12月30日の産経は来年一月一日にルーマニア、ブルガリアが新たに加わりEUは27ヶ国になる。一方、長年EU加盟を待ち望んでいるトルコの加盟はEUが加盟交渉を一部凍結するなどで、残念ながら更に遅れる情勢に成っている。
記事に加えて、一橋大学大学院教授の内藤正典氏の寄稿が掲載されている。要旨を書けば、
「キプロス問題に関するヨーロッパ諸国のトルコへの要求はダブルスタンダードであり、トルコにしてみれば加盟交渉というゲームが始まってから、新条件を突きつけられたに等しい。
その要因としてはフランス、ドイツ、オランダ等のEUの牽引車だった国々が、拡大によって統合を図るというEUの理念から距離を置いたことがあり、加えて今、西ヨーロッパのEU諸国は急速に内向きな方向に転換しつつある。反イスラム感情やイスラム移民に対する不満もトルコの疎外を後押ししている。
一方トルコはあからさまなダブルスタンダードを突きつけるEU諸国に反感を募らせ、EUはキリスト教クラブに過ぎないと思い始めている。この反感が過激なイスラム主義や偏狭ナショナリズムを生まないよう、EUがトルコを疎外することが中東の安全保障にとってどれだけ打撃となるかEU諸国は真剣に再考すべき。」と結んでいる。
私もこの意見には賛成であり、いまやEUは少々の無理をしてでもトルコをメンバーに迎えるべきと考える。
現在のトルコ共和国は約600年続いたオスマントルコに代わって、白人の植民地となることも無く現在の規模で、1923年に建国された。初代の大統領は ムスタファ ケマル アタチェルク。トルコの父として今もって称えられている英明な大統領で、1925年に政教分離令(イスラム法によらない社会)を発布し、トルコをイスラム国家から国民国家へ変えるべく、宗教・教育に始まる8大改革を行い、現在の礎を作っている。
しかし、上からの急激な改革であったため、今もってイスラム原理主義者との軋轢を生んでいるようであり、なかなか西洋の望む形でのトルコ社会の近代化は進まない。これを小説にしたのが2006年ノーベル文学賞受賞のオルハン・パムクであり、その作品の「雪」である。
トルコはイスラム原理主義者との問題に加えイラクとの国境にいるクルド族との民族問題を抱えており、内藤教授が言うまでも無く、もし折角掴みかけている世俗社会―現代社会の条件の一つーがイスラム社会に逆戻りするようなことがあれば、トルコ一国の問題ではなくなり、中東和平の更なる障害になってしまう。なぜなら、イスラム社会はいまもってイスラム法による国家支配しか示してきていないからであり、これでは今までのところどの国も国民国家を形成できず、したがって現代社会には到達していないからである。
先進諸国家にとってはトルコはイスラム社会の希望の星と言っても過言ではないのだと思うがキリスト教徒には理解しがたいことなのだろうか?