Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

なぜ勝たせてもらったのかをよく考えるべきだ

2009-08-31 13:36:56 | その他
昨日の総選挙だが、まさに時代が動いたという印象だ。
自民の古参議員の落選が伝えられるたび、その足音が聞こえるような思いがした。
(ヤマタク以外はだいたい比例で復活してしまったが)

個人的には、社民・共産・国民新党があまり減っていないのが残念だ。このへんは
幸福実現党込みで合計5くらいが分相応だろう。
平沼グループがしぶとく生き残っているのもいまひとつ。
どう美化しようが、一枚めくれば古き悪き自民党でしかないのだから、
もう役割は終えている。

ところで、民主に投票しておいてなんではあるが、中継を見ているうちに、
だんだんとブルーな気分になってしまった。
というのも、勝って大喜びの民主新人たちに、「時代を変える」という気概の
ようなものがあまり感じられなかったからだ。僕は日本をぶっ壊して欲しくて投票
したわけで、バラマキ額のアップや既得権の延命を期待しているわけではない。

ひょっとして、民主の新人の中には、労組や市民派の出身者がかなり混じって
いるのではないか?
当選したオバちゃん候補が大喜びで
「後期高齢者医療制度もやめます、子育て支援します、雇用対策もやります」
と口走っているのを聞いて、ふとそんな気がした。
今は「パイをどう再分配するか」そして「パイ自体をどう増やすか」の議論を
しているのであって、「お礼にもっといっぱいばらまきます」というステージは
20年以上前に終わっている。
とりあえずは、当確が出てはしゃいでいただけだと信じたい。

それから、特番ではテレビ東京の特集がもっともレベルが高かったように思う。
具体的に言うと、竹中、猪瀬、藤井(民主顧問)、榊原、北川といったオールスター
による政策議論をメインに、雇用から経済政策、外交にいたるまで、かなり
突っ込んだ議論を展開するというもの。
はっきりいって、朝生よりよほど充実していた。
「みんな大変なんですぅ~」とか「階級闘争貫徹!」
とかいうアレな人たちを一切呼んでないから、当然だろう。

もちろん、エコノミスト代表も、森永卓郎のような電波芸人ではなく、
伊藤元重先生を呼んでくれているので議論がかみ合う。さすがテレ東。
(姜さんだけは明らかに浮いていた。朝生向きなのかも)
他局も、「頭数だけそろえりゃ盛り上がるだろう」的な発想はいい加減捨てるべきだ。

個別テーマで印象に残ったのは、やはり雇用問題だ。
まず小谷キャスターの振り方が良い。(民主のマニフェストを示しつつ)
「むしろ流動化に逆行して、既存の雇用に偏ってませんか?」
という風に、流動化がデフォルトでインプットされている。


もちろん、こんなことは常識なので、座の誰も異は唱えない。
素晴らしい。真の議論とはこういう場でなされるべきだ。
「非正規雇用ってなんですか?」とかいうアナ(ホントにいた)に説明しつつ
1分で自論展開するのは不可能なので、こういう場が実に羨ましい。

前回まではあまり記憶にないので、今回から路線を変えたのだろう。
「誰にでも分かりやすい」の逆を行ったわけだが、差別化が図れていいんじゃないか。
無駄に凝ったCGや、老人新聞の論説委員の説教などより、はるかに有意義だ。

それと、もう一点気づいた点。
番組中、何度も小谷さんが竹中氏と榊原氏(民主ブレーン。入閣の噂も根強い)に
話していたのが「お二人とも、意外と意見は近いんですよね」

そう、成長率を高めるために規制緩和を中心とした構造改革を実施し、財政再建を
並行して行なうという点で、両党の政策立案者は基本的に同じ方向を向いている。
では、なぜ両党が対立しているのかというと、それぞれ身内に悪玉の異分子を
抱え込んでいて、それらが反発しあっているから。

今回の選挙で、自民側の悪玉の多くが排出された。
真面目に改革をするつもりなら、民主の側においても、何らかの形で同じプロセス
を踏むことが必要だろう。
そうすれば、多くの人が望むような形での政界再編が実現するに違いない。


雑感@投票日

2009-08-30 11:44:51 | その他
いよいよ投票日だ。

今回、周囲の人間と話していて、一つ気づいた点がある。
05年の総選挙と、とても雰囲気が似ているのだ。

(たいていの2、30代はそうだと思うが)僕自身も含めて、周囲にはノンポリ
ばかり、少なくともごりごりの党員は一人もいない。
つまり、典型的な都市部の無党派層というやつだ。
当然、そんなに熱心に投票にはいかない。欠かさず投票しているという奴でも
「とりあえず行かないともったいない」とか、そういうレベルだ。

あの時、なぜだかそういった無色な連中がゾロゾロと、揃って投票所に足を運んで
いた。ふと、選挙の話になると、驚いたものだ。
「え?おまえ投票したの?どこ?」「いやあ、自民にね」
みたいな会話を飲みに行くたびにしていた気がする。

なぜ、支持政党もない彼らが投票所に足を運んだのだろうか。
社説に泥を塗られた形の毎日新聞などは、発狂したかのごとく
「劇場型選挙の弊害だ!」
と言っていたが、それは違うと思う。
はっきりいうが、新聞やワイドショー見るほど彼らは暇じゃないから。

今回も、その時のような一種の熱気を感じている。
ただし、今回、その熱が行き着く先は民主党だ。
たぶん、お先真っ暗な老人新聞は
「ゆき過ぎた市場主義の反動、共生社会を求める有権者の選択」
なんて頭の悪い社説を書きそうだが、もちろんそんなチープな理由ではない。

少なくとも僕自身は、その“共生社会”とやらを
ぶち壊してくれることを期待している。

変化と言うべきなのかもしれないが、心情的には破壊という語感が近い。
同じような感覚の人は少なくないのではないか。
少なくとも、社民党や国民新党の言うように「ぜんぶ90年代に戻してください」
なんて人には会ったことがない。
それは、若者が現在感じている閉塞感を固定化するということだ。

小泉改革はもちろん評価すべきだが、少々壊しっぷりが物足りなかった。
そういう意味では、鳩山さんの見事なKYぶりは逆に期待している。※
ああいうピュアさには、一種の宗教的狂気に通じるものすら感じてしまう。
小さくまとまらずに、太く短く、突っ走っていただきたい。

というわけで、昼飯がてら行ってくるか。



※VOICE9月号の「私の政治哲学」が何べん読んでも意味がよくわからない。
 昨年、岡田さんが文藝春秋や中央公論に寄稿したものと比べると実に対照的。

命の値段が高すぎる

2009-08-28 10:00:17 | 書評
命の値段が高すぎる!―医療の貧困 (ちくま新書)
永田 宏
筑摩書房

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「医療がたいへんだぁ、たいへんだぁ」と騒ぎたいだけなら、岩波新書でも
立ち読みすればいいのだが、「何がどう問題でどうやって解決すべきか」に
関心のある前向きな若人には、本書の購入を強くおすすめしたい。

本書の流れとしては、小泉医療改革の総括によって、医療システムの構造的な
問題をあぶりだす。
一言でいうなら、それは医療という破綻確実なシステムへの、一大延命手術だった。

本来、一時的な疾患を想定して作られた保険制度であるが、慢性化しがちな高齢者
医療の比率が増えれば、保険料をどんどん引き上げねばならなくなる。
65歳以上の人間を、15歳以上64歳以下の現役何人で支えるかを扶養率というが、
05年時点で3.3人。これが25年には2.0になることがほぼ確定している。
つまり中学卒業直後の少年少女まで動員して、二人で一人の
高齢者の各種社会保障を面倒見るわけだ。

著者もいうように、これはもはや実現不可能なフィクションの世界だろう。

いや、これはシミュレーションではなくて、既に平均年齢の高い国保については
現実のものとなっていた。若者の多い都市部ベッドタウンと地方の国保財政格差は
拡大し、保険料は最大で5倍に達していた。事実上、国保は破綻していたのだ。

ここで登場したのが、小泉医療改革である。後期高齢者医療制度の成立など、
注目すべき改革が多く含まれた。具体的には、

・後期高齢者医療制度により、75歳以上の医療費を国保、健保組合から切り離した。
・高齢者の保険料負担を通じ、医療支出抑制に対する一定のインセンティブを確保
・一方、前期高齢者医療制度(65~74歳対象)も導入し、金の無い国保へ、
 比較的余裕のある健保から金を出す仕組みも作った。※

要するに、企業も連合も自治体も国も、みんなが青天井で増え続ける高齢者の
医療費の負担を嫌がって押し付けあっていた中、なんとか共存可能な仕切り直しを
してくれたわけだ。
余談だが、健保からの高齢者向けの負担増に対しては、経団連と連合が
見事な連係プレーで反対する様子が面白い。
有権者の前でいつもやっている『階級闘争ごっこ』を
一時中止して、既得権の死守のために共闘しているわけだ。


著者は、さらなる医療の合理化と負担の平準化が必要だと説く。
そして、そういった努力に言及すらしない既存政党を厳しく批判する。

政党の中には、今でも高齢者の保険料を下げ、自己負担率も下げ、
さらに介護と年金を充実させるといった夢のような政策を掲げている
ところもある。よほど勉強不足で状況認識ができていないか、
さもなければ所詮はマニフェストと割り切っているかのどちらかであろう。
その点ではむしろ小泉内閣のほうが、はるかに現実的だったと言っていい。


そう考えると、後期高齢者医療制度の廃止を訴える政党は、
「医療制度を破綻させましょう!
若者にはぺんぺん草すら残さないようにしましょう!」

と言っているわけだ。

ただし、それでも著者は、小泉改革は抜本的な解決策ではなく、しょせんは延命策
に過ぎないとする。というより、そもそも問題の抜本的解決は不可能だと説く。
なんとも夢の無い話だが、考えてみれば当然だろう。
今から30年後、現役二人で一人の我々を支えなければならないことは間違いないし
そんなことが不可能なのも間違いない。
現在の感覚で言うと「だったら国が負担を肩代わりしろ」となるのだろうが、
その頃の日本国にも日本経済にもそんな余力は残っていないだろう。
つまり、我々は、国力に不相応な社会保障を先輩方に提供し
続けるために身を粉にして働いた挙句、自分たちは
分相応ですらない社会保障の中で死んでいくのだ。


 北欧型の高福祉国家も、人口構成がバランスを取っているから維持できている
スタイルであって、日本で導入することは困難だ。こうなることは予想できていた
はずなのに、出生率が2.0を割った70年代から、日本は何一つ変えられず、
変えようともしなかった。

なぜだろう?
「失点さえなければエスカレーター式で出世できる」
「あと数年、目をつむっていればゴールできる」
ような人事制度が、やはり深く関係しているような気がしてならない。

唯一可能性があるとすれば、徹底した規制緩和で経済成長を実現しつつ、
社会保障改革で負担の平準化(つまり高齢者に一定の負担を求めつつ、各種社会保障
を積立式に移行させ我々自身が加害者になることを防ぐ)を実現することか。
いずれにせよ、一刻の猶予もないはずだ。

僕は医療を神聖視していない。時代によって、公的な保証範囲や負担は見直される
べきだろう。
「いかなる改悪も認めない、命を金に置き換えるな」というような人は、
未来に対してどう責任を負うつもりか。
現在か未来か、違いはあっても、人道上の罪にかわりはないはずだ。

そういった視点から、再度“命の値段”を問うべき時が来ているのではないか。
そういった気づきを与えてくれる良書である。


※国保は助かったが、健保はカンカンである。
よく「後期高齢者医療制度でサラリーマンの負担が増えた」と言われるのはこれ。

民主党の年金改革

2009-08-26 19:18:48 | 世代間問題
民主党の年金改革プランの概要が明らかになった。
11年までに記録問題をクリーンに、13年に法案成立というロードマップまで
組んでいる。

まだ数字も一部しかない概要なのでなんとも言えないが、基礎年金部分の税方式化
は以前から言っているとおり、未納問題を先送りしないためには必須なので、
素直に評価したい。

厚労省や厚労省系の御用学者は「未納者が増えても本人が貰えないだけで、年金は
破綻なんてしない」というロジックを使うが、払えるのに払っていない未納者は
むしろ少数派だろう。
そういった未納者及び無資産者が生活保護になだれ込んでくれば、その社会保障
コストは年20兆という試算もある(NIRA:2009)。
要するにこれも問題の先送りであり、今のうちから負担するシステムを作って
おくべきだ。
そもそも、公的年金制度において「未納者がいてもよい」というスタンスは
ありえないだろう。

余談だが、厚労省がそうまでして現状の年金制度に固執するのは、保険料という
莫大な資産を自分たちの影響下に残しておきたいためだ。
当然、税源化されてしまえば、それは財務省管轄となる。

というわけで、民主党の改革案には厚労省はものすごく反発するだろう。
どうやって手綱を握るのか、ちょっと楽しみではある。
ついでにいえば、このプランに対する言動で、誰が御用学者か、ようくわかるはず。
識者のコメントにも要注目だ。

その他、論点になりそうな点。
・自営業者の15%負担とサラリーマンの保険料の整合性
いきなり負担が激増するので、自営業から結構な反発が出るかも。
本当はサラリーマンの使用者負担分も本人負担みたいなものなので、特に不公平とは
思わないが、何らかの緩和措置は必要かもしれない。

AERA最新号

2009-08-25 14:38:21 | work
アエラの今週号で、若者マニフェストについてコメントしている。
選挙特集中の囲み記事で、タイトルは

「政治家はわかっていない 当事者の7割が反対 派遣法改正は天下の大愚策」

内容はタイトルどおり。
安易な規制は若年層にとってマイナスでしかない。
リクルートワークスの大久保氏の以下のコメントは象徴的だ。
「こんなに当事者から反対されるマニフェストはあるのか」

要するに、当事者ほったらかしで、政治闘争のだしに使われているわけだ。

ところで、ちょうど同じタイミングでJcastのインタビューも公開されているのだが
こちらのタイトルは
『労働・雇用政策はどの党も落第 「派遣禁止」に至っては世紀の愚策だ』

仲の悪いネットと紙媒体が、同じようなタイトルにかぶるというのも面白い。
まあ、誰が考えても“愚策”に違いないということだ。

それにしても、今週のアエラは、勝間コーナーでも「労働市場の流動化」
について言及している。素晴らしい!
朝日新聞より全然リベラルではないか(笑)
この調子でもっと飛ばして欲しい。




若年雇用対策プロジェクトチームの迷走

2009-08-24 10:23:38 | その他
「若者の雇用をなんとかしよう!」という偉大なリーダーシップのもと、
内閣府に設置された「若年雇用対策プロジェクトチーム」。
内閣府から農水省まで、とりあえず集めてみました的な官僚の皆さんと、
有識者の二段構えからなる特命プロジェクトだ。

といっても、官僚はやる気なさそうだし、そもそも政権もやる気無さそうだし、
有識者といっても官僚が総花的に並べてみただけだし、はっきりいって
目新しいものは期待していない。
でもまあ、ちょっとは気にかけていて、たまには資料でも読んでやろうかと
見に行ってみれば、予想通りのぐだぐだぶりである。

だいたい、若年層の失業率や非正規比率が高いのは、(正社員の)雇用が硬直して
いるためだというのは、誰が考えたって明らかだろう。
ならば議論の本丸は、正社員の雇用全体も含めた労働市場の流動化しかありえない。
今、必要なのは正社員の処遇見直しのルール作りだ。

が、いまひとつ煮えきらず、本丸の周りをみんなでぐるぐる回っている印象だ。
以下、個別資料から総括。

日本総研の山田さんはさすがに(オブラートには包んでいるが)ポイントは外さない。
以下については明言している。

・非正規雇用の増加は時代の趨勢であり、規制強化で解決はしない
・職務給化の推進と、正社員も含めた労働市場全体の再設計が必須


勝間さんも、ちょっと幅がありすぎる気はするが、同じ方向ではある。
まあ、この程度の話は「凄い」というほどのこともなくて、ちゃんと新聞読んでる
人なら単なる常識だ(ゲンダイと毎日除く)。
問題は、この“常識”が政策に反映されない日本という巨大システムにある。

そのシステムの中核を担う連合の古賀さんは、相変わらずアリバイ作りに余念がない。
正社員のせの字も言わず、職業訓練や企業支援(?)など、とってつけたような
提言でお茶を濁すだけだ。なぜかニート対策まで入っている。
資料のスペースを埋めるためなら、何でもいいんだろう。本当に連合はお茶目だ。
というか、もうこういうのに連合呼ばなくていいから。

一応、月内に提言をまとめるらしく、骨子のようなものは出来ているらしいが、やっぱり
「カウンセリングや訓練といった就職支援」と、
「新卒偏重からの脱却を企業に呼びかける」
くらいの話で終わりそうである。
本丸の周りをぐるりと回って「若者もよろしくね!」と声だけかけてきました的な
感じか。
“支援チーム”や“推進会議”を作るのはいいけど、何をするのかが重要なはず。
アリバイ作りと言う点では、政府も同じかもしれない。

意外にいけるかもしれないアニメの殿堂

2009-08-23 14:06:47 | その他
世間では、もう夏休みも終わってしまったらしい。
夏は割と暇なので、例年なら一週間くらい休めるのだが、今年は全然。
むしろ平時より忙しいくらいだ。
なぜだろうと思ったら、そうか、選挙か。

今のところ、唯一行ったのはお台場だ(近所だけど)。
いや、実物大ガンダムは凄い。ちょっと感動する。
台風が来たら倒れそうなくらい、ちゃんと二本足で大地に立っている。

外国人観光客の姿が意外と目に付いた。
ぱっと見で分からない東アジア系の人も含めると、結構な数が集まっていたのではないか。
観光庁を設置するなど、政府も内需の柱の一つに観光をすえているようだが、
この手のソフトパワーは意外に有効かもしれない。



高校生の頃、修学旅行で上京した際、最終日の自由コースは
上野とディズニーランドだった。
どっちも悪くないけど、海外向けにはもう少しオリジナリティのあるコースも欲しい。
そう考えると、麻生さんの言っているアニメの殿堂も悪くはない気がする。
モビルスーツをもう10機くらい並べておけば完璧だろう。
わけのわからないダムとか空港作るより、よっぽど経済効果がありそうだ。


未来志向の人、宗教化する人

2009-08-21 11:03:14 | その他
以前も紹介した事のある季刊の労働情報誌『POSSE』vol.4

非常に興味深い特集が組まれているので簡単に紹介。
ここでは全部は書かないが、肝は雇用問題に対するスタンスを、
「職務給-年齢給」
の縦軸と
「社会保障など、国家による福祉-従来型の企業主体の福祉」
という横軸で4つに分類している点だ。

(1)最賃引き上げ、より充実した社会保障、積極的雇用政策などを含む
   流動性の高い労働市場
(2)流動性の高い労働市場だが、規制も社会保障もきわめて限定的
(3)一定の規制緩和を進めるが、あくまで従来型の正社員長期雇用を軸にし、
   新たな社会保障政策にも消極的
(4)従来型の正社員長期雇用を軸にしつつ、そこから漏れた分は社会保障で
   面倒見るよう主張する一派

 そして、実はトヨタ、キヤノンのような財界の雄はもちろん、自民党から共産党
にいたる既存政党のすべては、基本的に従来型の長期雇用を支持しており、
その意味で(3)か(4)かの違いでしかないこと。
 そして、そもそも、(4)というのは実現不可能であるとする。

まったく同感だ。現在の正社員中心の雇用体系を維持しつつ、社会保障の拡充で
帳尻を合わせようというのは民主党も明言するスタンスだが、これなら正規と
非正規の格差は温存されることになる。※
断言するが、非正規の取り分は増えないし、正社員の椅子は
空かないし、経済全体の生産性は停滞するから、再分配で
恵んでもらえるパイなどたかがしれている。

だから結局は満足のいく社会保障システムの構築など、出来はしないだろう。

(3)については以前述べたとおり、トヨタモデルの崩壊で実質的には終わっている。
   
というわけで、結果的に(3)と(4)は一緒くたに混ざりながら、ずるずると
地盤沈下し続けるだろう。
未来があるとすれば、それは(1)と(2)だ。

本特集の主筆である昭和女子大の木下教授は、従来の年功序列制度は、もともと
年齢、性、そして雇用形態といった“差別性”を含むものであり、そもそも従来の
労働運動にはそういった差別性に取り組む意識が希薄だったとまで明言している。
非常に秀逸な視点だと言わざるを得ない。

この雑誌は、いわゆる左派系である。こんなに柔軟性のあるグループもいるのだ。
よく誤解されていることだが、実は左派の中で「終身雇用を守れ!」とか
「階級闘争ですべて解決!」と言っている人は、けして多数派ではない。
むしろ彼らに言わせれば「日本共産党みたいな化石と一緒にしてくれるな」だそうだ。

長期的には、上記(1)と(2)のグループの間で、大きな政府か小さな政府か
といった対立軸が形成され、新たな左右陣営が作られるのだろう。
もちろん、新たなリベラルとは(1)のことだ。

テレビの討論番組などで、向かいに連合と共産党が並んで座っているのを見る度に
うんざりしてしまう。で、「大企業は内部留保が100兆円もあるんです」なんて
ヨタ話に付き合わされるハメになるのだ。
「とりあえず保守と共産を並べて両論併記にするのがジャーナリズム」
というのはバカ丸出しだし、やらされるこっちは疲れるだけなのでやめてほしい。
そろそろメディアも、新たな軸の存在を意識してコンテンツを作るべきだ。


※そもそも民主のマニフェストにしても、子供手当てを除けば高齢者向けの
 バラマキの方が多く、若者向けには職業訓練給付くらいしか言及していない。

TBSラジオ『アクセス』 25日 出演予定

2009-08-19 12:19:00 | work
最近、メディアがヘンだ。
いや、いい意味で、だ。
たとえば今週号のSPA。とかく脱力系企画のイメージが強い雑誌ではあるが、
雇用特集、格差特集、東国原インタビューなどが組まれ、僕の連載も
合わせると1/4くらいが政治系だ。
(田中康夫のペログリは選挙が終わるまでお休みらしいが)

テレビもそうで、たとえば今週の報道ステーションがやけに熱い。
月曜日の山崎養世(民主ブレーン)と猪瀬直樹の高速道路無料化議論も熱かったが
昨日は細田さんが雇用流動化に(ちょっとだけ)言及していた。

個人的にも、普段からいろいろ記者の人とお付き合いはしているが、話題が雇用半分、
政策半分といった割合に変化してきている。

要するに、日本社会のあちこちに割れ目が出来て、そこから熱いマグマが噴き出して
いるように思えてならないのだ。
たとえば3年前なら“流動化”なんて、なかなか人前では言えなかった言葉だ。
もう何があっても時計の針が戻ることは無いだろう。

25日のTBSラジオ『アクセス』は、通しゲストとして22時から出演予定。
もちろん、テーマは総選挙だ。

グリーン・ニューディール

2009-08-18 11:54:06 | 書評
グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか (生活人新書)
寺島 実郎,飯田 哲也,NHK取材班
日本放送出版協会

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米国の労働生産性が、4~6月で6.4%上昇したとのこと(前期比年率)。
過去6年間で最大の上げ幅らしい。
理由は簡単で、生産性の低い仕事をどんどん切り捨てているからだ。

ではリストラされた労働者は?当然、人を雇いたがっている産業、新たな職場で
再チャレンジすることになる。そのダイナミズムの一端を描いているのが本書だ。

グリーンニューディールの名の下に、10年間で1500億ドルを投資し、
500万人の雇用創出を掲げるオバマ政権。
世界のエネルギー大国の中には、イランやベネズエラのように、アメリカとあまり
関係のよろしくない国もいる。そういった敵に払う金を国内に向けるという
エネルギー戦略&内需拡大というメリットがある。

現在、アメリカで何が起きているのか。
そういったエネルギー分野でベンチャーやファンドが活発に活動し、人や金が
流れ込みつつあるのだ。
たとえば、ソーラーパネルの設置技術を教える公的な職業訓練講座は、今回の
金融危機で職を失った失業者で満席状態だ。もちろん、それは需要があるからで、
スカウトのためにやってくるリクルーターも絶えることはない。
大手鉄鋼を解雇された労働者は、風車を作る工場に再就職した。
ブルーカラーからグリーンカラーへの転職である。

僕は、こういうところに、アメリカの真の地力を感じてしまう。
どん底の80年代も、ITバブル崩壊後も、アメリカは常にリストラをし続けてきた。
でもそのたびに、新たな価値とそれを産む産業を作って
帝国を維持している。

今回、不況の震源地でありながら、国民が楽観的なのも、そういう新陳代謝のDNAを
国民がよく理解しているからだろう。
「大丈夫、またなんとかなるさ」

一方で、なんともならないのが日本である。
日本の場合、“古い仕事”からの新陳代謝を法で禁じた上に、さらに助成金などで
補強しているのだから、そりゃあ労働生産性が低迷するのも仕方ない。

大手は組織改革一つ満足にできず、下請けにコストカットを押し付けるだけ。
それでもダメなら、JALや電機みたいにお上に税金で支援を求める。
お上はお上で、230万人以上の社内失業者を食わせるために、税金をばらまく。
そういう無責任政策を泣いて喜んでいる有権者も少なくないので、救いようが無い。

せめて、そういうバラマキ賛成者のカンパでやりくりしてくれればいいのだが、
当たり前のように借金でツケは将来に先送りされる。

で、たまに「もうこんな先送りはやめよう」と誰かが正論を言うと
「このサッチャリストめ!」とか「日本の伝統を守れ!」とか
左右のバカから十字砲火を浴びるのだ。

もう無茶苦茶である。

なんだろう、腐敗も新陳代謝もしないよう、ホルマリン漬けにされてるようなものか。
ホルマリンの中では、息苦しいのも無理は無い。

連合などの社内失業擁護論者は「安定した雇用が消費拡大を生む」と説くが、
くだらないいいわけだ。
若いもんも(ついでになぜか老人も)経済や社会保障制度を信頼してバンバン消費
している人間なんて見たことない。
みな心の底では、この先、先細る一方だと感じているに違いない。

今必要なのはモルヒネでもホルマリンでもなくて、抜本的な大手術だ。