中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

《紅楼夢》の中の節句行事(5) 中秋節[その2]

2011年09月12日 | 紅楼夢

 ※ 口絵は、凸碧堂中秋賞月図

 今回は、中秋節の続きです。過年、元宵節もそうですが、娯楽の少なかった当時に於いて、これらの節句は夜通しはめをはずして騒げる数少ない機会であったことから、宴会が終わっても、すぐに寝てしまうのでなく、ゲームをしたり、詩を作って競い合ったり、という場面が描かれています。

■[1]
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・壁廂 bi4xiang1 このあたり。あのへん。
・煩心 fan2xin1 心を悩ます。心配する。
・古往今来 gu3wang3 jin1lai2 [成語]昔から今まで。古今を通じて。
・后半夜 hou4ban4ye4 夜の12時から夜明けまでの時間。
・鳴咽 wu1ye4 むせび泣く声。
・嫋嫋 niao3niao3(簡体字では“鳥”の下に“衣”)音声が長く響いて絶えないさま。
・聯詩 lian2shi1 日本の連歌のように、一人が五言や七言の句を発すると、次の人がそれに和して、韻を踏むなどの体裁を取って、それに続く五言或いは七言の対句を返すこと。

□ “撃鼓傳花”の遊びが終わっても、ご隠居様のお気持ちは猶尽きず、「こんなに佳い月なら、笛の音を聴かなくっちゃ」と言われた。しばらくすると、「あのキンモクセイの樹の下あたりから、むせびなくような、抑揚のある、笛の音が聞こえてきた。この、月が輝き風は澄渡り、空は晴れ地面には塵一つ無い時に乗じて、人々の心の悩みをしばし解き放たせ、全ての愁いは除かれ、皆ひっそりと畏まって座り、黙って月を見上げていた。茶を二杯喫するほどの時間、笛の音に聴き入っていたが、それが止まるや、皆は口々にそれを称賛し、止まることがなかった。」笛の音はたいへん美しかったが、もの寂しい美しさで、古今を通じて、あらゆる笛に関する描写、例えば、「山の南の笛の残響は聞くに堪えず」、「旧きを懐い空しく吟じ、笛の賦を聞く」など、ほとんど全てが悲惨で悲しい意味を帯びている。果たして、夜ふけになると、さわやかな風が月夜に吹きぬけ、あたりは灰色に染まり、「ただキンモクセイの蔭に、むせび泣くように、長く絶え間なく、再び笛の音が発せられ、その結果先ほどより一層もの寂しく感じられた。皆静まり返って座っていた。静かな月夜に、笛の音の物悲しさが加わり、ご隠居様のように年老いて酒に酔った人は、このような音を聞くと、心を動かされ、涙が落ちるのを止めることができなかった。人々はお互いにもの寂しい気持ちになるのを禁じ得ず、しばらくして、ご隠居様が泣かれているのを知ると、急いでご隠居様に向かって作り笑いをし、言葉をかけて取り繕った。更に暖かい酒を持ってくるように命じ、笛をやめさせた。」
 このむせび泣くような笛の音の中で、二人の人物がこの場を離れた。それは林黛玉と史湘雲であった。二人は水辺の凹晶渓館に来ると、その風景に感動し、しばらくの間、それを詩に詠み、相手がそれに和して返すというやり取りをしていた。二人の詩才はその詩の中に余すところなく表現され、その中の一句、「寒き池に渡る鶴の影、冷たき月は花の魂を葬る」は尚更に静寂な美しさが絵の中に描き切られ、妙なる玉がそれを聞いても、悲しみに涙するとも、怪しむに足りないほどであった。

■[2]


・闌干 lan2gan1 “欄干”に同じ。五言詩や七言詩は、同じ字数の語句が並んでいるので、その形を欄干に見立てた。
・対仗 dui4zhang4 詩の修辞法の一つで、字音の平仄や字義の虚実を考えて対句を作ること。
・粘対 zhan1dui4 律詩の平仄の規律。平には平がくっつく(“粘”)、仄には仄がくっつく、という意味。
・四声八病 si4sheng1 ba1bing4 南朝斉の永明年間、周顒zhou1yong2が《四声切韻》で“平上去入”の四声を唱え、沈約が四声の区別と伝統的な詩賦の音韻知識を結合させ、五言詩を作る時に避けないといけない音律上の問題を規定し、後の人がこれを“八病”と称した。
・向晩 xiang4wan3 夕方
・闕如 que1ru2 欠如
・懺語 chen4yu3 不吉な予言
・脂硯斎 zhi1yan4zhai1 小説《紅楼夢》の初期の印刷出版の版元で、小説に注釈やコメントを加えた批評家。
・俟 si4 待つ
・江郎才尽 jiang1lang2 cai2jin4 [成語]江郎、才尽く。文筆の才能が衰えることの喩え。南朝の江龍は若いころ才で名を挙げながら、晩年は詩文に佳作が無かったことによる。

□ 林黛玉と史湘雲が“聯詩”のやりとりをする際、先ず韻を選ぶ遊び、“数闌干”(“欄干”を数える)をした。これはどういうことだろうか。実は、嘗ては詩を書く時の要求がたいへん厳格で、押韻、平仄、対仗、四声八病などに気をつけなければならなかった。当時の韻には順番がついていて、一東、二冬、三江、四支、五微、六魚などと続き、最後が十三元、十四寒であった。平声は更に上平声、下平声に分かれ、この他、上声、去声、入声にもそれぞれ韻の部分の順番があった。黛玉はこう提案した。「この“欄干”(詩の一句)の棒の部分を数えてみましょう。この頭のところからあの頭のところまでです。それが何本目かによって、それに合った順番の韻を用いることになります。」二人は13本の欄干(詩句)を数えたので、十三元の韻を踏む必要がある。けれどもここで問題があり、つなげられた詩の語句の韻脚は“門”、“昆”、“痕”などで、それと“元”にはどんな関係があるのか。実は、十三元の韻は、当時は “元”は、 “門”、 “昆”、“痕”と同じ韻部にあり、したがって韻を踏んでいることになるのだ。例えば:“向晩意不適,駆車登古原(夕方、気分がすぐれなかったので、車を駆って古原に上った);夕陽無限好,只是近黄昏(夕陽はとてもすばらしかったが、程なくたそがれて暗くなった)”がその一例である。
 中秋の夜宴で賈宝玉、賈環、賈蘭は三首の詩を作った。この三首の詩は物語では、ただ賈政に渡して見てもらった云々とされているが、三首がどのような詩であったかは、物語では触れていない。《紅楼夢》の中の詩は多くが不吉な予言手か性質を帯びており、後ろの物語の伏線となっている。この回の題目は「中秋の新たな詞を賞し、佳懺(佳い予言)を得る」である。明らかに、家運が傾いている中で、これらの詩はたいへんめでたい吉兆である。脂硯斎はここでこうコメントを加えている:「中秋の詩の欠落は、雪芹を待つ」、つまり、この三首の詩が暫時欠落していることについては、曹雪芹が完成されるのを待つ、と言っている。《紅楼夢》には二百首近い詩や賦があるが、それぞれ特色があり、作者の才気や智慧を充分に表しているが、ひとりこの中秋の夜宴では、一貫して詩を用いて未来を予言し、運命を暗示するのに長けた曹雪芹がこの三首の中秋の詩を書いていないのは、「江郎、才尽く」で能力が衰えたのか、それとも別に隠れた理由があったのだろうか。

■[3]


・秋爽斎 qiu1shuang3zhai1 《紅楼夢》の中で、大観園の中の建物の一つ。
・藕香榭 ou3xiang1xie4 これも、大観園の中の建物の一つ。“榭”とは、四方を展望できるように造った高殿。
欣欣向栄 xin1xin1 xiang4rong2 [成語]草木がすくすく伸びる。勢いよく発展すること。
・粛殺 su4sha1 厳しい秋や冬の寒さが草木を枯らす。
・愁緒 chou2xu4 憂慮。心配。
・凄風苦雨 qi1feng1 ku3yu3 [成語]寒い風と冷たい雨。悲惨な境遇の喩え。
・炎涼 yan2liang2 暑さと涼しさ。転じて、人情の移り変わりの激しさの喩え。相手の地位などが変わると、すぐに態度を変えること。[用例]人情冷暖,世態~(人情は変わりやすく、世間は薄情なものだ)
・糟粕 zao1po4 滓(かす)。

□ 本来、中秋の佳節は、一家団欒を祝う祝日である。大観園が真っ盛りであった時期には、秋爽斎で海棠社を結成し、藕香榭で菊の花を題した詩を作って競い、大観園は勢いよく発展するにぎやかで盛んな情景を呈していた。然るにこの時の大観園はちょうど「役所の取り調べを受ける」騒ぎがあったばかりで、厳しい冬の時代の情景であった。こうした情況の下、皆ふつふつとふさぎ込んで歓び少なく、精神を鼓舞してうら寂しい中秋節を過ごそうとしたのであった。曹雪芹はここまで書いてきて、既に頭の中は憂いで一杯であったに違いない。自分自身の栄華から衰退、度重なる一族のもめ事が連想され、どうしてまた良い予言となる詩を考えようという気持ちになれるだろうか。だから、気持の上で、言葉にならず、書くことができなかったという可能性が、能力が衰えたので書けなかった可能性よりずっと大きい。
 曹雪芹の筆による中秋節は美しく華麗であるが、もの寂しくもある。悲惨な境遇により作られた物悲しい心境は、彼の筆に無限の霊感と力を与えた。正にこうした心境が、その重々しいけれどもバランスを崩していない精神の筆に触れて、中秋をより深化させ、中秋に詩意を持たせ、濃く解けることのない愁いの雲にし、読者の心の中で固まり、いつまでも振り解こうにも解けない……

 課題研究はこれで終了する。けれどもこの幾つかの重要な節句行事から分かってくるのは、単なる伝統文化の話ではなく、これらの節句を通じ、物語の中のたくさんの、そして現実の生活の中での人情の移ろいやすさと世間の薄情さを説明しているのである。だから、私がこのテーマで主に研究しているのは、古典作品の研究だけでなく、古典作品の背後の、後世の人々に残された貴重な財産の研究であり、現象を通じて本質を理解することである。私たちはこのことを理解し、時が来ればできるだけそれを継承し、それを発揚させ、再び育てると同時に、かすを除き、精華を留め、世界に我々民族の財産を残していくこと、これこそが私の最終目的である。

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 以上で、《紅楼夢中的節日》の全文の紹介を終わります。最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。なにかご質問がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。


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