一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
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『住所と地名の大研究』を読む。

2005-03-19 00:18:59 | Book Review
エッセイスト今尾恵介氏の地名に関する造詣が、全面展開された書である。
前著『地図を探検する』(新潮文庫・本版はけやき出版刊『地図ざんまい・しますか』)の、「II 地図を読む」中の「番地はどう並んでいるか」と、「III 地図を眺める」中の「消えていった銀座の地名」の発展編といってもいいだろう。
本書では「I 大字とは何か――地名の階層」が概論、「 II~IV 」と各論があり、「V 地名が消えるとき――「下田」保存運動・失敗の記」が実践編といったところか。

小生の興味からいえば、Part I 、V および「IV 日本の住居表示はどこが問題か」が面白くかつ有意義に読めた。

特に、日本の地名で合併などの際、いつも問題になる「旧地名の消滅」の解決策として、大字や小字の利用を強調しているのが参考になった。
本書の紹介で言えば、秋田県の1町4村が合併し「男鹿市」となった場合、「脇本村(大字)浦田」を「男鹿市(大字)脇本浦田」とするという例である。

また「住居表示」(「住居表示法」に基づくシステム)の問題点も整理されていて、分りやすい。

一つ挙げれば、「実施基準」(「街区方式に適した規模」)の杓子定規な適応によって、小さな町が消滅し大きな町に一本化されたため、かえって目的地が分かりにくなったという問題がある(もちろん、歴史ある町名を滅亡させたという罪も重い)。
東京の例では、本郷、赤坂、六本木、浅草、上野などが、とてつもなく範囲が広くなり、◯◯何丁目とだけでは、どこだか検討もつかない、ということがある。
もっと広い地域にしてしまった例として、名古屋市の例が挙げられているが、小生この地域には詳しくないので省く(旧町名が、栄、新栄、桜、丸の内などに統合されたとのこと。ちなみに、栄は旧52町を含んでいる由)。

「赤坂や本郷の旧町こそ適正規模だと考えている。適度に細かく区分された町名+おおむね2ケタの番地というのは空間認識しやすく、覚えやすい」という著者の意見に、小生も賛成する。
しかも、歴史的な地名を抹消したために、過去をさかのぼるのに、とてつもない手間暇がかかることにもなる(過去の地図を入手するところから始めねばならない)。
例えば、谷崎潤一郎の生誕地「日本橋区蛎殻町2丁目14番地」とは現在のどこか、永井荷風の住んでいた偏奇館のあった「麻布区市兵衛町」とは現在はどこなのか、等々。
これらに比べれば、「住居表示」に反対し旧町名を残している牛込地区では、「早稲田南町17番地」という漱石山房の住所に変更がない(現在は「漱石公園」)。
このような事情は、有名人に限ったことではない。父親が結婚するまで住んでいた場所とか、曾祖父が関東大震災前に店を開いていた場所、などを調べる場合も同様。

「地方の時代」とか「身近な郷土に愛着を」などということばをお題目に終わらせないためにも、一人一人が地名や「住居表示」に正しい認識を持つべきであろう(そうでないと、愛知県の「南セントレア市」や千葉県の「太平洋市」などの突拍子もない名称が、再三再四、行政サイドから出てくる虞れがある)。
そのような意味からも、時宜を得た刊行であると思う。

今尾恵介
『住所と地名の大研究』
新潮選書
定価:本体1,300円(税別)
ISBN4106035359

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