一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『歴代海軍大将全覧』を読む。

2005-06-21 02:14:21 | Book Review
明治初めの勝海舟(「勝は文官なので、軍人の階級はありません。ただ、日本海軍黎明期の大物なので触れておきましょう」)、西郷従道から、「最後の海軍大将」塚原二四三、井上成美にいたるまで、77人の海軍大将の事跡を述べる。

基本的な立場は、吉田裕氏が『日本人の戦争観』でいう「海軍史観」(アジア太平洋戦争で悪かったのはすべて陸軍で、海軍は開戦に反対していたが、陸軍に引きづられ已むえず戦ったとする)に基づく。
したがって、特色ありとすれば、バランス感覚と歴史感覚ということになるだろう。

その意味で、まず、ポイントとなるのは、軍政畑では山本権兵衛、加藤友三郎、岡田啓介などの評価がどのようであるか、であろう(それに、小生、戦術など、戦いのやり方の評価はできないので)。
山本権兵衛の評価は高いが、その見方は日露戦争開戦を見据えての連合艦隊司令長官の交代(日高壮之丞から東郷平八郎へ)劇へと重点が置かれている。軍政面での評価ということになれば、日清戦争観(当時、海軍大臣官房主事)や日露戦争観についても、触れておくべきであろう。
加藤、岡田の記述に関しては、今はこれを省く。

つぎに問題とすべきは、東郷平八郎の「老害」であろう。日本海海戦についてのみ述べて、このような面に触れていない記述は、バランスを失していると言わざるをえない。
その点に関しては、本書では、
「政府にたいして統帥権干犯を言いつのる加藤寛治軍令部長や末次信正軍令部次長に担がれて、御神輿の鳥になってしまった」
「東郷は戦闘の瞬時の判断は的確なんですが、政治的センスに欠けていた」
と述べ、一通り(スペース上詳しい記述は無理であろう)の判断は加えている。

それでは、今出てきた「艦隊派」=「軍縮条約反対派」の加藤寛治はというと、
「加藤は海軍をまっぷたつに割ってダメにした張本人の一人でした」
「二・二六事件のときは、真崎(甚三郎。陸軍大将)と二人で怪しげな工作をしようとした」
と、歴史感覚を示す。

以上のような例から分るように、とりあえずバランス感覚と歴史感覚のある本とは言えよう。ただし、「海軍史観」のご多分に漏れず、対中国政戦略での海軍の「無能さ」(陸軍の積極的な「悪」に対して)に触れられていないのが物足りない。
スペースの関係を言うならば、不必要な大将についてはデータだけにするなどの処理は可能であったろう。

半藤一利、横山恵一、秦 郁彦、戸高一成
『歴代海軍大将全覧』
中公新書ラクレ(中央公論新社刊)
定価:1300円+税
ISBN4121501772


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