東北と北海道にある百名山の花を3回紹介してきた。さて、皆さんは名前の知らないお花に出会ったときどうするだろうか。「きれいだね」で通り過ぎるか写真を撮っておくか、あるいは同行の友に名前を聞くか(女性の方にやたら花に詳しい方がおみえになる)であろう。自宅に帰ってから、花の図鑑で調べたり、スマホの有料アプリ(必ずしも正確でない!!)で調べるであろう。私の持っているポケット図鑑は、400種登載されている(例えばハクサンフウロで調べると同属のチシマフウロも載っているのでもっと多い)。そうして調べたら、写真にその名前を付けておくと後から見たときにすぐにその名前がわかってとても便利である。
日本の山は高山植物の種類が多いことで知られている。なぜ多いのだろうか。この疑問に答えるために少し日本の気候、地理、高山植物そのものについて勉強しよう。
◯世界一の強風と多雪
・冬場に日本の上空1万m付近にはジェット気流が西から東へ吹き荒れる。この影響を3000m級の山々は受ける。稜線近くでは秒速20m以上の風が吹いていることが多い。
・対馬海流は暖流で日本海に入ると水蒸気を発生させる。上空にはシベリアからの北西風が吹き、冷えた水蒸気は雪や氷となり日本海沿岸や日本列島の背骨のようになっている山脈に吹き付ける。こうして日本海に沿った地域や山々は豪雪に見舞われる。
・山を生息域としている木や草花はこれらの影響を受けている。
◯日本の山は北緯30度付近の宮之浦岳〔屋久島)から北緯45度付近の利尻岳までの間にある
日本列島における植物の垂直分布帯
・高山植物が生息するのは高山帯(森林限界を超える地帯)であるが、北アルプスだと2300m付近(南アルプスだと2700m付近)、鳥海山だと1500m付近(偽高山帯)、大雪山で1300m付近、利尻岳ではなんと700m付近から上が高山帯ということになる。
・北岳山頂付近(3000m以上)で見られるような花が鳥海山では2000m以下、羅臼岳では1000mから上で見ることができる。
◯高山植物はどこから来たのか
・高山植物には北方系のものが多く、これらは寒冷な氷河時代に南下してきた。ヒグマ、雷鳥、ナキウサギも南下してきた。
・氷河時代は、海面が低下し、サハリンと北海道は陸続きとなった。(津軽海峡はつながっていないので、北海道から東北へはどのように渡ってきたのだろうか(例えば鳥が果実を食べて糞のなかに実が入っていたとか?)。
・氷河時代が終わり、暖かくなるともともと寒いところにいた植物は高い場所に生息地を求め、高山帯に取り残された。
◯ハイマツと高山植物はライバル
・ハイマツは、寒冷地であるシベリア、カムチャツカ、中国東北部等に生息しており、日本には氷河期に南下してきた。温暖化とともに、高山に逃げ込んだ氷河遺存種である。
・南限は赤石山脈の光岳(てかりだけ、ここも百名山)で西限は加賀白山。中部山岳では2500m以上、北海道では1000m以上(海岸に近い低地にも自生)に生息。
北海道 羅臼平(1400m) 真ん中は羅臼岳山頂 登山道の両脇はハイマツ そうすると雪の深さは腰までくらいと推測される
・ハイマツはマダラ状に生息しているのは、強い風と深い雪が関係している。そして、マダラ状であること=空地があることが高山植物が生息できる理由となっている。
・ハイマツの枝は夏には折ろうと思っても折れない(水分が多い)のだが、冬になると水分を減らし、寒さに耐えようとする。ゆえに冬には枝は簡単に折ることができるようになる。このため、雪の上に枝が出ている場合、枝が折れてしまう。このことが木の高さが積雪の高さとほぼ一致する理由である。
・要するに強風地や残雪が多いところではハイマツは生息できない。
・仮に日本の高山が、強風、多雪でなかったら、、日本の高山帯は全域ハイマツに覆われていたことであろう。
◯高山植物の生息地とその特徴
左上 砂礫地 稜線付近で細かい砂礫からなる地形 コマクサ、タカネスミレ、ウルップソウ、タカネツメクサなど長い根を伸ばす植物
右上 風衝草地 安定した岩礫地で強い風が吹く トウヤクリンドウ、コメバツガザクラ、ウラシマツツジ
左下 岩角地 稜線付近で安定した岩場の隙間 イワベンケイ、シコタンソウ、イワウメ、イワヒゲ、チョウノスケソウ
右下 崩壊地 不安定な岩礫地 イワオウギ、オンタデ、ミヤマクワガタ、ミヤマアズマギク
左上 雪田草原 カール地底など雪が遅くまで残る 生育期間が短い チングルマ、アオノツガザクラ、ハクサンコザクラ、イワイチョウ
右上 広葉草原、高茎草原 斜面~沢沿いで冬に雪崩の多いところでは樹木は生育できない ここが「お花畑」と呼ばれる草地となる ミヤマキンポウゲ、ハクサンフウロ、シナノキンバイ
左下 ハイマツ林 林縁にコケモモ、キバナシャクナゲ、タカネナナカマド
右下 落葉広葉樹林 亜高山帯で多雪の影響をやや受けやすい シラネアオイ、カニコウモリ
※二枚の写真は新井和也著「日本の高山植物」から引用
・高山植物は生育できる期間が短い。雪どけを待って、6~8月が生長できる期間。光合成によって得たエネルギーを根などに蓄え、毎年すこしずつ生長する。
・高山植物はほぼ100%多年生植物で、地下茎や根を伸したりして分布域を広げている。(実をつけても、実が落ちて発芽し、大人になるまでに雪が来てしまう。)
・チングルマなど矮性低木は高さ数センチ、幹直径2,3mmでも何十年も経っている。
ここに書いた内容は、小泉武栄著「日本の山と高山植物」(平凡社新書)にほとんどよっている。とても良い本なので是非購入(アマゾンの中古本)して、読んで欲しい。ここには蛇紋岩(早池峰山、至仏山など)や石灰岩など生育には適さない土壌のところになぜ珍しい花があるのかも書いてある。
日本の山は高山植物の種類が多いことで知られている。なぜ多いのだろうか。この疑問に答えるために少し日本の気候、地理、高山植物そのものについて勉強しよう。
◯世界一の強風と多雪
・冬場に日本の上空1万m付近にはジェット気流が西から東へ吹き荒れる。この影響を3000m級の山々は受ける。稜線近くでは秒速20m以上の風が吹いていることが多い。
・対馬海流は暖流で日本海に入ると水蒸気を発生させる。上空にはシベリアからの北西風が吹き、冷えた水蒸気は雪や氷となり日本海沿岸や日本列島の背骨のようになっている山脈に吹き付ける。こうして日本海に沿った地域や山々は豪雪に見舞われる。
・山を生息域としている木や草花はこれらの影響を受けている。
◯日本の山は北緯30度付近の宮之浦岳〔屋久島)から北緯45度付近の利尻岳までの間にある
日本列島における植物の垂直分布帯
・高山植物が生息するのは高山帯(森林限界を超える地帯)であるが、北アルプスだと2300m付近(南アルプスだと2700m付近)、鳥海山だと1500m付近(偽高山帯)、大雪山で1300m付近、利尻岳ではなんと700m付近から上が高山帯ということになる。
・北岳山頂付近(3000m以上)で見られるような花が鳥海山では2000m以下、羅臼岳では1000mから上で見ることができる。
◯高山植物はどこから来たのか
・高山植物には北方系のものが多く、これらは寒冷な氷河時代に南下してきた。ヒグマ、雷鳥、ナキウサギも南下してきた。
・氷河時代は、海面が低下し、サハリンと北海道は陸続きとなった。(津軽海峡はつながっていないので、北海道から東北へはどのように渡ってきたのだろうか(例えば鳥が果実を食べて糞のなかに実が入っていたとか?)。
・氷河時代が終わり、暖かくなるともともと寒いところにいた植物は高い場所に生息地を求め、高山帯に取り残された。
◯ハイマツと高山植物はライバル
・ハイマツは、寒冷地であるシベリア、カムチャツカ、中国東北部等に生息しており、日本には氷河期に南下してきた。温暖化とともに、高山に逃げ込んだ氷河遺存種である。
・南限は赤石山脈の光岳(てかりだけ、ここも百名山)で西限は加賀白山。中部山岳では2500m以上、北海道では1000m以上(海岸に近い低地にも自生)に生息。
北海道 羅臼平(1400m) 真ん中は羅臼岳山頂 登山道の両脇はハイマツ そうすると雪の深さは腰までくらいと推測される
・ハイマツはマダラ状に生息しているのは、強い風と深い雪が関係している。そして、マダラ状であること=空地があることが高山植物が生息できる理由となっている。
・ハイマツの枝は夏には折ろうと思っても折れない(水分が多い)のだが、冬になると水分を減らし、寒さに耐えようとする。ゆえに冬には枝は簡単に折ることができるようになる。このため、雪の上に枝が出ている場合、枝が折れてしまう。このことが木の高さが積雪の高さとほぼ一致する理由である。
・要するに強風地や残雪が多いところではハイマツは生息できない。
・仮に日本の高山が、強風、多雪でなかったら、、日本の高山帯は全域ハイマツに覆われていたことであろう。
◯高山植物の生息地とその特徴
左上 砂礫地 稜線付近で細かい砂礫からなる地形 コマクサ、タカネスミレ、ウルップソウ、タカネツメクサなど長い根を伸ばす植物
右上 風衝草地 安定した岩礫地で強い風が吹く トウヤクリンドウ、コメバツガザクラ、ウラシマツツジ
左下 岩角地 稜線付近で安定した岩場の隙間 イワベンケイ、シコタンソウ、イワウメ、イワヒゲ、チョウノスケソウ
右下 崩壊地 不安定な岩礫地 イワオウギ、オンタデ、ミヤマクワガタ、ミヤマアズマギク
左上 雪田草原 カール地底など雪が遅くまで残る 生育期間が短い チングルマ、アオノツガザクラ、ハクサンコザクラ、イワイチョウ
右上 広葉草原、高茎草原 斜面~沢沿いで冬に雪崩の多いところでは樹木は生育できない ここが「お花畑」と呼ばれる草地となる ミヤマキンポウゲ、ハクサンフウロ、シナノキンバイ
左下 ハイマツ林 林縁にコケモモ、キバナシャクナゲ、タカネナナカマド
右下 落葉広葉樹林 亜高山帯で多雪の影響をやや受けやすい シラネアオイ、カニコウモリ
※二枚の写真は新井和也著「日本の高山植物」から引用
・高山植物は生育できる期間が短い。雪どけを待って、6~8月が生長できる期間。光合成によって得たエネルギーを根などに蓄え、毎年すこしずつ生長する。
・高山植物はほぼ100%多年生植物で、地下茎や根を伸したりして分布域を広げている。(実をつけても、実が落ちて発芽し、大人になるまでに雪が来てしまう。)
・チングルマなど矮性低木は高さ数センチ、幹直径2,3mmでも何十年も経っている。
ここに書いた内容は、小泉武栄著「日本の山と高山植物」(平凡社新書)にほとんどよっている。とても良い本なので是非購入(アマゾンの中古本)して、読んで欲しい。ここには蛇紋岩(早池峰山、至仏山など)や石灰岩など生育には適さない土壌のところになぜ珍しい花があるのかも書いてある。
出てくる高山植物は殆ど見たことの無いものばかりですが、花のシリーズはこれからも楽しみです。
今回「日本列島の植物の垂直分布図」が興味深く、高山帯にどうしてこんなに差があるのか不思議です。厳しい気象環境と複雑な地形からでしょうか。この垂直断面図が面白い! ハイマツと積雪の関係もなるほどと合点がいきました。
一行進み、一度では中々理解出来ずまた読み返したりですが! 続きを希望します。
種本を読み直して、特にハイマツの生態に興味をもちました。
少しわかりにくいところがあります。
何故残雪が多いところではハイマツは生息できないか。
植物は光合成ができないと死んでしまいます。残雪が遅くまで
あると光合成ができる期間が少なくなります。これだと消費するエネルギーと生産するエネルギーがマイナスになるということです。したがって、ハイマツの背丈くらいの雪であれば、雪が少し溶ければ、光合成をすることができるようになります。
ハイマツが生育する限界がよく分かりました。
益々垂直分布帯図が面白くなります。
ハイマツ地帯まで登るチャンスがあったなら積雪期を想像してみるのも愉しみの一つになります。
残雪が多いとハイマツが生育できないのは何故だ?そう思いつつこのコメント欄を読んだら、書かれているではありませんか。疑問に思ったのは私だけじゃなかったんだ、そしてな~るほどと思いました。
本文の中に説明を追加されるとコメント欄を開かなくても容易に理解できるのだけれど…。これくらい考えなさいと言われるかな?
次の投稿も待っています。