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脱ネガティブを計るべく、浮きつ沈みつ漂う女の戯言日記

夜愁

2010-03-27 | 本・映画
サラ・ウォーターズの3作目。

前2作とは違い今回は戦後のロンドンが舞台。
1947年から始まり1941年まで逆に話が遡って行き、その中で登場人物達の
様々な感情や人生が語られて行く。

レズビアンのケイ、ジュリア、ヘレン。ヘレンの同僚で、妻子あるレジーと
不倫をしているヴィヴ。ヴィヴの弟ダンカンはゲイで刑務所に入っていた
経験があり、出所後は家族ではなく看守だったマンディさんと暮らしている。

今回は同性愛を前2作よりも真正面から捉えており、ラブシーンも少しハード。
19世紀とは違う同性愛者の立場や感情が描かれていて、現代により近く通ずる
ものがある。

それぞれの人物達の人生は複雑に絡み合い、読み進むうちにその関係性が
明らかになってくる。
「荊の城」なんかとは違いハラハラするようなミステリー的な展開や謎解きは
ないのだけれど、その分淡々としたお話の中でよりリアルに彼等の抱える
悩みや問題が伝わってきた。
実際の人生って、決してドラマチックではなくでもそれぞれに重くて深い。
そういう意味では私はこの作品がとても好きだ。
彼等の中で誰一人として、完璧で幸せな生活を送っている人間はいなかった。
そもそも完璧なものなど無いのだと、それでも前を向いて進むしかない人生に
想いを馳せたくなる。

読み終わって全ての繋がりがわかると、また最初から読み直したくなった。
「夜愁」というタイトルが心に染みる、霧のロンドンのしっとりした空気感を
肌で感じる作品。


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