一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
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『失踪日記』を読む。

2005-09-20 00:07:33 | Book Review
何をいまさらの、吾妻ひでお『失踪日記』であります。
「突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働、アルコール中毒・強制入院まで。波乱万丈の日々を綴った、今だから笑える赤裸々なノンフィクション!」
内容は、ほぼ、この帯の文句に尽きているでしょう。
中でも、興味深いのが路上生活体験。笑ってしまったのが、
「漫画家の7つ道具のカッター・シャーペン・ハサミ等は持っていた」
というくだり。普通は持っていませんて、突然の失踪をしたら。
その道具を使って、乾麺の「ほうとううどん」を煮るなんぞは、まるでロビンソン・クルーソー。こういう工夫をしてしまうというのが、漫画家の「業」なんでしょうな。

「肉体労働」体験や「アルコール中毒」での「強制入院」などは、人間関係が主になるので、今一つ笑えない。というのも、日常生活で起こりうることが、濃い形で出ているだけだからでしょう。つまりは、「路上生活」のように、具体的には想像できない、という体験ではないから。

ただ、名前を隠し「肉体労働」(ガスの配管工)しながらも、日本ガスの社内報にマンガを投稿してしまった、というのは、笑える。これも、漫画家の「業」の1つだろうね。

以上のように、客観的に見れば比較的悲惨なのに、笑えてしまえるのは、表現者として自分のことでも、他人事のように見る「クセ」がついているからでしょう。
そのことは、巻末のとり・みきとの対談でも触れてあって、
「自分を第三者の視点で見るのは、お笑いの基本ですからね」
と著者は語っています。

もう1つの原因は、吾妻ひでおの絵のタッチだからでしょう(手塚治虫系のマルマルとした絵柄)。
これが劇画タッチだったら、笑えませんぜ(とり・みきだったら『山の音』のようなタッチね)。

「入院後半のエピソードは続編にて」とありますから、やがて続編も出るのでしょう。今回の著書では描き下ろしの「アル中病棟」の絵が、若干荒れているような気がするのが少々心配ですが、続編を期待しましょう。

「言わずもがな」のこと
図書館の蔵書の場合、カバー裏の文章は読めなくなるのでしょうか?
図書館でお借りの方は、ご注意を。

吾妻ひでお
『失踪日記』
イースト・プレス
定価:本体1140円+税
ISBN4872575334