Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

ダイヤと東洋経済の年金特集の差

2010-02-16 14:28:12 | その他
週刊 ダイヤモンド 2010年 2/20号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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週刊ダイヤモンドの今週号『年金の大誤解』。現制度の問題点をごまかすことなく網羅し、
「これ一冊で基本的な論点は理解できる」というレベルに仕上がっている。

それにしても、先の東洋経済の特集と、同じテーマでここまで違うかという方向性には驚かされる。
良い機会なので、主な点だけ以下に挙げておこう。

・国民年金の未納問題のツケはサラリーマンが被っていること。

基礎年金に回される拠出金は国民年金、共済年金、厚生年金の各年金制度への加入者数に応じて
割り振られる(国民年金はなぜか実際に払っている人だけを頭数にカウント)。
国民年金なんて免除を含めれば負担者は実質半減しているわけで、国民年金の保険料だけで
まかなうのは無理だ。この時点で、サラリーマンも未納問題の影響を受けている。

さらにいえば、国民年金は14,660円と一律で満額66,008円支給と、とてもクリアなシステムなので、
いじりすぎて明らかに割に合わない設定にしてしまうと誰も払わなくなるから、大きくはいじれない。
だから、厚生年金側により大きな負担がかかっているはずで、実際、サラリーマンの厚生年金保険料
のうち、基礎年金にいくら回されているのかは明示されていない。
田中秀明・一橋大学准教授は「基礎年金制度が作られたのは国民年金救済のため」だとし、
被保険者総数で均等負担する場合に比べ、サラリーマンの負担は2割高いと試算する。

ちなみに東洋経済では「厚生年金が未納を肩代わりはまったくのウソ」だそうだが、なんべん読んでも
ロジックが意味不明。

・09年に厚労省が出した「年金財政検証」の是非

もはや年金制度は実質的に破たん状態にあるにもかかわらず、「問題ないです」と誤魔化そうとすれば
どこかで嘘をつかないといけない。この年金財政検証は、そういった嘘のオンパレードだ。
名目運用利回り4.1%、名目賃金上昇率2.5%って、一体どこのBRICs諸国の話なのか。
過去十年の長期金利1%台、賃金にいたっては09年度はマイナスのこの国で、一体何をどう検証すれば
こんな数字が出るのか。
というわけで、もちろんダイヤは「そんな金利になったら国家財政が破綻する」という自民党議員の声
とともに全否定する。

ちなみに東洋経済は09年検証を全面的に擁護し、むしろ出生率などでは控えめだとさえ言っている。
まあそれならそれでもいいんだけど、だったらぜひ賃金を2%以上、利回りを4%以上に引き上げできる
経済政策でも特集してください。

・いったい、誰が悪いのか

両誌最大の違いはこれだ。そしてこれこそ、両紙の年金特集が180度違う根本でもある。
ダイヤでは厚労省年金官僚の存在をクローズアップする。
彼らは「日本国民の年金」という膨大で美味しいパイを守るため、自民党厚労族と癒着し、
政治力をバックにあらゆる年金改革を潰してきた。そして厚労族へのご褒美には、地元にグリーンピア
などの豪華な箱モノを(年金保険料から)プレゼントしてあげる。もちろん、そういった無駄な施設は
天下り先にもなるから、官僚にとっては一挙両得である。
こうして問題をひたすら先送りし続け、次世代にツケを回し続けているのが
厚労省というお役所の正体だ。


一方、東洋経済では厚労省批判は一字たりとも登場しない。すべては間違い。そう、馬鹿で浅はかな
人間の間違いだ。
年金改革を主張する経済学者も、不安がって年金問題を選挙の争点にする有権者も、みんな馬鹿なだけ。
愚民どもは黙々と働いて保険料を負担すればよいのです。なんの問題もありませんよ年金制度には、
というスタンスである。

象徴的なのは、両誌の囲み記事に登場する人物だろう。
ダイヤでは河野太郎が登場し、年金官僚の無能腐敗ぶりを憤る。一方の東洋経済には堀勝洋という
厚労省の天下り教授が顔を出し、現行制度を持ち上げる。もうここまでくると笑うしかない。

読んでいて、ダイヤは東洋経済特集を相当意識しているなと感じた。
特に終盤の「経済学者による共同提言」は強烈な皮肉だろう。
賛同者の中には、権丈さんも天下り学者も、もちろん変な予備校講師もいない。
かわりに構造改革派からリフレ派まで、代表的な学者やエコノミストが名を連ねている。
これをみるだけでも、いまさらながら「東洋経済はやってしまったな」と思わざるを得ない。
たぶん、ダイヤは大喜びでこの企画を作ったはずだ。“敵失”という言葉がこれほど当てはまる事例は
少ない。

僕がお付き合いがある身で心配しているのは、ただ一点。
これだけの学者に連名で反論出されるような、というかある程度そういった書を読んでいれば見抜ける
くらい幼稚な御用論理を全面的に誌面で展開してしまうチェック体制の無さを、読者層に露呈して
しまったことだ。

別に訂正しろとか(さんざん東洋経済特集において批判した)鈴木亘氏に反論書かせろとか
いうつもりはないけれども、少なくともチェック体制の構築をアピールすることなしに、
信用は取り戻せないのではないか。

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15 コメント

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Unknown (Shimotaka)
2010-02-16 19:20:44
今週のダイヤの特集、立ち読みしました。いろいろな角度から問題に切り込んでいて、内容の濃いものになっていたと思います。

私自身は問題の東洋経済を読んでいないのですが、例の予備校講師の本の問題の部分を読んでこんなのが一流の経済誌に載っていたと考えると恐ろしいです。(他の記事には面白い論点がある雑誌だけに、変な記事が載ると、全体的にレベルの低い雑誌よりも危険な気がします。)

東洋経済にあえて城さんが反論記事を書くというのも個人的には一つの方法だと思います。
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性善説? (Ts)
2010-02-16 20:35:22
>チェック体制の無さ

城さんは東洋経済のインチキ記事はケアレスミスや過失だとお考えですか?
「関係団体から結構な量の広告を出してやるからちょっと誌面かせや」って札束で引っぱたかれて、メディアの良心より社員の生活を優先させた結果と思いますけど。


でないと、あそこまで一点の正しさもない記事って書けないでしょう。

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Unknown (kk)
2010-02-16 21:10:00
>ある程度そういった書を読んでいれば見抜ける
くらい幼稚な御用論理を全面的に誌面で展開

お恥ずかしいですがちょっと前まで見抜けない側の人間でした。友人関係は、情報源がTVがほとんどなので見抜けない人が多いです。
衆院選は民主党に入れました。もうなんとなく今のままじゃダメだなっていう漠然とした理由です。

その民主党もおかしいなって思うようになり、最近BLOGSで城さんや池田信夫さんの記事を読むようになりました。ほんと目から鱗で過去分まで夢中で読みました。読めば読むほど絶望しました。
読んだ結果、じゃどうすればいいの?って感じなのです。つい先日BLOGSでネットで政治団体起こす記事を見つけて、ああ、こういうのあればいいなと思いました。城さん含めBLOGSのメンバーでこういう動きってないんでしょうか?期待してます。
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堀勝洋『年金の誤解』ならぬ「年金の大誤解」 (東洋経済など読みませんが)
2010-02-16 22:02:32
城さんの言われる通り、日本の年金政策は愚民政策だったのだと思います。そこに官、学、政の鉄のトライアングルがあった訳です。とにかく、言う通りにしろ、素人は黙っとれという官僚、そうした官僚から審議会委員に選んでもらい、そこで貰った資料の切り張りで著作(らしきもの)を作る御用学者、面倒な政策論は官僚に任せ、利権を得る政治家です。
城さんご指摘のように、同じ年金特集でも、ダイヤモンドと東洋経済でかくも違う内容になるのは、こうした愚民政策の帰結ではないでしょうか。現状認識すら、国民の間で共有されていない訳です。
国民もバカではありません、自分の頭で考え、政策形成に参画していくべきであり、今回のダイヤモンドはそのいい教材だと思います。
もう1つ。ダイヤモンドの特集タイトル「年金の大誤解」は、堀勝洋氏を意識しているのかもしれません。堀氏の本は『年金の誤解』(東洋経済新報社)ですから。
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それでも厚生年金のほうが得? (氷河期戦士)
2010-02-16 22:11:49
確かに、仰られるとおり、厚生年金から国民年金第三号被保険者の拠出金を負担したりなど「サラリーマンが割りを食って」いるのは事実です。ですが、実際に、13等級(標準報酬月額20万円)で、将来もらえる額は国民年金だけのときの約倍額ということになっているので、そうやすやすとサラリーマンの地位を手放せないでしょう。

ていうか、城さんの公的年金は国民年金だけ?ですよね?まさか未納?

本当はフルタイムの非正規雇用(フルタイムパート?)の場合であっても、会社が厚生年金に入れてくれなかったりなどといった「社会保険逃れ」が横行し、それが国民年金の未納につながっているわけです。そう考えると、「国民年金だけのせいじゃない!厚生年金のほうにも問題があるだろ!」となってしまいます。

結局、社会保険料の会社負担分や、残業代など労働・社会保険各法を遵守できない(する気も無い)のにもかかわらず、存在する中小零細ブラックがいけないのでしょう。こういうのはさっさと潰して、そこで浮いた金で新しい産業を作るのが政府に求められていると思いますね。

>厚労省というお役所

ここは、年金関連のグリーンピアのみならず、労働関係の旧スパウザ小田原(現ヒルトン小田原)や私のしごと館、ヤングジョブスポット(現地域若者サポートステーション)など莫大な無駄遣いを以前からやり続けています。

でも、情けないことに、「ニート」という言葉が厚労省の天下り団体の「労働政策研究・研修機構」の連中が自分たちの私腹を肥やすために輸入してきたことに気づかず、安易に乱用して(差別用語として使って)、税金の無駄遣いに加担している日本国民は本当に馬鹿だと思ってしまいます。
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Unknown (TS)
2010-02-17 00:10:20
> もちろん変な予備校講師もいない。

この予備校講師とは、細野 真宏さんのことですか?

この人の本は株の本ぐらいしか読んだことないのですが、さして良い内容だと思いませんでした。

年金関係だと、次の本がありますね。私は読んでないですけれど。

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?
http://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E6%9C%AA%E7%B4%8D%E3%81%8C%E5%A2%97%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%A8%E5%B9%B4%E9%87%91%E3%81%8C%E7%A0%B4%E7%B6%BB%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A3%E3%81%A6%E8%AA%B0%E3%81%8C%E8%A8%80%E3%81%A3%E3%81%9F-~%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E3%81%AE%E6%9C%AC~-%E6%89%B6%E6%A1%91%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%B4%B0%E9%87%8E-%E7%9C%9F%E5%AE%8F/dp/4594058736/ref=sr_1_4?ie=UTF8&s=books&qid=1266332492&sr=8-4

この本は何でこんなにAmazonでの評価が高いんでしょうか?

そんなに良い内容なのか?
カスタマレビューがヤラセなのか?
読んだ人たちがバカだから騙されているのか?

どうなんでしょうか?
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ダイヤモンドの記事が基本 (tana)
2010-02-17 03:14:29
労働組合の腐敗に続いて、年金問題の本質にも切り込みましたね。本当は東洋経済や日経にも期待したいところですがダイヤだけが頑張っている、孤軍奮闘という感じがします。

東洋経済の年金特集はひどいものでした。専門誌がやってはいけないことをしてしまいました。つまり厚労省の広告宣伝を編集記事と称してやってのけたことです。あれで東洋経済の信用はかなり失墜したとおもいますよ。
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センスを感じる ()
2010-02-17 09:27:51
>もう1つ。ダイヤモンドの特集タイトル「年金の大誤解」は、堀勝洋氏を意識しているのかもしれません。堀氏の本は『年金の誤解』(東洋経済新報社)ですから。

なるほど。ダイヤも芸が細かいな(笑)
返信する
結果真実 (kenji)
2010-02-17 19:48:16
知り合いがあと一年で年金を貰うが、早くもらッた方が言いか尋ねたので資料を見せてらった。それを記すが収めた年金額は凡そ980万である。ところがこれは会社負担という虚構があるから実際は1960万である。速く貰うと月に13.5万くらいである。したがって145ヶ月凡そ12年である。
ところが1980万には利子がはいていない。これを入れると多分2600万くらいであるから192月がただしい。したがって16年である。さらに言えば一気に貰うわけではないからそれに5年を足すと21年である。
 これで十分でしょう。知り合いは65歳まで我慢したほうが良いかと尋ねたので、計算をすると、77歳でバランスが取れる事がわかった。
 私はいくつまで生きるかによるが、たくわえがアルなら速く貰ったほうが良いと答えた。
 そして思った。これが日本の社会の恐ろしさだ。
会社負担分の考察をすれば大きな詐欺であるが世帯単位で見れば或いは帳尻が合っているかもしれない。

わが国には正確にと知ろうとする気がない人が多い。

昨年退職して嘱託できている人は65歳から満額を選択した。そして働いている。
 ただ65歳から多くもらえると思っているだけである。
返信する
言論人としての矜持 (1970年生まれ)
2010-02-17 22:00:46
私は個人的には東洋経済新報社という出版社に好意を持っています。それは以下の理由からです。
①私の翻訳した本と部分執筆した本を出してくれた出版社であること

②中谷巌や竹中平蔵、あるいは森永卓郎などの言っていることを10年くらい前からおかしいと言っていた名物編集者がいて、無名の新人でも発掘する目を持つ人だったこと

③戦前からの東洋経済の歴史。高橋亀吉や石橋湛山の先見性、日本という国のとらえ方の的確さ

などです。
しかし、最近は週刊東洋経済についてはレベルが落ちたと思います。と言うより、号によって当たり外れが多くなりました。

昔はダイヤモンドはなんでもランキングかしたがると言って、銀行の調査部の人などは「少し俗っぽい」と評価していました。
しかし、最近のダイヤモンドはいい特集が多いです。去年の団地特集や先週号の葬儀特集、今週の年金特集などは永久保存版です。

東洋経済も去年の12月に出した「アラサーのキャリア論」などは秀逸です。やればできると思います。

メディアとしてさすがと思わせたのは、英国の「The Economist」です。かつて、同誌が私の勤務している会社を批判した記事を載せました。これに対して、編集部へ反論の手紙を送りました。すると、ただちに執筆した記者から、
・自分はこういう根拠で執筆した
・私の指摘・反論についての見解
・従って、訂正記事は出さないという見解
を住所・氏名・電話番号・メールアドレスまで記して速達で送ってきました。
さらに、ロンドンの編集部から編集長名で反論ならびに指摘について感謝するという手紙まで送られてきました。

この一連の反応を見て脱帽しました。さすが世界に名だたるThe Economistだと思いました。日本のメディアでこういうリアクションを取ったところはありません。一読者からの指摘については無視するか、編集者の独断と偏見で読者投稿欄に載せるくらいです。

言論は、異なる意見の存在を認めて、それを闘わせることに意味があります。The economistは1840年代の穀物法廃止論争からスタートしたという矜持があるのでしょう。

東洋経済にも立派な歴史があります。日本橋本石町の東洋経済本社には社史を展示しているではないですか。東洋経済にはその歴史にふさわしい矜持を見せてほしいと思います。

英国のメディアが世界的に存在感があるのは、確かに英語と言う有利さがあります。しかし、高級なメディアはその矜持があります。日本にも言論人としての矜持を見せるメディアが必要です。

東洋経済の先人たちは、今よりもはるかに困難な時代にその見識と矜持を見せていたのです。それを忘れないでほしいと思います。
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