
毎年クリスマス恒例の
キモいお話シリーズでした。

失礼。。。

『らーめん放浪記』麺107本目・ペコちゃんの場合。

2011年02月12日 14時56分39秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(54)・ペコちゃんの場合〉


「頑張れ!ペコちゃん!」

ババッ!と
ババババッ!と
ペコちゃんは『大林』のロゴ刺繍入り割烹着をおもむろに脱ぎ捨てた

ブワッサ~と宙に舞う
渡る世間は鬼ばかりバリの、純白の割烹着が
夜空の暗闇に浮かび上がって特にまぶしい。

ペコちゃんは落下した割烹着を器用にキャッチし仁王立ちだ。
まっさらな割烹着の下から現れたるは
まさに『らーめんバトル』の戦場にふさわしい迷彩色の立派な軍服。
その上には、『大林』の屋号の刺繍がきっちり施されたカーキ色のエプロンを着用している。

「負ける気がしねぇさ~!」

完全なる保護色を身にまとったペコちゃん。
この合戦場の不穏な空気色に合致して、すっかり溶け込んでいる。
どこにいるやら???まさにその様な、気配をまるで消したような
でもガッツリたくましさを主張しているような
そんな不思議な、ペコちゃんのたたずまいである。

客席の一番前を陣取ってペコちゃんを見守る
尾道ラーメン『大林』店主『のぶひこ』は“あんぐり”だ。
スタッフペコちゃんに対し、応援するよりむしろ、もう既に唖然としている。
思わず
「うわうわぁぁぁうぁ~~~」
開いた口からヨダレが!

気のせいか?舞台の『大林』ブースだけが真っ赤に染まったように感じる。
ペコちゃんの脳内にカルメン~闘牛士の歌が響き渡る。
保護色で身を眩ませていたペコちゃんが
今度は見栄え良く舞台に主張を魅せでしたではないか!

ペコちゃんガッと勇ましく、胸元から薔薇を一輪取って口に咥え
ギョロリ視線は端のブース、らーめん屋台『黒猫』を
まるで歌舞伎役者の如く睨みつけている。
キリリ引き締まった口元から鮮血がダラリ。
薔薇のトゲが唇をつらぬき、顎から首筋にかけて真っ赤な筋を作っていた。

滴り落ちる血液をペロリ舌なめずり。
不二家のマスコットと見まごうばかりのキュートな表情。
唇の傷から来る痛みなど全く無縁とばかりな表情を浮かべるペコちゃんである。

カスタネットを両手に握りしめるが如く
片手に湯切のストレーナーを
片手に長めの菜箸を持って
一気に調理に取り掛かった!
ラーメンを作る過程に於いてリズミカルに音を出しダシをとる様はまるでキッチンコンサート。
カルメンのメロディでもってひるがえるカーキ色のエプロンが
何故だか真っ赤に染まって見えて
円形状のバトル会場が闘牛場に早変わりしたかのような興奮をおぼえる。

そう、食材がペコちゃんに突進をかます!
ペコちゃんは闘牛士さながら、そいつを上手く受け流し、美味く調理する!
そんな様子全てが、向こうの『黒猫』への挑戦状であるかの如く
完全挑発的な動きでもって繰り広げられているのだ!

一体この“2組”はどんな関係なんだ?
何故にこの娘は、むこうの青年と老人に
ここまでの敵対心と執念を燃やしているのだ?
観客の誰もがそう思ってもおかしくないくらいあからさまに挑戦的な『大林』のペコちゃん。
時折調理器具を『黒猫』目掛けてぶん投げたりして凄く恐ろしい。
出刃も飛んだり、鋭い殺意すら感じるのだ。

そんな中でもらーめん作りはしっかり進んでゆく。
ズンドウでゆれる麺は不思議な様相を呈していた。
尾道ラーメン独特の平うちストレート麺!
だけどどうも様子がおかしい。
こいつは明らかに、ソーキの麺だ!
小麦粉に塩水、そしてつなぎに灰汁を
そう、ガジュマルの木の樹木灰を使った
古きソーキそばの麺の形状である!
そいつをいびつに平うちし、ストレートに伸ばした!
なんと言う奇妙な、いや、興味をそそられる魅惑の麺なんだろう!

そしてまた、肝心要なダシも変わっている!
尾道ラーメンの定番、鶏がら醤油に?これは?なんと豚を投入!?
しつこく煮込んでガリガリとこん棒で鶏豚を砕き
豚だけ早めにとりだして、そいつをミンチにかける。
出汁は何度も何度もこしてすっきり感をつくりだす。

鶏豚醤油のスープにゴリゴリと豚の背脂ミンチを削り落とし
摩訶不思議、魅惑の麺をくぐらすと
その上に角煮、かまぼこ、たっぷり刻み葱、煮玉子、メンマをトッピング。
仕上げになんとまあ、コーレーグースをぶっ掛けた!
どんぶりが、何となく赤く染まった気がして
観客達がどよめきだす。

「おぉっと!
これはこれは!またまた!凄いラーメンの誕生だ!
元祖尾道ラーメン『大林』さんが新境地を切り開いたぞ!
なんとも強烈な熱気が伝わるこのラーメン!
瀬戸内海から南国に船出した娘が牙をむいて帰って来た灼熱の麺ロード!
とでも言いますか!?
こいつはまさに、新尾道麺ソーレ!
山陽におりながら、まさか!まっさっか沖縄を感じてしまうなんて!
こいつはどんな狙いがあるのか!?調理人ペコさんは何?沖縄の人なの!?
まーその!こりゃまたビックリたまげた、意表をつく出来栄えであります!」
司会の勝男が叫んでいる。

…あれ?
あれあれ?
ペコちゃんそれって
尾道ラーメンでありながら
ソーキそばだよね…。
ええー?あれー?
これって、この麺て一体、なにもの?
君って、一体…なにもの?

のぶひこは混乱して身動きすら取れないでいる。
♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪
最近ちょっぴりお気に入りの歌を
頭の中で反復して落ち着きをはかっても
まったく無意味に自ら余計な混乱を招くだけののぶひこだ。

ペコちゃんを見つめるのぶひこが、一瞬凍りついた。
ペコちゃんが、沖縄のシーサーに見えたからだ!
そしてそいつは瞬時にカタチを変えて
今度は闘牛に変化した!

とその時だった。
ペコちゃんが
まるで暴れ牛の様に
向こうの『黒猫』に出刃握りしめて突進して行ったのだ!

「死ね糞―――っ!」

会場に悲鳴!
だがそれは、瞬く間に『黒猫』の老人によって制圧された!
ペコちゃんの身体は
まるでさっきの『大林』の純白割烹着の様に宙を舞った!
老人に背負い投げられたペコちゃん!
一瞬の出来事に受け身が取れず
したたか地面に頭を打ちつけて気を失う!

「ガッハッハ!
出刃ごときでワシを殺そうなどあまいあまい!」
ペコちゃんはとりあえず係員の手で『大林』のブースへと戻された。

何も出来ず、ポカンと口を開けたまま
ただただ全てを見守っていたのぶひこ。
そんな『大林』の店主は
この惨事にも関わらず
何事もなく進むイベントに
大きな違和感を抱きはじめていたのだった。

何かが起こるその前の

ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。東京の某街で見かけたシーサー。

『らーめん放浪記』麺107本目・大林のぶひこの場合。

2011年02月05日 15時49分30秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(53)・大林のぶひこの場合〉


そいつは突然やって来た。

『文学の街』や『映画の街』として有名な尾道の
言わずと知れた『坂の街』の急な下り坂を転がり下りるスピードで
加速して、過熱して、食いしん坊達を魅了した。
そう、尾道ラーメンブームの到来である。

山陽ご当地ラーメンのパイオニアと言っても過言ではないであろうこの尾道ラーメン。
スープに豚の背脂ミンチがたっぷり浮いた
鶏がらベースの醤油味。
ちょっぴりいりこの香りをくぐり
平うちストレート麺が嫌味無く喉を滑り落ちる。
一度食べたら病みつき間違いなしの伝統の中華そばである。

そしてその元祖とも言われる店が
店主『のぶひこ』のきりもりする尾道ラーメン店『大林(おおばやし)』だ。

先々代が屋台からはじめ、先代が尾道の商店街に店を構えて数十年。
戦争での被害を免れた奇跡の街尾道で
当時のたたずまいそのまま、味もそのまま尾道中華そばを守り続けてきた。

今では尾道ラーメンもひと言では言えぬ程様々なカタチで親しまれているが
ここ『大林』は、先々代の味を崩すことなく、頑固に守り通している。

ブームの到来と共に、のぶひこの店は『超』が数百個つく程忙しくなった。
日本全国、いや、海外からもお客は押し寄せる。
リピーターの数も半端無い。
連日連夜、とにかく行列の途切れる事は無かった。

忙しさで味は落とせない。
のぶひこは懸命にラーメンを作り続けた。
麺の湯切りで腱鞘炎になっても
1杯のラーメンを何杯も何杯も作り続けた。

独身で単身経営の大林はアルバイト、パートさんに頼るしかなかったが
元々大した欲も無いのぶひこは業務拡大も特にせず
極力少ないスタッフで回す営業を続けていた。
と、簡単に言ってもブームの恐ろしさは想像を遥かに越えて過酷だった。
忙しさはまさに、そう、楽しい地獄そのものだ。
数名のスタッフは日々完全にグロッキー
店内常に嬉しい悲鳴を上げていた。

逃げ出したくなる様な忙しさの中
ただ、のぶひこの人柄が、スタッフさん達を繋ぎ止めていた。
決して弱音を吐かない、えらぶったりしない、愚痴を言わない、常にスタッフを労い
そして味に一番厳しい。
決して妥協を許さない、お叱りにも愛がある
人の嫌がる事を率先してやる、自分をある程度犠牲にしても店を守り、スタッフを守る。
でも責任下に於いて、無駄な無理はしない。
そんなのぶひこだからこそ、スタッフは離れず、お客も離れず
超×云百の忙しさをなんとかこなしてこれたのだ。
店舗展開の話しもあったが全て断った。
儲けより、お客の食い気が優先である。

そしてのぶひこは
ブームの波の恐ろしさも知っていた。
かつてブームの泡と散った店を
ここ尾道の商店街でたくさん見てきたからだ。
波に、飲み込まれてはならない。

やがてブームは去った。
あの、カリスマ尾道ラーメンは、普通の中華そばに戻った訳だ。
ブームの魔法が解けたお客は
次ぎにまた尾道ラーメンのブームが来るまでもう
『大林』に足を運ぶことはないだろう。
ブームの波乗りブーマーは、次なる波に乗ってどこか遠くへ行ってしまった。

そして『大林』には、のぶひこの味をこよなく愛する者だけが残った。
ブームの魔法とは無縁の常連が、空腹を美味いラーメンで満たす為に
今日も、いつもと変わらぬのれんをくぐる。
常連からしたら、異常なブームはただの邪魔に過ぎなかったのだろう。
しかし常連達は加熱っぷりも決して煙たがらず
毎日並んでまでのぶひこの味を求めて来てくれた。
ありがたい限りである。
味を、まっすぐに、貫いて良かった
そうのぶひこは思うわけであり、今日もいつもと何も変わらぬラーメンを作り続ける。

ただ経営者たるもの、やはり儲けは重要である。
この極端な波のどん底は、『大林』にとってかなりかなり辛いものであった。
仕方ない、ブーム大戦を共に戦ったスタッフ達に
ブームで儲けたお金からドンと退職金としてふるまって
泣く泣くのぶひこは、昔同様1人となった。
去り行く者は誰も、のぶひこを悪く言う事は無かった。
この辛さを共通の痛みとして分かち合えていたからだ。
良いスタッフを持てて幸せだと、のぶひこは心から思うのである。

今の状況からして『大林』は
のぶひこ自ら1人でラーメンをこしらえ、1人で運んで、1人で片付け
1人で会計をする、1人劇場でも充分な経営状況なのである。
悲しい事に、これがブームというモノの現実なのだ。
1人でやれちゃう店にもホトホト慣れて来た頃に

そいつは突然やって来た。

昼の営業と夜の営業との境目のまどろみの時間
のぶひこがスポーツ新聞『スポコン』を流し読みしている最中に
突然『大林』ののれんをひるがえし
軍服姿の女の子が店に入って来たのだ。

♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪

ラジオから『羊田 妖子』の『さくら』が流れる店内に
全身ミリタリー系で身を固めたファッションの娘がしっかり仁王立ち。
その見た目はどこか確実にイケていなかったが
幼く輝く瞳は何故だろう、いきなりのぶひこを魅了した。

娘は乱暴に狭い店内へ入ると
2、3歩のぶひこへ近づきピタリ身動きを止めた。
そしてしばらくジッとのぶひこの目を見つめたのだ。
のぶひこは、まるで蛇に睨まれたカエルの様な心境だった。
ただの蛇ではない、華奢でいて鋭い様はまるでハブだ。
猛毒を持ったハブである。

ハブが口を開いた。
「ここで、働かせてください!」
何?今この子はなんと言った?
スットンキョウなのぶひこに、再び娘は牙をむく。
牙?いや、そいつはかわいい八重歯だ。
八重歯を覗かせ力強く言葉を繰りかえした。
「ここで、働かせてください!」
もの凄い目力を感じる。
それは執念、いや怨念にも似た、何となく怖い不のパワーに近かった。
しかしのぶひこは、不思議とそのパワーに嫌な感情を持たなかった。
むしろ自分の中に湧きあがる何かを感じていた。
そう、多分それは決意である。
はじめて何かを成し遂げようとした時
若かりしあの頃の、自分の燃えた決意の瞬間を
今、目の前のこの娘に見ていた。

突然の出来事に唖然としつつも、のぶひこは妙な興奮をおぼえた。
とらえどころ無き、溢れる摩訶不思議な感情にしどろもどろとなりながら
のぶひこは娘に答えた。
「とと、突然来られても…
募集は今…
えっと…とりあえず…じゃあ、あの
りり、りれいきぃ…履歴書は?」
娘は大声で、ストレートに即答だ。
「ありません!買えません!履歴書!お金無いから!」

このギラギラした瞳、仁王立ちの足、迷い無き口元
こりゃどえらい娘が迷い込んで来たもんだ。
どこから来たんだろう?一体何者なんだ?

「ウチが働く事で
決してこのお店に損はさせません!
お願い、ウチを雇って!」

こりゃどう見ても“厄介者”だ。
やる気満々だが、ワケあり感も満々だ。
しかしのぶひこは、この圧倒的パワーに押されてしまったのか
取り付かれてしまったのか
ついつい、いや何となく、いや!心から
この娘に何か強い“徳”を見出した。
それはいわゆる“勘”てヤツなのだろうか。
この時、詳しく自分でも分からぬ感情と感覚が
のぶひこの心を支配していた。

これが、人の魅力ってヤツなのかもしれない!
このハブ、逃がしちゃいけない!

のぶひこは読みかけの『スポコン』をテーブルの上に置き
背筋を伸ばしてこう答えたという。
「奥で着替えてらっしゃい」
娘は大喜び…せず、小声でひと言こう吐き捨てた。
「(ヨッ)シャーーーッ!」

その時の、娘の瞳を
のぶひこは今でも覚えている。
あの、殺意を含んだような鋭い目付きを。

娘の名前は『ペコ』
本名なのか愛称なのかは分からない。
そう言えば、そう、あの不二家のペコちゃんにもどことなく似た可愛さがあった為
のぶひこはそのまま娘を愛嬌たっぷり『ペコちゃん』と呼んだ。

ペコちゃんは『大林』に住み込みで働く事となった。
独り身ののぶひこは、何だか急に出来ちまった娘のようにペコちゃんを可愛がった。
器量が良く働き者のペコちゃんは、すぐさま常連さんやご近所さんの人気者となった。
ペコちゃんは決して素性を明かす事は無かった。
何か訳ありなのだろう、のぶひこもそこら辺決して突っ込んで聞こうとはしなかった。

それから時は流れ、ペコちゃんも時を駆け抜けて
そう今、尾道ラーメン『大林』の代表として
そのペコちゃんが、イベント『らーめんバトル』の舞台に立っている。

イベントへの参戦が決まった瞬間からこの日まで
しっかりみっちり、のぶひこはペコちゃんに『大林』の味を伝授した。
今、会場の客席最前列で見守るのぶひこの目の前で
ペコちゃんがのぶひこ直伝のラーメンをこしらえる。

「頑張れ!ペコちゃん!」

…あれ?
あれあれ?
ペコちゃんそれって…?
尾道ラーメンは尾道ラーメンなんだけど…
何となく…どことなく…
ソーキそばっぽいんですけど…!?

ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

久々の『らーめん』となりました。
すっかり忘れてしまった読者の方々
是非!過去の記事にさかのぼり
読んでみてください!

写真。尾道土産もの屋さんにて。

『らーめん放浪記』麺のびのび・本日お休みの回。

2011年01月15日 11時17分02秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


っとまあ、本当はこんな感じの
『らーめん放浪記』純情旅情編
の日ですが…。

〈本日、お休みの回〉


さてさて
当ブログにて毎週勝手に連載させていただいております小説(?)『らーめん放浪記』ですが
本日、都合によりお休みとさせていただきます。

私事ではございますが、本年、特に前半…いやいや全般としてかなり多忙となっており
土曜日、落ち着いて『らーめん』を書くという事がかなり難しくなってまいりました。

しかしながら
この非力な小説でも僕の大切な、まあ言ってしまえば趣味みたいなものですので
止めたくはありません!

つきましては、不定期で、しかも曜日が変わる日もあるかとは思いますが
当ブログ、当小説の連載は細々と続けさせていただきたく思っております。

いるんだか、いないんだかよくわからぬ読者方々様
“一応”毎週土曜日、是非是非このブログを覗いてはみてくだい!
『らーめん』書いてる日もあれば日記の日もありゃコラムの日もありゃ楽ありゃ苦もあるさ。
とにかくひとまず、山陽山陰四国編は、近日中に区切ります!
なにとぞよろしくお願いいたします!

あ!
毎週日々のブログは今後もそのまま続けます故
そちらもどうぞよろしく願います!

ちなみに僕、軽く風邪をひいちゃいました。
あっちゃっちゃ~。
昨日会社にいたらひいちゃった。
誰だ!僕に風邪押し付けたのは!
こんなプレゼント、いらんぞ!

ゲホゲホ!ゲホホゲホゲ!
ホーゲホゲホゲ!

今年の風邪は、喉にくるのでしょうか。
せきが出て、喉が痛みます。
忙しいのに風邪なんてひいている場合じゃねーっちゅうの!
仕事も趣味も、やらねばならぬ事もやらなくてもいいがやりたい事も山盛りだっちゅーのに!
しかも、当社鬼軍曹(婆)とも日々バトルしなきゃいかんのに!
弱っていてはいけませぬ!
全てに負けてしまいます!

嫌だーーーっ!
負けないもんね!
バーカ!バーカ!

………なんて
皆様におかれましても風邪には充分ご注意を。

最近、自主性から生まれるモノやコトってやつや
好きな事、夢中になれる事が自分に及ぼす影響などについて考えたりします。
と同時に、割り切って努力して興味を持たなければ前に進まない事や
それにともない自己で自己を多少啓発しないといかんのだなっちゅう事
無理は無理!だけど必須は必須!っちゅう事を考えたりします。
このブログや『らーめん放浪記』が自分にとってそれらの橋渡しの1つとなると信じております。
何事も繋がっているのであって
だからこそ何事も♪手を抜け~気を抜くな 時々~怠けるな♪なのでしょう。

あ、こうしてズルズルこの今日の記事書いている間にも時間がっ!
ではこの辺でドロンいたします!

数少ない…っちゅうかいるの?って感じの
『らーめん放浪記』をご愛読の皆様
…ええ、いらっしゃらなければ、これ、独り言にはなりますが
とにもかくにも!本日の休載をお許しあれ!
そして、今後とも、どうぞよろしく願う!

では、ひとまず、休もう!
バサラッ!


♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。申し訳ござる工事看板。

『らーめん放浪記』麺106本目・汰和史の場合。

2011年01月08日 12時16分41秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。

〈3-(52)・汰和史の場合〉


「帰って来て早々ごめんね」
「うん」
「座って」
「ああ」
「お父ちゃん今出かけてるから」
「うん」
「で、あなたが電話で言っていた事なんだけどね、汰和史(たわし)」
「そう
それをさ
ちゃんと話に来た」
「そう」
「結論はとりあえず置いといて
幾つか順をおって話したいんだけどね
まず」
「まず、四国の…それも高松じゃラーメン屋なんてなりたたないでしょうに」
「はぁ…知ってる。
もう、母ちゃん
とりあえず俺の話を最後まで聞いてよ」
「ああ、そうね」
「俺さ、実家がうどん屋だってぇの
子供の頃
実はすっごく嫌だったんだ」
「何で、讃岐でうどん屋ってとっても誇れる事なのよ。
それを汰和史あなた…」
「だから最後まで」
「……」
「最後まで、母ちゃん
とりあえず
息子の話を聞いてっての」
「はいはい」
「確かにさ
俺は讃岐のうどんが大好きだし
大好きな讃岐うどんを作るおやじの事も尊敬“は”していた。
周りの友達ん家もうどん屋、多かったし
それにほれ、小学や中学の学校給食にうどん、出まくってたしさ。
知らず知らずに讃岐で暮らす俺らは
ほれ、讃岐っぽく洗脳されてる感があったわけだ」
「あなた洗脳って」
「洗脳イコール尊敬なんじゃないか?なんて、ひねくれて思いだして。
周りのうどん屋の友達らも同じように思っていたみたい。
そんな中でさ、当然だけど普通のサラリーマンの家庭の子ってのもいたわけね。
スーツ着て、仕事して、土日祝日は遊んでくれたりしているわけよ。
ああ、なんか良いな~ってさ。
サラリーマン家庭に憧れちゃってさ。
そしたらうどん屋ってのが、何故だろう、とっても恥ずいモノに思えちゃって。
その頃俺、子供ながらになんとなくだけど感じていたのね
多分将来家業である『亀の子うどん』を継ぐ事になるんだろうなってさ。
恥ずい!恥ずい!って赤面しながら
毎日家の裏口から出て学校へ通ってた。
ちっちゃい頃は、喜んで店から出入りしていたのにさ。
母ちゃん知ってたよね。
あれはつまり、思春期のそういった気持ちの表れだったわけ。
本当、嫌~な気分だったんだ」
「………」
「無理言って関西の大学へ行かせてもらったのも
讃岐のコンプレックスから抜け出す為だった。
それ以上も以下も無いの。
そこでの4年間は俺にとっちゃ天国だったね。
だってさ、香川には無いものが、おったまげる程仰山有るんだもの!
事、『食』に関しては度肝抜かれっぱなしだったね。
あちこちスペシャルな食への『こだわり』ってのを感じたね。
知らなかった物事を知れば知るだけ
自分の故郷の遅れを感じて、自分の遅れもね、ここでも恥ずい思いをしたんだ。
足りてない、讃岐は全く足りてないと思ったね。
もう…一生帰りたくないってさ、そう思ったさ」
「汰和史…」
「そんな満ちたり過ぎて快感がこぼれ落ちまくっていた毎日にさ
水をさすかのように送られ続けて来ていたのが
母ちゃんの、荷物だった」
「…あ…あな…た…」
「母ちゃんの色んな思いが詰まった、ただでさえ無駄に感情揺さぶる荷物をだよ
『クロネコ戦艦ヤマト』の宅配便が届けに来るたびにさ、思うわけよ
なんで『フグさん便』じゃねーんだよ!ってさ。
ローカル便で荷物送ってさ、故郷を思いださせまいと
俺の感情を逆撫でしないようにと、大手の宅配業社を使う。
これは、そんなん母ちゃんの気遣いだって息子だもの直ぐ分かるさ。
余計なおせっかいだって、本当、余計だったさ」
「………」
「余計なんだよ。
余計な程中身がパンパンに詰まった荷物…。
毎回必ず、必ず入っている『讃岐うどん』の乾麺と、生麺と、ダシつゆ…」
「汰和史、父ちゃんのうどん大好きだったから…」
「子の心、親、知らず。
正直切なかったよ。
うどん見て、何度も吐いた。
感情がぐちゃぐちゃになってさ、辛かったよ。
母ちゃんを思うと、切なくてたまらなかった。
それが、その感情がたまらなく邪魔だった。
夢から…醒めちまうんだよ。
荷物を開けるたび
解き放たれた翼を、毎度、もぎ取られる思いさ。
余計な事しやがってってさ
開けた荷物をそのまま手付かずで放置したり、捨てたりしていた」
「…そう」
「そんなこんなで日々過ぎて
ついこの間
神戸元町の南京町でおどろきのラーメン屋を見つけたのさ。
絶品の美味さだった。
これ以上も以下もない美味さだ。
そこのラーメンを食べて、俺は『こだわり』って一体何だろうって考えちまった。
このラーメン屋のこだわりと、俺のおやじのこだわりは別物だ。
おやじのは、ただただ頑固に、意固地になっているだけ。
柔軟性も無ければ、冒険性もない、あるのは自分の信念だけ。
揺るぎ無いってのは見事だと思うけど
正直俺にはおやじのこだわりがガキのわがままに思えて仕方なかった。
こだわりって、もっと深いものなんじゃないのかってね。
それで思ったのね、ラーメン屋やりたいって。
俺流のこだわりをみせた、ラーメン屋をさ」
「あなた…汰和史の思うこだわりって
それってのも母ちゃんからしたら薄いんじゃないかって
そう思うよ」
「その通りなんだよ、母ちゃん」
「え」
「実はさ、そのラーメン屋ってのが
俺の彼女の実家でね」
「か、彼女?」
「我子(ガーコ)ってんだけど」
「ガ、ガーコさん?」
「うん
ガーコが教えてくれたんだ。
俺のこだわりの、味の薄さをね。
ガーコが俺の部屋にはじめて来た時さ
放置された母ちゃんからの荷物を見て言ったんだ。
なんてあたたかいんだってね。
呆然としちまった俺にガーコが
その讃岐うどん、作って、食べさせてってさ、言ったのよ。
こんな他愛もないものを食べたいのかって
食べたって、何の感動もしねーし
こいつに
こだわりなんて、これっぽっちも無いもんなんだぜって言ったんだけどさ
それでも食べたいって頼んでくるもんだからさ
しぶしぶ作ったさ。
時計見ぃ見ぃうどん湯がいて、途中1本食って具合見て
ダシとって、ネギ刻んで、しょうが摩り下ろして
麺を冷水でしめて、ダシぶっかけてさ。
そんな俺を見てガーコが言うのね
きっと、それが汰和史のお父さんの仕事姿なのねって。
かっこいいって言うのよ。
そんで俺の作ったうどんをおもむろにすすってさ
美味い美味いってさ
泣くのよ。
美味いって、俺の実家のうどんが、美味いって
母ちゃんが送って来てくれた
おやじの『亀の子うどん』のうどんは天下一美味いって。
すすり、泣くんだよね
俺が天下一美味いと証したラーメン屋の娘のガーコが
ガーコのおやじさんの冷たいこだわりにうんざりしていたんだって。
俺は打ちのめされた。
こだわりに、境界線なんて、無かったんだ」

ガラガラ!

「おい!汰和史!
彼女を外で待たせて何やっとるかバカモノ!」
「お父ちゃん!」
「おやじ!?」
「ささ、入った、入った」
「どうも、はじめまして、こんにちは
えっと、阿比留 我子(あひる ガーコ)です」
「何だか良くわからんが
この子、ずっと立ってたからよ!
おい、聞いたら汰和史!
お前の彼女だっていうじゃねーか!
おい!」
「あ・の・さ!」
「!?」
「………」
「あのさ
遠回りしたけど
母ちゃん
おやじも
やっと
結論を言うよ。
子供が出来た。
結婚する。
香川に戻って
店を継ぐ。
ガーコも一緒だ。
今までごめん!
これから、よろし!
よろし!
く…くく…
よろしくお願いします!」
「お、お願いします!」
「な!?
なんだいこれは突然!
おいおい!どうなってんだ!?おい!お前!」
「フフフ
スーーー…
♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」
「な、なんだいお前!いきなり歌いだしやがって
おい!何だってんだ!
何だこりゃ!」
「汰和史
これがあなたのこだわりなのね」

「こちらこそよろしく」

亀屋の
『亀の子うどん』の
おやじの作るうどんは
天下一品だ。
でもおやじ
おやじ
それって!?
その麺て!?

おやじ!?


ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。高松丸亀商店街にてKAMEYA。

『らーめん放浪記』麺105本目・番外!クリスマス!

2010年12月25日 14時14分18秒 | 連載書き物シリーズ
“「♪もろびとこぞりて むかえまつれ
ひさしくまちにし
しゅはきませり
しゅはきませり
しゅは しゅはきませり♪」”


『らーめん放浪記』純情旅情編。
の、番外編。


〈3-(51)・番外!クリスマス!〉


潮の香りと、工場の煙突からは何やら独特の匂い。
混ざりあった不思議な土地。
街は労働で夜も眠りません。
山道、国道、市道、わき道と
せわしなく動く車は列を成し
前へ前へと進もうにもなかなか進まん苛立ちをみせています。
ライトがハイビームになったり、チカチカと互いをあおっています。
民家に明かりが灯り続けます。
いつぞや流行った“おうちイルミネーション”がチカチカ。
家庭の幸せをひけらかしております。
この時期“もぐら”があちこち道路をほじくりまくるから大変です。
あっち行っちゃ~通行止め、こっち行っちゃ~右折禁止。
やれやれ。
本当、工事が多い。
工事中の赤ランプもチカチカ。
空から地上を眺めたら
巨大な“ツリー”に見えることでしょう。

気のせいか、街中がちょっぴりせかせかとしている
そう感じるのは歳のせい?なぁんて考える奥様
…ちゃうちゃう、そりゃ年の瀬でしょうが。

借金も、払うだけ支払っちゃえば、手元に残るは苦労の跡だけ。
もう餅代もありゃしない、こんなんで年越しできるのか。
今日に限って、何だかやけに寒さが身に染みる『羊 命酒(よう めいしゅ)』さん。
ガソリン代の節約でカーヒーターをOFFった車内は極寒。
シワだらけのかじかんだ手の平を見つめ
「はぁー…」
と白く温い息を吹きかけて、左右あわせて擦りあいます。

年に1度のこの日を子供達はどれだけ楽しみにして生きている?
その夢を裏切っちゃいけない。

“「♪Joy To The World! The Lord Is Come
Let Earth Receive Her King
Let Every Heart Prepare Him Room
And Heaven And Nature Sing
And Heaven And Nature Sing♪
メリークリスマ~スッ!
ハッピークリスマ~スッ!」”

カーラジオがとっても愉快に叫びます。


『らーめんバトル』とやらが広島で開催されるよりずーーーっと前の
とある年の12月24日クリスマスイブのPM11時00分頃。
そんな年の瀬のお話。


運送業社『フグさん便』の過酷な労働を終えた羊さんは
ピンクの軽自動車を走らせて
子供達の待つ我が家へ向かいます。

もうかれこれ10日?いやいや20日ぶりくらいのご帰宅です。
『フグさん便』で働きはじめてからずーっとこんな調子です。
こんな生活を続けてきているんですもの
子供達だって羊さんの居ない生活に慣れて、いや正確には耐えて
もしかしたら諦めて、自分の事は自分できちんとやってきているのですね。
ましてや“訳あり”で父すら居ぬ生活。
3人の子供達は今じゃたくましく協力しあい
日々家の事をこなし続けてくれているようです。

羊さんにとっては、何だか複雑ですが
子供達はさほど苦に思ってはいないようで
母の居ぬ間は自分達がおうちを守ればいいってなもんで
意外と留守番に関してはクールだったりします。

しかしひとたび母が帰れば、甘えん坊に大変身。
やっぱり子供は子供です。

PM11時20分頃、山口県山陽小野田市、木造平屋の羊さん宅到着。

子供達がキャッキャと大はしゃぎで羊さんをお迎えです。
バシバシ突進して来るわ、バシバシタックルかましてくるわ、てんやわんやです。

ひとしきりじゃれあい、遅めの夕飯タイム。
今日は、そう特別な日、年に1度のクリスマスイブ。
ファミリーで盛大に幸せなクリスマスパーティだ!と行きたいところですが
そうです、羊さん宅にはそんな余裕はありません。
年越しすらいっぱいいっぱい、ヒーヒー言ってるくらい。
クリスマスのパーティなんぞ催す余裕なんぞあるはずもなく。
しかし羊さんは年に1度の贅沢をきちんと用意しているのです。

♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

ほら、聞こえてきたでしょう?
街に響く、夜鳴きの音が。

「来たーーーーーっ!」
「来たーーーーーっ!」
「来たーーーーーっ!」

子供達は大はしゃぎ!
そうです、羊さん一家は毎年クリスマスに
近所をねり歩く屋台のラーメンを食べに出かけるのです!
この時期、毎日毎日耳にする夜鳴きのメロディ。
魅惑のチャルメラ音にお腹の虫を共鳴させながらも
子供達はずーっとずーっと我慢してきました。

毎年クリスマスイブの夜、我慢が一気に爆発する瞬間が訪れます。
羊さんはこの日、何があろうが必ずおうちに帰ります。
皆で楽しい『らーめんクリスマス』を過ごす為に。

12月24日は羊さんファミリーにとって年に1度の贅沢で特別な聖なる夜なのです。
当然羊さんはこの日の為に“らーめん貯金”をしています。
瀬戸物フグ貯金箱を“ガシャン!”かち割って、いざ出陣!
「きゃっほー!」

♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

のれんをくぐり
「いらっしゃい!
今年も来てくれたんだねぇ!」
優しい声と美味しそうな匂いが冷たい耳と鼻を温めてくれます。
「老麺(らーめん)くださいな」
「あいよぉ」
屋台のおじさんがチャッチャと湯切り
きれいなスープに麺をすべらせ
4人それぞれに、きちんと1杯ずつラーメンが配られます。
各々どんぶりを持ち上げます。
大人サイズのどんぶりは子供達にとってはまるで巨大な優勝の杯!
「ごっつぁんです!」ってな具合であります。

さあ、みんなで
「メリークリスマス!」

カチン

と、どんぶりで乾杯!
4人は一気にすすります。
ズズズズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
「好吃(ハオチー)!!!」

オイシイ!
羊さんは、昔食べた大好な湯麺を思い出していました。

羊さん、夢中で食べる子供達を見ていると
とっても豊かな心持ちになれるのです。
「いつも寂シイ思いをさせてゴメンネ。
お父サンも…いないし…」
羊さんは子供達にそっと語りかけます。

「おとうさんはいるよ」

ハオ…?

「大丈夫、おとうさんはいるから」
「いるから」
「いるから」

子供達がラーメンをすすりながら、そう羊さんに言いました。
お父さんは
『九 官鳥(きゅう かんちょう)』さんは
愛する『九さん』は
行方不明で、実際今どこでどうしているやら
果たして生きているのかさえ分からぬ状況で…。

そんな事を知ってか知らずか
子供達は羊さんを
励まそうとしているのか
いや、おとうさんは生きている
そう信じているのか
それとも…

「ありがとう…
ありがとネ
母さん頑張るヨ。
あなたたちの為に頑張る」
決意を新たにする羊さんです。

なんだかしんみり。
「さあ、ほら
ラーメンのびちゃう!」

そこへ
「おやじ、ラーメンくれ!
チッ!なんでぇ、満席かい!」
お客さんのようです。
小さな屋台は大人と子供4人も座れば一杯ですものね。
「ちょいと席つめてよ、ほら、いれてくれよ!なあ!」
お客さんの声に気を使い、羊さん
「ほら、次のお客さん待っているヨ。
早く食べちゃいなさい」
皆、食べるペースを早めます。
屋台のおじさんは言います。
「お客さん。
しばらく貸切でね。
わりぃね、また来てくんねぇ」
ハオ!
美味しいラーメンの味に
人情味が加わりました。
ウインクする屋台のおじさん。
羊さん、人の温かさが身に染みます。

ラーメン1杯500円
4杯分で2000円のお支払い。
「はい、1500円のお釣りね。
かわいい3人の天使に、おじさんからのささやかなクリスマスプレゼントだ」
ああ、ああ
アリガトウ。

生きていてよかった。
生きていてよかった。
羊さんの瞳から
熱い涙が、溢れました。

「あ!」
「あ!」
「あ!」
「雪だぁ!!!」

空からの贈り物は
羊さんの火照った頬で
涙と混ざったといいます。

おうちに帰ると時はもう12時をとうに過ぎ
『イブ』が取れて25日『クリスマス』になっておりました。
子供達は布団にもぐり込み
様々な夢の世界に身をゆだねるのです。
羊さんは
子守唄を歌います。
ささやかな、プレゼントにと
いっぱいの気持ちをこめて。

「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪
メリークリスマス
みんな、アイシテル」

翌朝
外は銀世界。

積もった雪を蹴散らすように
羊さん宅から国道へ向けて、ずずずいーっと
何やら“トラクター”が通ったタイヤの様な跡が残っておりました。

「おとうサンタクロースだ!」
「おとうサンタクロースだ!」
「おとうサンタクロースだ!」

4人の枕元には
なんと!
謎のサンタさんからクリスマスプレゼントが置かれておりました!
『ふぐ饅頭』×4つのね。

!!!?
これはもしや…
「九サン…」
生きてた!?
九サンタ!

信じられないかもしれませんが
クリスマスには奇跡が起こるのです。
そう思って生きていたほうが
楽しいに決まっているもん。

しゅはきませり。
信じる者は救われる。
メリーらーめんクリスマス。


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。犬用クリスマスおもちゃ、いっぱい。

『らーめん放浪記』麺104 本目・千年の場合。

2010年12月18日 18時26分19秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(50)・千年の場合〉


あのなぁ

そもそもラーメンなんてしゃらくせぇもんは
同じ麺の仲間だなどと
おいらぜってぇこれっぽっちも認めちゃいねぇんだ。
麺ものと言やぁ、そば!うどん!と
おいらん中で昔っから相場が決まってんだ。
そば!うどん!それだけ。
後のはぜぇ~んぶ麺業界の邪道品!
こと特にラーメンはクソだね。
おいらからしたらラーメンなんてもんは残飯みてぇなもんさ。
ぜってぇ、ぜってぇ認めねぇ
と、思っていたぜ。
昔はな。


『鶴屋 千年(つるや せんねん)』、つまりおいらは
香川県宇多津町で『鶴』言う製麺所を営んでいた鶴屋家の長男として
職人気質で優しい両親の間に生まれた。

成人したおいらは、実家も継がず『鶴』から独立。
親元からも離れて丸亀商店街に讃岐うどん屋をおっ建てた。
そう、『鶴ツルうどん』だ。

男一代、うどん一筋、おいら一匹叩き上げで
人生色々乗り越えてはるばるここまでやって来た。
『讃岐うどん組合』の長(おさ)としてだって
讃岐をもりたて、うどんをもりたて
立派に役割をこなして来ているつもりだ。

おいらの店、おいらの城、おいらの『鶴ツルうどん』に
主人おいらはいつでも全力をそそいできた。
故に、という訳じゃあねぇが、ま、未だ独身だ。
周囲の奴らはどいつもこいつもとうに結婚し、子は育ち
今や孫まで出来てデレデレと暮らしてやがる。

そんな周囲の奴らは揃いも揃って影でこう言いやがる。
鶴ちゃん、あいつ、うどんが恋人なんじゃねぇか?
だからいい歳とっくに通り越してんのに結婚できねぇんだ。
ありゃうどん変態だ!間違いない!
ってな。

けっ!恋人ぉ?変態ぃ?バカにすんでねぇやっ!
おぅとも!おいらはうどん変態だ!
それで構やしねぇ!
うどんはなぁ、うどんこそはなぁ
おいらの嫁さんなんでぃっ!

おいらはうどんをこよなく愛している!
おいらは正気だ!
孫の下僕共が!影でグチグチ何でも言ってやがれ!

よしんば
よしんばうどんが嫁だと認めなくばあれだ
独身貴族だ!
その独身の時間と金を
嫁と呼ぶべくうどんに全て費やしてんだ!
そんくらい、おいらは全力だ!
うどんに、讃岐に、店に全力だ!
そしてこれからも、その全力とやらを
おいらのうどん人生にそそいでゆくであろう。
にゃろめ!

うちの店『鶴ツルうどん』の麺は
当然、我が実家の製麺所『鶴』で作られたもんを使っとる。
うちの麺は絶品だ!
昔ながらの足踏み製法をリアルに機械が再現してくれとる。
その製法によって生まれた麺のコシは最強だ。
湯がいて冷水でしめた時にうまれる弾力。
コシの持続性もお墨付きである。

絶品麺を作り続ける製麺所『鶴』。
親父とおふくろはとうに死んだ。
大往生だった。
『鶴』は、妹の『千代子』が後を継いでいる。
そんな千代子も今は一人者だ。

千代子には腕の良い技術者の夫がいた。
つまりそいつはおいらの義理の弟だ。
義理の弟は
自分が開発した画期的な凄腕製麺機に巻き込まれ若くしてこの世を去った。
亡き夫の置き土産となっちまった製麺機。
皮肉にも千代子は夫を葬ったそいつで今も最高に美味い麺を作り
そしておいらはその麺を使い最高の讃岐うどんをこしらえているってわけだ。

ただ…
ただその製麺機
元々は“ラーメンの麺を生み出す為に造られた機械”だったんだと。
おいらの大っ嫌いなラーメンをな…。

義理の弟は、ラーメン狂いだったんだと。
おいら、それを知らなかった。
知ったのは義理の弟が死んだ後だ。

お通夜の晩
千代子が1人、家を抜け出し屋台でラーメンを食っていた。
驚いた。
千代子はおいらと同じラーメン嫌いだったハズだ。
食の好みも兄妹ってそっくりなんだなぁ
なんてよく笑って言ってたもんだ。

何やってんだ!?
おいらは千代子を問い詰めた。
好みだって変わるわ!と千代子は言う。
結婚相手がラーメン狂いだなんて聞いたら
おいらが絶対許さねぇだろうって
千代子のやつ、義理の弟の食の好みを隠してやがった。

千代子は言う
おいらは食わず嫌いだと。
お兄ちゃんはラーメンの魅力も知らないで、ただ頭ごなしに否定ばかりだと。
千代子は、ラーメン狂いの亡き夫に毒されちまってたのさ。

バカヤロー!
ムキになったおいらは
愛する千代子を平手でひっぱたいていた。
そこでおいら
“はっ”
と我に返る。
しかし時既に遅し。
目の前では頬を真っ赤に腫らした千代子が肩を震わせうつむいていた。
ごめん…兄ちゃんな…
兄ちゃんな…
おいらそれ以上言葉が出て来んかった。
そんな、そんな自分勝手でろくでなしなおいらを
千代子は罵倒した。
叫ぶ千代子は鬼の様な形相だった。

あの人は、あの人はお兄ちゃんのうどんを私よりも
いや誰よりも一番に認めていたのよ!
本当はラーメンの麺を作っていきたかったのに
そんな夢を捨てるくらい
あの人はお兄ちゃんのうどんに惚れ込んでいたんだから!
なのに、なのにお兄ちゃんときたら!
お兄ちゃん、こんなちっぽけな人だとは思わなかった!
お兄ちゃんの分からず屋ーっ!

鼻水と涙を猛烈に垂らしながら
垂らしきれなかったものをおいらに浴びせかけながら
千代子は怒鳴って、そのまま何処かへ駆けてっちまった。

ただ…
ただ…立ち尽くすおいらに屋台のおやじが一杯のラーメンを差し出した。
トランジスタラジオからは『羊田 妖子』の『さくら』が流れてたっけ。

「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」

ラーメンを
じっっっと見つめるおいら。
「ああ、あっしからの
お、おごりです。
さぁさ
の、のびちまわねぇうちに
すすってやって、く、くく、くだせぇ」
屋台のおやじは言う。
“どもり”のキツイおやじだったっけ。

おいら夢中で、そいつをすすった。
涙って
こんなに流れるもんなんだなぁなんて
そんな事を思ったものさ。

おいらは千代子を愛している。
千代子、お前に惚れている。
デレデレだ。
だから
だから千代子の愛した亡き義理の弟も愛する事にするし
ヤツの造り出した製麺機も愛する事にする。
多少なりともこっぱずかしいからよ
未だに口じゃあラーメンをバカにしているけどよ
心ん中の深けぇトコではおいらラーメンに感謝している
…のかもしれねぇな。

だってよ
おいら愛するやつらのお陰で
こんなにうまそうなもんを作り出す事が出来たんだから。

どうでぇい!これ!

『鶴』の、千代子の作り上げた麺はよ
県内産希少価値の小麦とオーストラリア産のとを絶妙なバランスで合わせた
おいらん家のオリジナル『讃岐の幻』を使用してるんでい!
石鎚山の湧水を使って打ってだな
本来ラーメンの麺に適したヤツの製麺機で仕上げた絶妙な麺は
最高で新しいラーメンの麺よ!
讃岐うどんより若干細いがラーメン界じゃちょいと太めな
これ、太ちぢれ麺!
うどんとラーメンの
おいらと千代子とヤツとの融合でぃ!
モッチモチ、しこしこしたコシ!
まばゆいばかりの艶!
どうだ!こんな麺、ありえんだろが!
瀬戸内海産ちりめんといりこでだしをとったスープに小豆島産の天然醸造醤油をたらし
その中へ麺をくゆらす!
菜箸で渦潮の如く回転させなじませて
その上にチャーシュー・メンマ・ネギ・ナルト・椎茸・カニカマ・玉子・生姜を
なんと目の前で“天ぷら”にして乗せ
最後にじゃこてんを加える!
チャーシューの衣を砕くと中から肉汁がじゅわわ~っと染みだし
『鶴ツルうどん』による『鶴ツルラーメン』の
完成でい!

おいらは
この1杯の不思議なラーメンを
スープの中で綺麗に泳ぐ千代子の麺を
心から愛している。
これからも
愛し続ける事だろう。

ちょいとほろ苦くしゃらくさくむず痒い味だ。
良かったら食ってくれ。
のびちまわないうちにな。

ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。


めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。

写真。高松駅のさぬきうどん屋のれん。

『らーめん放浪記』麺103 本目・猿蔵の場合。

2010年12月11日 17時34分21秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(49)・猿蔵の場合〉


山陰地方島根県出雲市。
一畑電鉄の出雲大社前駅より出雲大社へ向かう道から少し外れた小道の角に
風格と赴きある建物が佇んでいる。
老舗の出雲そば屋『いづもそばにいて』だ。

建物自体が歴史的建造物に見えちゃうくらい
濃ゆい焦げ茶に光り輝いた味わい深い造りの壁。
何があろうが微動だにせんだろう建物の梁と柱のイメージ。
そんな店舗の外見的風貌がこのそば屋の内面的心意気と相まって
絶妙な風味を醸し出している。
まさに“出雲のそばはここにあり”といった威厳だ。
なんちゅうか、格式高い感がある。

かといって店内は意外と“くだけて”いた。
いつでもそばにあってくれているような親近感をも感じる。
それはそれはたくさんの有名著名な芸能人や文化人スポーツ選手や政治家等の
サインや写真や記念品があちこち壁に貼りめぐらされ
言うなれば避暑地の“なんたらミュージアム”的雰囲気を醸し出している。
厳格なご主人にしちゃあり得ん事なのだが
実はこれ、みんなミーハーな奥様のご趣味。
堅物なご主人も奥様にゃメロメロってな家庭の縮図の現れである。

ただあれだ、それだけの数のサインが並ぶ店ってんだから
『いづもそばにいて』はあらゆる方面に於ても
全国的に知名度高いちょー有名店の証拠である。

溺愛するミーハー奥様がお願いしてもそれだけは譲れねぇと
マスコミ関係の取材は頑固に全て断り続けて来ていたご主人。
特に宣伝もせず、誰彼に媚びも売らず
ただただ黙々と来る日も来る日も伝統のそばを打ち続けて来ただけ。
ただそれだけで
売り上げと人気とそして店の気品を落とす事無く
ここまで愛さる店を維持し続けて来れたのは
やはりブレ無き味をお客が信頼しついて来てくれたお陰。
実績から来る確固たる自信の現れに他ならないだろう。

様々な弊害を乗り越え『いづもそばにいて』は夫婦二人三脚で走ってきた。
順風満帆と言や嘘になる。
やり方や味が時代に馴染まんと言われた事も確かにあった。
ご主人の頑固さを良く思わん輩から悪質な嫌がらせを受けた事も少なくない。
しかし『いづもそばにいて』は代々受け継ぐ伝統を
黙々とここまで繋いで来た訳だ。

最近じゃかなりの変化を遂げた新参者の出雲そば屋や
他地域より参入してきた麺屋などで
ここ出雲のそば土壌もだいぶ荒らされてしまった。
同じく出雲に根をはる歴史深いそば屋仲間達でさえ
ここにきて厳しさの重みに耐えきれず
やれ冷やし中華をはじめてみたり
やれカレー南蛮を出してみたりと
あれよあれよと邪道な路を突っ走りはじめていた。

しかし、ここ『いづもそばにいて』は違った。
受け継いだ出雲のそばたるものの姿勢を
頑なに崩そうとはしなかった。

神の宿る地元パワーの恩恵を受け育ったそばの実だけを贅沢に使用。
山陰の台地が産み出す岩盤から削り出した重厚で巨大な二枚石を合わせた石臼で
ゴリゴリと骨太な音をたてそばの実を挽いてゆく。
皮ごとあらびきしたそばは
まるで店の壁同様に黒く濃ゆい。
本来ならば何度も何度も篩にかけて、きめ細かな粉に仕上げてゆく所を
こちらのそばはそこまでしない。
あと一歩半で篩を止める。
盛り上がるそば粉の山を見て
こんな雑なもん、そばじゃ無ぇ!と吠えたてた料理批評家がいたが
ここのそばはこれ“が”良いのだ。

茹でたら瞬く間、周囲に香ばしいゆで汁の香りが迸る。
湯気が鼻をくすぐる。
そばの香りは強いの最上級だ。

独特に主張したそばに負けないくらい香ばしいだし汁。
そいつを“つける”のでなく“かけて”食べる。
漆で塗られた三段器に盛られたそばにだし汁をかけ食す
出雲そばでの食べ方の流儀の1つ、割子(わりご)そばだ。
『いづもそばにいて』はこの割子にこだわった店だ。

そばにはたっぷりの大根おろしとカイワレ
それに温泉卵となめこにかつぶし、ネギ、海苔をまんまこの順番にのせ
そこへだし汁を優しくかける。
これ、ここの流儀の1つである。

当然かけるだし汁にも相当なこだわりを持っている。
まるで鰻のタレが如く
先祖代々ここまで大事に継ぎ足し継ぎ足し守られて来たものだ。

全ての要素が揃いに揃って
出雲の、『いづもそばにいて』の
いついつまでも食べていたい
なつっこいこだわりのそばとなるのである。


先日
この店のご主人が亡くなった。


後継ぎ息子はいるのだが
頑固なご主人と対立して数年前家を出て行ってしまっていた。
葬式の日、母親の連絡を受け
その息子が帰って来た。
息子は家どころか出雲も飛び出し東京で刑事になっていた。
母親だけはその事を知っていたが親戚一同はまるで知らぬ。
後継ぎは彼、と当たり前のように決めつけていた親戚連中だ
当然みんなビックリたまげていたものだ。

実家へ戻り、息子として父の葬儀を立派に取り仕切った彼。
田舎のしきたり云々もあるからして
当然誰もが彼は暫く出雲にいるものと思っていた。
しかしなんのなんの
店の後も継がず、しかも初七日も待たずして
息子は葬儀が済むなりいそいそと出雲から山口県へと飛んで行ってしまったのだ。

親戚一同、なんて奴だと怒り狂っていた中
母だけはやたらに穏和で冷静だった。
母は仏の様な顔で
というより仏の真似をしたふざけた面構えでもって息子を見送った。
この時既に
母は息子が『いづもそばにいて』の看板を背負って
『らーめんバトル』にきっと参戦してくれるだろうと察していたのかもしれない。

過去の話
息子には息子の流儀があった。
小さな頃から店の手伝いが大好きだった息子。
両親は敢えて「そば屋の後を継ぐ」というレールを敷かず
子供の時分から“ままごと”感覚で
しょっちゅう息子を厨房に立たせていた。

「何々をせい!」と強制せずとも子供は自力で道を切り開いてゆく。
様々なチャンスやそのきっかけの為の手助けに両親はいとめをつけなかった。
子供を思い、自分らも子供にとって良い親でいたかったからだ。
だから息子は非常に積極的な子に育った。
明るく活発で親思い。
協調性に優れ、勉強も運動もよく出来た。

息子は色んな物事に興味を持つと同時に
親が作る『そば』というものに対する熱意も半端は無かった。
息子は息子なりに出雲のそばと、我が店の歴史とを探求し学習してゆく。
深く深くそばの世界へはまってゆく中で
息子はある1つの“流儀”を導き出していった。

息子はそれを
『いづもそばにいて』にとって
そして親父のそばにとって
最も活きたベストな食べ方なんじゃなかろうかと考えた。
そんな思いを日に日に深めてゆく事となる。
この食べ方を研究し、磨き、活かせれば
それは親父への一番の親孝行となるだろう。

いつか何処かに置き忘れて来た様な
この
何とも言えぬ懐かしく温かい食べ方。

身体も心も立派に成長した息子は
いつしか自分なりの確信へとたどり着く。

親父、これだよ!

しかしその考えは親子の決別を産む事となる。
息子が永きに渡り研究を繰り返し弾き出した方法は
親父が永きに渡り心の中で密かに最も“禁断”と決めつけ
自分のそば人生の中に於て断固避けて来た
「これは無い」方法だったのだ。

実は息子が導き出したまさにその方法を
修行時代若き親父は
先代、つまりは息子の祖父に強制させられていた。
しかし割子こそ我が店のそばと決して首を縦に振らなかった親父は
祖父からの拷問を受け続ける事となる。
如何なる拷問を受けようとも
親父は決して割子以外のその方法を認めやしなかった。

結局祖父は親父を認めさせられず
ギクシャクしたまま他界した。
深い深い溝を残して…。

親父がそこまで拒否したその食べ方
親父にとってその方法は
決して認められぬ邪の道となっていたのかもしれない。

何の因果か
息子が親父に近づけた!と思えた日
親父は息子を遠ざけ
拒絶した…。



「おぉっと!
これは“釜あげ”だ!
割子と並び出雲そばの代表的な食べ方のひとつ釜あげをらーめんに持ち込んだ!
島根県出雲市から参戦、出雲そばの老舗『いづもそばにいて』さん
茹でた麺を釜から器へ茹で汁ごと直にいった!」

半ば強引にこのイベントへ参加させられた上野の森署新米刑事『猿蔵(えんぞう)』
喪服にエプロンといった出で立ちで
ちょいと変ながらも、今やすっかり立派なそば屋の店長である。
司会の『勝男』が叫ぶ。

「この麺は!
そば粉に小麦粉を練り込んだのでしょうか!
何とも不思議なシマシマ模様の麺であります!」

猿蔵は汗だくで
一心不乱、バトルに没頭していた。
次から次へ麺を打ち、茹で、薬味を刻みながら
猿蔵は親父を思った。

親父、俺は
俺がまだまだ小さかった頃
ヨチヨチ歩いて親父と行った神在月の神社を
今でもはっきり覚えているぜ。
お参りをした帰り道
寒いと駄々をこねる俺に
参道のそば屋台で食べさせてくれたのがこれ
『釜あげそば』だった。
親父、夢中で頬張る俺に満面の笑みでもって
美味いか美味いかってただただ繰り返してたっけな。
小さな身体を温めるには1杯の釜あげが充分過ぎる程だった。
あたたかかったよ親父。
ヨチヨチ歩く家路で親父は言ってたっけ。
釜あげうめぇんだ
なんせ神さんの為の特別なそばなんだから。
親父
真面目過ぎる親父は
神さんに恐れおおくて
参道からだいぶ反れた土地で商いを営むうちの店が
神さんのそばを作るなんて恐れおおくて
そんな勝手なこだわりと思い込みが強すぎて
釜あげを頑なに拒否し続けていたんだろう。
親父
俺は知ってるぜ
親父が釜あげを
実は事の他愛していた事を。
ヨチヨチ歩きの小さな記憶が
親父の釜あげへのこだわりを映し出したんだ。
親父
俺を許せ。
そしてよく見とけ。
なんやかんや言っといて
ちゃんと親父をリスペクトした
俺が導き出した
俺と親父のオリジナル釜あげを。
親父!

「茹で汁からこの上品な香り!
これは…あ!蟹だ!
山陰の蟹です!
なんと松葉かに、間人かに、津居山かに3体を
用意された3つのズンドウそれぞれに投げ分け入れた!
各々蟹を別々な茹で汁へぶっ込んで贅沢に3種のだしをとっている!
たかが麺を茹でる湯
されど麺を茹でる湯
茹でながらにして麺にだしが染み入る!
魅せてくれますこのこだわり!
予め用意された3つの器のまた立派な事!
漆塗りの三段お重どんぶりとでも言いましょうか!
そこに少しだけ注がれたお醤油の嫌味無き香り!
これはもしや神の豆!
伝説の出雲大豆から作られたお醤油!」

猿蔵は鼻歌を歌う。
「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」
妙な落ち着きを感じた。

「3種の器に三蟹茹で汁で茹でられた3種の麺が分けてドサッと釜あげされました!
そこへ大根おろし・カイワレ・温卵・なめこ・かつぶし・ネギ・海苔が乗せられ!
出雲伝統の割子と釜あげがドッキングした様な
そばとラーメンがドッキングした様な
こりゃまた新しい摩訶不思議な『いづもそばにいて』らーめんの完成です!
まさに麺業界に於ての神憑り的芸術とでも言いましょうか!
いや素晴らしい!
身体温まって興奮冷め止まぬ私でございます!」

少しでも気を許せば
容赦無く飲み込んでいかれそうな歓声を浴び
猿蔵は鳥肌をたてながら涙ぐんでいた。

会場の隅
こっそり出雲から駆けつけて来ていた母親は
そんな息子の勇姿を見届けて
お茶目に小さくガッツポーズをキメるのだった。

いづも神がそばにいて
必ずあなたを見ています

ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。


めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。

写真。そば。

『らーめん放浪記』麺102本目・らーめん!。

2010年12月04日 12時52分12秒 | 連載書き物シリーズ
ガサガサ…ガサガサ…
ザワワ…ザワザワ…ザワワワ…
ワワワワ…ワワワワ~…
「♪ワワワワ~ドゥワワワワ~
さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
ドゥ~ワ~
……♪」
ザワワワ…ザワワワ…
ザワ…

「ニヤーーーッ!」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(48)・らーめん!〉


ケタタマシイ!
けたたましい魂の叫び!
その叫びは
まるで龍の様に
真っ直ぐ天へと昇ってゆく!

「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」

麺の王道らーめんの頂点を決めるイベント『らーめんバトル』会場が揺れていた!
その日、その時、気象庁の地震計は
広島のとある地点のみで震度7強を記録していた。
すぐさまそれは誤りである事が発表されたのだが、その誤り自体が誤りである事を
会場内外にいた人々だけは知っていた。

「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」

そう、確かに、かなりの縦揺れで揺れていたのだ。
揺れは、ドルビーサラウンドシステムが如く
波動が周囲に重低音の広がりを魅せていた。

そんな脅威の振動にもビクともしない原爆ドームを
『犬山(いぬやま)』の娘、『ほたる』と『たがめ』は見上げていた。
周辺の人達が皆、腰をぬかして尻餅をついたりはいつくばったりしている中
ほたるとたがめは、なんとか鉄柵にもたれかかる。

「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」

ズンズン、ズンズンと突き上げる振動。
この異様な状況を飲み込めぬまま
理解を超えた何かに漠然と怯える2人の瞳に飛び込んで来たモノが
仁王立ちした世界遺産の“それ”である。

2人には、何故か原爆ドームが笑っているように見えていた。
ドームの壁面に幾つも開いた窓の穴が、ケタケタと耳障りな笑い声を上げてパクパク蠢いている。
怖い!煩い!怖煩い!
2人は耳を塞いだ。
しかし、その信じ難き気味の悪い情報は
耳を塞げど開いた瞳からどんどんこちらへ入り込んで来る。
もう嫌!
あわてて2人は目を閉じた。
しかし、振動だけはどうする事も出来ない。
耳を塞ぎ目を閉じても
おっかない笑い声は地面と、そして鉄柵を伝わり
感触としてケタケタ~ケタケタ~と2人の身体へ入り込んで来る。

骨が“キシキシ”音をたててきしんだ。
いつしか“キシキシ”言うきしみ音が“ケタケタ”にすり変わっていた。
2人の身体が理解を超えた奇妙な状況に乗っ取られる!

ほたるが思わず叫んだ。
「死んじゃうーーーっ!!!」
何があろうと“死”なんて言葉を簡単に吐くもんじゃない。
はっ!と、ほたるは自らの両手で自らの口を塞いだ。
小さい頃、父『源五郎(げんごろう)』にそう言われて育てられてきた2人だ
父の教えの刷り込みにより、ほたるはその“死”を直ぐに飲み込み
たがめは、そんなほたるの肩をギュッと抱きしめた。
「大丈夫、人間こんなナンセンスな事で死にゃしないわ」
2人の鋭い目付きは、原爆ドームをスルーして『らーめんバトル』会場へと向けられた。
お父さん…どうなっちゃってるの?…もう…

「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」

この奇妙な事態が、やがて死の劇場と化し
それは全て『黒猫』の、そう父『源五郎』の絡んだものだという現実を
やがて突きつけられる事も知らずの2人。

揺れのバロメーターの谷間を計って
ほたるとたがめは少しずつ会場入口ゲートへと近づいてゆく。

「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」

場内から漏れる轟音に共鳴してか
さっきからずっと広島市平和記念公園内外の桜の木々がざわめいている。
ザワ…ザワザワ…ザワワワ…と静かに
そして時に、グワッ!ザッワーーーッ!!!と荒くれて
まるで血肉を求めるケダモノの叫びの様なザワメキだ。

「すみません!なかに父が!
いや、あの、会場に入るにはどうすれば」
少しばかり慌てて、しどろもどろになりながら
ほたるは入口警備員に話しを切り出した。
「チケット
このイベントのチケットはどちらで買えば…」
「入れません」
「へ?」
「会場には、入れません」
「へ?」
「チケットも、売ってません」
「へ?」
突然、警備員にスパンと言葉を断ち切られ拍子抜けるほたる。
警備員は気味悪いくらい無機質な感じがした。
たがめが後を引き継いだ。
「わたしたち
東京からわざわざこのイベントへ参加しに広島へ来たの。
会場へ入りたいの。
お願い、入れて」
「無理です」
「父が、父が会場に」
「無理です」
警備員が胸元から何やら抜き出し
2人の瞳につきつけた。
これは!見慣れた
「警…察…手帳?」
「お引取りください」
警備員じゃない!?
よくよく見渡せば、会場を取り囲む者達全てが刑事だ!

このものものしさ…一体このイベントは!?
お父さん、何かとんでもない事に巻き込まれているんじゃ…。

ますます、桜のザワメキが増してきた。
そんな桜の森の中心の
蠢く人体の群れを、一瞬静寂に導く人物が
巨大スクリーンに映し出された。

“「ガッハッハッハッ!
うるさい!うるさい!
とっとと始めろ!
どうせお前ら、じきに“死ぬ”んじゃ!」”

聞き覚え満点の声が
信じられぬ単語を吐き散らし
会場からはっきり漏れ聞こえてきた!

「お、お父さん!?」「お、お父さん!?」

挑戦者がいっせいに麺を握った!

ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!

という歓声の轟音と共に
バトルが今、動き出す!

司会の十八番を犬山に奪われた『勝男』が
指で銅鑼を弾いて
悲しげにつぶやいた。

チーン…

「はじまりぃ~…」


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。桜。

『らーめん放浪記』麺101本目・引っ張る。

2010年11月27日 13時16分31秒 | 連載書き物シリーズ
「開幕!」

“ビィビィゴーーーグウィゴゴビィグオーーーウウウーーーーーッッッン!!!!!”

『勝男』という名の狂った男が
何度も何度も河豚型の銅鑼をマイクでぶっ叩く。
まるで
重厚な地獄の扉をノックするかの様に。

明らかにその音が“目に見えた”。
音はぶっとい“柱”となって
瞬く間に天高く上ってゆく。

高度30もしくは40もしくは50キロメートル。
銅鑼の騒音である轟音がちりちりばらばら
四方八方、嫌な粒子を撒き散らす。

夜空に咲く花火?
いいやこれは
もくもくと
まるで初夏の大木。
まやかし?
マッシュルームだ。

「開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!開幕!」

“ビィビィゴッゴッゴボッゴグウィーーーービビッゴーーーーーーーーーーギュウィーーーッ!!!!!!!!!!!”

まるで
気狂い坊主が
朝を知らせる鐘の音。

ありえん程
けたたましい爆音の連打で
化け物たちが目を覚ます。

“ゴッゴッゴッゴッゴッビビーッゴッゴッビビーッゴッゴッビビーッゴッゴーーーッ!”

直径1000いいや2000いいや3000メートルの音の雲。
こんな時代に
こんな場所で
こんな不謹慎な現実が
あってたまるか。

1945.8.6.AM.8.15
ここで起きた現実を
化け物たちは
知らない。

PM.19.15過ぎ
いたずらに
ただいたずらに
しばらく銅鑼の鳴り止む事は無かった。


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(47)・引っ張る〉


まだまだ肌寒い
初春の夜の
広島県広島市。

市電がチンチン鳴きながら
ご帰宅急ぐ人々を
はたまた娯楽へ繰り出すご陽気者達を
ネオン書き分け運びに運ぶ。

街中を行き交う人々もまた
様々な目的と様々な思いでいる訳だ。

そんな中
皆が皆
平和記念公園に
“音の柱”が建つのを見た。

いつぞや誰もが写真や映像で見た事のあるような
平和ボケした現代にとっては既に非現実的な“奇妙な柱”だ。
まるでマジックでも見ているかの様なマッシュルームに
皆が皆おののいた。

マッシュルームは暗い夜をもっと暗くし
“グワンッ!グワンッ!”と広がって行く。

平和記念公園に
いつしか雨が降り出した。
夜の闇は冷たく透明な雨の雫を黒くうつしだす。
公園内外にいた人々は
音の洪水としょっぱい雨によって
数十分放置された麺のように
すっかり“のびきって”しまったようだ。

そろいもそろって耳を押さえ
そろいもそろって一旦ぶっ倒れ
そろいもそろって立ち上がり
そろいもそろって“麺の化け物”と化す。

まるでラーメン丼のような形に囲われた公園の
『らーめんバトル』会場内では
審査員、参加者入り乱れて
銅鑼の超音波微粒子爆弾により
脳味噌に奇妙なマイクロチップが埋め込まれたかのような
おかしな様子を魅せだした。
「らーめん!らーめん!らーめん!らーめん!」
銅鑼の音“ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!”にあわせて
“らーめんコール”!
そろいもそろってマッシュルームのマジックに取り憑かれてしまったご様子。

けたたましくこだまする、そんな奇怪な叫びを
『ほたる』と『たがめ』は
会場外で“耳を押さえて”聞いていた。
“元(?)”上野の森署の刑事、爺さん『犬山 源五郎(いぬやま げんごろう)』の娘達である。
「ちょっと!入口どこよ!」
「わかんない!ああ!うるさい!気持ち悪い!もう!」
昨夕放送された報道番組を観て
慌て勇んで東京から駆けつけて来たのだ。

平和記念公園内
おびただしい数の桜のざわめきを
らーめん屋台『黒猫』の
『猫田』と『犬山』と『かえだま』は見つめていた。
2人と1匹は目一杯笑う。
「ニヤーーーーーッ!」

「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」

そう
彼らには
桜が大合唱しているかのように聞こえたらしい。

「勝男くん
あらら自分に酔っちゃって
オープニング、引っ張るねー!」
「ガハッ!しつこい!」


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。ドコ○ダケ。

『らーめん放浪記』麺100 本目・老麺。

2010年11月20日 19時07分23秒 | 連載書き物シリーズ
自分が作り上げた“『九 官鳥(きゅう かんちょう)』さんだった”『鳩山 豆郎(はとやま まめろう)』さんに抱き抱えられ
羊さんは夢の中。
今や愛するあの人でない
上野の森署の若き刑事に戻ってしまった“元九さん”の腕の中で羊さんは
懐かしアイドル『羊田 妖子(ひつじだ ようこ)』として夢の中。
妖子さんは歌います。

「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」
とっても楽しい!

魂と記憶は空を飛び
いつしか妖子さんは産まれ故郷の中国におりました。
あたたかな愛に包まれたあの頃の中国。
妖子さんの心がみるみる幼くなってゆきます。
見た目はアイドル、でも中身はすっかり“女の子”な妖子さん。
北京とおぼしき街中で1人、身動き取れずにたたずんでおります。

行き交う自転車。
また自転車。
自転車、自転車、自転車、自転車、自転車。
自転車、自転車、自転車、自転車、自転車。
自転車達は妖子さんの横をビュンビュンとすり抜けてゆきます。
その風で妖子さんの髪だけがなびきますが
自身の心は何にも決してなびきません。
いつしか妖子さんは内股で地面にペタンと崩れ落ち泣きじゃくっておりました。

その横をまた自転車、自転車、自転車、自転車、自転車。
自転車の風のヤツ、こんどは妖子さんの涙を宙に飛ばします。
駆け抜ける自転車の風圧で、飛ばされた妖子さんの涙がキラリ。

助ケテ

自転車
自転車
そこへ
自動車!?

キキーーーッ!
バタン

「“妖艶”!
どうしたんだい。
さみしい思いをさせたね。
さぁ、お乗りなさい」
「“お爺さん”」

バタン
キキーーーッ!

とバックしてUターン。

キッ!
ブーーーン

“お爺さん”運転の高級車は妖子さんを運びます。
車内で妖子さんは懐かしさいっぱいの香りに包まれて
幸せもいっぱい夢の中で夢心地。

ああ、大好きなお爺さん。
大好きなお爺さんの香り。
お爺さんに染み付いた
かぐわしい“湯麺”のスープの香り。

妖子さん
湯麺の湯気のように
天を泳ぐ龍のように
溢れる気持ちが空へと昇ります。
高級車は加速して北京の街を
あれ?
お空を飛んでおりますよ?
いつしか高級車は気品高き龍に見えていました。

そんな龍自動車の窓にべったり顔をくっ付けて
おめめをクリンと輝かせながら下界を見下ろす妖子さんです。

龍自動車は
街越え村越え山越え谷越え
「あ」
という間に“お屋敷”に着きました。

お屋敷で
お爺さんがお得意の湯麺を作ります。

無色透明キレイに澄んだ塩味の利いた鶏ガラスープに純白の細麺がゆれています。
おネギとニラと白菜と
にんじん、キクラゲ、シイタケ、もやし
炒めたお野菜こんもりのせて
鶏団子がスープにトポンと沈んだり浮かんだり。
スープ表面にはおしとやかに油がキラキラ。
虹色の輝きを魅せて水面を漂い
イタズラに妖子さんの食欲をくすぐり続けております。

お爺さんの湯麺は妖子さんにとってこれ以上ないモノ。
それはこの国でも同じ。
お爺さんの“これ”は中国じゃあ超超超有名です。

ギュルルルルルゥ~
お腹の虫が鳴きました。

「あははははは!
待ちきれないようだねぇ妖艶。
さぁ、“飛び込むよ”
それ!」

トポンッ!

大きな音とスープしぶきが上がったかと思った瞬間
なんて事でしょう!
お爺さんと妖子さんは湯麺の中を泳いでおりました!

スープの中では様々な成分達が微粒子状にぷかりぷかりと呑気にうごめいております。
どの成分も“出”が良い。
その存在たるや、まさに中国四千年の歴史の現れです。

妖子さんはスープをちょっぴり飲みました。
うん、間違いない
お爺さんの味です。
お野菜も鶏団子もかじります。
麺は…すすれないのでやっぱりかじります。
うん
お爺さんの味。

湯麺に包まれ、全身で大好きなお爺さんの味を感じ
妖子さんは感無量。
とっても美味しい!
美味しいは楽しい!
アタシ、今、とっても楽しい!

そこへ
天から“茶色のカーテン”がおりてきました。
粉雪の様な脂の粒も舞い降ります。
ハオ!ドウシタ!?
透き通った無色透明のスープがたちまち濁ります。
お爺さんは言います。
「妖艶すまん。
もう私の時代は終わったようだ。
私は天に帰るよ。
元気でな、妖艶」
閃光稲光と共にお爺さんは天空へ上ってゆきました。
まるで龍の様だったと言います。

妖さんは湯麺スープの水面から顔を覗かせ見上げました。
そこには
スープに網でガリガリと豚の背あぶらを削り落とす
お爺さんの“息子と孫”の姿がありました。

妖子さん、ギョッとして思わずスープに溺れます。
何コノ味!?
獣ノ味!?
獣豚醤油味!?
荒くれた味…。
お爺さんの味を奪う味…

もうお爺さんの時代は終わったの?
“龍の麺は進化して
湯麺から老麺(らーめん)へ”
そんな…
そんな…

妖子さんは
暗ぁい暗ぁいスープの底に喰ぁいつかれて
沈んでゆくのです。

何だかはっきりしない
嫌ぁな気分になりまして
しょっぱい涙が溢れます。

妖子さんは
羊さんに戻っていました。

助ケテ
助ケテ
助ケテケテ

ケテケテケテケテケテ!

何処からか聞こえてきた
気味悪い笑い声が
羊さんに巻き付いて離れません。

ケテケテケテケテケテ!

羊さんは
未だ夢醒めぬまま
沈んでゆくのです。

沈んで


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(46)・老麺〉


「『らーめんバトル』とは
所謂らーめんという定義に基づいた麺類業界の異種格闘技戦でございます。
そもそもらーめんは中国生まれの日本育ち。
湯麺等、中国料理が日本で進化を遂げて
今や我が国の食文化の代表的存在、老麺(ラーメン)等々となっております。

ひとことで『らーめん』と言っても
製法や土地柄等で分類しただけで、もう様々!
麺、スープ、具材、食べ方に至るまで細かく考えていったらこれ、きりがありません。

『らーめん』は変幻自在進化する麺。
『らーめん』の可能性は無限大。

先ほど私“らーめんの定義”と申させていただきましたが
そもそもらーめんに定義なんぞ、あってないようなモノでございます。
ですから当バトルは『らーめん』の垣根を飛び越えた戦であって良いものと考えます。

つけ麺、焼き麺、煮込み麺、太麺、細麺、ちぢれ麺、そば、うどん、きしめん、ほうとう、パスタ、等々等々
食べた方々がそれを『らーめん』とみなせばそれは『らーめん』と成りうる訳。
あとは個性持ち味と人それぞれの好みがものを言う。
そこが当バトルの審査基準となる。
『らーめん』が多様化しているならば食べる側の基準も多様化していて良し
と、まぁそんな訳である。

あるからしてぇ
本日ここでジャッジを下し
栄えあるらーめんKINGを決める審査員は
誰でもないあなた!
そう、会場にお越しの多種多様な面々の皆さんなのです!

場内を取り囲む様にズラリ並んだ調理ブース!
“麺戦士”らによってこしらえられたるらーめんの
その調理工程から、味わい、色、風味、並びに接客対応に至るまでを見定めて
最終的にどの店のらーめん店が優れているかを
オーディエンスであるあなた方に決定致して頂きます!

そうです、もうお気づきの方もおられるかとは思いますが
審査員である皆さんは
挑戦者であるらーめん店のらーめん全種を食べなければなりません!
このイベント企画は
らーめん店が競い合うバトル!と同時に
店と客とのバトル!さらに客と当人の腹の限界とのバトルでもある訳!
そう、『らーめんバトル』は全員参加型のフード大戦争なのです!

もちろん、挑戦者であるらーめん店側が審査員でありますお客様側にらーめんを提供出来なくなったら
その店はその時点で、アウトッ!
それに吐いたり倒れたり死んだりしたお客様もその時点で、アウト!
失格とみなされ厳しい“罰則”が科せられます!

理不尽?
そりゃ言いっこ無しでしょう。
だって当イベントのチケットを購入する際に
様々な注意事項をご承諾の上サインなんぞ頂いとりますもの。
ね、でしょう?
それに皆さんらーめん大好きエキスパートさんじゃないっすか!
大丈夫、大丈夫。
美味いもんに罪は無し!

罰則や規定など諸々詳しい事例についてはですね
ここでは割愛させていただく事にして
お手元のパンフレットをご参照あれ。
さて、そろそろまいりましょうか!」

司会進行の『勝男(かつお)』がマイクを高らかに振り上げ
河豚型の銅鑼におもいきり振り下ろした。

“ビーーーッ!!!
グオォォォーーービーーォォ~~~ンッ!!!!!”
ひどいハウリングが
皆の脳を揺らす。

「さぁ腹ペコ野郎どもの為の至福の時間がやって来たゼィ!
時はらーめん戦国時代!
『フグさん便』プレゼンツ
麺バカの麺キチガイによる麺ジャンキーの為の『らーめんバトル』
開幕!」


助ケテ…

ケテケテケテケテケテ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。


めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。

写真。電車内SOSボタン。

『らーめん放浪記』麺99本目・ザワッ。

2010年11月13日 14時59分47秒 | 連載書き物シリーズ
『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(45)・ザワッ〉


「助ケテーーーーーッ!!!
九サーーーーーンッ!!!」

『羊 命酒(よう めいしゅ)』さんが夜空にむかって叫びました。
その声を捉えた者は誰も無く
ただただ
『助』や『ケ』や『九』や『ン』や『ー』やが空中をすべり
ポロポロと地面に落下したような
そんな虚しさだけが残りました。

残ったその虚しさを抱きかかえるかの様に
自ら発し
すべり落ちた『テ』や『ー』や『サ』や『ッ』や『!』と共に
羊さん自身も鮮血に足をすべれせて
ゴッ!
「あうっ!」
意識を落下させてしまいます。

羊さんは広島平和記念公園のコンクリートに崩れ落ち
膝と肘と肩と頭をしたたか打ちつけて気を失ってしまいました。

らーめん屋台『黒猫』ブースから出てきた“お爺さん”が倒れた羊さんを助け…
…る、ではなく転がる羊さんの左手の指4本を拾い上げます。
「ガッハッハッ!
一丁上がり。
ほれ“九さん”
羊さん助けたれ」
ポイ。
グツグツ煮えたぎるズンドウに羊さんの指が投げ込まれ
♪トポン、トポトポポン♪
4本分の音がスープにしぶきをつくります。

♪トポン、トポトポポン♪

舞台スピーカーからも同じ様なメロディが流れ
『らーめんバトル』会場がまた一段と盛り上がりだしました。
「さあスペシャルゲストの登場だ!
大人気!国民的スーパーアイドル!
魅惑の美声を持つ絶世の美男子!
バトルの審査員も勤めていただきますゲストはこの方!
『羊助・YO-SUKE』ちゃん!」
ゴゴゴゴゴゴ…と地響きバリな歓声が場内に響きまして
人気者羊助が舞台に姿をあらわします。
「みなさんこんばんは。
いっぱいいっぱい楽しんで
心もお腹も満腹になりましょうね!」
ワーキャー異常な盛り上がり。
観客席でゆらゆらウェーブがまきおこります。

こちら『黒猫』の大っっっきなズンドウからゆらゆら立ち昇る湯気の向こうには
灰色のスーツを“よれよれ”っとだらしなく着こなした男の姿が浮かびます。
まぼろしか、かげろうか、姿は不揃いなウェーブを成して
ゆらめきながら倒れた羊さんのもとへと近づいてゆきました。

九さん
いや、これは“九さんだった”男
警察官活動制服グレーバージョン姿の上野の森署の『鳩山 豆郎(はとやま まめろう)』28歳です。
ついこの間までの
“フグ柄”のスカジャンを肩で羽織り
インナーには“毒”と書かれたグリーンの文字Tシャツ
薄茶色のチノパンはいてその下は裸足に雪駄
伸び散らかった無精髭をいじくる右手にゃパワーストーンの数珠をジャラジャラいわせ
グリーステッカテカ、オールバック風“七三”にキメ込んだ髪型で
禁煙パイポをスピーッスピーッ言わせていた『九 官鳥(きゅう かんちょう)』さんではありません。
ややこしや~、ややこしや~
この人、羊さんが仕立て上げた同一人物なのですが
今はそう、黒い鳥ではなく灰色の鳥。
平和の象徴、ポロッポーな鳥です。
九さんは突然羊さんの前から姿を消したと思ったら
鳩山さんちの豆郎さんになって、らーめん屋台『黒猫』におりました。

鳩山さんはぐったりとした羊さんを勢い良く抱き上げました。
「重っ!」
グキッと鈍い音がしました。
一旦下ろします。
完全に気を失い脱力した人間の重みは半端ありません。
腰をさする鳩山さん。
自らの腰を両手で掴み、もみもみしながらグインと回転させたりしております。
「ちょいちょい!早くこっちに運んで!もう!」
『黒猫』ブースの奥から“猫目”の青年が顔を覗かせ小声で急かして手招き。
鳩山さん今度はゆっくりしゃがんで、ゆっくりと羊さんを抱き上げます。
「重っ重っ重っおっもーーーっと!
よし!上がった!
ぽっぽっぽっ!」
ほらほら!見て見て!僕持ち上げられたよ~!と言わんばかりに
周囲へ向けて満面の笑みで「やったぞ!」アピールを振り撒く鳩山さんです。
「そんなんいいから!ほら!早くこっち!」
鳩山さん、猫目さんに半ギレで叱られちゃいました。
テヘっとお茶目に舌出し。
パコンッ!
「ガウッ!そんなんもいいから!」
っと犬みたいに怒鳴るお爺さんに頭をひっぱたかれて苦い顔しながら
鳩山さんはよろめきつつ『黒猫』へ入っていきます。

そこへ
「ぎゃはっ!ぎゃははっ!
ダーリンめっけっ!」
どこからともなく全身キラキラ真っ白なボディコンを着たケバケバしい“女性”が現れて
「凄っ!
何か重そうなものを、いかにも重そうに持ってるっ!
何?人?人助け?
さっすがアタシのダーリン!優すうぃ~!みたいなっ!」
パッシャパシャとストロボたいてカメラのシャッターをきりまくりだしました。
「うわ!まぶしい!やめて!痒い!
ああ!かいかい!かいかいかいかい!
ごごごめんなさいぃぃぃ~!」
猛烈に嫌がりながら、強烈に痒がりながら
でも羊さんを抱えているため拒否も掻く事も出来ず
成すがままの鳩山さん。
「重いもの持つイカしたダーリンの顔面に浮き出た血管激写!」
まるで自由の利かぬ鳩山さんをバカにでもするかのように
無抵抗で無防備な鳩をいじめるズル賢い烏(からす)のように振舞う白い女です。

かたや
「♪古いこの酒場で
たくさん飲んだから
古い思い出は ボヤけてきたらしうぃ~
私は恋人に 捨てられてしまった
人はこの私を ふだつきと云うかるるるうぁ~
ろくでなし Ah! ろくでなしうぃ~
なんてひどいアーウィ!
云いかたぁ~♪」
羊助さんの美声に会場の観客はうっとり。

「馬鹿もん!
こいつの邪魔をするなっ!このオカマがっ!」
老犬が如く、お爺さんが鳩山さんを激写中の“白い烏”に噛み付きました。
「ぎゃはっ!
ワンちゃんちょーうるさい!みたいなっ!」
ゴツッ!
今度は白い烏がくちばしの様なヒールでもって老犬を突きます。
「大体『黒猫』うざいのよっ!
この『らーめんバトル』
『黒豚』が目にもの魅せてくれるわっ!みたいなっ!」
そんな馬鹿げた格闘シーンを呆れ顔で眺める猫目さん。
その足元では真っ黒くろの猫ちゃんが「にゃぁ~ぁ」とあくびをしています。
その隙に
こっそりこっそりと羊さんを運びつつ
この場から立ち去ろうとするは鳩山さん。

♪ティリティ~ティリティ~ティ~リティリティ~♪

タイミング悪く鳩山さんの携帯が鳴ります。
着メロは『太陽にほえろ』のテーマ。
出るに出られぬ鳩山さん。
そのうち着信は留守電に切り替わり

ピーーーッ

“「おい!鳩山コノヤロー!
一体どうなってんだバカヤロー!
おい!居留守か!おい!電話に出ろクソヤロー!」”
けたたましく怒鳴る電話の相手はどうやら上野の森署の上司のようです。
“「またヒデー内容の“小説”が送られて来たぞバカヤロー!
これ、おい!お前正気かコノヤロー!
とりあえず俺も広島へむ」”

ピーーーッ

切れました。
留守録が一杯です。

「♪ろくでなし Ah! ろくでなしうぃ~
なんてひどいアーウィ!
云いかたぁ~♪
どうもありがとうございましたぁ!」
羊助さんは深々とお辞儀をし
そのまま華麗に審査員席へ向かいます。
『らーめんバトル』会場であります平和記念公園はまさに平和なムード満載。
あたたかな拍手に包まれました。

羊さんは夢の中
輝くあの頃
『羊田 妖子』になっていました。
妖子さんは歌います。
「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」
とっても、とっても楽しい!

多少ザワついた会場の
屋台『黒猫』ブースのズンドウの中で
あっと言う間に羊さんの指はトロットロになりました。

良い味
出てます。


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。鳩サブレーの箱。

『らーめん放浪記』麺98本目・開幕。

2010年11月06日 15時39分34秒 | 連載書き物シリーズ
どこからか、夕方を告げるドボルザークのメロディが流れてきて
♪遠き山に 日は落ちて
星は空を ちりばめぬ
きょうのわざを なし終えて
心軽く 安らえば
風は涼し この夕べ
いざや 楽しき まどいせん
まどいせん♪
広島の街のあちこちでは
悪事を働かんとする人々が目を覚ましだす。

家路を急ぐ子供たち
そっと寄り道してみたり駄菓子を買って食べてみたり。
集団下校の帰り道
あれ?1人足りないぞ?
悪魔の悪戯、度を過ぎる。

夕焼け小焼けが赤とんぼを負い回し
いつの間にやら日も暮れて
辺りは暗くなりにけり。

真っ暗闇の“黒い”闇の中
後ろの正面だぁれ?


『らーめん放浪記』純情旅情編。

闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇猫目闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇暗黒闇

ほら
猫が見ているよ。

〈3-(44)・開幕〉


暗黒の闇が広がる広島県平和記念公園。
PM19時ジャスト
悪魔の儀式がはじまった。

カラフルなスポットが平和記念公園を照らし出し
ローマの円形コロシアムさながらな構造の会場がボンヤリと浮かび上る。

上空には幾体ものヘリが飛びまわっている。
地上の様子を探っているかのようだ。
会場の外にはおびただしい数の警備員と警察官。
もちろんそれは昨夜起きた事件からくるものなのだが
彼らからはそんな不穏な空気を微塵も感じられやしない。
どこか無機質に立ったり歩いたり
時に無線でどこぞと連絡をとりあったりしている。

高く高く組まれた鉄パイプにポジショニングされた無数のライトが点灯。
地明かりが、会場をくっきりと灯した。

“おおおおおおおおお!!!”
場内がざわめく!

そいつを上空からとらえたヘリの映像がモニターにドーン!
なる程!
今宵の平和記念公園は、こんなにもエキサイティングな形状だった!

中心にはまるでマントルのような円いステージが組まれ
そいつを取り囲むように関係者席、ならびに審査員席が用意されている。
更に外側には無数の客席。
もう既に客席は腹ペコ悪魔どもで超満員御礼状態だ。
未だ初春、肌寒いにもかかわらず、皆熱気で大汗をかいている。
大外には何十ものブースで構成された調理スペーステントの輪が広がりをみせ
その中ではこのコロシアムで殺しあう狂人バトラー達が決戦の時を
今や遅しと待ち構えている。
まさに会場は地球の断面、燃え滾る核断層のような構造だ。

スピーカーが破裂しそうな重低音の響きをもって
ハウリングをおこす程の爆音が流れた。
こいつはひどいオープニングミュージックだ。
例えるならば、まるで数億もの腹の虫の鳴き声が重なった音のようでもある。
最悪の響きに何故か人々は興奮。
誰も耳をふさぐ者はいない。

ステージに視線を移そう。
チャイニーズドレス姿の女性軍団が円形舞台に現れ
雑技団も真っ青な演舞を魅せている。
場内割れんばかりの拍手喝采だ。

パフォーマーの美女が1人消え2人消え…
舞台を埋め尽くしていた女性軍団はいつの間にかいなくなり
一輪車を操る女の子1人が残されたカタチとなった。
女の子は一輪車のペダルを前へ後ろへ微妙にこぎながらバランスをとりつつ
握りしめた“鋼鉄のオタマ”を天に振りかざし
ステージ上手の巨大な“河豚型”の銅鑼に向かって突進。

“グオォォォーーー~~~ンッ!”

銅鑼の音が広島の夜空に溶け込んだ。
と同時に
会場を取り囲む巨大パノラマスクリーンに文字が映し出された。

『らーめんバトル・開幕!!!』

またまた同時に
「るうぁ~~~んめんヴァトルルルウウウゥゥゥ~~~、開幕ーーーッ!!!」
人民服を着た司会者がステージに仁王立ちしてマイク握りしめ吠える。

オーディエンスは大盛り上がりでうねりを上げ
会場に地響きが起こった。
運送業社『フグさん便』プレゼンツ!
『らーめんバトル』のはじまりである!



そんな異様なイベントの様子を横目で見ながら
挙動不審な『羊 命酒(よう めいしゅ)』さんは
らーめん屋台『黒猫』のブースへ頼まれていた荷物を運び入れていました。

羊さんの瞳は、死んだ鯖の目のよう。
すっかり輝きを失っております。

亡霊のようにただ坦々と、ヌボーっと荷運びをする羊さん。
トラックから会場裏へ
会場裏手から入り『黒猫』ブースへ
そしてまたトラックへ
行ったり~来たり~行ったり~来たり~と、ふらふら。
途中何度も“例の”爺さんと若者とに何やら指示されたりしましたが
そんなのまったく耳に入らず、ふらふら。
そう、行き来する亡霊の死んだ鯖の目は
常に何かを探しておりました。
死んでも尚、ギョウロギョロと動いて失せモノを捉えようとするスコープ。
失った、大切なモノ…。
消えてしまった、幸せ…。
青い鳥…いいや、黒い鳥…

「九サン…」

愛する『九 官鳥(きゅう かんちょう)』さんを求めて…。
亡霊羊さんは歌います。

「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」


「当バトルの審査員長をご紹介!
イベントのスポンサーでもあります
運送業社『フグさん便』代表取締役太っ腹社長『チャン・イクラ』様の登場だ!」
爆音が場内に鳴り響く。


九サン…いずこへ…?
探しても探しても、らしき人物は鯖の目スコープにひっかかりません。
もうトラックと『黒猫』を何往復したでしょう。
これだけの膨大な荷物の中身って?
そんな事より今の羊さんは消えた九さんの捜索の方が遥かに重要なのです。
必ず見つかる…そう信じて…。

それにしてもまた一段と会場内が騒がしくなってきたネ
なんて思いつつ
羊さんがブースの前に荷物を降ろした時でした。

「ハ~イィ~!」

羊さんはズバンとした衝撃と共に一瞬脳に電流が走ったのを感じます。
いきなり手先が軽くなったような錯覚に陥りました。
え?あれれ?
手先がスースーする?
重たい荷物を降ろし、かわりに軽い空箱を持ち上げようとするのですが
上手く箱に手が吸い付きません。
今まで当然のように存在していた
自分の身体の引っかかりが無い?
あれ?おかしいわ?どうしたの?
羊さん、死んだ目で自らの腕を探ります。
「ハオ?」
理解に相当苦しみますが
生まれてから今までずーっとあったモノが、無い?
これって?

「バ~ブゥ~!」

頭上からおかしな声がする。
羊さんが見上げた先には
巨大なマサカリを担いだ金太郎バリのおじさまが強烈な笑顔で自分を見下しておりました。
ナニコノヒト?
そのままの姿勢で羊さんの目玉だけが地面を見据えます。
コレハイッタイ?
一部真っ赤に染まった地面には
指らしきモノが4本
転がっておりました。

コノ指、アタシノ…指ナノ?

羊さん、左手を見ます。
羊さんの左手は、ドラえもんの手の様になっておりまして…
「アア…?」


「社長!マジ何やってんすか!
ヤバいっすよ!マジ!
そんな凶暴レスラーの登場か場外乱闘みたいなパフォーマンス
要らないって言ったじゃないっすか!マジ!」
「ハ~イ!腹へった!
みんな頑張らねーと殺す!
バブ~!」
「社長自ら会社の印象悪くしてどーすんすかマジで!
大人しくしてて下さいよ、マジで!」
「ハ~イ~!」
「ええっと…
今の“指の件”は無かった事に!
ええ~ゴホンッ!
どうか皆さんご内密にと!」
「がはははは!」
「はいっ!気を取り直してまいりましょう!
遅ればせながら私めもご挨拶を!
このイベントの司会進行を勤めさせていただきます
私『勝男(かつお)』と申します、どうぞよろしく!」


顔面真っ青になった羊さんが
夜空に向かって叫びました。
「助ケテーーーーーッ!!!
九サーーーーーンッ!!!」

その声は
会場内の歓声によって
もろくもかき消されてしまったと言います。

ゲストが
登場してまいりました。


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。実は質屋の『くろねこ』駅看板。

『らーめん放浪記』麺97 本目・黒台本。

2010年10月30日 19時47分40秒 | 連載書き物シリーズ
………………………………………

「広島県平和記念公園。
PM19時ジャスト。

オープニングMusic。

数々のカラフルなスポットが縦横無尽に真っ暗闇の場内を駆け巡る中
ステージにチャイニーズドレス姿の女性登場。
華麗に舞い踊り
ステージ上手の巨大な銅鑼を鳴らすべく
握りしめた“鋼鉄のオタマ”を天に振りかざした。

オープニングMusic.カットアウト。

銅鑼の音。

“グオォォォーーー~~~ンッ!”

いつの間にかステージ中央には
人民服を着た司会者が立っている。

照明、ステージを照らし出す。

「スゥーーーーー……」

たっぷり空気を吸い込み一気にトーク!

「はいっ!というわけでですね、いよいよ始まりました、らーめんのぉ
らーめんによるぅ
らーめんの為のぉ
『らぁーー~~ーー~~めんバトルッ』!

山陽・山陰・四国限定の地域密着系小規模型フードバトルイベントでぇありやす!
イベント規模は小さいっすが
希望は大きくまいりたいと、えぇ、こう思っとるわけでぇございやす!
はい!
え、さて今大会!今バトルはで・す・ね!
会場に溢れんばかり、と言いますか
これがらーめんならば
丼からスープがこぼれんばかりにお集まりいただきました数々のらーめん店の中から
栄えある優勝店には!なんと!な・ん・と!
どデカイ“希望”を!
そう!BIGESTなHOPEを!
プレゼントしちゃおうっちゅう運びとなっておりやしてぇ!」

銅鑼の音。
“グオォォォーーー~~~ンッ!”

(場内大いに沸く)

「はい、はいはい、そうでございやす!
皆さん既にご承知の通りでございます!
と、言うわけでっすね!
皆さん誰もが喉から手が出ちまう程欲しい
どデカイ希望がパツンパツンに詰まったその優勝商品とは!」

銅鑼の音。
“グオォォォーーー~~~ンッ!”

「『食い倒れの街大阪ミナミへ!夢の出店費用全額!』
ドバーッと持ってけ泥棒!プレゼントだぁっ!」

銅鑼の音。
“グオォォォーーー~~~ンッ!
グオォォォーーー~~~ンッ!
グオグオグオォォォーーー~~~ンッ!”

「WAO!エキサイティング!興奮してきたゼィ!
こいつぁホンマに驚きやぁ!
なんつって、ついつい関西弁出てしもぅて
気持ち先走り
心が既に関西へ行ってもうたわぁ!WAO!なんつって!
そうっす!食の聖地!味の極楽!大阪ミナミっす!
ビガビガーッ!と華やかなネオンもまぶしい難波!
飲食店に携わる者なら誰もが憧れて止まないそんな食って倒れるディープシティNANBAに
己れの店をドカーンとぶっ建てちまえぃ!
グリコマークや巨大なカニも
ふらつくヤクザも芸人も観光客も
道頓堀川へ飛び込むクレイジーな奴らだって
みんなみんなみぃんな
あ!な!た!の!み!せ!の!あ!じ!の!
トリコになっちまう事うけあいデース!
Yeah!Yeah!Yeah!

店舗物件は既におさえ済み!
向こう1年間分のお家賃もお出しいたしまショー!
もちろん!
内装工事費、宣伝広告費、調理器具等費用、材料費、人件費諸々全てまとめて
当バトルのスポンサーがお支払の上
責任をもってあなたをバックアップ致しやす!
なんて太っ腹なスポンサー様なんでショー!
ぬわんて満腹満足な優勝商品なんでショー!
まさに希望大盛り!てんこ盛り!
これであなたはドリームチャンスをゲット!
サクセスストーリー!成り上がり間違い無しでありやす!」

(場内大歓声)

「盛り上がって、盛り上がって、もぉりあガッてまいりました!
さぁ~
そんなビッグドリームを手にするのは果たしてどのらーめん店なんでしょうか!
いよいよ!
煮えたぎったスープのような熱い熱い戦いの火蓋が切って落とされます!」

銅鑼の音
“グオォォォーーー~~~ンッ!”

「らーめんKINGの称号を手にするのは果たして誰だ!
ちょー太っ腹のイカれた運送業社『フグさん便』プレゼンツ
『らーめんバトル』、いよいよ開催です!」

銅鑼の音。
“グオォォォーーー~~~ンッ!”

「…とその前に」

(どないやねん!とばかり
場内一同コケる)

「え、まずはここでスペシャルゲストをご紹介!
バトルの審査員も勤めていただきますゲストはこの方!
今や全国で大人気!
老若男女を魅了しちゃう国民的スーパーアイドル!
懐かし『羊田 妖子』さんと名プロデューサー『九ちゃん』との間に誕生した
天才的なサラブレッドとしても有名な!
魅惑の美声を持つ絶世の美男子!
『羊助・YO-SUKE』ちゃんの登場ダァーーーーーッ!」

Music.『ろくでなし』

羊助華麗に登場。

(場内大興奮)

「みなさんこんばんは。
いっぱいいっぱい楽しんで
心もお腹も満腹になりましょう!」

羊助・YO-SUKE『ろくでなし』を高らかに歌い上げる。

「♪古いこの酒場で
たくさん飲んだから
古い思い出は ボヤけてきたらしうぃ~
私は恋人に 捨てられてしまった
人はこの私を ふだつきと云うかるるるうぁ~
ろくでなし Ah! ろくでなしうぃ~
なんてひどいアーウィ!
云いかたぁ~♪」



『らーめん放浪記』純情旅情編。


「♪パパ~ラパ~ラパパ~ラパ~ラ
パパ~ラパパ~ララパパ~ラ~♪」


〈3-(43)・黒台本〉


「♪ろくでなし Ah! ろくでなしうぃ~
なんてひどいアーウィ!
云いかたぁ~♪
どうもありがとうございましたぁ!」

(場内拍手&拍手)

「ろくでなしの羊助・YO-SUKEちゃん
いやいや羊助・YO-SUKEちゃんで『ろくでなし』
でしたぁ!
どうもありがとう!」

(場内爆笑)

羊助・YO-SUKE、ステージ前にある審査員席へ。

「さぁ大変長らく、おまんたせいたしました!
真のらーめんKINGの座に君臨するのは果たして誰だ!
『らーめんバトル』いよいよ始まります!
が、その前に…」

(場内一同大コケ&野次)

「当バトルの審査員長をご紹介!
このイベントの主催、スポンサーでもあります
運送業社『フグさん便』代表取締役太っ腹社長『チャン イクラ』様の登場だ!」

Music.カットイン。

会場裏手から客をかき分け
まるでレスラーの様にチャン イクラ氏登場。

(場内大興奮で“チャンコール”の嵐)

社長挨拶。

「ハ~イ!
腹へった~!
みんな頑張らねーと殺す!
バブーッ!」

銅鑼の音。

“グオォォォーーー~~~ンッ!”

社長審査員長席へ。

「迅速・確実・丁寧に!
毒でも運ぶ『フグさん便』の
凄腕・博学・親切な!
仏の社長『チャン イクラ』様挨拶でしたぁ!
おぉっと失礼!遅ればせながら私めもご挨拶を!
『らーめんバトル』の司会進行を勤めさせていただきます
わ・た・く・し!『勝男(かつお)』と申します!
よろしければ拍手をばいただけましたら嬉しいなぁと…」

(場内割れんばかりの拍手)

「ども、どもども
謝謝!ありがとうございます!
さて!もういい加減はじめませんと
皆さん腹ペコで餓死しちまいますからね!」

(場内爆笑)

「さぁらーめんという名の山脈の頂に立つのは果たして誰だ!
『らーめんバトル』!
今、開幕!
…とまたまたその前に」

(場内コケつつブーイング)

「まあまあ、もうしばらくのご辛抱を!
え、ここで『らーめんバトル』について少しばかりご説明を。
『らーめんバトル』とは
所謂らーめんという定義に基づいた麺類業界の異種格闘技戦でございます。
そもそもらーめん(ラーメン・拉麺・老麺)は中国生まれの日本育ち。
中国料理が日本で進化を遂げて
今や我が国の食文化の代表的存在となっております。
ひとことで『らーめん』と言っても
製法や土地柄等で振り分けただけでも様々。
麺やスープや具材や食べ方に至るまで細かに分類したらきりがありません。
『らーめん』は変幻自在進化する麺。
今こうしている間も新たな『らーめん』が次々誕生している事でショー。
『らーめん』の可能性は無限大。
先ほど私“らーめんの定義”と申させていただきましたが
そもそもらーめんの定義なんぞはあってないようなモノでございます。
ですから当バトルは『らーめん』の垣根を飛び越えた戦であって良いものと考えます。
つけ麺、焼き麺、煮込み麺、太麺、細麺、ちぢれ麺、そば、うどん、きしめん、ほうとう、パスタ、等々等々
食べた方々がそれを『らーめん』とみなせばそれは『らーめん』と成りうる訳っす。
あとは個性持ち味と人それぞれの好みがものを言う。
そこが当バトルの審査基準となる訳っす。
『らーめん』の定義が多種多様ならば食べる側の基準も多種多様であって良し。
本日ここでジャッジを下し
栄えあるらーめんKINGを決める審査員は誰でもないあなた!
そう、会場にお越しの
あ!な!た!な!の!ですっ!
そうです!
このイベント『らーめんバトル』は全員参加型のフード大戦争なのです!
ご覧下さい!
場内を取り囲む様にズラリ並べ組まれた見事な調理ブース!
そこで決戦ののろしが上がるのを
今や遅しと待ち構えるは挑戦者である麺のスペシャリスト達!
合図と共に全挑戦者が調理を開始し
その工程かららーめん自体の味わいとフィニッシュに至るまでを見定めて
最終的にどの店のらーめんが優れているかを
皆さんに決定致して頂きます!」

銅鑼の音。

“グオォォォーーー~~~ンッ!”

「さぁ腹ペコ野郎どもの為の至福の時間がやって来たゼィ!
時はらーめん戦国時代!
『フグさん便』プレゼンツのらーめんの合戦!
麺バカの麺キチガイによる麺ジャンキーの為の『らーめんバトル』のゴングが今打ち鳴らされやす!
…がその前に」

(場内コケ。
もはや空腹はピークと化し、暴動寸前)

Music.カットイン。

「再びここで『羊助・YO-SUKE』ちゃんから皆さんに歌のプレゼント!
曲はご存知『さくら』っす!どうぞ!」

「“♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪”」

……………………………………





「…とまぁこの後バトル挑戦店それぞれのプロフィールが映像で流れまして」
「長い!」
「え?あぁえっとあの」
「バブーッ!」
「あ、あはは…
まぁ、今晩の『らーめんバトル』はこんなシナリオなんすけど」
「長い!長い!長い!
勝男チャンばかり目立ってる!
銅鑼打つ回数多すぎ!
書き直し!」
「えぇ!?
おじさんそりゃ無茶だ!
だってあと7時間くらいしか無いんすよ!?」
「ハ~イ」
「うわっ!ピストル!
危ない!それしまって!
止めて!殺さないで!
分かったっす!書き直しますから!」
「チャ~ン」
「猫田さんには好きに書いて良いよって言われてんのによぉ
ったくもう…」

ブツクサ、ブツクサ


迫り来る『らーめんバトル』本番前の
黒幕会議であった。

そして7時間後
血で血を洗う『らーめんバトル』が
始まる訳である。



♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。京都北山駅にて。
『暴力団・反社会的勢力』からの~。

『らーめん放浪記』麺96本目・29。

2010年10月23日 15時42分23秒 | 連載書き物シリーズ
「♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(42)・29〉


広島平和記念公園で発見された夥しい数の他殺体は数えて丁度29あった。
その29は全て東京都上野の森警察署から山陽地域へ派遣されてきた
『らーめん放浪記特別対策捜査本部』の捜査員だった。
偶然か?必然か?
あきらかに上野の森署を怨んだ犯人の捜査員を狙った犯行では?
警察内部の人間もしくは内部情報に詳しい人物による犯行ではないか?
等と言う者もいる。
ひとまず広島県警は事件を猟奇的殺人犯の犯行とみて水面下で慎重に捜査する事とした。

数々の遺体と現場の状況から察すれば、犯人の感覚は極めて異常としか言いようが無い。
精神が正常に機能した状態とは言い難い犯行である。
29それぞれの遺体の状態を殺害された順に考察してゆけば
犯人の感情は犯行を重ねるにつれ急激に高ぶり、僅か数十分のうちにエクスタシーは頂点に達し
現場で狂喜乱舞した様子が手に取る様に伝わってくる。
単純に快楽殺人や愉快犯、短絡的犯行といった言葉では片付けられぬ何かが臭う。
それはベテラン刑事も鼻をつまむ程の感覚的強烈な事件性の異臭だ。

犯人をここまでの犯行に駆り立てたモノは何なのか。
警察に対する何らかの強い抗議目的かはたまたある種の挑戦状的犯行か?
または警察というものを通して社会への痛烈な不満をぶつけた形なのか?
もしくは、当日警備も担当していた捜査員を殺害する事で
遠巻きに、この日前夜祭として行われていたイベント『らーめんバトル』関係者に対しての
ある種異様なまでの憎しみや恨み辛みから出た犯行なのか?
ありとあらゆる“ややこしい”面を想定しても、現実は想像を絶する。

29体の遺体は随時、現場から広島県警鑑識へと運ばれた。
29遺体を見た鑑識官曰く
その状態はどれもこれもまるで捌かれた“ぶた”か“さかな”のようだったという。
あるモノは目玉をくり抜かれ、あるモノは睾丸をえぐられ、あるモノは皮を剥がされて
頭蓋骨から脊髄にいたる骨と脳髄液がカポ~ンと抜き吸い取られ味噌を綺麗にかき出され
内臓、特に肝系は見事なさばきで取り出されていたという。
まるでそのまま料亭の会席料理として出されてもおかしくないような
目を覆いたくなるようでいて生つばが出てしまいそうになるような
そんな屈折した不謹慎な感情が湧いて出る遺体だったそうだ。



上野の森署から派遣された新米刑事『猿蔵(えんぞう)』は
1人市内のホテルの部屋で複雑な思いでいた。
こちらは上記鑑識官とは別な意味で屈折した不謹慎な感情を抱いていた。
仲間達が死んだ。
それも、見るも無残な姿で。
涙枯れ果てる程泣き、ヘトヘトになる程震えた。
犯人に対しては憎しみ以外の感情はない。
猿蔵は今にも狂わんばかりだ。

しかし…心のどこかに、何故だろう安堵する自分もいる…。
上野の森署『らーめん放浪記特別対策捜査本部』からこの地へ派遣された者のなかで殺害されなかったのは自分を含めてほんの数名だけ。
他29人は今や屍だ。
もしかしたら自分が30人目に…
そう考える度、体中に寒気が走った。

しかしどういう意図で犯人は29で犯行を止めたのだろうか…。
29の遺体…にじゅうきゅうの遺体…
頭の中で何度も何度も反復した。
もうそんなもの、何の意味もなさない。

29の遺体、30になるべく生きている体…
猿蔵は仲間達の亡き骸を目の当たりにし、生きている自分を実感してしまった。
実感して「ほっ」としてしまったのだ。
そんな自分が憎くてしかたなかった!
憎さは犯人と共に自らへも向けられ
悔しさに唇を噛み締め
噛み締めた唇から流れる真っ赤な血をみて再び生きている事実を実感する。
そしてまた“堕ちる”のだ。
この複雑に絡み合った感情を打破するには
刑事として自らの手で犯人を逮捕するより他に手立てはないだろう。

しかし!
しかし警察当局は、この事件に関して猿蔵の捜査参加を禁じた。
それだけではない!
猿蔵は『らーめん放浪記特別対策捜査本部』捜査員からも外されたのだ!
何故だ!?
当局からの指示は「当面任務を離れ“『らーめんバトル』に専念すべし”」というもの。
ちょっと待て!それってどういう事だ!?と猿蔵は叫んだ!
確かに実家の出雲そば屋『いづもそばにいて』代表としてイベントに参戦する事になってはいるが…
今はそれどころではないだろう!
ただのちっぽけな青年の主張は、大声で叫べどまるで届かぬ。
『らーめんバトル』に専念すべしって…
そもそもこの状況で『らーめんバトル』とやらは開催されるのか!?
普通中止だろう!?
中止じゃないのか!?
開催される会場で人が29人も死んでいるんだぞ!
それで中止にならないのか!?
マジでか!?
バカか!?
ウソだろう!?
“警察が言う事だから”間違い無い…
『らーめんバトル』は予定通り、本日夜19時より開催されるようだ。
“昨晩の忌々しい事件の記事などまるで書かれちゃいない”新聞にも
確かにその事実だけはしっかりと書き記されてあった。

一体、どうなっているんだ!
猿蔵は狂わんばかり、頭をかきむしった。
頭皮からうっすら血がにじむのを感じた。
猿蔵は思う。
ああ、やっぱり自分は生きているんだな…と。



平和記念公園の事件の事は
その日の夜のうち、当然現場から上野の森署へと伝えられていた。
「なんだと!?このバカヤロー!
どうなってんだ!?クソヤロー!
なにやってんだ!?コノヤロー!」
月夜に『狸(たぬき)』が吠えたという。

早朝、とにかく大急ぎで大勢の捜査員を広島の現場へ向かわせた狸のもとへ
分厚い小包がバイク便にて届けられた。
差出人は『猫田 麺吉(ねこた めんきち)』
中身は小説『らーめん放浪記 山陽・山陰・四国編 完結版』
狸は慌てて無造作に小包の封を切り裂き
分厚い紙の束の後半のページを荒々しくめくった!
「にく?…ふく?…ふぐ?…たら?…」
パラパラパラッ!と乱雑にページをくくる!
顔面から大量の汗が滴り落ちた。
「バッカ…ヤロォ…」
点々と紙の束を濡らす狸の汗。
その模様はまるで地面に散った桜の花びらのようだ。
その汗は瞬く間に紙の束をぐっしょりと濡らしてしまったのだった…。

『犬山』
という文字と…
そして
『鳩山』
という文字までもぼんやり滲んで
もはや、判別がつかぬカタチを成していた。

「正気か?このクソヤローどもは…」


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。家主のおらぬ朝の屋台。