Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

文系より理系がオススメな理由

2010-08-26 11:54:00 | その他
昔どこかで書いた気もするが、ちょうどこんなニュースもあったことだし、久しぶりに
書いておこう。少なくとも今から進学するなら、理系がおススメだという話。

この手の話をする前には、まず対象を明確化しておく必要がある。
職種で見るのか、出身学部か。20代から50代まで全世代を対象とするのか。
官僚や弁護士というキャリアパスのある大学か、ごく普通の大学か。
というわけで、職種ではなく出身学部で、2,30代の若手を対象とし、東大まではいかない
けどそこそこ良い総合大学をイメージして話を進める。

この手の調査や賃金統計は賃金カーブの低下を反映しておらず
(具体的に言うとやたら50代が高く、今の若いもんは絶対そこまで到達しない)今の2,30代
には当てはまらないことが多いのだが、実際の現場感覚からすると、本調査の通り明らかに
理系の方が高い。
一般的にいって、労働市場における人材価値が理系の方が高いからだ。

まず、採用段階で差が出る。
日本でグローバル企業といえば、まず製造業だ。もちろん、日本型雇用で言うと二階建て
部分、つまり文字通りの終身雇用と年功序列が保証されている(後者はかなり怪しくなったが)。
こういった企業には、圧倒的に理系の方が入りやすい。
僕の経験でいえば、2000年前後の氷河期の底で、早慶とか東大の文系学生が内定貰えずに
四苦八苦している横で、あまり聞いたことのない地方大学の理系修士が二日で内定貰っていた
のが印象に残っている。

また、こういった企業が不況になって採用数を減らす場合、
まず営業や管理部門等の事務部門 から減らす。

最近だとNTTが2000年から3年ほど新規採用を凍結していたが、研究職を例外
としていたことが記憶に新しい。
これは、日本型雇用の柱である長期雇用による人材育成が、理系技術職では今でも機能して
いると(少なくとも会社サイドは)信じているためで、不況時に抑制した分を好況時に
多めに採ってもその間のOJT期間分の人的資本の蓄積が無駄になるという考えからだ。
少なくとも事務系は中途や第二新卒で後からいくらでも補充できるのは事実なので、この選択
はある程度合理的だと思われる。

というわけで、日本型雇用のバリバリの二階建て部分である大手製造業に常に安定して椅子が
用意されているという点で、理系の方が有利である。

さらに言うと、多くの場合、リストラの際も企業は同じスタンスをとるので
技術系の方が サバイバルできる可能性は高い。

経営上の都合で特定の事業丸ごとリストラなんてこともあるにはあるが、そういう場合でも
たいてい技術者は再就職しているものだ。
(ちなみに、一番悲惨なのはコスト部門かつガラパゴス化している可能性の高い事務系)

ちなみに、「選択肢が多い」という意味でも理系の方が上だ。
たとえば新卒段階でもそうで、理系出身の事務部門や営業部門志願者は毎年一定数いて内定者
もいるが、逆はありえない。転職時も「技術系のキャリアを活かしつつ営業やコンサル」と
いうのは認められる、というか大歓迎されるが、逆はない。
これも長期的には平均年収をキープする要因になるはずだ。

というわけで、手に技術の付く理系の方が就職を考えるとおススメである。
なんてことは、恐らく実社会で働くパパ達はよくわかっているらしいけれども。

ついでに、有名な「文系の方が生涯賃金5000万円高かった」説だが、あれは90年代に、ある
大学のOBを調査したもので、全世代からの回答を積み上げて生涯賃金を試算している。
「文系50代の平均が1600万超」という数字を見れば、この国立大学がどこで、OBがどういう
業種に就いているのかはだいたい想像がつく。恐らく大学は東大、メジャーな就職先は都銀だろう。
よって、この調査結果を引用するのであれば、正確には「昔の都銀マンはメーカーより給料
が高かった」もしくは「昔の東大出身者は文系の方が理系より稼げた」というべきだ。※

普通の人にはあまり関係ないし、そもそもメガバンクの給料は3割くらい下がって普通の会社
になっているので、今はそこまでの格差は無い。

ちなみに、大手の技術職採用、特に学校推薦制では成績をわりとしっかり見られることが
多いので、単に理系に進学するだけでなくしっかり勉強しないとダメなのは言うまでも無い。


※松繁教授自身「金融業と製造業の賃金格差」という構図を明言しており、引用者が理系と
 文系の賃金格差に持っていくのはややミスリーディング。




有期雇用の必要性、あるいは司法修習生の就職対策について

2010-08-22 10:19:05 | 経済一般
週刊 ダイヤモンド 2010年 8/28号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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日弁連が有期雇用契約の制限を提言するそうだ。
あまりにも荒唐無稽な内容なのでギャグで言ってるのかと思ったら、結構本気らしい。

何が何でも正規雇用が原則だという共産党や(一部の)労働系の弁護士センセイのご尽力の
おかげで、契約社員であっても3年経ったら雇用主責任が発生するという判例が出来てしまって
いる(面倒なので、この人たちは以下“サメ”と呼ぶ)。
というわけで、企業は請負や派遣といった形で雇用してきたのだが、サメ達は
「それは偽装請負だ!」「派遣も3年経ったら直接雇用にすべし」
といってそれらすべての芽を摘んできた。

215人の偽装請負を指摘され直接雇用に切り替えたものの、3年待たずに雇い止めにする
ダイキン工業は、上記の構図の縮図である。ダイキンでは10年以上も働いていた労働者が
いたそうだが、サメ達が「有期雇用を規制しろ」とやったために失職してしまったわけだ。
先日、本社の事務系派遣を「期間2年11カ月の契約社員」に切り替えた日産も、恐らく同じ
オチになるはずだ。

一方、企業にとってもメリットなど何もない。ノウハウのあるベテランをクビにし、またゼロ
から育成しなければならない。それも、3年置きに、ずっとである。
生産性のムダ、人的資本の垂れ流しだ。このグローバル化の時代に!

「では、非正規雇用労働者は、何も要求するなと言うのか?」と言われそうだが、それは違う。
どんどん要求するべきだ。
ただ、それは「正規雇用にしろ」ではなく「正規雇用制度を無くせ」 である。
いったん期間の定めのない長期雇用とみなされると、企業は賃下げも解雇も合法的には不可能
であり、だから請負や派遣といった形で雇用するのだ。そういったことが可能なシステムなら、
誰も2年半なんて中途半端な契約にはしないし、大手なら派遣会社なんて最初から使わない。

ついでにいうとリーマンショックのようなマクロショック時にも、正社員の側の人件費も
調整するはずだから、非正規“だけ”が切られるなんてことは無い。
要するに、非正規雇用と正規雇用は表裏一体であり、
後者を無くすことなしに前者はなくならないということだ。


連合は矛先が自分たちに向くことを極端に恐れている。だから、「非正規雇用との連帯」を
掲げるものの、やっているのは電話相談窓口を作ったりシンポジウムを開く程度のガス抜きだ。
連合に取り込まれた論者かどうかは、正規雇用に対する姿勢ですぐにわかる。
「とにかく正規雇用が基本です」とか「反貧困、でも定昇は必要です」なんて言ってる奴は、
個人的にはまったく信用していない。

とはいえ、5年前は完全にタブー状態だった「正規雇用問題」も、いまや自民がマニフェスト
に明記し、みんなの党も流動化に言及するまでになった。我らが社民党も率先して正規職員
を大リストラすることで「流動化無くして組織の生き残り無し」という範を示してくださっている。
少なくとも今、メディアでこの主張をすることは、既にタブーではなくなった。
当人たちがより明確に主張することで、状況はさらに大きく前進するだろう。

そうそう、ついでに日弁連の宇都宮会長にアドバイスをしておこう。
「仕事に就けない弁護士が増えた、だから犯罪行為に手を染める弁護士が増えてしまった」
大変心配されておられるようだが、民間企業同様に各弁護士事務所にも司法修習生の雇用
を義務付けたらどうですかね。
もちろん「期間の定めのない雇用契約」でね。

たまに遊びに来るくらいがちょうどいい国、日本

2010-08-19 13:08:37 | その他
先日、香港の金融機関で働く友人と久々に食事した時のこと。

彼は元々は東京勤務で、経済系メディアに何度か露出したこともあるやり手だが、リーマン
危機後に海を渡った。海外まで出稼ぎに行かなきゃならないのも大変だな、と勝手に同情
していたのだが、話を聞くと全然逆で、今が一番充実しているそうだ。
「そりゃそうだよ、所得税が17%のフラット税制なんだから」

社会保障の差も大きい。香港には世界中からエリートが集まるが、彼らは若く自由な香港で
働くことにより「老人による若者の搾取」という先進国共通の現象を回避している。
そして、第一線を引くと同時に帰国して、母国の社会保障の受け手に回るわけである。
ちなみに、世界中からやってきてガンガン稼いでくれて、将来の社会保障の世話を焼かず
ともよい彼らは、香港にとっても上客らしい。

これが日本の30代サラリーマンだと、30%程度の所得税を負担しつつ、約15%の年金保険料
も払うために汗水垂らして働いているわけだ。しかも30年後に受け取る社会保障給付は、
今の高齢者より年金だけでも4000万円以上も少ないことがほぼ確定している。
(その少ない給付にしても、その時の現役世代に「ほぼ1人で1人の高齢者を支えること」に
同意していただかないといけないのだが…)

こりゃ法人税少々下げたところで焼け石に水だろう。
彼自身、現役の間は帰国する気はないそうだ。そりゃそうだろう。将来破綻確実なネズミ講
だとわかっていて最後に飛び込むバカはいない。悪いのは膨大な世代間格差や破綻確実な
社会保障を放置している国の方だ。
しかも、フラット税制という世界的潮流に逆行して民主党は累進課税の強化なんて言い出し
ている。働く場としての日本の競争力は、今後も期待できそうにない。

というわけで日本国の先行きはとてもよろしくないのだが、外から見て気付いた日本の魅力
もあるという。
「日本というのは。それ自体がブランドなんだよね」
同じサバでも築地からい入れたサバには倍の値がつく。
同じものは自国で売っているのに、わざわざ銀座に行ってショッピングする。
中国製の商品を銀座で中国人観光客に買わせているユニクロなんて、大したものだと思う。
彼らはみな、日本というブランドに対してお金を払ってくれているわけだ。

そう考えると、日本を働く場として充実させることよりも、金を使って
もらう場として 充実させた方が効果的なのではないか。

もちろん前者も必要だが、正直いって、日本で多様な労働環境やフラットな税制や英語環境
などが10年くらいで整備できるとはとても思えない。
いや、仮に小泉政権以上の改革力を備えた政権が誕生して力技でやったとしても、香港や
シンガポールと違って国土の細長い日本の場合、インフラ整備にそこそこのコストがかかって
しまい、租税競争では絶対に太刀打ちできない。
しかも、過去の世代が垂れ流した膨大な借金も返済しないといけないから、その意味でも
手足は縛られてしまっている。
なので、まあそっちはそっちで頑張りつつ、ビザ緩和やFTAなどで金を使っていただく環境
を整備するというわけだ。

考えてみれば、日本には他にも他国にはない魅力がいくつもある。
独裁もいないし38度線もない。共産党はあるけどちっこくて無害だ。土地買って後から政府
に取り上げられたりすることもない。
ミシュランに絶賛されるくらい飯は美味いし、空気も水も綺麗だ。
成長戦略というとどうしても輸出産業を想像してしまいがちだが、家電や自動車だけでなく
そういったサービスの付加価値を見直すべき時期に来ているのではないか。

最近は銀座に行くと、目を輝かせた中国人でにぎわっている。そこだけ高度成長期の匂いが
するのは、気のせいか。

「全然わからないけどとりあえず作ってみました」というメディアはいらない

2010-08-15 12:06:09 | その他
いろいろなメディアと打ち合わせをしていると、たまに違和感を感じる。
雑誌でいえば「とりあえず、書いてください」的なノリで依頼されるケースだ。
彼らはたぶん、主張の中身までは理解出来ていない。
実際、編集者にせよプロデューサーにせよ、自分の意見はまったくなくて、そこそこ知名度
がある人を並べておけばそれでいいんだろう的なスタンスの人は多い。

たとえば以前、“派遣切り”が流行った時に雇用問題のムック本の企画話があったのだが、
執筆者の一覧を見ると、エコノミストや労働経済学者にくわえ、共産党やらなんとかユニオン
みたいなのも混じっている。
全然統一性がないから「ところであなた自身はどう考えているのか?」と聞いてみたら
「全然わかりません」と笑顔で返された時は、さすがにバカバカしいので参加を断った。

「いろんな立場の意見を幅広く取り上げるのが我々の役目だ」と言っていたが、それって
自分たちが不勉強なことの言い訳だろう。
百歩譲ってそういうスタンス自体は認めてもいい。が、今どきそれじゃあ銭は稼げない。
だって、ネットでは無限のコンテンツが無料で選べるわけだから。

出版には流通的な役割と品質保証的な役割がある。上記のような編集スタンスは、後者の
役割を放棄しているわけだ。コンテンツというよりも、場を提供してやるという発想だろう。
ただ、ネットという無限の場が出来てしまった以上、こういう考えは捨てるべきだ。

ラベルの維持をしっかりやっている雑誌はこれからも生き残るだろう。
実際、経済誌のような専門史は21世紀に入ってむしろ部数を伸ばしている。
ただ、月刊誌は今のままだと若干厳しいのではないか。
たとえばこういうのとか、こういうのがバーンと載ってるものに700円とかお金払う人を、
僕はあまり想像できないんですけど。
「若い人が活字離れして、平均読者層は60代になってしまった」などと嘆く編者は少なく
ないが、それ以前に、どう考えても真剣に2,30代に売ろうという覚悟が見えないんですよ。

一つだけ言えることは、電子出版が普及するしないに関わらず、出版は一部を残して淘汰が
進むということだ。
もう右左関係無く一緒に月刊誌作ってはどうか。太平洋戦争特集→皇室論争→格差論争で
毎月ガチンコの論争やったら、老人向け活字プロレスとして10年くらいは飯が食えそうな
気がするが。

天下りが無くならない理由

2010-08-12 10:02:47 | 人事
天下り廃止は、民主党から共産党まですべての政党が掲げる目標だ。
有権者の支持、(官僚以外の)実務者層の支持もある。ある意味、これほど争点のない
政策目標も無いはずだ。

にもかかわらず、なぜ天下りは90年代から一向に無くならないのか。
それは「天下り廃止=日本型雇用の完全否定」となるためだ。
入省年次による職能給を
全廃して、職務給ベースに切り替えつつ、各ポストは流動化して抜擢・降格を実施する。
専門的なポストについては大学、シンクタンク等からのヘッドハンティングも進め、人材の
最適化を図る。
要するに、僕が普段言っている雇用流動化を霞が関の中でまずやってみてね、ということだ。
こうなると途端にハードルは跳ね上がってしまう。
これが、天下り廃止をやるやると言いつつ誰も出来ない理由である。

ただし、天下りを辞めさせるだけでいいならもっと簡単な方法はあって、出世の芽の無くなった
官僚をラインから外し、参事でも担当部長でも何でもいいから適当な肩書を与えて定年まで
囲っておけばよい。給料は、最終到達ポスト+αくらいなら文句も出ないだろう。

もちろんその分の人件費は増えるわけだが、わけのわからない独法を増やされて、わけの
わからないう予算をばしばし付けられるよりは、そっちの方がはるかに安上がりなはずである。
民間大手だって似たようなことはやっているのだから、個人的にはそれくらいOKかなと思って
いる。

そして予想通りその路線でお茶を濁そうとした民主党だが、なんと人事院にダメだしされた
らしい(笑)
「仕事も無いのに一千万以上も払えるか」というロジックだそうだ。
やっぱり窓際の中高年官僚なんて仕事してないって認めてるわけですね。
さすが人事院。容赦ない。

まあこのご時世、国民が高給での飼い殺しを認めるかというと微妙だし、たぶんみんなの党
あたりは格好の攻撃材料と見なして批判キャンペーンを展開するはず。
結局、日本型雇用という問題の本丸にがっぷりよつで向き合わない限り、天下りなんて無く
せないということだ。そしてそれは民主党には絶対に不可能なことだろう。
(みんなの党に出来るかどうかも怪しいが)

天下り根絶するためにはとりあえず捨扶持の人件費がいるのだけど、「人件費2割削減!」
とマニフェストに書いてしまっている民主党。
一般公務員の給料をじわじわ削る一方で、高給取りの窓際族なんて増やせるわけがない人事院。
そして、職員は残業地獄なのに日本型雇用死守なんて白書書いちゃった厚労省。
霞が関にはいろいろなジレンマが満ち満ちている。



書評:「若者はかわいそう」論のウソ

2010-08-06 14:15:45 | 書評
「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書)
海老原 嗣生
扶桑社

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ほぼ一章割いて批判されているので、反論しておこう。
著者の主張は一見すると精緻だが、言っていることは実にシンプルだ。
「非正規雇用が増えたのは、大学進学率が上昇し、大卒者にアホが増えたから」
とくに頭数の多くてあんまり勉強もしてない団塊ジュニアは食いつめて当然というロジック
である。

なるほど、たしかに大学進学率の上昇は“大卒者”の質を下げているとは思う。
ただ、著者のロジックには致命的な欠陥がある。
「じゃあ正社員のおっちゃんたちは、学生に文句垂れるほど勉強してたのか?」
ということだ。

もし仮に、日本の労働市場にまったく規制がなく、新卒者と既存正社員の間で完全な自由競争
が行われていたとしたら。
現在30代の派遣社員は、派遣以外の道は無かったのだろうか。
彼はやる気も能力も、本当にすべての正社員より劣っていたのだろうか。
好況に挟まれ、先輩後輩に比べて不本意な就職先しかなかった30代の正社員は、本当に
それ以外の選択肢がなかったのだろうか。彼は本当に大学4年間、バブルやそれ以前に入社
した先輩たちより自堕落に過ごしてしまった無気力学生だったのか。

そんなことはありえないだろう。50代一人を切るだけで新卒3人が雇えるのだから。
新卒の三倍以上の生産性があるとはとうてい思えない。
大手の社内には、世間話と雑誌整理だけで一千万近く貰っている正社員がゴロゴロしている
が、彼らがそれだけ貰っている理由は、単に「景気が良い時に入社したから」に過ぎない。
その一点のみで、「しょうがないよね、君たちは数が多いんだから」とすべての格差を
正当化することは、断じて認められない。

要するに著者の主張は、
「フリーター博士が増えたのは大学院を増やしたから。だから大学院を減らせばいい」
という大学教授や、
「司法試験合格者数が増えたから収入が減って弁護士の犯罪が増えたのだ。合格者数を
以前のように減らせ」という宇都宮日弁連会長とまったく同じ。
既得権100%温存で入口を締め上げるという典型的な年功序列的発想に過ぎない。
雇用流動化論者が言っているのは、求職者と既存社員の間で公平な競争を実現しろと言う話
で、割合がどうのという次元の話ではない。
競争なくして、いかなる組織も社会も成長しないのだ。

ついでに言っておくと、著者はこうも言っている。

高齢者世帯は所得が低く、中央地で240万円、200万円未満が約4割となる。
(中略)非正規対策も不要なわけではないが、圧倒的に優先順位が高いのが
「高齢者問題」ということが見て取れないか?


仮に、鳩山さんが政界引退して、取材対応で年収200万程度の収入を得たとすると、統計上は上記の
「可哀そうな老人枠」にカウントされてしまう。フリーターは自らの所得税で鳩山さんを養うべきなのか。
この意見に素直にうなづける若者は、多くはないはずだ。

他には、「42歳で5割が課長になれる」というデータも誤り。
データには“課長補佐”が入っているが、そもそも課長補佐って、担当部長や参事と同様、
ほとんどはポスト不足をカバーするためのお飾りであり、部下もデスクもついていない
なんちゃって管理職である。
課長補佐になって「やった!俺も幹部候補だ!」と言っているおめでたいおじさんなんて
おらず、多くは自分の会社とキャリアを呪っているはずだ。

「最終的には7割超が役付きに出世できている」とも言っているが、
役付きに係長(主任、リーダー) を含めちゃダメだろう。

今どき電機なら20代で主任になれますよ。
とりあえず「わが社で30年頑張れば、係長クラスにはなれますよ」と言って学生を募集して
みることをおススメする。普通の人材はまず集まらないはずだ。

というわけで、雇用問題の分析としては、正直おススメできない。

ただし、変な話だが、読んでいて不思議な安定感があるのも事実だ。
そういえば僕自身、それほどぱっとしない後輩に進路を相談された際に、本書と同じような
アドバイスをしていたことを読後に思い出した。
別にやる気もやりたいことも見つからない。それでも運よく大企業に入ることのできた人間
へのキャリア指南書としては、本書はとても有効だろう。

著者の言うように、大手のスローライフで身に付くモノも確かにあり、ぎらぎらしていない
人間がそれ以上を求めて飛び出すのは、僕自身もおススメしない。
「やってられるかよ!」というやんちゃな人間は、著者の言うとおり10%もいないかもしれない。
要するに、多くを求めない安定志向の人向けの精神安定剤的な役回りの本なのだ。

著者もこの点には気づいているようで、上記のデータのブレ(課長補佐、係長を役職にカウント)
はそれを一つの物語にするために書き入れた筆なのだろう。
著者の本音は、恐らく以下の言葉だ。
「係長止まりの緩い人生でいいじゃないか」(86P)
案外、見えているものは同じものなのかもしれない。

それでもなお、僕は日本型雇用というシステムのゼロリセットが必須だと考える。
その10%全員が腐ることなく普通の企業や官庁で活躍できるようになれば、日本は大きく
変わると思うからだ。そしてそうなれば「やんちゃな人間」は10%より増えると思うからだ。
その時こそ、再び坂の上に雲が見えるような気がしている。

書評『私が自民党を立て直す』

2010-08-02 12:39:57 | 書評
私が自民党を立て直す (新書y)
河野 太郎
洋泉社

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自民党の若手~中堅議員のホープである河野氏の新刊。

「正直に申しまして、今日ここにお集まりの皆さまは、国民が現在自民党に対してかなり
根強い不信の念を持つようになっていることに、あまり気づいておられないかもしれません」

という実にタイムリーなセリフから本書はスタートする。
ところでこのセリフ、最近のものではなくて1989年の党大会における曽野綾子氏の来賓挨拶だ。
自民党という組織は、20年前からポスト冷戦における存在意義が無いと指摘され、そして
20年間それを作ることが出来なかったわけだ。

著者は下野をむしろ好機ととらえ、この機に自民党の新たな理念を作るべきだとする。
その理念とは、小さな政府と健全な競争を背景とした経済成長であり、地方分権や新たな
セーフティネットの構築も含まれる。

主な論点のみ書きだしておこう。
・規制緩和によるサービス産業の生産性向上
・アジア諸国、特に韓国との速やかなFTA締結
・法人税引き下げ、空港、港湾等のインフラ整備。
・消費税引き上げをともなう税制の抜本改革

世代間格差にもかなりのページを割いて言及している。
たとえば基礎年金の保険料方式から消費税方式への移行について。
国民年金は現在4割が未納だが、未納者の多くは将来、生活保護になだれ込んでくると
思われる。このままでは「真面目に年金を払った人より多くを受け取る」というねじれ現象
がありふれた光景になるだろう。
ついでにいうと、その費用は消費税としてみんなで負担することに
なるだろうから、払った 人はもう一回、乏しい老後の生活費の
中から負担させられるわけだ。

ならば今のうちから皆で薄く、それも高齢者にもお願いして負担してもらった方が合理的だ
というのは明らかだろう。

個人的に面白いと感じた政策は「大学入試の一元化」だ。
二次試験を廃止して、共通試験と論文や面接、高校時の成績での選抜に切り替えれば
不毛な受験競争は回避でき、多様な人材を確保できる。
合わせて卒業時の共通検定試験を導入すれば、大学教育の質を底上げできるはずだ。
付け加えるなら、それによって私立校と公立校の格差も一定程度は是正できるだろう。
いつも言っているように、今の時代に重要なのは「受験で何点取ったのか」ではなく
「大学で何を学んだか」である。

編集の腕が良いのか本人の筆が立つのかは分からないが、非常に読みやすい内容に仕上がって
いる。
彼の政策スタンスはとてもオーソドックスなものなので、日本の課題を考える上での入門書
としてもおススメだ。若者マニフェストのスタンスにももっとも近いかもしれない。

ただし、それはあくまで政治家個人の話。自民党という大所帯を通ってマニフェストになる頃
には、だいぶその色も薄れてしまう。彼は日経ビジネス誌のインタビューで
「自民党再生には10年かかる」と述べていたが、恐らく本心だろう。

比内地鶏

2010-08-01 12:29:12 | その他
僕が初めて比内地鶏を口にしたのは、4年ほど前、仕事で秋田に行った時のことだ。
「おいしんぼ」にも出てくる店できりたんぽ鍋と一緒に食べて、その味の深さに驚いた。
その後、東京でもちょくちょく食べてはいたのだが、なかなかあの時の味には及ばない。
いや、美味しいんだけど何かが違う。

そんな時、築地で見つけたのが鳥籐だ。
築地の鳥肉の卸しがやっている小さな店舗なのだが、普通の焼鳥屋とはちょっと違う。
肉屋だからか、鳥肉自身の味をすごく大事にしているのだ。

たとえば、人気メニューである塩味の親子丼がそうだ。普通の親子丼ももちろん美味しい
のだが、あっさりとした塩味のおかげで、鳥肉の味がより前面に出ている。
「でもやっぱり普通の親子丼が食べたい!」という人には、もちろん普通の親子丼もいい
のだが、奮発してシャモ親子丼を食べることをおススメする。しょうゆ味にまったく
負けない濃厚な味が味わえるはず。

もちろん、個人的な一押しは、比内地鶏を使った比内重だ。
通常の鳥重(大山鶏使用)の場合、鳥肉は照り焼きとなっているが、比内重の場合は塩焼き
となっていて、肉の味を損なわないようになっている。
ついでに細かな話をすると、通常の鳥重の場合はご飯の上一面にに味付けされた鳥そぼろが
のっているのだが、比内重は半面だけしか敷かれていない。つまり、比内肉の下は白いご飯
のまま。こんなところにも、味を壊さない工夫が見て取れる。
間違ってもそぼろと一緒に食べたりとか「そぼろ少ないじゃん」なんて言ってはいけない。

そういう風になるべく素材の味を殺さないようにして出される比内重は、秋田の味そのものだ。
ひょっとすると、普段ジャンクなものしか食べていない人には、やや薄味に感じられるかも
しれない。でも、ゆっくり噛みしめて食べて欲しい。
「しょせん鳥肉は安い肉、牛の方がずっと美味しい」という先入観が覆されると思う。


※この内容は、同店にて食事中、日テレ「every」の取材を受けた際にリポーターに熱く
 語ったけれども結局ボツにされた内容をベースとしています。