Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

書評:保守の遺言

2010-05-15 11:24:46 | その他
保守の遺言 (角川oneテーマ21)
中曽根 康弘
角川書店(角川グループパブリッシング)

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左翼の壊滅についてはわざわざ説明の必要もないだろうが、最近、保守の凋落ぶりもすさまじい。
保守と名乗る人はいても、話題になるのはせせこましいムラ意識丸出しの発言くらいだ。
国民新党なんて、バラマキや郵政国有化というトンデモ政策で支持率が低下するや、思い出したように
「夫婦別姓反対!」と撒き餌を投げる。「みんな、こういうの受けるんでしょ?」というわけだ。
こういった問題を真面目に考えているという人は、足元見られてバカにされているわけだから怒った方がいい。

要するに、もともと“反共”同好会でしかなかったから、“共”が無くなればせいぜい「日本最高!」
程度のフレーズしか出てこない薄っぺらい方々なのだろう。
「ギリシャ暴動は資本主義崩壊の号砲」といって絶賛しちゃう人たちもたいがいだが、たぶん、
おつむの程度はどっこいどっこいだ。
なんてことを考えている時に、ふと手に取ったのが本書である。

氏は冒頭、保守の本質を、英国のエドマンド・バークの言葉を引用しつつ、こう定義する。

「保守せんがために、改革する」
保守政治をするためには常に改革し続けなければならず、それを忘れたら単なる守旧派にすぎない。
自民党が敗北したのは、彼らが改革を忘れて守旧派になり下がっていたためだ。

では、なにゆえ日本は保守であるべきなのか。それは、日本の歴史を見れば明らかだろう。
古くは仏教や漢字といった中国文化を、近代以降は西洋文明の数々を受け入れ、独自に消化吸収できたのは、
変わらぬアイデンティティーを持ちつつ、進取の気性も失わないという「不易と流行」の精神を
受け継いできたためだ。
つまり、日本社会そのものに保守が備わっていたということになる。

以上、とっても明快な論理である。

確かに、氏の保守政治家としての改革力は戦後史の中では群を抜いている。
「しょせん政権などというものはいつか変わる。頭の上を嵐が過ぎるのをじっと待っておればよい」
と(労組どころか)総裁自身がいってのける国鉄を分割民営化できたのは、「常に改革が必要である」
という信念のゆえだ。
デフレでもない80年代に、第二臨調を立ち上げてゼロシーリング(予算の伸び率ゼロ)を達成したのも、
旧きを守ることを潔しとしなかったためだろう。

そんな大勲位から見れば、小泉改革なんて中途半端なぬるま湯で、安倍・福田の両首相は所詮金持ちのぼんぼん
にすぎず、麻生さんにいたっては「アホの子」に見えるのも当然かもしれない。

保守というものに少しでも関心のある人には、おすすめできる入門書である。

ただし。
氏の言葉で、憲法改正以外、具体性のある政策が語られることは遂に無い。
どうやって破綻寸前の財政を再建し、老衰しつつある地方を再生し、どうやってそのための銭を稼ぐのか。
その点はきれいさっぱり欠落している。
申し訳ないけれど、30代の一人としては、憲法改正が
これらの問題より優先度が高いとはどうしても思えないのだ。


なんてことを言われれば「そんな下世話な実務の話は俺に振るなよ」と返されそうだが、
だったらそんな人物を「終身比例代表一位」に飾っておくわけにはいかない。
だって、保守とは常に前に向けて改革していくグループなんでしょ?

結局のところ、かつて保守なるものを理解し体現していた大勲位も、いつしか55年体制の枠内に守旧する部分が
出来てしまったということか。もちろん、それを乗り越えて先へ進むのも“保守”の役割である。
保守とは、守旧とはもちろん、年功序列とも違うのだ。

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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
政治家のイメージ (しみず)
2010-05-15 15:06:17
中曽根さんは、わたしが子供のころに、ずっと首相をやっていたので、わたしの「政治家像」の原型を形成しています。

なので、わたしにとっての位置づけは、「最後のステイツマン」という感じです。
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Unknown (Unknown)
2010-05-15 17:09:27
>そんな人物を「終身比例>代表一位」に飾っておく>わけにはいかない。

中曽根さんはもう政治家からは引退されているので、「終身比例代表一位」ではないと思います。
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大クンニ (のびたろう)
2010-05-15 17:31:24
プラザ合意と前川リポートはどう評価されるのでしょうか?
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Unknown (epi)
2010-05-15 18:09:38
私の好きな言葉を思い出しました。
「変わらないために、変わり続ける」

「保守せんがために、改革する」と同じ意味かと思います。
中曽根さんがこのようなことを仰られていたとは、感銘を受けました。

どんな物や技も、変化・進化していくことを止めてしまったら、あっという間に劣化していきます。
椅子にふんぞり返って「すごいだろー」と言っていると、気がついた頃には他者がはるか先に行ってしまい、残るのはプライドだけ、なんていうのは最悪のパターンです。
と言うか、日本を見ているとそうなりつつあるように見えてしまいます。
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Unknown (朱美)
2010-05-15 18:23:11
久しぶりのコメント投稿です。

KYなことを書いて恐縮なのですが、
桐野夏生の『東京島』という本、
城さんは読まれたことがありますか?
もし気が向いたら手にとってみてください。


性別や性格によっても受け止め方は違う
と思いますが、人によっては気持ち悪く
なって途中で断念する方もいそうですが、

多分城さんは、苦笑しながらも結構スラ
スラ読み終えてしまう方なのではないかな~と。

朱美は爆笑しました。
ぞっとしたりハッと気づくこともありました。
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高齢だからしょうがない ()
2010-05-15 20:41:04
>中曽根さんはもう政治家からは引退されているので、「終身比例代表一位」ではないと思います。

いや、だから小泉さんに引退させられてるから。本人は納得いってない御様子だけど。

中曽根さんは実績的には申し分ないし、保守というものの本質を常に意識している政治家だと思う。それだけの人であっても、年取るとズレてきちゃうんだなぁというのが少々残酷。

>桐野夏生の『東京島』

あれねえ、読もうとは思ってるけどまだ読んでない。確か佐藤優も推薦してたな。
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思うに (kenji)
2010-05-15 22:14:30
現在のいろいろな問題は中曽根内閣の時に種がまかれたのではないか?

 つまりターニングポイントであったとおもう。
次期支援戦闘機の自主開発の放棄、対韓国政策のしくじり、対中政策の不都合さ、対米政策の軽さ、その他外交的にはよくないのでは?
 
 つまり外交的には失敗、内政的には成功ということで、わが国の政治家としては失格ではないか?

 非常に不思議だが彼も衆議院選挙で大勝しても、自民党総裁任期を一年延長して、その後、止めている。
 小泉氏も同じである。選挙で大勝して、その後一年で止める、イギリスの政党政治家がいるだろうか?

 此処に何かがあるわけだが、総理の人気が国民の選挙で決まらない、何かがわが国政府内にあるのだろう。
 それゆえ鳩山氏は辞任をしないのでは?
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Unknown (Unknown)
2010-05-15 23:06:41
保守というと、扇千景の保守ピタルしか思い浮かびません。
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Unknown (s15)
2010-05-16 12:41:44
保守って人たちは何をどう保守してるのかさっぱりわかりません。
彼らにとっては日本という偶像が大事なのであって
そこに住んでいる人のことなどどうでもよいと思っているように見えます。
21世紀にもなって”国破れて山河在り”では困ってしまうわけです。
国=人だと思うので、人が居ついて栄えてこそ国が栄えるわけで
その逆はないような気がするんですが…。
日本人にとっての保守って
今日の暮らしや安全が明日も続くことであって
決して憲法や日の丸君が代じゃないと思うんですよね。
そういう意味では「国民の暮らしが第一」を上げた小沢一郎に負けるのは当然であって
その結果が思わしくなくても
”保守”なんてものに長年政治を任せた日本人の自業自得と戒めないといけないのかもしれません。

”兵どもが夢の跡”なんてのは
歴史上のお話だけにしておきたいものです。
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中曽根さんといえば (スターチスの花言葉)
2010-05-16 18:04:47
以前 評論家の落合信長さんが日本の政治家の中で唯一評価出来る方だとおっしゃっていました。
中曽根さんにしても 田中角栄さんにしてもその改革の功罪を きちんと冷静に客観的に適切な距離感で 見直して欲しいです。
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