Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

経済系の本の選び方

2010-06-30 18:17:02 | その他
日本経済の真実―ある日、この国は破産します
辛坊 治郎,辛坊 正記
幻冬舎

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もうあちこちで紹介されているので内容については触れないが、良い機会なので経済系の
書籍の選び方について触れておきたい。

ちょっと大きな書店に行くと、経済系の本が山積みになっていると思う。
「世界恐慌~」とか「バブル再来~」とかいうフレーズの本は、たいていいつの時代も
一定の人気がある。
不安を煽って商品を買わせるのも、「不安なんてないですよ安心していいですよ」という
お札を売りつけるのも、根っこは同じ“不安ビジネス”である。
ひどいのになると、数年前まで恐慌本出してたのに、突然「楽観本」に転向する人もいて、
その辺の人間模様はなかなか面白い。

では、本当に読むべき本はどうやって見分ければいいか。

1.出版社名でフィルターをかける。

日経やダイヤ、東洋経済等といった経済系の出版社であれば、自分たちで一定のフィルター
はかけてくれているので、極端な外れというのはあまりない。逆に無名出版社や、大手では
あっても一般書籍しか出さない会社だとこういったフィルターはまったく持っていないので
ファンタジー小説ばりの外れを引いてしまう可能性がある。

2.著者名でフィルターをかける

とはいえ、経済系の版元はだいたい本を売るのが下手なので、著者によってはあえて
一般書籍の出版社から出すという人もいる。
というわけで、著者の肩書を見て、きちんとした人であれば読んでも大丈夫だろう。
とりあえず、聞いたこと無い出版社から出ている聞いたことない著者の本は避けた方が
無難である。

さて、そういう観点からすると本書はどうだろうか?

幻冬舎という版元は1番的には怪しいが、著者の一人はシンクタンクのトップであり、
2番的にはまったく問題無い。
というわけで手に取った本書だが、非常にコンパクトに日本経済の真実を解説した良書だ。
バラマキ等の小手先の政策はツケの先送りでしかなく、潜在的な成長力そのものを高める
構造改革以外に解決法は無いというのが、本書の結論である。
とにかく読みやすいので、万人におススメできる。

辛坊さん曰く、有力政治家の中にも
「日本国債は外国人が買ってないからいくら増えても大丈夫」とか
「政府がいくらでもお札を刷れる」とか
「国民年金の未納はいくら増えても問題ない」
とかいうトンデモ本を読んで信じちゃってる人もいるそうなので、
上記の選び方を参考にして読むべき本をピックアップしていただきたい。


痴呆化する保守

2010-06-27 17:48:39 | その他
先日紹介した文藝春秋7月号・大坪論文の横で、藤原正彦がすごい文を寄稿していた。
名前見ただけで読み飛ばしていたのだけど、大坪論文の後に読んでみると、レベル、
視野の広さの違いに惚れ惚れする。いや、やっぱり読み飛ばして正解なレベルなんだけど、
こういう不思議な生き物の生態を知る上では、それなりに有益な文である。

まず、なんといってもタイトルが凄い。
「日本国民に告ぐ」

「ドイツ国民に告ぐ」をパクったらしいけど、これが後に続く本文とのギャップを
素晴らしく高めている。ジェットコースターとかで落ちる前に一段持ち上げる的な。
ここから先の急降下ぶりの一端を紹介しよう。

愛国者・藤原氏曰く、今の日本は様々な危機に直面しているそうだ。
凋落する一方の経済、世界一の財政赤字。政治の低レベル化と官僚の暴走。

そして、氏の国を憂うる思いは、若者にも向かう。
なかなか結婚せず、してもなかなか産もうとしない。モラルも地に落ち、子殺し親殺し、
通り魔殺人など、かつてありえなかったような犯罪が頻発するようになった。
学級崩壊や陰湿なイジメによる自殺の蔓延は、子供の間でもモラル崩壊が進んでいることを
示しているそうだ。

その理由なんだけれども、すべてのきっかけは、戦後にアメリカが日本の誇りを失わせる
ために仕組んだ陰謀だそうである。ここから東京裁判や「第二次大戦は侵略戦争か?」論
まで延々と話が続くのだが、これがもうすごい長さで、途中で何の記事読んでたのか
わからなくなるほどだ(中身がないのでここはパスしてOK)。

ついでに言うと、愛国者・藤原正彦的には、構造改革もまたアメリカの陰謀らしい。
なんでも郵政民営化というのは340兆円をアメリカに差し出すための、そして派遣法改正は
中産階級を破壊するための、そして医療改革は世界一の水準を誇る医療システムを破壊する
ための陰謀なんだそうだ。

で、結論だが、要するに日本は昔から穏やかで格差の無い平等な社会であり、帝国主義、
新自由主義といった非日本的なイデオロギーは忘れて伝統に立ち返れというわけだ。
たとえば自由貿易のための規制緩和を外国から要求されたら、こう切り返せばよいらしい。
「日本人は聖徳太子以来、和を旨とする国柄です」
(冗談じゃなくて、本当にこう書いてる)。

そういったものを取り戻すために、憲法や教育基本法を改正し、個人主義から「長幼の序」
「孝」を叩き込めというのが、氏の日本国民に告げたいことらしい。
よくわからないけど、これで少子化対策もバッチリと言っておられる。

一応30代論者の一人として言わせていただくと、晩婚化も少子化も別にモラルの問題では
なく、先進国共通の現象である。
対策としては(若年層の負担集中を軽減するため)労働市場を流動化し、
世帯の所得を引き上げるために女性の社会進出を進めるしかなく、むしろ藤原センセイの
御提言は日本の国力という観点からはものすごくマイナスなんですけど。

凶悪事件については、あらためて言う必要もないだろう。多くの論者が指摘している通り
治安悪化というのは幻想に過ぎない。
それから外資にお金預けたら全部持っていかれるなんてロジックは氏の頭の中では成立して
いるのかもしれないが、社会一般では「写真で真ん中に立つと魂を取られる」レベルの迷信
だと言っておこう。

そしていつも言っている通り、非正規雇用を生み出したのは氏の絶賛する日本型雇用自身だ。
連立政権が派遣再規制に舵を切った今、氏は「万歳!万歳!」と叫んでいるかもしれないが、
現実に起きているのは雇用の減少である。

さて、この藤原氏であるが、昨年めでたく定年を迎えられたそうだ。僕は定年制度不要論者
なのだけど、初めてこの制度があって良かったと心の底から感じられた。

「祖国再生の鍵はどこにあるのだろうか」と氏は問いかけてみせるが、一つだけ簡単で
すぐに実行できる提案がある。
今すぐ断筆して2度と公では発言しないことだ。
あなたは保守でもなんでもなく、たんなる老害に過ぎないから。


今どき「階級闘争で問題解決」と信じている既存左派はバカ確定だが、
「古き良き日本」というようなもので国際競争に勝てると思っている保守も、
頭の程度は似たようなものだろう。

雇用流動化に踏み出したスペイン

2010-06-24 16:31:39 | その他
スペインが労働市場の流動化法案を閣議決定したという。
解雇規制を緩和し、経済成長の道筋をつけるための重要な法案だ。
ちなみにスペインの「解雇の難しさ」は2.0ポイント。
OECD加盟国平均2.59からすると、どちらかというと普通の国である。
(OECD Indicators on Employment Protection - annual time series data 1985-2008 )

一方の日本は3.8ポイントで、OECD加盟国中もっとも解雇の難しい国である。
だからスペインのフットワークの良さは正直うらやましいが、逆に言えば、危機が顕在化
しないかぎり、改革は進まないということかもしれない。

法人税もそうだが、今後は世界的に雇用法制も抜本的な規制緩和に進んでいくはずだ。
最終的に、税も雇用もほぼ同じ水準に収れんしていくものと思われる。
先進国から新興国まで、完全に同じ土俵で競うということだ。
まず、スペインが統合されることになったが、遠からず同じ波は日本にもやってくる。
英語を公用語するユニクロや、新規採用の8割を海外で採るパナソニックは、いち早く
土俵のグローバル化に対応しようとしているわけだ。

こういう状況でも「企業は愛国心を持て」とか「労働者は団結して云々」とか言うアホが
たまにいるが、土俵のグローバル化自体は誰にも止められないから、ついて行ったところで
土俵から降りて不戦敗になるだけだ。まあ、貧乏神みたいなもんだと思っておけばいい。
本当に愛国心があるなら中国人に負けないように勉強すればいいし、
デモやりたいなら連合かモリタクの家にでもデモ仕掛けてこい。


税のグローバル化については、民主を始め多くの政党が口にし始めた。
次は雇用のグローバル化だが、これが選挙でメインの争点になるのが先か、それとも
スペイン、ギリシャを襲ったような大波が先にやってくるかは、まだわからない。

色褪せる民主党

2010-06-21 09:47:26 | 経済一般
先週末出そろった各党マニフェストを読み比べてみると、色々と面白いことに気づいた。
全般的に民主党の政策に元気がなく、みんなの党など改革を売りにした新党と比べると
地盤沈下が著しい。
一方、死に体だとばかり思っていた自民党が、「法人税引き下げ、消費税引き上げ」を
明記するなど、意外な進歩を見せている。

たとえば公務員制度改革について、自民党は、天下り根絶+あっせんに刑事罰と明記する
など鼻息が荒い。みんなの党の公務員に対するシビアな姿勢についてはあらためて
言うまでもないだろう。

ところが、民主党マニフェストからは、とうとう「官僚の天下り完全廃止」という文字が
消え、「各種公法人の廃止を含めた改革に取り組む」というきわめて穏当な霞が関文学に
落ち着いている。

この温度差は全般的に見られるが、特に差が出てしまったのが雇用だ。


みんなの党、自民ともに労働市場の流動化に舵を切り、
自民党に至っては解雇規制緩和を明記する一方で、
民主党は新卒者の採用奨励金など、まったく中身の伴わない
バラマキに終始し、連合べったりの限界ぶりを露呈してしまっている。

もっとも、実行責任のともなう政権与党が保守化し、当面はやってみせる必要の無い野党が
言ったもん勝ちになるのは当然なので、これをもって単純に
「自民が政策において民主を逆転した」というのは時期尚早だろう。
彼らは党人事や選挙活動を通じて、自分たちの本気度を有権者に訴えていく必要がある。
もう10年以上も有権者を裏切り続けてきたわけだから。

それにしても「同一労働同一賃金って共産主義ですか?」と言っていた一年前に比べれば
ずいぶんと進歩したものだ。
以前も書いたように、雇用政策は民主党最大のネックであり、労働組合という余計な足枷を
もたない他党にとって、雇用は心おきなく使用可能な最大の武器である。

みんなの党はそれに気づいて(今のところ公務員限定ながら)積極的にこの武器を使い、
第三極と言われるまでに党勢を拡大した。
今さらながら、自民党もこの武器の破壊力に気づいたということだろう。

今回、自民党は消費税10%という数値を打ち出し、増税というタブーに踏み込んだ。
有権者の意識が財政危機という現実に追いつき、増税がタブーではなくなったということだ。
同様に、日本の凋落という現実に直面することで、「正社員の既得権」もタブーでは
なくなりつつあるのだろう。

選挙戦では「新規採用4割減による国家公務員人件費2割カット」なんてつついてみると
面白いんじゃないかな。
“第三の道”なるものの中身の無さがむき出しになるだろう。

「世代間格差ってなんだ」

2010-06-16 20:49:17 | 
世代間格差ってなんだ (PHP新書 678)
高橋 亮平,小黒 一正,城 繁幸
PHP研究所

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今週末発売予定の新刊についてお知らせ。
昨年作成した「若者マニフェスト」をバージョンアップし、雇用、財政、社会保障、
政治参画の各分野について3名の著者が解説したものだ。各政党の前回マニフェスト及び
その後の政策スタンスについての採点も収録してある。

雇用については「7割は~」を読んだ人には重複するかもしれないが、他の分野は世代間格差
を考える上で格好の入門書になっているのでおススメしたい。
特に財政・社会保障は専門家の手による解説なので、これを理解しておけば一通りの議論は
こなせるだろう。

合わせて、6月26日に以下の政策シンポジウムにも出席するのでご報告。
もちろん、我々のマニフェストについても触れる予定だ。

政策ダイアローグ(後援 城西国際大学)
6月26日(土) 14:30~17:30  城西国際大学 東京紀尾井町キャンパス
政治不信と若者たち / 政治をいかに経営するか / 政治をどう変えるか

祝・新卒バブルの崩壊

2010-06-14 13:27:51 | 経済一般
文藝春秋7月号、パナソニック大坪社長の「わが打倒サムスンの秘策」がなかなか
興味深い内容なので一読をおススメする。
特に興味深かったのが、同社の新卒採用方針について触れた部分。
来年度新卒採用1390人のうち海外採用1100名というのは既報だったが、290人の国内枠
というのは日本人枠というわけではないらしい。

日本国内での新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず
海外から留学している人たちを積極的に採用します。


このことは、現在の就職氷河期が一過性のものではなく、もはや永続的なものだという
ことを示している。リーマンショックと共に円安バブルも崩壊し、それまで辛うじて
維持できていた日本型雇用が詰んでしまったので、とりあえず入口から切り替えますね
ということだ。景気回復しても国内の雇用は大きくは増えないだろう。

もっとも、これは日本人として喜ぶべきことだ。なぜって?
「自国企業がより優秀でグローバルな人材を採ります」と言ってくれているわけだから、
とっても合理的な経営判断だと言わざるを得ない。
「私たちはどうなるんです?」と不安に思う人もいるだろうが、答えは一つしかない。
中国や韓国の若者たちに負けないように一生懸命努力する、ただこれだけだ。

企業と個人の両方が努力すれば、その国は力強く成長するだろう。
後者が変われなければ、前者は国を捨てて出ていくだろう。

「雇用を守れ」と左派が泣きわめいても「日本人を雇え」と保守がぶいぶい言っても、
あるいは左右が共闘しても、この流れは変えられない。
政府が出来るのは、規制を緩和してそれぞれが全力で頑張れるような環境をお膳立てする
ことだけだ。

法人税引き下げを明言している菅政権には、もうひと踏ん張りして雇用コストの引き下げも
お願いしたい。

労働市場という宝の山

2010-06-11 11:22:07 | その他
よく、テレビなどで日本型雇用か年俸制かという話をすると、
「でも年俸制だといろいろと厳しくて大変でしょう」なんてことを言われる。
でも、先ごろ発表された調査調査によれば、実際に厳しいのは日本型雇用の方かもしれない。
組織への愛着、ワークライフバランス、職場の人間関係、報酬の妥当性
にいたるすべての項目において、日本はアメリカに劣っているのだ。


一言でいうと、日本人サラリーマンは仕事に愛着も満足感も抱いちゃいないということだ。
それでいて実労働時間だけは先進国一長いわけだから、もうほとんど人生=拷問みたいな
ものである。

まあ職務給ではなくて年功序列給なので「給料が割に合わない」と思う人が多いのは
当然なのだけど、それにしてもワークライフバランスや人間関係でも全敗、満足度も
ほぼ半分以下とは驚きだ。なんてひどい国なんだろう。
まだまだ先が長いという人はご愁傷様です。

普通、労働市場では、満足度って何かとトレードオフの関係であると思うのだけど、
何一つメリットがなくて不利益だけついてくるっていうのはある意味凄い。
いや、安定性という意味ではメリットらしきものもあるのだろうけど、それは大手だけの
話だし、大手にしてもいっぺん落ちてしまうと長期失業という形でロックされてしまう
わけで、日本型雇用のメリットっていったいなんだろうか。

今は亡きソ連は、労働者の国なのに生産性も賃金も低くて、しかも全然楽しそうに見えない
という不思議な国だったが、意外と日本も海外から見れば同じようなものかもしれない。
要するに、ソ連も日本も規制が強すぎて労働市場が機能していないというわけだ。

ただし、これは逆に言えば、新たな成長産業なんか見つけなくても、一定の流動性さえ
労働市場に導入できれば、ずいぶんと国民の閉塞感は低減できるということでもある。
「成長よりも成熟した社会を」という人も、これならまんざら悪い話でもないだろう。
言いかえれば、労働市場というのは政治家にとって宝の山みたいなものだろう。

へんな事業に税金つぎ込む前に、新政権には足元を見渡してみることをおススメしたい。

保育所の規制緩和はすぐに実現可能な少子化対策

2010-06-07 11:11:54 | その他
30代の友人と集まると、決まって話題となるのが保育所の件だ。
僕の周囲にも、大企業に勤めているにもかかわらず、保育所が無いor高額の負担に
耐えられないので二人目はNGという夫婦は結構いる。
昨日twitterで教えてもらったが、都内の無認可だと10万近くするケースもあるらしい。
こうなるともはや子供手当どころの話ではない。

さらにおかしいのは、認可保育所のフルタイム勤務優先という要件だ。
これでは、休職制度が充実していて、復職が保証されている一部の大企業と公務員だけが
公立の認可保育所に優先して入れることになる。
結果、そういう人たちに税金が最大限使われ、中小企業や非正規雇用の人は自腹で高い金
出して無認可に行く羽目になる。
要するに、「正社員で終身雇用」という、もはや形がい化した雇用形態に基づいて
制度設計されているため、そこから漏れてしまった人に支援が回っていないわけだ。

たとえば、以下のようなケースに心当たりのある人は少なくないはずだ。

1.今の職場では、出産を機に退職せざるを得ない。一度辞めた女性の多くが再就職先は
 恐らく非正規雇用となるはず。※
 そう考えると、職に就いたまま産まないという選択肢が経済的には合理的。

2.一人目を産んだとしても、無認可保育所を利用したとすると、非正規に再就職した場合
 の収入の半分程度を当てねばならない。
 よって、手間を考えれば、保育所は利用せず専業主婦になった方が合理的。

3.世帯の所得が伸び悩み、共働きも出来ない中、二人目は諦めた方が合理的。

これら三つの合理性のハードルを乗り越えなければ、
子供は二人はもてないということになる。

上記のどれかを前にして屈したという人は少なくないのではないか。
 
というわけで、少子化対策としては、以下の二点が本丸となる。

Ⅰ.1番対策として雇用の流動化を実施し、「一度辞めたらキャリアのリカバリー不能」
 という状況を見直す。

Ⅱ.規制緩和で保育所の新規参入を促し、待機児童解消を図る。
 +バウチャー等の助成の充実。

少子化対策に女性の就労環境整備が有効なのは、駒村氏も言うようにヨーロッパの事例
からも明らかだ。ヨーロッパで出生率の回復に成功したフランスやスウェーデンのような
国は、女性の社会進出と保育システムの拡充を手掛けている。
片方どころかどちらも抜けている日本の惨状については言うまでも無いだろう。

Ⅰ番の雇用の流動化については「やれ」と言っても無理だろうが、Ⅱ番目の対策については
決断力さえあればすぐにでもやれるはず。
前の少子化担当大臣はまったくもって使い物にならない漬物石だったが、
蓮舫議員には大いに期待したい。
 

※内閣府「再チャレンジ事例調査」出産を機に離職した正社員希望の女性のうち、
 正社員になれるのは4人に1人。

鳩山さんは最後までズレてる人だった

2010-06-03 10:51:50 | その他
鳩山総理が辞任した。
私見だが、彼はこの10年ほどでもっとも人の良い首相だった気がする。
スタンフォードの博士なのだから馬鹿とも思えない。
にもかかわらず、鳩山政権がここまで迷走する理由がずっと謎だった。

ただ、昨日の辞任演説を聞いていて、なんとなく理由がわかったような気がした。
一言でいうと“ズレ”だ。

安倍政権以降の混乱を、一部のメディアは
「小泉改革によってもたらされた格差・競争社会への反動だ」という風に煽りたてた。
当の民主党自身、そういうロジックで盛んに政権攻撃を続け、とうとう政権奪取してしまった。

だがこれはおかしい。
日本の格差なんてたかがしれているし、相対的貧困率なんてインチキ数値で、絶対的貧困率
では日本は世界一豊かな国である。
要するに日本は競争社会なんてものではなく、競争が無いから
停滞しているにすぎない。

派遣再規制したってもう以前の1億総中流に戻れるわけではないし、毎日新聞の赤字も
解消しない。
本当の格差社会はこれから到来し、そしてそれを是正できる余力はもう日本にはない。
構造改革というのは、それを緩和するための手術のようなものだ。

そもそも、安倍政権は年金問題で自滅したが、構造改革ではなく昭和型システムのツケを
背負わされた結果に過ぎない。
福田・麻生政権についてはコメントの価値もないだろう。
「自分は民営化に賛成じゃなかった」というようなアホウ総理を国民が見放しただけだ。

そして重要なことだが、有権者も上記の事実はよくわかっている。それは、国民新党の
支持率がほぼ0%であること、再国有化がまったく支持されていないことからも明らかだろう。

ところが、どうも鳩山さんという人だけは、それが分かっていなかったのではないか。
行き過ぎた市場原理とか新たなる公共がどうとか、どう考えても日本の現状と縁がなさそう
なキーワードをふんだんにちりばめた論文を読むと、自分達が掲げていたスローガンを
本気で信じてしまっていた節がある。

そしてなによりも「国民が徐々に聞く耳を持たなくなった」という言葉からは、最後まで
“ズレ”に気づかない鈍さがにじみ出ている。
「最初は聞いてくれてたのに、なんでだろう?」と、首をかしげている様子が目に浮かぶ。
鈍い鋭いは頭の良し悪しとは別物なので、こればっかりはしょうがない。

彼の中では、自身は市場原理に基づく過酷な競争に疲れ果てた国民から待望された救世主
だったのだろう。でもね、そんな競争なんて日本には今も昔もなかったんですよ。
お母さまから毎月1500万貰う身分じゃ気づかないのも無理ないだろうけど。

有権者が鳩山さんの意見を聞く耳をもたなかったのは事実だが、
鳩山さんが国民が求めているものを理解する頭が無かったことも、また事実だ。

書評:職業としての大学教授

2010-06-01 12:33:09 | 書評
職業としての大学教授 (中公叢書)
潮木 守一
中央公論新社

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日本の大学教員ポストについて、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスといった先進各国
の大学教員事情をからめつつ比較、解説する。
同じ博士や教授であっても、それぞれの国で随分と事情が違う点が興味深い。

大方の人が予想していることだとは思うが、やはりアメリカは流動性が高く、給与水準は
市場の論理に従って決められている。同じ大学内でも、ビジネス、法律系の教授の給料が
文学、芸術系の教授の2倍以上であり、州立大の公務員でありながら、研究系の教授は
私学の水準だったりといった具合だ。
「遊んでる奴と同じ給料なのは納得できない、年功序列はおかしい」
といって左巻きの教授すら私学に逃げ出す日本の国立大学とはえらい違いである。


そういう意味では、やはりドイツがどこか日本に近い。
教授ポストに昇格できるのは40歳近くになってから。身分はあくまで公務員で、定年は
65歳。ノーベル賞もらった物理学者が「定年の無いアメリカに移住します」といって
大問題になる点も、あまり笑えない。

それでも、やはりドイツの研究者は恵まれている。
ドイツの博士号取得者の大半は、望めば時間差なしですぐに就職している。
電子工学系95%に及ばないにしても、文学系も68%が職を得ている。
企業が高学歴者を採用する理由は、企業と大学の間にある敷居が低いからだ。
ちなみに、ドイツ主要企業200社の半分は、トップが博士号取得者である。
日本との違いは明らかだろう。

国が大学や機関にカネをばらまいて任期付きポストを増やすことには限界がある。
やはり、最後は民間企業が雇うしかないのだ。上記のような問題をはらみつつも、ドイツの
大学システムが機能しているのは、なんだかんだいいつつもドクター達が飯が食えていると
いう点が大きいだろう。

その点、飯すら食えない日本の博士は悲惨である。
現在、年間6000~8000人程度の新規採用枠しかないにもかかわらず、年間16000人程度の
博士が生まれている。そしてとても重要なことだが、これから少子化が進む中で、需給関係
はより悪化することが確実である。

最後に、著者はきわめて現実的な提言で本書を締めくくる。
「大学の既存ポストも含めた新たな選抜制度を設計するまでの間、
大学院の新規募集を 一時的に停止すべき」


正社員や弁護士もそうだが、本来はいかなる事情があれ、既にポストについている人間の
既得権のために、新規参入者の権利が阻害されることがあってはならない。
それが「学ぶ」という権利であればなおさらだ。
だが、今手を打てば、新たな被害者は減らせるのは間違いない。
そう考えると、僕は著者の提言を乱暴だという気にはなれない。
著者の言うとおり、20代を実社会でのキャリアを経験することなく過ごすということは、
とても高リスクなことだからだ。

ところで、本書の提言からは、人口減社会というものの恐怖をリアルに感じてしまう。
著者の提言というのは、要するに「これから少子化で需要が減るのだから、大学院という
高等教育機関への人材の投資を減らしましょう」というきわめて合理的な話だ。
この発想は、すべての企業や消費者にも当てはまる。そりゃデフレにもなるだろう。