ヒジュラ暦1426年ジュマーダー・ッサーニヤ(6月)9日 ヤウム・ル・ジュムア(金曜日) |
ロンドン同時多発テロの実行犯の正体が明らかになってきた。
18歳の少年、22歳の青年、幼い子供を持つ30歳の男性…。言葉で表せる感情には限界がある。「悲しい」とか「残念」という言葉では汲みきれない感情がある。
以前読んだ一冊の本を思い出し、読み返した。
『正直な気持ちを話そう』(八木健次:撮影・著、たちばな出版)。
写真家の八木氏が、パレスチナとイスラエルの若者45人にインタビューをし、彼らの写真を添えた本である。
パレスチナ問題はさまざまなメディアで紹介されているし、学校の授業などでも取り上げられる。そこでは民族、宗教、歴史的経緯について説明される。
しかし個人が見えない。特に若い人々が、将来を含めて何を思うのかがまったく見えない。
この本は、そんな隙間を埋めてくれる貴重な一冊だと思う。
表紙の少年ユセフ・カディブは14歳の中学生。パレスチナ人でイスラム教徒。
彼は「将来の夢は何か?」という質問に対して「自爆」と答えている。
決して、青臭い英雄幻想などではない。彼は7歳から、イスラエル軍に対する投石を始め、今まで25回撃たれている。友人が目の前で撃たれ、彼の膝の上で死んだこともあるそうだ。
銃で25回撃たれ、ジープにひかれ、自白剤を飲まされて拷問を受け、目の前で友人を撃ち殺された中学2年生。日本ではあり得ない。
彼の「将来の夢」を「それはいけないことだよ」と諭す自信は私には無い。だけど、彼の「夢」が実現すれば、罪のないイスラエルの人々がたくさん死ぬのも確か。
何とも言えない閉塞感。
パレスチナ人の怒りの矛先はイスラエルだけはない。自分たちを助けようとしなかったアラブ諸国に怒る15歳の女子中学生、「世界の沈黙」こそが悪いという18歳の無職少年など。
イスラエルはイスラエルで、複雑な思いを抱えながら若者たちが生きている。
人間の愚かさを冷めた目で見る無宗教の少女、世界に600人しかいないサマリア人の青年、パレスチナ人を弾圧したくないために兵役を拒否して投獄された18歳の青年、イスラエルで生まれ育ったアラブ人キリスト教徒の少女。
ひとりひとりのにそれぞれの人生があり、思想・感情がある。
ロンドンで自爆した18歳の少年は、どのような人生を送り、どのような思想・感情を持つに至ったのか?
もしかしたら、彼も自分の思いを「吐き出す場」があれば、あんなことをしなかったのではないか?
この本を読んでいるうちに、そんな思いがこみ上げてきた。