■火のないところに煙は/芹沢央 2019.5.27
2019年版 このミステリーがすごい!
国内篇 第10位 火のないところに煙は
芹沢央作、『火のないところに煙は』 を読みました。
芹沢央さんの作品は、『許されようとは思いません』 に続き、これが2作目です。
「波」掲載の「書評」も仕掛けの一部なので必読(ネットで読める)。(「このミステリーがすごい!」)
とあるので読んでみた。
これなんて、よくある話ですよね。
「それで、半分冗談、半分本気で『別れようか』って切り出したんです。『あの占い師も、あんなふうに言ってたし』って言えば、彼のプライドを必要以上に傷つけることもないかもしれない気がして……でも逆効果でした。彼は『あんなババアの言うことをしんじるのかよ』ってますます怒って、私をすごい目で睨みつけて、『別れるなら死んでやるからな』って言い出して」
それぞれ得意分野というものがあります。
「何にしても、まずは概要を教えてよ」
「内容によっては頼む人も変わってくるかもだし」
「そういうものなんですか?」
「人によって得意分野とかあるからね」
「得意分野……」
どんなことにも人気の分野というものがあります。
岩永さんの話を聞き終え、榊さんが最初に言ったのが「あー盛り塩系かあ」だった。
「盛り塩系?」
思わず訊き返すと、榊さんは「前に盛り塩ってくくりでコラムを書いたことがあるんだけど、まあ盛り塩絡みでのトラブルの多いこと多いこと」と肩をすくめる。
「トラブル多いんですか?」
身を乗り出したのは岩永さんだった。榊さんは「多いねえ」とうなずく。
「盛り塩したら逆に運気が悪くなったとか、隣人が勝手に家の前に盛り塩を置いてきて困るとか、家の中に置いていた盛り塩を食事に使ったら体調を崩したとか」
生兵法は大怪我のもと。
「そういう人は独学なことが多いし、知らずに禁忌を犯していたりとか」
「今聞いた話の中で、何か禁忌なことってありました?」
私がメモを取る手を止めて質問を挟むと、「素人がお祓いって時点で禁忌だと俺は思うけどねえ」と言いながらゴキゴキと首を鳴らす。
「そもそもお祓いとか除霊とかは素人が生半可な知識や力で手をだすもんじゃないんだよ。きちんと祓える実力もないくせに刺激だけするもんだから余計ややこしくなって、しかも意地になって粘ったりするもんだから、結局にっちもさっちもいかなくなってからプロの霊能者のところに駆け込んでくるパターンが……」
諺にもあります。 触らぬ神に祟りなし。
拝んでいる陣内さんの近くにいると、自分も自然と拝みたくなる。私自身は霊が見えることはなく、存在を感じることもできないというのに、それでも何となく「何かつらいことがあるなら、それがなくなりますように」と祈りたくなるのだ。
だが、それはまさにこの陣内さんから禁じられたことだった。
『その霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。関わりのない死者に対して祈りを捧げることは、それまで存在しなかった縁を自ら作ってしまうことになります』
この話し、人生によくあるパターンですね。
幸せも不幸も、起こるのは半々。
人生でもたらされるのは、ささやかな幸せですが、悲劇は劇的。
祟りも、劇的だ。
『 火のないところに煙は/芹沢央/新潮社 』
2019年版 このミステリーがすごい!
国内篇 第10位 火のないところに煙は
芹沢央作、『火のないところに煙は』 を読みました。
芹沢央さんの作品は、『許されようとは思いません』 に続き、これが2作目です。
「波」掲載の「書評」も仕掛けの一部なので必読(ネットで読める)。(「このミステリーがすごい!」)
とあるので読んでみた。
これなんて、よくある話ですよね。
「それで、半分冗談、半分本気で『別れようか』って切り出したんです。『あの占い師も、あんなふうに言ってたし』って言えば、彼のプライドを必要以上に傷つけることもないかもしれない気がして……でも逆効果でした。彼は『あんなババアの言うことをしんじるのかよ』ってますます怒って、私をすごい目で睨みつけて、『別れるなら死んでやるからな』って言い出して」
それぞれ得意分野というものがあります。
「何にしても、まずは概要を教えてよ」
「内容によっては頼む人も変わってくるかもだし」
「そういうものなんですか?」
「人によって得意分野とかあるからね」
「得意分野……」
どんなことにも人気の分野というものがあります。
岩永さんの話を聞き終え、榊さんが最初に言ったのが「あー盛り塩系かあ」だった。
「盛り塩系?」
思わず訊き返すと、榊さんは「前に盛り塩ってくくりでコラムを書いたことがあるんだけど、まあ盛り塩絡みでのトラブルの多いこと多いこと」と肩をすくめる。
「トラブル多いんですか?」
身を乗り出したのは岩永さんだった。榊さんは「多いねえ」とうなずく。
「盛り塩したら逆に運気が悪くなったとか、隣人が勝手に家の前に盛り塩を置いてきて困るとか、家の中に置いていた盛り塩を食事に使ったら体調を崩したとか」
生兵法は大怪我のもと。
「そういう人は独学なことが多いし、知らずに禁忌を犯していたりとか」
「今聞いた話の中で、何か禁忌なことってありました?」
私がメモを取る手を止めて質問を挟むと、「素人がお祓いって時点で禁忌だと俺は思うけどねえ」と言いながらゴキゴキと首を鳴らす。
「そもそもお祓いとか除霊とかは素人が生半可な知識や力で手をだすもんじゃないんだよ。きちんと祓える実力もないくせに刺激だけするもんだから余計ややこしくなって、しかも意地になって粘ったりするもんだから、結局にっちもさっちもいかなくなってからプロの霊能者のところに駆け込んでくるパターンが……」
諺にもあります。 触らぬ神に祟りなし。
拝んでいる陣内さんの近くにいると、自分も自然と拝みたくなる。私自身は霊が見えることはなく、存在を感じることもできないというのに、それでも何となく「何かつらいことがあるなら、それがなくなりますように」と祈りたくなるのだ。
だが、それはまさにこの陣内さんから禁じられたことだった。
『その霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。関わりのない死者に対して祈りを捧げることは、それまで存在しなかった縁を自ら作ってしまうことになります』
この話し、人生によくあるパターンですね。
幸せも不幸も、起こるのは半々。
人生でもたらされるのは、ささやかな幸せですが、悲劇は劇的。
祟りも、劇的だ。
『 火のないところに煙は/芹沢央/新潮社 』