うちの嫁さん、何を考えてるんだかわからないんだよね。いつ頃から、こうなっちゃったのかな・・・
昔は、僕の事を真っ直ぐに見つめていて、その視線が眩しいくらいで、「自分は愛されてる」っていう確信があった。彼女の親に結婚を反対された時も、大事な親の思いを突っぱねて、僕の胸に飛び込んできてくれた。そういう真っ直ぐな所が可愛くて、いとおしくて、一生大切にしたい、幸せにしたいって思ってた。
今、確かに彼女の瞳に、僕は映っているのだろうか・・・
数年前になるかな。彼女は、過去の恋人と再会してしまった。きっかけは、僕が買ったパソコン。友人同士のメールのやり取りから、それは始まった。日々の生活、感じた事を綴るうち、まるで熱にでも浮かされたように、その作業に熱中していった。彼女は、学生時代から書く事が好きだったんだ。たかがメールじゃないか。何でそこまで魂込めなければならないんだ。僕には理解できなかった。
テレビ番組のモニターの仕事をしていた時があった。番組をチェックし、感想をまとめて、原稿用紙に書く。毎月微々たる収入があったが、その収入を軽くふっとばすだけの時間を割いていた。放っとくと、何時間でも机に向かっている。バカじゃないかと思った。誰も彼女のレポートなんか、真剣に読んでいないんだ。そんなものに、何故それ程熱くなれるのか。それでも彼女は、幸福そうだった。好きな事をしてお金を稼ぐ幸せ。僕が手にしていないないものを、彼女は手にしている。その原点となった恋人に、僕は激しい憎悪を感じていた。
彼女の父親が、深刻な病にかかった時があった。検査の結果、やはり手術になりそうだという電話を受け、彼女はひどく落胆していた。受話器を耳にあてながら、必死で泣くのをこらえていた。力になりたい、彼女を抱きしめたいと、心から思った。が、電話を切った彼女は、僕の前を通り過ぎ、台所へ向かった。涙がこぼれないよう天井を見上げて一息つき、夕食の支度を始めた。何故、僕に何も言わない。何故、僕にすがってこない。夫婦って何なんだ。僕は怒りを覚え、隣室で彼女を傷つけるような一言を口にした。不意に、台所で激しくしゃくり上げる声がした。かけつけると、彼女は声を放って泣いていた。それでいいんだ・・・僕は、そっと彼女を抱いた。僕もその苦しみを受け止める。もっと泣いていいよ・・・だけど僕は知らなかった。彼女はその時、心の底から僕を憎んでいたんだ。’自分が優位に立つ為に、わざと傷つけたのか’ ’つまらない男のプライドの為に’ ’それを優しさだなんて認めない’ 彼女は、そう解釈していたのだった。不器用な形でしか自分の思いを表せない僕は、益々彼女から誤解され、軽蔑されていった。もどかしさを感じても、どうする事もできなかった。
最近になって、彼女はまた活動の場を見つけた。切ろうとしても切れない彼女の恋人。すべては、その恋人の為に回っている。家族、日々の生活、彼女自身の喜び、悲しみさえも。そんなのバカげてる。人を何だと思ってるんだ。僕は、一体何なんだ。ネタの一つか?再び、ひどい憎悪を覚え、ケンカになった。「誰の為にやってるんだ」愚かな質問をしてしまった。「私の為よ!」彼女は毅然と言い放った。そして、恋人への思いのたけをぶちまけた。「私の生き甲斐だから邪魔しないで」と。完全なる敗北。もう、どうしようもない。その恋人の存在を受け入れる事で、彼女が心から笑えるのなら、認めるしかないと思った。
夫婦仲は、とりあえず回復した。彼女は再び、僕の瞳を覗きこんで、にっこり笑うようになった。無邪気に甘え、無邪気にじゃれついてくる。しかし相変わらず、心の中は見せない。決して覗く事のできない彼女の心の奥に、何が潜んでいるのか。
ねぇ、奥さん。時折、君が見せる得体の知れない薄笑いに、僕が気づいてないとでも思ってる?
昔は、僕の事を真っ直ぐに見つめていて、その視線が眩しいくらいで、「自分は愛されてる」っていう確信があった。彼女の親に結婚を反対された時も、大事な親の思いを突っぱねて、僕の胸に飛び込んできてくれた。そういう真っ直ぐな所が可愛くて、いとおしくて、一生大切にしたい、幸せにしたいって思ってた。
今、確かに彼女の瞳に、僕は映っているのだろうか・・・
数年前になるかな。彼女は、過去の恋人と再会してしまった。きっかけは、僕が買ったパソコン。友人同士のメールのやり取りから、それは始まった。日々の生活、感じた事を綴るうち、まるで熱にでも浮かされたように、その作業に熱中していった。彼女は、学生時代から書く事が好きだったんだ。たかがメールじゃないか。何でそこまで魂込めなければならないんだ。僕には理解できなかった。
テレビ番組のモニターの仕事をしていた時があった。番組をチェックし、感想をまとめて、原稿用紙に書く。毎月微々たる収入があったが、その収入を軽くふっとばすだけの時間を割いていた。放っとくと、何時間でも机に向かっている。バカじゃないかと思った。誰も彼女のレポートなんか、真剣に読んでいないんだ。そんなものに、何故それ程熱くなれるのか。それでも彼女は、幸福そうだった。好きな事をしてお金を稼ぐ幸せ。僕が手にしていないないものを、彼女は手にしている。その原点となった恋人に、僕は激しい憎悪を感じていた。
彼女の父親が、深刻な病にかかった時があった。検査の結果、やはり手術になりそうだという電話を受け、彼女はひどく落胆していた。受話器を耳にあてながら、必死で泣くのをこらえていた。力になりたい、彼女を抱きしめたいと、心から思った。が、電話を切った彼女は、僕の前を通り過ぎ、台所へ向かった。涙がこぼれないよう天井を見上げて一息つき、夕食の支度を始めた。何故、僕に何も言わない。何故、僕にすがってこない。夫婦って何なんだ。僕は怒りを覚え、隣室で彼女を傷つけるような一言を口にした。不意に、台所で激しくしゃくり上げる声がした。かけつけると、彼女は声を放って泣いていた。それでいいんだ・・・僕は、そっと彼女を抱いた。僕もその苦しみを受け止める。もっと泣いていいよ・・・だけど僕は知らなかった。彼女はその時、心の底から僕を憎んでいたんだ。’自分が優位に立つ為に、わざと傷つけたのか’ ’つまらない男のプライドの為に’ ’それを優しさだなんて認めない’ 彼女は、そう解釈していたのだった。不器用な形でしか自分の思いを表せない僕は、益々彼女から誤解され、軽蔑されていった。もどかしさを感じても、どうする事もできなかった。
最近になって、彼女はまた活動の場を見つけた。切ろうとしても切れない彼女の恋人。すべては、その恋人の為に回っている。家族、日々の生活、彼女自身の喜び、悲しみさえも。そんなのバカげてる。人を何だと思ってるんだ。僕は、一体何なんだ。ネタの一つか?再び、ひどい憎悪を覚え、ケンカになった。「誰の為にやってるんだ」愚かな質問をしてしまった。「私の為よ!」彼女は毅然と言い放った。そして、恋人への思いのたけをぶちまけた。「私の生き甲斐だから邪魔しないで」と。完全なる敗北。もう、どうしようもない。その恋人の存在を受け入れる事で、彼女が心から笑えるのなら、認めるしかないと思った。
夫婦仲は、とりあえず回復した。彼女は再び、僕の瞳を覗きこんで、にっこり笑うようになった。無邪気に甘え、無邪気にじゃれついてくる。しかし相変わらず、心の中は見せない。決して覗く事のできない彼女の心の奥に、何が潜んでいるのか。
ねぇ、奥さん。時折、君が見せる得体の知れない薄笑いに、僕が気づいてないとでも思ってる?