Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

訂正:公務員は別に流動化しなくてもいいです

2011-05-22 20:20:55 | 経済一般
先日のエントリですが、どうも、普段僕が接している良識ある市民の皆さん
(民間企業の第一線で活躍するビジネスマン)と比べるとだいぶ感覚的にずれている方
がおられるようで、一部誤解を招いたかもしれないので、もう少し簡単に書き下して
おこうと思います。

以前も書いたとおり、日本のツケをこれ以上将来に先送ることは不可能なので、5年以内に
消費税でいえば10%代半ばくらいには増税されるはずです(中期的には消費税30%相当が必須)。
となると、多くの国民はたぶん相当フラストレーションがたまるはず。
大衆は常に分かりやすい(かつ自分は無関係な)敵を求めているので、必ず怒りの矛先が
どこかに集中するはずです。

普通、こういうときに真っ先にやり玉に挙げられるのは経営者とか資本家なのですが、今回は
関係ないので省きます。一部には日銀をあげる人もいますが、(是非はともかく)大衆には
どういうメカニズムで彼らが悪いのか理解できないと思うので、これもパスでしょう。
では、怒りの矛先はどこに向かうのか。恐らく、それは公務員でしょう。

2年前、あるシンポジウムに出席した際の話。増え続ける社会保障給付をまかなうために
増税するしかないという話題が出たところ、ある閣僚経験者がこんなことを言い出しました。
「皆さん!公務員の人件費を半分にすれば、社会保障も財政再建も出来るんです!」
僕の感覚で言うと、そりゃいくらなんでもやりすぎなんですが、会場は一番わいていましたね。
たぶん、消費税引き上げのタイミングで、公務員人件費は主要政党の草刈り場になるでしょう。
「我が党は3割カットいたします!」
「いいえ、我が党は思い切って4割カットしてみせます!!」

共産党とか社民党といったマルクス系泡まつ政党も、さすがに階級闘争史観じゃ援護しにくい
でしょう。
だって、この場合は搾取階級=国民ですから(苦笑)
公的資金投入後のJAL労組に対して見せたような、非常にあっさりとした対応に終始すると思われます。

というわけで、今後の中期的なトレンドとしては、公務員の賃金はほっといてもどんどん下げられる
はずです。で、唯一の武器は転職市場へのアクセスしかないという話を書いたんですけど、
脊髄で反応しちゃう人にはわかんないみたいですね。
もちろん「もともと終身雇用という特権を持たず、クビになるリスクを織り込んでいる他国の公務員」
と比べて云々するのは、まったくもってナンセンスです。

これから彼らは、終身雇用の本当の恐ろしさを思い知ることになるでしょう。
担当する仕事は以前と何ら変わらないのに、ある日突然、給料が下がる。それも毎年、下がり続ける。
合理的な説明もなく、個人の努力で挽回することもできない。
市場価格を持たない人間は、組織と運命を共にするしかありません。
終身雇用の不条理さは、色々な人が様々な場で訴えてきたことです。
自らの身をもって経験することで、彼らも雇用問題を構造的に考えるよい機会になるんじゃないでしょうか。

まあ一般国民的には、身動きできないように縛りつけといてゴリゴリ削るというのがおトクなわけで、
僕はどっちでもいいかな。別に公務員じゃないし。


追伸:
一応、日本は自由主義経済なので、世の中のすべてのものは市場価格で決まっている。
買い手と売り手の折り合う価格という意味だ。これは賃金も同じ。サービスの買い手である国民が
値下げしろと言えば下げるしかなく、イヤなら転職するしかない。サービスと価格の折り合ったところ
に、適正価格が形成されるわけだ。
そこに「いくら支払われるべきだ」とおかしな“べき論”をつけた結果、派遣切りという人災が拡大
したわけで、いい加減おバカな空論こねてないで現実を直視しなさい。




公務員の賃金をいくら引き下げても構わない理由

2011-05-17 20:32:45 | 経済一般
お馴染み、国家公務員一般労働組合のサイト“すくらむ”がアクセル全開で飛ばしている。
例のごとく長文だが、要約すると実にシンプルだ。
「俺たち公務員の賃金を下げると、消費が下がって景気が悪くなるぜ」

民間の人にはあらためて説明する必要も無い常識ではあるが、人件費の原資というものは
有限であって、まずは稼がないといけない。稼げない分際で要求したって無いものは無い
ので払えない。だから普通の民間人はこういうみっともない要求はしない。
逆に言えば、公務員の労組がこういう要求を臆面も無く出してくるということは、
そういったコスト意識が皆無だという裏返しだろう。

ただし、実は彼らの主張にも一部の理はある。
恐らく、彼らが怒っているのは「なんで震災と直接関係ないのに、我々の賃金がカット
されなければならないのか」という点だろう。
それは正しい。少なくとも公務員のせいで地震が起きたわけではないし、原発事故も
彼らノンキャリとは関係ない。

一部の政党が言うように「財政難なのだから、彼ら公務員の賃金をカットすべきだ」
という声もあるだろう。では彼らの賃金が国際的にみて高いかというと、総額でみれば
必ずしもそうではない(この点、前半の主張は部分的に正しい)。

というわけで、
「なんで(国際的にみて)高くもない賃金を、震災理由でカットされにゃならんのだ」
という思いは、実は間違いではない。


ただし、日本と海外では、一つ重要な違いがある。
海外は職務給という仕事に値札がつくシステムであり、程度の違いはあれ労働市場は流動化
しているという点だ。つまり、公務の給料というのも労働市場とリンクしていて、
「それ以上引き下げたらみんな転職して業務が成り立たない相場」というのが存在している。
そういう市場の洗礼を受けた上で成立しているのが「GDP比〇%」という数字
なわけで、この数字にはきちんとした正当性がある。


一方、日本は職能給という属人給であり、市場価格ではないから、属する組織の格がモノを
言う身分制度だ。
つまり「公務員という身分に対し、国民がいくら払う価値があると考えるか」
が唯一の正統性なのだ。

だから、国民が賃下げしろと言えばするしかないし、公務員賃金半減を掲げる政党が政権を
とれば5割カットするしかない。

本来なら、彼らは労働市場にアクセスし、転職という武器を使って賃金水準を維持するのが筋だ。
でも「派遣の規制と正社員化」というアホな提言を見ても明らかなように、彼らはあくまで
身分制度を死守する構えのようだ。
「賃金下げたら景気が~」などという噴飯モノの言い訳は、「辞めるぞコノヤロー」と言うに
言えない窮状から絞り出された屁理屈に過ぎない(屁理屈にすらなっていないが)。

公務員と言う身分を死守し、それに殉じたいという彼らの志を、我々は尊重してあげよう。
というわけで、この未曽有の危機に際して、我々有権者は心おきなく、彼らの賃金カットを
要求しようではないか。
イヤなら転職すればいい。転職できないなら、転職できるような社会を作れ。
転職という武器を取る気が無いなら、そう遠くない将来、公務員は絞られるだけ
絞られる存在になるはずだ。




『公務員の賃金をいくら引き下げても構わない理由』
サブタイトル:あるいは、それを避けるたった一つの冴えた方法

内ごもり社会ニッポン

2011-04-18 17:23:32 | 経済一般
不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社



先週、ドイツに出張してきたのだが、ハンブルグ商工会議所の課長さんから面白い話をうかがった。

企業フェアのようなイベントを企画して、貿易実績のあるアジア諸国の企業に参加を打診した
ところ、マレーシアや中国、韓国といった国からは待ってましたとばかりに、それぞれ50社以上
のエントリーがあった。
ところが、日本からは〆切間近になって、ようやく10社ほどがエントリーしただけだったそうだ。
もちろんこれは震災前の平時の話。企業が営業を自粛する理由など何もない。
「いったい、日本で何が起こっているのか」と、親日家の多いドイツ人は本気で心配していた。

ついでにいうと、この手の話はけして珍しいものではなく、
「100億規模のコンペのオファーが来たのに、部署間でたらい回しにした挙句に不参加」
なんて話は大手企業ではたまに聞く。
よく「最近の若者は内ごもりだ」という論調があるが、少なくとも海外から見れば、日本全体、
上から下まで内ごもってるように見えるらしい。
佐藤優風に言うなら、戦後日本というシステム全体が空洞化し、自壊しつつあるのだろう。

この構造について、分かりやすい形で触れているのが本書である。
本書で言うところの「ホワイトカラーの上位層」(以後“W雇上”)は、日本型雇用が保証される
二階部分と考えて問題ない。そして、そのW雇上の多くが、団塊以降の世代では親も同じW雇上であり
一種の身分制度として世襲されていると喝破する。

もっとも、それ自体はどこの国でも普通に見られる現象だ。
誰だって自分の子供の教育には金をかけるものであり、遺伝子で振り分けでもしない限り、
経済格差の影響を成績から完全排除するのは不可能だ。
問題は、曖昧な選抜基準や硬直した雇用慣行によって、その身分制度化が強化されている点にある。

W雇上の家庭に生まれ、W雇上になるのが当たり前という雰囲気の中で育つことで、
何をやりたいのかという目的意識を欠いたまま、曖昧な形で選抜競争を勝ち抜き実績を作る。(中略)
その結果、“実績”は何かが出来るはずだという責任をともなう資格という意味を失い、たんなる
既得権へと変質していく。いわばW雇上の家庭に生まれたという既得権によって“実績”をつみ、
そうすることで、その“実績”自体もまた既得権化してしまうのだ。


さらに言えば、困ったことに、この疑似貴族階級は、ノブレス・オブリージュ的な階級への責任感
も持っていない。

西ヨーロッパのような明らかな階級社会であれば、たとえ競争という形をとっても、
それ自体の不平等さが目に見える。(中略)自分がその地位にふさわしい人間であることを
目に見える形で積極的に示さなければならない。
階級社会特有の「高貴な義務」という概念がそこに生まれる。


これが、社会の上位にどっかりと居座る、無責任で無反応で空虚な暗黒物質の正体だ。
普段はこれといって努力しないけれども、いざ自分の取り分が削られそうになると、
マルクスから内田樹まで総動員して屁理屈こねまくる人って、誰でも一人くらい心当たりあるだろう。
自身の生産性はまるっきり棚に上げつつ
「我々には雇われる権利がある」と息巻くJALのリストラ社員が典型だ。


よく「若者の内ごもりについてどう思いますか?」という質問をされるのだが、個人的には
内ごもりなのは社会全体であり、彼ら若者は空気を読んでいるにすぎないと考えている。
日本全体が海外に目を向けていたバブル期、その流れで猫も杓子も「海外勤務希望です」と言って
いた先輩たちと、本質的にはまったく変わっていない。
変わったのは日本を取り巻く環境であり、55年体制に引きこもって見て見ぬふりをし続ける日本が
停滞するのは、ある意味で当然の結果だろう。

分かっちゃいるけどやめられない

2010-12-22 19:33:50 | 経済一般
ダイヤモンド・オンラインの対談・後半部が公開された。
その最後に出てくるアンケートで、なんと53%の人が
「日本のホワイトカラーの生産性はとても低い」と回答していて驚いた(当初は57%だった)。
大した仕事してないのが自分なのか、それとも周囲の誰かなのかは分からないが、少なくとも
多くの人は、問題の本質にうすうす気づいているということだろう。

ところで、多くの人が「おかしい」と気付いていながら、相変わらず日本の日常生活は従来通り
に回り続けている。少なくとも職場で「ぶっちゃけ大した仕事じゃないよね」とか
「これって意味なくない?」とか言う人はあまりいないと思われる。
みんな、とりあえずは一生懸命に仕事をし、残業もし、そして春には新人も配属され、
「これっておかしいよね」と過半数の人が感じている輪の中へ入っていくのだろう。
これは結構凄いことではないだろうか。

少なくない数の人が疑問を感じつつも運営されている組織って、他に何があるだろうと色々考えて
いて、ふと若者マニフェスト策定委員会のメンバーである高橋氏の話を思い出した。
彼は東西ドイツのそれぞれの小学校に通った経験がある変わり種なのだが、彼がいた時期、
つまり崩壊寸前の東ドイツの小学校では、授業の多くが形骸化し、教室に来ないで自習ばかりに
する教師が何人もいたそうだ。
西側の授業と比べると、なんとも異質に見えたらしい。

みんなが心の底では疑問を感じつつも、一見すると平和に流れ続けている職場というのも、
外部からきたアウトサイダーが見れば、同じような違和感を感じるのかもしれない。

ちょうど先日、日本生産性本部が2009年度版のOECD加盟国の労働生産性比較調査結果を発表した。
日本はOECD加盟33カ国中、さらに一つ順位を落として22位。
みんなが見て見ぬふりを続ける限り、この順位が下げ止まることは無いだろう。

いくら金をばらまいても、社会に需要が無い以上はどうしようもない

2010-10-15 10:27:45 | 経済一般
週刊 東洋経済 2010年 10/16号 [雑誌]
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


今週号の東洋経済「本当に強い大学特集」、僕もコメントしているので少しだけフォロー。
いつも言っているように、日本の教育システムと企業の間には、深い深い断絶が存在する。
年功序列で終身雇用ということは、下っ端を雇って何十年もかけて組織内で育成すると
いうことだから、専門性など必要ないためだ。極論すれば、入学時点で大学の役目は
終わっていることになる。

この断絶の深さを端的に示しているのが、大学への入学者に占める社会人の割合で
OECD平均の21.3%に対し、我が日本国は1.8%に過ぎない。

要するに、大学というものがまったく社会に貢献していないわけですね。国も大人も若者に
「もっと勉強しろ」と言い続けているけど、当の大人がこれじゃあ説得力がないでしょう。
大学にいくら予算をつぎ込んでも、この状況は変えられない。だって、学問自体への需要が
ないのだから。せいぜい建物や施設が豪華になり、職員の給料が上がる程度の話だろう。
抜本的解決には、勤続年数ではなく能力で評価する仕組みの導入が必須である。

それがないがゆえに、キャリア戦略上もっとも重要な30代に穴をあけて大学進学する人間
などいない(そもそも離職してしまうと再就職できる保証がない)。
企業派遣で海外留学させてもらって帰ってきても、別に評価されるわけでもないから
外資に転職することになる。
そして、学生も入学時点でゴール到達だとばかりに遊びほうける。やはり勤続年数が重要で
あるがために、女性は就労と育児がトレードオフになってしまうため、結果的に少子化になる。
新卒でこけてフリーターになった人間は、ずっとその後もフリーターにロックされてしまう。

日本の直面する課題のかなりの部分は、この「勤続年数で人を評価する仕組み」に由来する。
まあ、ある程度リテラシーのある人なら、薄々感づいているとは思う。
でも、この問題はあまりにも根っこが深すぎる。

というわけで、財政も厳しいことだし、思い切って文系学部への公的助成はゼロにして、
理系の上位校だけ手厚くすればいいんじゃないか。
文系は入試だけやって「東大法学部、入学有資格者」なんてカード持たせてすぐ就職させた方が
長い目で見て本人の能力は向上すると思われる。

有期雇用の必要性、あるいは司法修習生の就職対策について

2010-08-22 10:19:05 | 経済一般
週刊 ダイヤモンド 2010年 8/28号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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日弁連が有期雇用契約の制限を提言するそうだ。
あまりにも荒唐無稽な内容なのでギャグで言ってるのかと思ったら、結構本気らしい。

何が何でも正規雇用が原則だという共産党や(一部の)労働系の弁護士センセイのご尽力の
おかげで、契約社員であっても3年経ったら雇用主責任が発生するという判例が出来てしまって
いる(面倒なので、この人たちは以下“サメ”と呼ぶ)。
というわけで、企業は請負や派遣といった形で雇用してきたのだが、サメ達は
「それは偽装請負だ!」「派遣も3年経ったら直接雇用にすべし」
といってそれらすべての芽を摘んできた。

215人の偽装請負を指摘され直接雇用に切り替えたものの、3年待たずに雇い止めにする
ダイキン工業は、上記の構図の縮図である。ダイキンでは10年以上も働いていた労働者が
いたそうだが、サメ達が「有期雇用を規制しろ」とやったために失職してしまったわけだ。
先日、本社の事務系派遣を「期間2年11カ月の契約社員」に切り替えた日産も、恐らく同じ
オチになるはずだ。

一方、企業にとってもメリットなど何もない。ノウハウのあるベテランをクビにし、またゼロ
から育成しなければならない。それも、3年置きに、ずっとである。
生産性のムダ、人的資本の垂れ流しだ。このグローバル化の時代に!

「では、非正規雇用労働者は、何も要求するなと言うのか?」と言われそうだが、それは違う。
どんどん要求するべきだ。
ただ、それは「正規雇用にしろ」ではなく「正規雇用制度を無くせ」 である。
いったん期間の定めのない長期雇用とみなされると、企業は賃下げも解雇も合法的には不可能
であり、だから請負や派遣といった形で雇用するのだ。そういったことが可能なシステムなら、
誰も2年半なんて中途半端な契約にはしないし、大手なら派遣会社なんて最初から使わない。

ついでにいうとリーマンショックのようなマクロショック時にも、正社員の側の人件費も
調整するはずだから、非正規“だけ”が切られるなんてことは無い。
要するに、非正規雇用と正規雇用は表裏一体であり、
後者を無くすことなしに前者はなくならないということだ。


連合は矛先が自分たちに向くことを極端に恐れている。だから、「非正規雇用との連帯」を
掲げるものの、やっているのは電話相談窓口を作ったりシンポジウムを開く程度のガス抜きだ。
連合に取り込まれた論者かどうかは、正規雇用に対する姿勢ですぐにわかる。
「とにかく正規雇用が基本です」とか「反貧困、でも定昇は必要です」なんて言ってる奴は、
個人的にはまったく信用していない。

とはいえ、5年前は完全にタブー状態だった「正規雇用問題」も、いまや自民がマニフェスト
に明記し、みんなの党も流動化に言及するまでになった。我らが社民党も率先して正規職員
を大リストラすることで「流動化無くして組織の生き残り無し」という範を示してくださっている。
少なくとも今、メディアでこの主張をすることは、既にタブーではなくなった。
当人たちがより明確に主張することで、状況はさらに大きく前進するだろう。

そうそう、ついでに日弁連の宇都宮会長にアドバイスをしておこう。
「仕事に就けない弁護士が増えた、だから犯罪行為に手を染める弁護士が増えてしまった」
大変心配されておられるようだが、民間企業同様に各弁護士事務所にも司法修習生の雇用
を義務付けたらどうですかね。
もちろん「期間の定めのない雇用契約」でね。

色褪せる民主党

2010-06-21 09:47:26 | 経済一般
先週末出そろった各党マニフェストを読み比べてみると、色々と面白いことに気づいた。
全般的に民主党の政策に元気がなく、みんなの党など改革を売りにした新党と比べると
地盤沈下が著しい。
一方、死に体だとばかり思っていた自民党が、「法人税引き下げ、消費税引き上げ」を
明記するなど、意外な進歩を見せている。

たとえば公務員制度改革について、自民党は、天下り根絶+あっせんに刑事罰と明記する
など鼻息が荒い。みんなの党の公務員に対するシビアな姿勢についてはあらためて
言うまでもないだろう。

ところが、民主党マニフェストからは、とうとう「官僚の天下り完全廃止」という文字が
消え、「各種公法人の廃止を含めた改革に取り組む」というきわめて穏当な霞が関文学に
落ち着いている。

この温度差は全般的に見られるが、特に差が出てしまったのが雇用だ。


みんなの党、自民ともに労働市場の流動化に舵を切り、
自民党に至っては解雇規制緩和を明記する一方で、
民主党は新卒者の採用奨励金など、まったく中身の伴わない
バラマキに終始し、連合べったりの限界ぶりを露呈してしまっている。

もっとも、実行責任のともなう政権与党が保守化し、当面はやってみせる必要の無い野党が
言ったもん勝ちになるのは当然なので、これをもって単純に
「自民が政策において民主を逆転した」というのは時期尚早だろう。
彼らは党人事や選挙活動を通じて、自分たちの本気度を有権者に訴えていく必要がある。
もう10年以上も有権者を裏切り続けてきたわけだから。

それにしても「同一労働同一賃金って共産主義ですか?」と言っていた一年前に比べれば
ずいぶんと進歩したものだ。
以前も書いたように、雇用政策は民主党最大のネックであり、労働組合という余計な足枷を
もたない他党にとって、雇用は心おきなく使用可能な最大の武器である。

みんなの党はそれに気づいて(今のところ公務員限定ながら)積極的にこの武器を使い、
第三極と言われるまでに党勢を拡大した。
今さらながら、自民党もこの武器の破壊力に気づいたということだろう。

今回、自民党は消費税10%という数値を打ち出し、増税というタブーに踏み込んだ。
有権者の意識が財政危機という現実に追いつき、増税がタブーではなくなったということだ。
同様に、日本の凋落という現実に直面することで、「正社員の既得権」もタブーでは
なくなりつつあるのだろう。

選挙戦では「新規採用4割減による国家公務員人件費2割カット」なんてつついてみると
面白いんじゃないかな。
“第三の道”なるものの中身の無さがむき出しになるだろう。

祝・新卒バブルの崩壊

2010-06-14 13:27:51 | 経済一般
文藝春秋7月号、パナソニック大坪社長の「わが打倒サムスンの秘策」がなかなか
興味深い内容なので一読をおススメする。
特に興味深かったのが、同社の新卒採用方針について触れた部分。
来年度新卒採用1390人のうち海外採用1100名というのは既報だったが、290人の国内枠
というのは日本人枠というわけではないらしい。

日本国内での新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず
海外から留学している人たちを積極的に採用します。


このことは、現在の就職氷河期が一過性のものではなく、もはや永続的なものだという
ことを示している。リーマンショックと共に円安バブルも崩壊し、それまで辛うじて
維持できていた日本型雇用が詰んでしまったので、とりあえず入口から切り替えますね
ということだ。景気回復しても国内の雇用は大きくは増えないだろう。

もっとも、これは日本人として喜ぶべきことだ。なぜって?
「自国企業がより優秀でグローバルな人材を採ります」と言ってくれているわけだから、
とっても合理的な経営判断だと言わざるを得ない。
「私たちはどうなるんです?」と不安に思う人もいるだろうが、答えは一つしかない。
中国や韓国の若者たちに負けないように一生懸命努力する、ただこれだけだ。

企業と個人の両方が努力すれば、その国は力強く成長するだろう。
後者が変われなければ、前者は国を捨てて出ていくだろう。

「雇用を守れ」と左派が泣きわめいても「日本人を雇え」と保守がぶいぶい言っても、
あるいは左右が共闘しても、この流れは変えられない。
政府が出来るのは、規制を緩和してそれぞれが全力で頑張れるような環境をお膳立てする
ことだけだ。

法人税引き下げを明言している菅政権には、もうひと踏ん張りして雇用コストの引き下げも
お願いしたい。

「パンとサーカス」は無料ではない

2010-05-03 14:12:56 | 経済一般
先日のアエラ特集(及び先のエントリー)にはネット以外からもいろいろなレスポンスがあって、
あちこちでこの話をした。やはり「財政がこのままじゃいかん」という危機感が高まっているのだろう。
既に世論の潮目は変わったのだ。
文藝春秋5月号「あと4年、財政と年金は同時に破綻する」のように、
ぼちぼち具体的リミットもつぶやかれ始めている。

基本的には、増税か社会保障のカットか、あるいはその折衷という道しかない。議論はここから
スタートすべきだ。
(というわけで、とにかく消費税35%にしろという気はないし、消費税にだけこだわっているわけでもない)

ところで、日ごろは自助努力の大切さを伝道しているような人なのに「社会保障給付のカットはダメだ」
という人がいたのは面白い。
どうやら自分が貰うことになっている分は既得権として認められるべきで、そこから漏れちゃってる人たち
は自分で何とかしろということらしい。おいおい。

逆に、貧乏人の味方面をしていながら、「増税には反対です」という人もいて興味深かった。
いや、反対なのは別にいいんだけれども、将来、緊縮財政と大増税が実施された場合、
「僕達私達は弱者だから助けてください」なんてことは、同世代として恥ずかしいから言わないでね。
必要な改革を拒否したわけだから、若いもんに迷惑をかけるべきではない。
最後まで政府による介入を拒否しつつ安らかに逝ってください。

要するに、こういった人々は、普段は自己責任論や再分配重視というスタンスを掲げてはいても、
実体としては「パンとサーカス」を求める大衆に過ぎないわけだ。

これからの保守というのは、社会保障給付を大きくカットし、自助努力を促すことで財政を維持する路線を
主張する人たちがコアになるだろう。つまり、小さな政府という理念を共有しているグループだ。
この理念があるというのなら、増税には反対だろうが、当然、社会保障のカットも受け入れるべきだ。
ちなみに、国民新党にしろ平沼グループにしろ、片手間に保守と称している族議員か、55年体制から
頭が切り替わらない老人の集団なので、若者は無視してかまわない。

一方のリベラルは、再分配機能を重視するのであれば、負担も合わせて受け入れるべきであり、
最も公平で経済的影響も少なく、税収も安定していて世代間格差是正効果もある消費税を中心に考えるべきだ。
「大企業の内部留保に課税せよ」しか言わないバカ政党は論外だし、「どちらもイヤだ」というのも
ありえない。

僕自身は、社会保障給付に混合診療やキャップを導入することで増加分を抑え、消費税の増税幅も
抑えるのがベストだと考えているので、そういう意味では“保守”に入ると言えるかもしれない。

さて、先の「パンとサーカス派」の人々だが、恐らく彼らは互いをシンパだとは認識できていないだろうが、
このままいくと、やがて同じゴールでばったり顔を合わせることになるだろう。
ひょっとすると、みずほちゃんと亀井さんの相乗りする現政権は、彼らの野合の走りかもしれない。

ただし、ギリシャを見てもわかるように、「社会保障を守れ」という声も「増税反対」という叫びも、
増税と緊縮財政を求める市場の圧力の前にはあまりにも無力だ。

消費税は30%引き上げが望ましい

2010-04-29 09:22:01 | 経済一般
今週号のアエラ合併号、消費税特集に回答しているのでご報告。

スペースの関係で僕個人の名前しか出ていないが、回答は若者マニフェスト策定委員会のメンバーと
行っている。我々が提案している消費税の引き上げ幅は、30%だ。

内訳はこうだ。
2010年度予算の財政赤字44兆円。新幹線や東名高速のように、将来にわたって有益なモノを作る投資
ならともかく、ただ赤字垂れ流してるだけなので、ツケは我々みんなが払うべきだ。
(そもそも、既に郵貯限度額を引き上げねばならないほど発行余力は限定的)
というわけで、消費税1%で2.5兆円として、約18%。

次に、これから確実に増える社会保障分についても、今から手をうっておかなくてはならない。
(年金や医療といった)社会保険料だけでは賄いきれない公費負担は、現在約40兆円。
これは高齢化のピークに近い2055年度にはおよそ70兆円にまで増加すると予想される。
増加分をとりあえず消費税でまかなうとすれば、当面6%、最大12%ということになる。
財政赤字分と合わせて30%の引き上げが必要というわけだ。

ただし、手を打つのが早ければ早いほど数字は低くなる。
社会保障分については、最初から9%程度に引き上げておけば、運用益とあわせて増加分をまかなえる。

また、社会保障制度の確実性が高まれば、それは負担ではなく貯蓄の性質が強まるので、実質的負担増と
言えるのは18%ほど。
(今は「どうせ自分らの時には貰えないだろう」と多くの現役世代が信用していないため、
負担感だけが異常に強い)

さらに言えば、現在の社会保障の公費負担の3割強は財政赤字で賄われているとされる。
つまり、この分も負担増というよりは貯蓄とみなすと、さらに12兆円約5%を増加分から差し引けば、
実質的な負担増と言えるのは13%程度ということになる。

まとめると、以下になる。

持続可能な社会を作るために必要な消費税引き上げ幅30%のうち、

・将来への貯蓄として17%(それも、すぐにでも引き上げ可能なら14%程度)
・財政赤字として若年層にツケ回ししている分を消費税としてみんなで負担13%

ということになる。全世代で公平に負担するわけだから、なんて素晴らしい案だろう。

「景気が悪くなったらどうなるんだ」という声もあるかとは思うが、
財政の持続可能性という重大問題を前に、そんなみみっちいことを
気にする必要はない。

ちなみに、回答者21人中、「10~15年内での破綻」を予想しているのは8人。これだけ見れば
まだ余力はありそうに見えるが(といっても3割超が破綻予想だが)、非破綻サイドが必ずしも
安泰だとみなしているわけではない。
「優秀な人材を海外から入れる戦略を実現できれば回避可能」(加藤出)
「15年以上の長期では確実に破綻状態だが、当面の数年間は大丈夫」(小林慶一郎)
「ギリギリ一歩手前で国民が増税に賛成するはず」(永野良佑)
という留保つき非破綻派(破綻自体はありえる)とする論者が少なくとも3名はおり、これを
カウントすれば破綻派が逆転する。

もちろん「増税だけに頼らず、経済を成長させる方法」はしっかり考えるべきだが、とりあえず
ダダ漏れしている予算はきっちり閉じるべきだろう。合わせて成長戦略を実行すればいいだけの話である。
だって、まずは成長を!と言っている人は、もちろん頭の中に明確なプランがあって、すぐに
実行可能なんだろう?だったら一緒にやればいい。
財政はペイ・アズ・ユー・ゴーが基本であり、次世代のツケで飲み食いするのはマナー違反である。

恐らく、頭では理解できても、単純に「そんな数字は非現実的だ」と感じる人は多いだろう。
それは正しい。ただし、非現実的なのは、バブル崩壊後、抜本的な手術も努力もしないまま、
以前と同じ生活水準だけを要求し続けてきた日本人の頭の中である。
国家が破産寸前にもかかわらずゼネストやっているギリシャ人を、日本人は笑えない。

というわけで、道は二つしかない。これだけの負担をするか。
それとも、医療、年金といった 社会保障自体にも大きくメスを入れるか。
まずはこの現実を直視することが議論の第一歩となるだろう。