Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

内閣総理大臣 増補版 ――その力量と資質の見極め方

2010-02-27 15:25:22 | 書評
内閣総理大臣 増補版 ――その力量と資質の見極め方 (角川oneテーマ21)
舛添 要一
角川書店(角川グループパブリッシング)

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舛添氏が02年出版の自著に加筆修正した新刊。
前半部ではマキャヴェリからアリストテレスまでを引用し、自身の政治哲学を述べていく。
「政治の本質とは可能性の技術であり、政治家は理想よりも結果責任を重視すべき」
「理想を掲げて戦争するようなリーダーは迷惑なだけで、常にあらゆる選択肢を冷静に検討すべき職業」
など、内容はいたってオーソドックスなリアリストだ。

そしてその立場から、選択を回避して先送りをもっぱらとする鳩山政権、そして現代日本政治の悪しき
庶民主義を、どちらも政治家の義務を果たしていないとして批判する。

これは同感だ。麻生さんのバー通いを叩くメディアはともかく、便乗して(普段行きもしない)居酒屋通いを
してみせる政治家を見ていると、そんなことしてる場合かよと思う。
自転車で走り回ってドンキでスーツ買って見せる議員なんて、頭おかしいんじゃないかとさえ思う。

ではリーダーに必要な資質とは何か。
なにより有権者に対してビジョンを提示する能力であり、ビジョンを生み出すには、歴史、哲学を学ぶこと
が必須であるとする。「現代の政治水準はヴィクトリア朝以下だ」という意見の裏には、オルテガ的な
大衆批判のニュアンスも感じる。

さすが本職の政治学者だけのことはあって、安倍さんや麻生さんの本よりははるかに質が高い。
ただ、後半になると急失速する。
肝心要の本人のビジョンがとっても曖昧なのだ。

たとえば「規制緩和と自由競争を柱とする小さな政府主義者だ」と前半で言っておきながら、
こんなことをさらりと言ってのける。

日本企業の労働生産性の高さと品質管理の優秀性を支えたのは、日本人の高い
勤労意欲であるが、その勤労意欲を手厚くバックアップしていたのが、終身雇用制と
年功序列による雇用の安定と収入の保証であった。これらの日本モデルを、もはや
グローバルスタンダードに合わないという理由であっさり破棄して一顧だにしないのではなく
むしろ日本モデルこそが日本社会の活力の源泉であることを強く打ち出していくという
ヴィジョンがあっていい。


元厚労相が日本のホワイトカラーの労働生産性の実情を知らないというのは救いようがないと思う。
申し訳ないけど、もうこの時点で前半の説得力は僕の中では音を立てて崩れてしまう。

そして経済政策は、インフレターゲティングを提唱する。
いや、それ自体は別にいいんですけど、「首相がインフレ目標を公約にする」だけで経済がよみがえる
というのは、あまりに楽観的過ぎるだろう。

他にも、「郵便のユニヴァーサルサービスは維持すべき」だとか「日本経済は外資の侵攻にさらされている」
とか、そっち向けの香ばしい発言も適度にまぶしてある。
要するに、巧みに全方位に気を使う典型的な名刺本というわけだ。

とりあえず改革否定はありえない。でも下野した自民党の一員としては痛みを伴う改革を前面には
出しづらいし、なにより漂流する保守派も取り込みたい。
とりあえず日銀は分かりやすいスケープゴートだ。という苦衷の綱渡りがなんとなく透けて見える。

というわけで、政治家・舛添先生が何をどうしたいのかというビジョンはさっぱり見えてこないのだけど、
とりあえず政権中枢への並々ならぬ意欲をお持ちだということだけはよくわかる一冊。
大臣時代のこぼれ話や鳩山政権採点等、良いところもたくさんあるので、とりあえず読んでみて損は無い。

公務員労組が最強である理由

2010-02-25 14:06:10 | その他
猪木詩集「馬鹿になれ」
アントニオ猪木
角川書店

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僕は常々、規制強化で雇用問題が解決すると思っている厚労省やそのOB、公務員労組の人って、
なんでこんなに頭が悪いんだろうと同情の目で見ていたのだけど、このたび公務員労組が
率先してゼネスト入りしたギリシャを見ていて、その理由に気づいてしまった。
一言でいうなら、馬鹿になったほうがトクだから。これだけの話なのだ。

いつも言っているように、大手企業の労組はユニオンショップなので数は多いが、実際には社内の
一部門的な存在であり、労使交渉や春闘と言ったってやれることは限られている。
終身雇用という途中下車の無い船の中での話なので、船の運航の妨げになるような要求は不可能だからだ。

その点、公務員労組は最強だ。とりあえず以下を見てほしい。
彼らが世界最強である理由がおわかりいただけると思う。

【配当】                      
・民間の労組   
削ると株価が暴落、市場から資金も調達できなくなる。  
・公務員の労組
 国民からいくらでも税金を徴収できるので、頭下げて出資していただくという発想がない。※
いつかどこかの県職員が「私たちは地元の名士。厚遇批判はお門違いだ」と言ってのけて大ブーイングを
食らったが、いまどき中国国営企業幹部だってこんなことは言わない。
        

【内部留保】
・民間の労組 
組織の永続性を考え、設備投資や基礎研究への投資は必須。また不況時の蓄えという意味もある。
・公務員
単年度決算だし、足りなくなったら増税or公債で即解決するので、「内部留保を分配せよ」なんて
恥ずかしいことを平気で言う。
退職金積み立てなど、民間ならどこでもやっている当たり前のことすらやらずに、いきなり“退職手当債”
を発行する自治体の多さからみて、永続性どころか3年先のことも考えちゃいないと思われる。

【昇給】
・民間
人件費総額は業績から自動的に決まってしまう。赤字なら無いものは無い。
・公務員
法律、条例さえ変えれば昇給可能。ということで、地域経済が低迷する傍で、なんてことない市役所の
公務員が地域の名士状態になっている自治体は少なくない。

まあ要するに、税金という四次元ポケットがあって、しかも親方日の丸なので
市場動向なんかも気にすることなく、心おきなく労働運動にまい進できるわけである。

「労働者は団結せよ!」というのは普通の労組ならもはやプロレス的アピールだけど、彼ら公務員だけは
ガチンコだ。
だって、とことん馬鹿になってゴネまくれば実入りは増えるわけで、彼らが馬鹿なのは合理的なのだ。

現在、一部に「公務員にもストライキを認めるべき」という声があるが、個人的には反対だ。
売り上げ減や顧客満足度低下なんて気にかけることなく、彼らは盛大にスト権を行使すると思われるから。
「政府の内部留保を吐きだせ」なんて言われても困るし。

それにしても。日本にとって早急に必要な改革は、僕は労働市場の流動化と公務員改革だと考えている。
自治労を有力な支持母体とする民主党は、はたしてこの二つを実現できるのだろうか。※2
これらなくして、日本には成長はもちろん、「持続可能な社会」もありえないのだが。



※赤字国債も時間差のある立派な増税なのだが、「内国債はいくらでも刷っていい」というアホもいて
 気づいていない人も多い。

※2なんだか一方的な民主批判になってしまったのでフォローしておくが、この二つの改革をやる気がない
 という点では自民党もまったく同じである。

真のさとり世代とは

2010-02-23 18:52:11 | 世代間問題
以前から知り合いだった某大手企業の部長さんとお会いした際のこと。
ひとしきり不況のことなどを話した後、何か良いニュースはないですか?と聞くと
「定年まで五年を切りました」と笑顔で言われてしまった。
いや、業界全体という意味の質問だったのだけど……。

その時はやれやれという感じで聞き流したのだが、後から考えたら、これって実は凄いことなんじゃないか
と思えてきた。
だって、滅私奉公30年の末に大の男が辿りついた結論が「あと5年切ったぜ」である。

実際、早期退職募集というのははっきりいえば50代がターゲットで、もちろんトータルで考えれば
辞めたら損なんだけど、ちょこっと退職金を割り増すことで、こういったおじさんの
「あーもう早くエスケープしたいなあ」というリビドーを刺激するコストカット戦術である。
今でも盛んに募集しているということは、この時代であってもそういう屈折した感情は強いのだろう。

こういう管理職だと、きっと新人にはこう言うんだろう。
「あと30年て考えるからダメなんだ。既に半年経ったって考えるんだ」
確かプラトーンでこういう会話があった気がする。
そうか、やっぱりサラリーマンは戦争なんだろうな。
さしずめ繰り上げ除隊は早期退職か。

ところで、最近「さとり世代」なる造語が話題となった。無駄に頑張ったり夢を求めたりしない若者世代
のことらしい。
年功序列制度というのは、既に結果の見えたシステムなので、期待せずにほどほどに頑張ろうと考えるのは
とても合理的だ。
僕に言わせれば、むしろ団塊世代の方が悟ってる人が多い気がする。
「俺はもう多くは望まない。日々たんたんと生きられればいい」的な。
問題は、「多くは望まない」ということの中に、組織を改革するという要素も入ってしまっていることなのだけど。

大手と言われる日本企業で、そこそこには恵まれている人でさえ、僕は「あと○年」式の人しか見たことがない。
むしろ、それが普通なんだろう。そして自己啓発系の本やセミナーの中には、そういう“さとり”を勧めるものが
結構ある気がする。香山リカの本も、あれはそういった世代にさとり教本としてとらえられているのではないか。

そのうち、AERAかSPA!あたりで、「さとりを開いたバブル世代」特集が組まれると予想する。



サイゾー今月号

2010-02-22 13:50:59 | work
サイゾー 2010年 03月号 [雑誌]

サイゾー

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インタビュー「雇用の本音と建前」掲載中。

ところで、本誌にまたまたユニクロ亡国論が顔を出している。
いや、本職のデザイナーが安売りに文句を言ったり、流通ジャーナリストが他社への影響を
あれこれ言うのはまだわかるけども、経済学部の先生が「グローバル時代型の新型デフレ」と言って
問題視するのはどうなんでしょうか浜センセイ。

センセイの以下の提言が実現可能だという人はどれくらいいるだろうか。
「企業は思い切って賃上げを積極的に行い、その代り消費者側はものの安物買いをやめること」
ちょうど一つ前のページで「路上弁当販売が規制されてサラリーマンが四苦八苦」という記事が
書かれているが、浜理論によれば「弁当屋は悪!飲食店のためにサラリーマンは我慢すべし!」
ということになるが。

先日のBI議論でも少しふれたのだけど、個人的には、何かの事業で飯が食えなくなった時、
別の何かを始めることが経済成長の本質だと考えている。そしてそのリスタートがスムーズに
行くように環境を整備するのが政府の役目だろう。
「政府が規制で、無理やり食える状態を維持する」というアプローチが可能かどうかは、とっくに
答えが出ている。

氏はユニクロ型の価格破壊を負のスパイラルとし、みんなの“英知”を結集して新型デフレを
打倒すべしと言っているのだけど、経済の先生としては、英知を結集して付加価値の高いビジネスを
考えろと説くべきではないか。
ユニクロを規制したところで、百貨店の売り上げは伸びないと思われる。

日本における内戦

2010-02-19 09:47:40 | その他
日本の自殺者が年3万人を超えているというのは有名な話だ。藤岡弘は「内戦状態だ」というが、
あながち誇張でもない気がする。

その原因についてだが、よくありがちな「日本が厳しい競争社会だから」というのはナンセンスだろう。
年功序列のおかげで、大手のサラリーマンは外資に比べれば競争なんてないようなもんだし、
規制のおかげで正社員と非正規雇用労働者は競争しなくてよい。
そもそも、郵貯を実質再国営化して官僚OBをトップに送りこむような国だ。ほとんど計画経済である。
むしろ競争が無いことこそ、内戦の原因だろう。

新卒至上主義や転職市場における年齢上限からも明らかなように、
日本社会というのは「失敗を前提としたシステム」ではなく、
「失敗してはいけないシステム」をベースにしている。

こういう社会では落ちた人へのサポートはとても弱い。落伍者を支えるシステムなんて作ってしまったら、
失敗の存在を公式に認めることになるからだ。

バカの一つ覚えみたいに「とにかく正社員こそが正しいんです!」と言っている人たちは、
彼ら自身が議論を迷走させ、格差を固定しているという現実に気づいていない。
「非正規雇用自体の規制」をマニフェストに掲げる社民党なんて、「失業を禁じる」という法律を
作ろうとしているようなものだ。
ノンリコースローンが普及していないのも、根っこにあるのは同じ思想な気がする。
(直接金融が発達していないというのが直接的な理由だろうが)

たとえて言うなら、広々とした道路なんだけど「みんなまっすぐ前見て歩く」という前提で作られて
いるために、手すりも何にもない橋みたいなもんである。
一見すると日本社会というのは人に優しく見えるかもしれないが、実はめちゃくちゃ自己責任な社会でもある。

ついでにいうと、こういう社会ではいろいろなものが弱くなる。
橋の上で出来ることといえば、失敗を恐れてしがみつくことだけ。運悪くギャーっと落ちていった人を
横目に、せいぜい「どうか自分は落ちませんように」と祈る以外にない。

一方、幅は狭くても、すぐ下に網が張ってあるような社会なら、そんな心配せずにどんどん前へ進めばいい。
知人に、地方の中小企業から東京の超大手企業に転職した叩き上げがいるのだけど、入社半年後に感想を
聞いてみたら「とろい奴ばっかりでびっくりした」そうだ。
そりゃそうだろう。彼は細くて手すりも網もない世界からするするとやってきたわけだから。

もちろん、世の中には手すりどころか、足場すらなくても空中浮揚してしまうホリエモンみたいな怪物も
いるのだけど、やっぱり「失敗の存在」を認めないと、社会全体の活力は萎縮してしまうと思う。
藤岡弘が言うように、日本が戦争やっているというのは事実だろう。
でもその相手は、外国でも富裕層でもなくて、我々の社会そのものだ。それに気づかない限り、戦争は終わらない。

朝までニコニコ生激論

2010-02-18 17:49:42 | work
20日土曜日深夜の「朝までニコニコ生激論 テーマ『ベーシック・インカム(キリッ』」に出演予定なのでご報告。
朝生で同席した東さんの司会だそうだ。

こういう場というのは相対的に役割が決まるものなので、堅い役回りになってしまう気がする。
僕の意見としては、文字通りの全国民一律のベーシックインカムというのは非現実的で、低所得勤労世帯向け
の給付付き税額控除を提案したいと考えている。
民主党等のマニフェストにも入っているものなので、知っている人も多いと思う。
まあ本質的にはBIと同じようなものなのだけど、あくまで勤労世帯向けということから
スタンスとしては「働かざる者食うべからず」に近い。


ダイヤと東洋経済の年金特集の差

2010-02-16 14:28:12 | その他
週刊 ダイヤモンド 2010年 2/20号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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週刊ダイヤモンドの今週号『年金の大誤解』。現制度の問題点をごまかすことなく網羅し、
「これ一冊で基本的な論点は理解できる」というレベルに仕上がっている。

それにしても、先の東洋経済の特集と、同じテーマでここまで違うかという方向性には驚かされる。
良い機会なので、主な点だけ以下に挙げておこう。

・国民年金の未納問題のツケはサラリーマンが被っていること。

基礎年金に回される拠出金は国民年金、共済年金、厚生年金の各年金制度への加入者数に応じて
割り振られる(国民年金はなぜか実際に払っている人だけを頭数にカウント)。
国民年金なんて免除を含めれば負担者は実質半減しているわけで、国民年金の保険料だけで
まかなうのは無理だ。この時点で、サラリーマンも未納問題の影響を受けている。

さらにいえば、国民年金は14,660円と一律で満額66,008円支給と、とてもクリアなシステムなので、
いじりすぎて明らかに割に合わない設定にしてしまうと誰も払わなくなるから、大きくはいじれない。
だから、厚生年金側により大きな負担がかかっているはずで、実際、サラリーマンの厚生年金保険料
のうち、基礎年金にいくら回されているのかは明示されていない。
田中秀明・一橋大学准教授は「基礎年金制度が作られたのは国民年金救済のため」だとし、
被保険者総数で均等負担する場合に比べ、サラリーマンの負担は2割高いと試算する。

ちなみに東洋経済では「厚生年金が未納を肩代わりはまったくのウソ」だそうだが、なんべん読んでも
ロジックが意味不明。

・09年に厚労省が出した「年金財政検証」の是非

もはや年金制度は実質的に破たん状態にあるにもかかわらず、「問題ないです」と誤魔化そうとすれば
どこかで嘘をつかないといけない。この年金財政検証は、そういった嘘のオンパレードだ。
名目運用利回り4.1%、名目賃金上昇率2.5%って、一体どこのBRICs諸国の話なのか。
過去十年の長期金利1%台、賃金にいたっては09年度はマイナスのこの国で、一体何をどう検証すれば
こんな数字が出るのか。
というわけで、もちろんダイヤは「そんな金利になったら国家財政が破綻する」という自民党議員の声
とともに全否定する。

ちなみに東洋経済は09年検証を全面的に擁護し、むしろ出生率などでは控えめだとさえ言っている。
まあそれならそれでもいいんだけど、だったらぜひ賃金を2%以上、利回りを4%以上に引き上げできる
経済政策でも特集してください。

・いったい、誰が悪いのか

両誌最大の違いはこれだ。そしてこれこそ、両紙の年金特集が180度違う根本でもある。
ダイヤでは厚労省年金官僚の存在をクローズアップする。
彼らは「日本国民の年金」という膨大で美味しいパイを守るため、自民党厚労族と癒着し、
政治力をバックにあらゆる年金改革を潰してきた。そして厚労族へのご褒美には、地元にグリーンピア
などの豪華な箱モノを(年金保険料から)プレゼントしてあげる。もちろん、そういった無駄な施設は
天下り先にもなるから、官僚にとっては一挙両得である。
こうして問題をひたすら先送りし続け、次世代にツケを回し続けているのが
厚労省というお役所の正体だ。


一方、東洋経済では厚労省批判は一字たりとも登場しない。すべては間違い。そう、馬鹿で浅はかな
人間の間違いだ。
年金改革を主張する経済学者も、不安がって年金問題を選挙の争点にする有権者も、みんな馬鹿なだけ。
愚民どもは黙々と働いて保険料を負担すればよいのです。なんの問題もありませんよ年金制度には、
というスタンスである。

象徴的なのは、両誌の囲み記事に登場する人物だろう。
ダイヤでは河野太郎が登場し、年金官僚の無能腐敗ぶりを憤る。一方の東洋経済には堀勝洋という
厚労省の天下り教授が顔を出し、現行制度を持ち上げる。もうここまでくると笑うしかない。

読んでいて、ダイヤは東洋経済特集を相当意識しているなと感じた。
特に終盤の「経済学者による共同提言」は強烈な皮肉だろう。
賛同者の中には、権丈さんも天下り学者も、もちろん変な予備校講師もいない。
かわりに構造改革派からリフレ派まで、代表的な学者やエコノミストが名を連ねている。
これをみるだけでも、いまさらながら「東洋経済はやってしまったな」と思わざるを得ない。
たぶん、ダイヤは大喜びでこの企画を作ったはずだ。“敵失”という言葉がこれほど当てはまる事例は
少ない。

僕がお付き合いがある身で心配しているのは、ただ一点。
これだけの学者に連名で反論出されるような、というかある程度そういった書を読んでいれば見抜ける
くらい幼稚な御用論理を全面的に誌面で展開してしまうチェック体制の無さを、読者層に露呈して
しまったことだ。

別に訂正しろとか(さんざん東洋経済特集において批判した)鈴木亘氏に反論書かせろとか
いうつもりはないけれども、少なくともチェック体制の構築をアピールすることなしに、
信用は取り戻せないのではないか。

月刊Voice3月号

2010-02-15 12:02:02 | work
Voice ( ボイス ) 2010年 03月号 [雑誌]

PHP研究所

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「BOOK STREET」にて、『7割は課長にさえなれません』の著者インタビュー掲載中。
文芸評論家の仲俣暁生氏との対談となっている。
こういう文芸系の人・クリエイター系の人と話すとかみ合わないかなと思うのだが、なんだかんだ言って
いつもよくまとまっている気がする。考えてみれば彼らはみんなアウトサイダーだから。
逆にかみ合わないのがお役人様。

公教育から生み出せる人材は、社会のニーズとずれている

2010-02-13 09:39:53 | その他
今週、アゴラで中学受験の是非が話題になっていた。
中学受験にかぎらず、日本の教育制度にいろいろと課題が多いのは事実だ。

東大出てみて個人的に思うのは、受験勉強ってほとんどまったく役に立ってないなということ。
しかも4年間遊んでるから、入学時を頂点としてそこから教養もインテリジェンスも下がり続ける。
大学まで一生懸命詰め込むだけ詰め込んで、4年間ぼぅーっとするシステムは実に無駄だ。

最近、とみにそう思うようになったのは、欧米の大学院で学んだ人(国籍問わず)と会う機会が
増えたからというのが大きい。
たぶん18歳時点の知識量では、普通の東大や一橋の学生は彼らに負けてない、というかむしろ
勝っていると思うのだが、30歳過ぎた今だと結構な差で負けている気がする。※ 
大学生活+20代の間に、決定的にまくられてしまっているわけだ。

まあ商社なんかでは頑張っている人も多いのだけど、大手のインフラなんかに入って10年経つと、
もう人材の市場価値がゼロというか、“企業”という保育器の中でしか生きていけない生き物に
なっている人が多い。
もともと年功序列制度というのは、そうやって人を企業カラーに染め上げて縛りつける制度なので、
この結果自体は想定通りと言えるけど、本人の人生にとっても社会にとっても、これはいまや明らかな
損失だろう。

というわけで、人事制度はもちろんのこと、教育制度についても以下の点は無視できない。
・詰め込み教育は効果ゼロではないが、それだけでは実社会であまり役に立たない。
・大学4年間の高等教育がとても重要。そこを無為に過ごす日本の教育システムは非効率。

詰め込み自体は何らかの形で残るだろうけど、大学教育自体はなんとかすべきだ。
それには労働市場の完全流動化を実現して、
「初任給が人によって全然違う」「3年目で事業責任者になれる」
ような土壌を作るしかない。大学で学ぶことが要求される社会の実現だ。

というような話はいつも言っていることなので、もう知ってるよという人も多いだろう。
今回は私立の中高一貫校について、ちょっと思うところをまとめてみたい。

一昔前まで、人事の間では「付属校上がり」を一段下に見る傾向のある人が多かった。
同じ慶応の法学部なら、付属校より一般入試経験者の方が、受験というフィルターを経ている分、
優秀に違いないというシグナル効果だ。企業自身、かつては詰め込み型を重視していたということだ。
実際、幼稚舎のOBに聞いても「中学、高校と後から入ってくる人の方が成績は良い」のは事実らしい
から、この先入観はあながち間違いでもない。

でも、最近こういう考えは、少なくとも企業側からはとんと聞かなくなった。いつも言っているように
求める人材像が変わってきたからだ。
「一生懸命詰め込んできました」というタイプは、もちろん悪くはないが別に好かれもしない。

僕もそうだったからわかるんだけど、公立の一番ダメなところは、ごくごく平均的なモデルにそって
カリキュラムが組まれているため、頑張る子でも、というか頑張れば頑張るほど枠にはまった“普通の子”
になってしまうということだ。

で、その平均的モデルというのは大昔に作られた昭和モデルなせいで、実社会でえらく苦労する羽目になる。
中学、高校は地方公立で優等生、大学もそこそこ良い国立大、でも今では平均年齢40歳企業の“永遠の若手”
状態という人は少なくない。むしろ僕の知人はそんなのばっかりだ。
これもまた、若い世代の閉塞感の一つだと思う。

個人的には、私学の中高一貫校出身者の方が、話していて余裕があるというか、組織依存でない
アウトサイダー指数が高い気がする。

もちろん、リスクはある。
たとえば同じくらいの偏差値の私大学生を100人面接したとすると、頭一つ抜けている私立中高出身者が
いる一方で、一番ダメなのも同じ私立校出身者だったりする。
それでも、たぶんそういう人は公立校に行っても勉強はしていないはずなので、やはり今の時代、
私立を選択するのは合理的な気がする。

余談だが、“勉強時間”という意味なら、大学までガンガン詰め込みして、在学中は“優”かせぐために
一生懸命授業に出て、卒業後は官費で欧米の大学院に留学している財務や経産官僚が最強だろう。
実際めちゃくちゃ優秀な人は多い。
であるので、労働市場改革や教育改革を待たなくても、大学四年生対象に“達成度試験”みたいなもの
を作って就職活動に使わせれば、みんな勉強するだろうから手っ取り早く底上げにはなると思われる。

もっとも、霞が関を見ても明らかなように、優秀な若手を採ったところで、それを活かす人事制度が
ないと組織全体のパフォーマンスは上がらないわけで、結局は雇用流動化が必要である点に変わりはない。


※日本人で40代以上だと、章男ちゃんみたいに差を感じない人もいっぱいいるけど。