一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『職業別 パリ風俗』を読む。

2005-09-08 08:43:31 | Book Review
9月3日にご紹介した『馬車が買いたい!』の続編。

時代は同じく、十九世紀前半、王政復古期から7月王政期にかけて。
舞台はパリ。

前著では、馬車を中心とする事物(オブジェ)、および衣食住生活を通して
十九世紀フランス文学に出てくる「野心的な青年たち」の生活・感情・心理などを考察する試みだったが、本編では、それが「職業」に絞られる。

登場する主な職業は、以下のとおり。

グリゼット(お針子)
「お針子や女工といった職業身分をあらわす名詞というよりも、十九世紀の前半のロマン主義の時代にパリに上った学生たちにとって、お手軽なセックスの相手となってくれる可能性を秘めた若い娘という意味合いで使われていた」
プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』のミミを想起すればいいだろう。

弁護士・代訴人
「最初は弁護士になり、次に重罪裁判所の裁判長に転じて、ほんとうはおれたちよりも価値があるかもしれんかわいそうな奴らの肩にT・F(徒刑囚)と焼きゴテをつけて徒刑場に送り出す。それも、ただ、金持ちが安心して眠れるようにするためだ」(バルザック『ペール・ゴリオ』)
世は「ブルジョワの時代」だった(「7月王政」の支持基盤を想起)。

免許医
この制度は、現代日本とはまったく異なっている。
「居住する市町村の長と、郡長が指名した二人の公証人の証言に基づいて郡長が発行した証明書を有する者が三年以上の医療経験を積めば、免許医の資格が与えられたのである。」
つまりは「医者の学位も学歴もまったく必要なく」、後に医療機関での研修や試験制度が設けられたが、すでに開業している者については、拘束力をもたなかったという。
この免許医として有名なのが、ボヴァリー氏。フロベール『ボヴァリー夫人』の夫である。

その他、詩人・ジャーナリスト、女優、門番女、年金生活者、公証人、仕立屋・古着屋、薬剤師など、当時の生活に密着した(かつ、十九世紀文学に登場する)職業が登場する。

彼我の事情、時代の相違などにより、理解の難しい職業事情が、小説からの引用等を含めて、詳しく説明されている。

前著と合わせて、フランス小説のみならず、フランス文化一般に興味のある向きに広くお勧めしたい。

鹿島茂
『職業別 パリ風俗』
白水社
定価:2200円+税
ISBN: 4560028184

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