当初、「2006年日本の課題」というタイトルで話を続けるつもりはなかったが、どうもこのタイトルを続けることが必要な状況になってきた。‘その4’として書く。
‘その3’でブッシュが一般教書で不安定な中東の石油への依存を減らすと言っていることを書き、「アメリカが中東の石油をコントロールすることに赤信号を出したのでは」と懸念を述べた。2月11日の産経「資源開発 中国は米の脅威、エネルギー省報告 無法国家と連携」として報告している。パムボ委員長の発言を取り上げ、「中国が経済成長のため、資源獲得にあらゆる手段を講じている。今後10数年に確たるエネルギー対策を採らなければ、中国は利権獲得に躊躇することはないだろう。今後の経済成長のためにエネルギー資源獲得のために動かねばならない」
日高義樹氏のこの2月に発売の最新書「米中石油戦争が始まった」は、いみじくも世界的レベルの石油獲得競争が米中を中心に始まっていることを明確に述べており、それに対しての日本の政治家並びに官僚たちがこの世界の大変動に気がついていないと警告は発している。私もそのとおりだと思う。繰り返しになるが、日本はこの大変動に気づき対応を図らなければ将来大変な事態になることが容易に想像できる。石油の手当てをどうするのか、代替エネルギーをどうして行くか、そして場合によっては日本にとってもっとも苦痛を伴うであろうこと、将来の国の経済の規模を縮小せざるを得ないことも検討課題になるであろう。まさに日本国とっての危機が迫っている。国内の政治論議、大陸・半島相手の不毛な議論など直ちにやめて、この世界的大変動に取り組むべきと考える。
以下が「米中石油戦争が始まった」の最終章である。少し長いが前文を掲載させて貰う。
第6章 第5部 日本の政治家と官僚は何も知らない
21世紀、中国とアメリカが石油を巡って対立するのは、すでに述べたように2010年には世界の石油の産出高がピークを迎えて不足してくるからだが、日本の政治家も官僚もそうした深刻な事態がやってくることにまったく気が付いていない。
米中石油戦争がすでにはじまったことや、2010年以降石油が不足してくることに日本の政治家や官僚が注意を払っていないのは、第二次大戦に敗れて以来、安全保障のすべてをアメリカに頼り、石油の安定供給も安全保障の一つと安易に考えているからだ。
私の知る限り日本の政治家と官僚の仲で、長期的な石油戦略や、石油、ガスの問題について真剣に考え、発言している人は全くいない。アメリカのブッシュ大統領がエネルギーの将来を懸念し、全力を挙げてエネルギー政策に取り組んでいるのとは対照的である。
ブッシュ大統領は2005年7月28日、念願の新エネルギー法案を成立させたが、その発表のときに「さらに新しいエネルギー法案が必要になる」と述べている。中国の胡錦濤主席もカナダやメキシコ、ベネズエラを訪問してそれぞれの国や首相に対して石油の安定供給を強く求めている。
日本では石油の効率利用が進んでいるため、1979年の石油危機の際も、2005年に石油価格が高騰したときも、世界の他の先進国に比べて、むしろ有利に立ち回ることができた。このため石油の供給が将来先細りになるという懸念を抱く人があまりいない。
日本の政治家や官僚たちは気が付いていないが、石油の供給源は二つに大きく分かれようとしている。アメリカの石油メジャーは北極や海の底以外に新しい油田を手に入れることができなくなっている。
「石油メジャーは2005年の値上がりで、膨大な資金を手にした。当分は地の果てからでも石油を掘り出す金を持っているがそのあとが心配だ」
アメリカのエネルギー省のボドマン長官はこういっており、原子力発電に力を入れようとしている。
中国はすでにこのことに気がついており、世界中のありとあらゆる産油国に接近している。産油国のほとんどが専制国家か、民主主義が行き渡っていない国であるという条件に恵まれて、いまや着々と石油供給の体制をつくりつつある。
それに比べて日本には、どこを見渡してもエネルギー政策はおろか、石油戦略もない。
政治家たちは石油の供給よりもむしろ、国民に石油を節約することばかり考えている。従ってクールビズなるファションの普及に協力し悦に入っている。
日本の政治家や官僚たちは、冷戦後の世界がさらに大きく変わってきていることに気がついていないのである。アメリカの後ろについていさえすれば石油が手に入る時代がとっくに終わってしまっていることに気がつかない。
中国がアメリカの石油に挑戦し米中石油戦争が始まったことによって、世界に大変動が起ころうとしている。だが、日本の政治家や官僚たちは、今もなお冷戦時代が続いていると思い込んでおり、すでにアメリカが世界戦略を変えたことを理解しようとしていない。
アメリカはもはや冷戦時代のようには、日本を守る気がなくなっている。ところが日本の政治家や官僚たちは、日本の経済力や企業の技術をアメリカは必要としているので、冷戦時代のときと同じように日本を保護してくれると信じている。
日本の政治家たちは長い間「世界」のことはすべてアメリカに依存し、「選挙区」である地元のことだけに全力を挙げていれば日本の国が動いてきたから、外界の新しい事態に注意を払う習性を失ってしまった。
だがいまや選挙区のことだけを構っていれば良い状況ではなくなってきている。世界は目まぐるしく変化している。例えば日本が国際政策の基本としてあがめている国連だが、いまや汚職の巣窟になりはて、ブッシュ政権とはのっぴきならない対立に陥っている。
そうしたなかで国連安保理の常任理事国になろうとしている日本は、検討ハズレのロビー活動を行って国民の税金を無駄遣いしている。日本がいくら努力しようと、日本を一流国家にしたくない中国は反対の姿勢を変えないだろうし、日本だけを常任理事国にしたいアメリカは、その提案では通らないと弱気になっている。
日本が国連安保理の常任理事国になる可能性はきわめて小さいが、日本の政治家や指導者たちには、そうした世界の現実が目に入らない。それどころか日本の国家の命運に関る、もっと重要なことにすら気がついていない。
トランスフォーメーションで、在日米軍をはじめアジア極東のアメリカ軍の再配備がはじまっているが、日本の政治家たちは「アメリカ軍がどこへ行くか」にだけ感心を集中するあまり、その背後にアメリカの対中国戦略の変更があることに気がついていない。
すでに詳しく述べたように、アメリカ軍のトランスフォーメーションは、アジア大陸においては地上戦闘を避け、一歩はなれた太平洋の先から中国を狙う戦略である。
この新しいアメリカの戦略について国防政策の立案者たちも、現場のアメリカ海軍や空軍の司令官たちも、ハッキリした説明を避けている。そのため日本の政治家や官僚たちはよけい、アメリカが何を考えているのかつかむことができない。
だがこのトランスフォーメーションこそ21世紀のアメリカの新しい対中国戦略なのである。アメリカは太平洋を一歩引いて中国のとめどもない軍事的拡大に歯止めをかけようとしているが、この戦略の根底にはアメリカの新しい孤立主義がある。
この新しい孤立主義は「アメリカは外のことはいっさい関与しない」という、第一次大戦前の「アメリカ第一主義者」たちによる孤立主義とは違っている。世界的にアメリカのビジネスが展開しドルが基軸通貨になっている現在、そうした古典的な孤立主義はとりようがない。
新しい孤立主義ではアメリカは「外のこと」に介入する。だがそれはあくまでアメリカの利益を守るためである。例えば中国が日本の南西諸島や尖閣諸島を不法に占拠して海底油田を開発しはじめたとしてもアメリカは介入しない。これは明らかにこれまでのアメリカのアジア極東における基本姿勢とは異なっているだけでなく、日米安全保障条約の基本方針とも矛盾する。
アメリカは、中国や北朝鮮が韓国や日本を占領しようとした場合には、アジアにおける勢力地図の変更につながるものとして無論介入する。要するに尖閣諸島や南西諸島の所属は、国境線のいざこざにすぎないとしてアメリカは介入しない。
こうしたブッシュ政権の孤立主義的な考え方は、石油の供給にも関ってくるはずである。アメリカの基本は自由市場体制であり、アメリカの石油メジャーは思想や体制に変わりなく世界中に石油を売り渡していた。
だがメジャーはいまや石油供給源を限定されている上、2010年になると世界の石油の供給がピークを迎える。そうなった場合にアメリカのメジャーがこれまでと同じように世界に石油を売ってくれるかどうかわからない。
だがそうした将来の事態も、それに備えたエネルギー戦略も考えていないのが、日本の政治家であり、官僚たちである。日本の政治家は急速に変化しつつある世界情勢をまったく把握していない。いまだに冷戦の世界にいて、日米安保体制によって日本への石油供給が続くと安心している。
だが現実の世界では米中石油戦争がはじまり、アメリカと中国と言う二つの超大国が国家利害に基づいて対立している。アメリカと中国は国家戦略を立て、国の利益を守るためにに石油をめぐって戦い始めている。
米中石油戦争は、第二次大戦のような航空機や軍艦による砲火の浴びせあいではない。国家の持てるあらゆる力を使っての駆け引きであり、闘争である。しかし冷戦と違って、アメリカと中国の石油資源をめぐる戦いによって、すでに地球規模で不協和音が聞こえ始めている。
「中国は世界の批判に耳を貸さず人民元を切り上げようとしない。国連の権威が揺るぎ、世界の安定を任務とするはずの安全保障理事会がもめている。アメリカの影響力が急速に低下し中東の戦争が片づかない。中国が日本の境界線を脅かし、エネルギー資源を掠め取ろうとしている。北朝鮮は核兵器開発をやめない」
こうした状況はすべて、世界が変動に向かっていることを示している。第二次大戦後、冷戦と国連によって比較的安定していた世界の国々の関係が、国家利益を基本とする関係に変わったからである。
日本の政治家や官僚たちは、世界の国々が国家の利益をもとめて国家戦略を発動しはじめたことに気が付かない。そのうえ歴史の教訓も身に着けていないため激動する世界に目をつむったままである。
米中の石油戦争は新しい時代の幕開けに他ならない。冷戦後の世界は新たな今日局面を迎える。日本がこの大変動の時代を生き延びるためには新しい指導者と国家体制が必要である。憲法を変えたり防衛庁の名前を国防省にするだけでは、到底追いつけないような急激な変化が世界に起きている。
‘その3’でブッシュが一般教書で不安定な中東の石油への依存を減らすと言っていることを書き、「アメリカが中東の石油をコントロールすることに赤信号を出したのでは」と懸念を述べた。2月11日の産経「資源開発 中国は米の脅威、エネルギー省報告 無法国家と連携」として報告している。パムボ委員長の発言を取り上げ、「中国が経済成長のため、資源獲得にあらゆる手段を講じている。今後10数年に確たるエネルギー対策を採らなければ、中国は利権獲得に躊躇することはないだろう。今後の経済成長のためにエネルギー資源獲得のために動かねばならない」
日高義樹氏のこの2月に発売の最新書「米中石油戦争が始まった」は、いみじくも世界的レベルの石油獲得競争が米中を中心に始まっていることを明確に述べており、それに対しての日本の政治家並びに官僚たちがこの世界の大変動に気がついていないと警告は発している。私もそのとおりだと思う。繰り返しになるが、日本はこの大変動に気づき対応を図らなければ将来大変な事態になることが容易に想像できる。石油の手当てをどうするのか、代替エネルギーをどうして行くか、そして場合によっては日本にとってもっとも苦痛を伴うであろうこと、将来の国の経済の規模を縮小せざるを得ないことも検討課題になるであろう。まさに日本国とっての危機が迫っている。国内の政治論議、大陸・半島相手の不毛な議論など直ちにやめて、この世界的大変動に取り組むべきと考える。
以下が「米中石油戦争が始まった」の最終章である。少し長いが前文を掲載させて貰う。
第6章 第5部 日本の政治家と官僚は何も知らない
21世紀、中国とアメリカが石油を巡って対立するのは、すでに述べたように2010年には世界の石油の産出高がピークを迎えて不足してくるからだが、日本の政治家も官僚もそうした深刻な事態がやってくることにまったく気が付いていない。
米中石油戦争がすでにはじまったことや、2010年以降石油が不足してくることに日本の政治家や官僚が注意を払っていないのは、第二次大戦に敗れて以来、安全保障のすべてをアメリカに頼り、石油の安定供給も安全保障の一つと安易に考えているからだ。
私の知る限り日本の政治家と官僚の仲で、長期的な石油戦略や、石油、ガスの問題について真剣に考え、発言している人は全くいない。アメリカのブッシュ大統領がエネルギーの将来を懸念し、全力を挙げてエネルギー政策に取り組んでいるのとは対照的である。
ブッシュ大統領は2005年7月28日、念願の新エネルギー法案を成立させたが、その発表のときに「さらに新しいエネルギー法案が必要になる」と述べている。中国の胡錦濤主席もカナダやメキシコ、ベネズエラを訪問してそれぞれの国や首相に対して石油の安定供給を強く求めている。
日本では石油の効率利用が進んでいるため、1979年の石油危機の際も、2005年に石油価格が高騰したときも、世界の他の先進国に比べて、むしろ有利に立ち回ることができた。このため石油の供給が将来先細りになるという懸念を抱く人があまりいない。
日本の政治家や官僚たちは気が付いていないが、石油の供給源は二つに大きく分かれようとしている。アメリカの石油メジャーは北極や海の底以外に新しい油田を手に入れることができなくなっている。
「石油メジャーは2005年の値上がりで、膨大な資金を手にした。当分は地の果てからでも石油を掘り出す金を持っているがそのあとが心配だ」
アメリカのエネルギー省のボドマン長官はこういっており、原子力発電に力を入れようとしている。
中国はすでにこのことに気がついており、世界中のありとあらゆる産油国に接近している。産油国のほとんどが専制国家か、民主主義が行き渡っていない国であるという条件に恵まれて、いまや着々と石油供給の体制をつくりつつある。
それに比べて日本には、どこを見渡してもエネルギー政策はおろか、石油戦略もない。
政治家たちは石油の供給よりもむしろ、国民に石油を節約することばかり考えている。従ってクールビズなるファションの普及に協力し悦に入っている。
日本の政治家や官僚たちは、冷戦後の世界がさらに大きく変わってきていることに気がついていないのである。アメリカの後ろについていさえすれば石油が手に入る時代がとっくに終わってしまっていることに気がつかない。
中国がアメリカの石油に挑戦し米中石油戦争が始まったことによって、世界に大変動が起ころうとしている。だが、日本の政治家や官僚たちは、今もなお冷戦時代が続いていると思い込んでおり、すでにアメリカが世界戦略を変えたことを理解しようとしていない。
アメリカはもはや冷戦時代のようには、日本を守る気がなくなっている。ところが日本の政治家や官僚たちは、日本の経済力や企業の技術をアメリカは必要としているので、冷戦時代のときと同じように日本を保護してくれると信じている。
日本の政治家たちは長い間「世界」のことはすべてアメリカに依存し、「選挙区」である地元のことだけに全力を挙げていれば日本の国が動いてきたから、外界の新しい事態に注意を払う習性を失ってしまった。
だがいまや選挙区のことだけを構っていれば良い状況ではなくなってきている。世界は目まぐるしく変化している。例えば日本が国際政策の基本としてあがめている国連だが、いまや汚職の巣窟になりはて、ブッシュ政権とはのっぴきならない対立に陥っている。
そうしたなかで国連安保理の常任理事国になろうとしている日本は、検討ハズレのロビー活動を行って国民の税金を無駄遣いしている。日本がいくら努力しようと、日本を一流国家にしたくない中国は反対の姿勢を変えないだろうし、日本だけを常任理事国にしたいアメリカは、その提案では通らないと弱気になっている。
日本が国連安保理の常任理事国になる可能性はきわめて小さいが、日本の政治家や指導者たちには、そうした世界の現実が目に入らない。それどころか日本の国家の命運に関る、もっと重要なことにすら気がついていない。
トランスフォーメーションで、在日米軍をはじめアジア極東のアメリカ軍の再配備がはじまっているが、日本の政治家たちは「アメリカ軍がどこへ行くか」にだけ感心を集中するあまり、その背後にアメリカの対中国戦略の変更があることに気がついていない。
すでに詳しく述べたように、アメリカ軍のトランスフォーメーションは、アジア大陸においては地上戦闘を避け、一歩はなれた太平洋の先から中国を狙う戦略である。
この新しいアメリカの戦略について国防政策の立案者たちも、現場のアメリカ海軍や空軍の司令官たちも、ハッキリした説明を避けている。そのため日本の政治家や官僚たちはよけい、アメリカが何を考えているのかつかむことができない。
だがこのトランスフォーメーションこそ21世紀のアメリカの新しい対中国戦略なのである。アメリカは太平洋を一歩引いて中国のとめどもない軍事的拡大に歯止めをかけようとしているが、この戦略の根底にはアメリカの新しい孤立主義がある。
この新しい孤立主義は「アメリカは外のことはいっさい関与しない」という、第一次大戦前の「アメリカ第一主義者」たちによる孤立主義とは違っている。世界的にアメリカのビジネスが展開しドルが基軸通貨になっている現在、そうした古典的な孤立主義はとりようがない。
新しい孤立主義ではアメリカは「外のこと」に介入する。だがそれはあくまでアメリカの利益を守るためである。例えば中国が日本の南西諸島や尖閣諸島を不法に占拠して海底油田を開発しはじめたとしてもアメリカは介入しない。これは明らかにこれまでのアメリカのアジア極東における基本姿勢とは異なっているだけでなく、日米安全保障条約の基本方針とも矛盾する。
アメリカは、中国や北朝鮮が韓国や日本を占領しようとした場合には、アジアにおける勢力地図の変更につながるものとして無論介入する。要するに尖閣諸島や南西諸島の所属は、国境線のいざこざにすぎないとしてアメリカは介入しない。
こうしたブッシュ政権の孤立主義的な考え方は、石油の供給にも関ってくるはずである。アメリカの基本は自由市場体制であり、アメリカの石油メジャーは思想や体制に変わりなく世界中に石油を売り渡していた。
だがメジャーはいまや石油供給源を限定されている上、2010年になると世界の石油の供給がピークを迎える。そうなった場合にアメリカのメジャーがこれまでと同じように世界に石油を売ってくれるかどうかわからない。
だがそうした将来の事態も、それに備えたエネルギー戦略も考えていないのが、日本の政治家であり、官僚たちである。日本の政治家は急速に変化しつつある世界情勢をまったく把握していない。いまだに冷戦の世界にいて、日米安保体制によって日本への石油供給が続くと安心している。
だが現実の世界では米中石油戦争がはじまり、アメリカと中国と言う二つの超大国が国家利害に基づいて対立している。アメリカと中国は国家戦略を立て、国の利益を守るためにに石油をめぐって戦い始めている。
米中石油戦争は、第二次大戦のような航空機や軍艦による砲火の浴びせあいではない。国家の持てるあらゆる力を使っての駆け引きであり、闘争である。しかし冷戦と違って、アメリカと中国の石油資源をめぐる戦いによって、すでに地球規模で不協和音が聞こえ始めている。
「中国は世界の批判に耳を貸さず人民元を切り上げようとしない。国連の権威が揺るぎ、世界の安定を任務とするはずの安全保障理事会がもめている。アメリカの影響力が急速に低下し中東の戦争が片づかない。中国が日本の境界線を脅かし、エネルギー資源を掠め取ろうとしている。北朝鮮は核兵器開発をやめない」
こうした状況はすべて、世界が変動に向かっていることを示している。第二次大戦後、冷戦と国連によって比較的安定していた世界の国々の関係が、国家利益を基本とする関係に変わったからである。
日本の政治家や官僚たちは、世界の国々が国家の利益をもとめて国家戦略を発動しはじめたことに気が付かない。そのうえ歴史の教訓も身に着けていないため激動する世界に目をつむったままである。
米中の石油戦争は新しい時代の幕開けに他ならない。冷戦後の世界は新たな今日局面を迎える。日本がこの大変動の時代を生き延びるためには新しい指導者と国家体制が必要である。憲法を変えたり防衛庁の名前を国防省にするだけでは、到底追いつけないような急激な変化が世界に起きている。