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ヒトコブラクダ層ぜっと  連中の船は星の海を渡ってきたそうだ

2021年11月15日 | もう一冊読んでみた
ヒトコブラクダ層ぜっと(上・下)/万城目学   2021.11.15

万城目学のファンタジーを存分に堪能しました。
時間を忘れて、小説の世界に遊びました。 面白かった。

 「そのとおり、私の名前はイナンナ。アンの娘であり、ドゥムジの妻であり、エレシュキガルの姉妹」
 「お前も、その----、メソポタミアの神様なのか?」
 「私はかつてのウルクの神、あなたたちが文字も持たず、金属すらまともに扱えぬ古き時代に、メソポタミアの地に船で降り立った」
 「どうやって、砂漠に船で降りるんだ?」
 「私たちの船は、空を渡って、どこへでも行ける」
 「それって……、いつの話だ?」
 「六千年ほど、むかしの話ね。」


ヒトコブラクダ層ぜっと 』 は、2021年9月4日の朝日新聞の書評に載った書評家大矢博子氏の記事で知りました。

 奇想天外な設定の他にもうひとつ、著者のお家芸がある。
 舞台となった土地の歴史を謎解きにからめる手法だ。
 今回は古代メソポタミア。


今回の作品は、シュメール人。

 「確かに、シュメール人は恐竜と同じくらい、謎の多い民族かも知れない。彼らが用いたシュメール語は、周辺民族のどの言語とも似ていない、完全に孤立した言語だった。彼らの出自や由来に関しても、すべて不明。突然、メソポタミアの地に現れ、突然、人類最初の高度な文明を打ち立てて、突然、煙のように消えてしまった----、それがシュメール人だよ」
 「連中が消えてしまった理由はわかっているのか? 恐竜は巨大隕石が落ちたのが絶滅の原因とはっきりわかっている。そこの部分に謎はない」
 「あまり推測でものは言うべきじゃないけど、独自の言葉を操るのはやめて、周囲に同化してしまった、ってことだろうね。そのあたりは、今の感覚で考えてもわからないよ。アイデンティティを保つという概念自体が、なかったのかもしれない。たまたま、シュメール人は自分たちのことを記録する知恵と技術を持っていたけど、文字すら持たず、人知れず周囲に同化して、その文化的特徴もろとも消えていった民族なんて、他にいくらでもいたはずだよ。何しろ、ここは世界でいちばん歴史を持つ地域だからね」


 「シュメール人が築いた都市国家には、それぞれ都市神というかたちで祀るべき対象が置かれていました。たとえば、ニップルには大気の神エンリル、ウルには月の神シン、ウルクにはイナンナ----、それぞれの神殿に祀られた都市神がいました。アガデの都市神はまだわかっていませんが、少なくとも、彼女がシュメール神話のイナンナを意識していたのは間違いないです。ライオンまで用意していたので」
 「ライオン? あれも意味があるのか?」
 「イナンナは神様の役割として豊穣や、性愛や、戦闘といった分野を担っていた。特に戦いの女神としての側面が人気で、イナンナが描かれるときはライオンを従えていることが多い。むかしは西アジアにもライオンがいたんだよ。アフリカじゃなくて、インドからやってきた種がね。実際に二十世紀初頭まで、イランやイラクでインドライオンが生き残っていたという記録が残っている。もちろん、古代メソポタミアの時代にもいた。王様がライオン狩りをする様子を刻んだレリーフも発見されているよ。」


すべては自分自身、榎土三兄弟の物語なのだ。

 あきらめない者だけが、もう一度挑戦する権利を手にすることができる。

 三秒という時間には、いったいどのような意味があるのか。 

 「だから、俺は恐竜が好きなのかもしれない。何となく、わかる気がするんだ。本当は恐竜も生きたかっただろうなあとか、もっとあちこち歩きまわりたかっただろうなあとか・・・・・・。つい、そんなことを想像してしまうんだよ。恐竜は絶滅して、本物の生きている恐竜を目にする機会はこれからも永遠に訪れないと思うだけで、無性に悲しくなるんだ。だって、そうだろ? 生きるチャンスを突然、別の何かに奪われるのはつらいし、やりたいこともできずに生涯を終えるなんて、絶対にくやしいだろう------?」

 それに対して二人の兄には、純粋な「楽しみ」がある。
 もはや、楽しみを越えた「夢」と言っていい。
 次兄はこれから向かう土地にダイレクトな憧れを持っている。
 長兄には梵天山が待っている。


 梵人は気づき始めている。
 退屈で平穏な日常が根っこにあるからこそ、危なっかし香りは際立ち、冒険への予感は研ぎ澄まされるのだと。「本物の戦いは」は「退屈な日常」の対局にあるものではない。退屈な日常のなかにこそ、梵人が望む本当の戦いはある----ではないかと。


 「そうだ、知らないほうが安全であることが、世の中にはたくさんある。二十四年前、サダムはこの砂漠で何かを探し始めた。それが何か、私は知らない。ベースキャプテンにいた人間も、誰も知らなかった。自分たちの安全のために、誰も『なぜ?』を口にしなかった。あの場所で働いていることは、家族にももちろん秘密だった。ただ、私たちはハサンに質問するよう命じられたんだ。『君が見た大きなヒトコブラクダはどこにいる?』とね」

奇想天外な物語のはじまり。

 「あのとき、俺たちは全員で地面を見下ろしていたはずだ。それなのに、いきなり空を落下していた。途中からは、パラシュートのお世話だ----」
 「天下の海兵隊が、よくそんな無茶苦茶な命令を出したな。地面をのぞいたら、パラシュートが必要になる? 信じるお前も、お前だぞ」


物語には、海兵隊も深く関わってきます。

 「聞いたことがあるんだ。海兵隊の連中は時計に金をかける。どうしてかわかるか?」
 くせぇ、と梵人は顔をしかめた。
 「給料がいいからか?」
 「軍人だぜ、そんなに貰えないさ」
 「じゃ、見栄っ張りだからか?」
 ブブゥ、と梵人は笑った。
 「海兵隊は世界中で任務があるから、トラブルに遭ったとき、一人でも基地なり拠点なりに帰ってこられるように、いい時計を身につけるんだってさ。現地で質に入れて現金に換えたり、役に立つものと交換できるだろう?」


それとなくこんな話もあって......。

 松茸は水はけがよく、日当たりのよい場所に育つという。よく言われるが、人が気持ちいいと感じる、見晴らしのよいところに松茸も生える。

 『 ヒトコブラクダ層ぜっと 』とは、なにか?

 「ゾンビを意味する、あだ名だよ。アルファベットの頭文字を取ってゾンビのことを最近はただ....と表現することがあるんだ」

    『 ヒトコブラクダ層ぜっと(上・下)/万城目学/幻冬舎 』



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