一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『ラファエル前派の世界』を読む。その2

2005-09-24 15:30:29 | Book Review
▲Dante Gabriel Rossetti "Ecci Ancilla Domini (The Annunciation)"

前回述べたようないきさつで集まったラファエル前派兄弟団ですが、当時の美術界への反撥以外に、共通する特徴として、著者は次のようなものを挙げています。これには評論家ジョン・ラスキンの影響が大きい。

1. 中世への憧憬
「前世紀の産業革命に起因する生産システムの機械化と利便化は、たしかに国民全体の生活水準を底上げすることには成功した。しかし同時に、イギリス社会のあちらこちらに一種のひずみが生じはじめた」
「人びとはいつしか手作りの美と喜びを忘れ、土地と密接に結びついた素朴な生活をも失っていった」
「こうした合理化社会への危機感ないし嫌悪感から、ラスキンの目は否応なく現在から過去の時代へ、とりわけ中世へと向けられるようになっていく。ラスキンにとって中世とは、生産者と消費者が個人として揺るぎない関係を築き、その安定のなかで、世界で唯一無二の作品が生みだされる幸福な時代にほかならなかった」

2. 反アカデミズム
「現実世界の皮相のみを扱い、道徳的ではあっても崇高な精神性の表現にはほど遠い同時代絵画の氾濫に、ラファエル前派の面々が画壇の倦怠をつよく感じていた」
「けっして体制や流行に与しない反主流という芸術家としてのスタンスが、この時期の彼らを『兄弟』として強く結びつけていた」

3. 文学的主題の絵画
「文学作品の視覚化が可能であり、極論すれば文学と絵画のちがいは表現方法の差異でしかない」
ただし、その認識は、ラファエル前派の画家たちだけではなく、「イギリスにおいて事実上ひろく一般に認知されていた」のですが。

4. 緻密な色彩表現

これは、特に彼らが表立って言い表してはいないが、「どう表現すべきかを認識するために、自然を注意深く観察すること」という彼らの目標と関連します。

以上の特徴を見てお分かりのように、彼らの主張は、「ラファエル以前に帰れ」というスローガン以外は、19世紀ロマン主義の思潮そのものでもあります。
ロマン主義においては、「一般に、主観的で感情的なものを強調したばかりでなく、いくつかの特定の主要素をも強調したのである」。
デイヴィッド・G・ヒューズはそう述べて、「主要素」として、「自然」「孤独」「無限で得ることのできないもの」「夜」を挙げています。
それらの要素を示す、具体的な題材は、「超自然的なもの」「時代的にもそして場所としても遠く隔たった彼方のもの、そして、特に、『中世』が好まれている。中世は、ロマン主義者によって非常に理想化され、そこには、善政を行なう統治者、厚徳で幸福な農民、騎士の英雄などが含まれている」
(ヒューズ『ヨーロッパ音楽の歴史』)と指摘しています。

ことイギリスに限った場合でも、
「ラファエル前派とて、十九世紀ヴィクトリア朝に属した画家の一群であることに代わりはない」
「ラファエル前派の登場をもって、四〇年代に勢いづいた文学的主題の絵画がやがてひとつの完成をみることになると結論づけたほうが正しいくらいである」

ラファエル前派の位置づけが分ったところで、それでは彼らの運動は、どのようにして進展していったのか?

以下、続く。