保津川下りの船頭さん

うわさの船頭「はっちん」が保津川下りの最新情報や、京都・亀岡の観光案内など、とっておきの情報をお届けします。

お盆特別企画最終稿、保津川で私の足を引っ張った‘もの’の正体とは?

2011-08-16 19:34:51 | スピリチュアル
京都ではもうすぐ「五山の送り火」が行われます。

お盆にお帰りいただいた「お精霊さん(おしょうらいさん)」と呼ぶ
ご先祖様の御霊を再び冥府へお送りする行事です。

お盆も今日で終わりということで、この保津川お盆特別企画も、
送り火とともにいよいよ今日が最終稿となります。

最後ということで、今日は私が保津川で実際に体験した
ことをお話ししたいと思います。

保津川下りの船頭の仕事で花形といわれる「さおさし」別名「さしこ」。

舟の舳先で迫りくる岩壁を一本の細い竹竿でかわしていく姿はまさに「匠の技」です。

私たち船頭にとってこの「竹竿」は命ともいわれ、とても大事な仕事道具です。

でも、まだ慣れない新人の頃は、そんな命ともいわれる大事な竿を、
川へ流してしまうことがよくあります。

そして、その日も舟の操船中に何気げなく川底に差した竿が
川の中に沈んでいる岩と岩の間に噛み、抜けなったのです。
こんな場合、竿を持つ手を素早く手前に起こし、抜き取るのですが、
その時はよほど強く噛んだのか?抜き取ることが出来ませんでした。
このままでは体ごと引っ張られ川へ落ちてしまう。 
仕方なく竿から手を離し、川へ刺さり突っ立つ状態で
竿を置いていくことになりました。

その日、2回目の操船中に同じ場所を通った時、竿の姿はなく、
少し下流の川岸に流れ着いているのがわかりました。

日ごろ、師匠の船頭からは「竿は船頭のいのち、粗末にしてはならない」と
強く教えられていましたし、事実、竿は貴重な仕事道具。
流してしまえば、どんなに時間が遅くても変わりの竿を作り、
用意しないと明日の仕事に間に合いません。

私は操船終了後、流れた竿を取りに行くことに決めました。
今ではひとり行く事はせず、最低二人で行くように言われていますが、
新人時代で付き添いをお願いする人はいません。
ひとりで車を運転して川沿いの山道を走りました。
竿が流れついた場所と思われる崖の上の道に車を停め、
その崖を下り、川岸へ向かいました。

下りてみると、竿は手を伸ばせば届くと思っていた「川岸」
ではなく、どう見ても2mは向こうの川に浮かんでいました。

これでは川へ入り、泳いでとるしか方法はありません。

時間は午後5時過ぎ、辺りは徐々にですが、薄暗くなってきていました。
水面もだんだん濃い緑色へと変色しているようにも感じました。
川の流れる音だけが聞こえ、人影ひとつない山深い渓谷のど真ん中。
目の前を小さな円を描きながら漂流する竹竿だけが、静かに秩序立った
川の風景にアクセントを付けている、そんな空間です。

靴のつま先が水辺に浸かりそうな川岸で、竿を見つめながら考えました。

私は泳ぎには自信があります。小学生の頃、伝統ある水術を教える
京都の踏水会で学び、琵琶湖遠泳も経験しています。
竿は川へ入ればすぐ手の届く場所にある。私は少し迷いましたが、
「思い切って入れば、ものの数分でかたが付くこと」。
私は意を決して服と靴を脱ぎ、川へ飛び込むことにしました。

川へ飛び込み、目の前に浮かぶ竿に手を伸ばそうとしたその時です!

急に足元にもの凄い圧がかかったと思った瞬間、
体が川底へ引きずられていくのを感じました。

「ヤバい!」恐怖感が体と脳裏全体を襲いました。

「なんなんだ、これは!」そばの岩にしがみ付きましたが、
再び足元が岩の裏へ引きづり込まれていくのを感じました。

どうやら岩の底の部分が丸く内に凹んでおり、そこへ足が吸い込まれていくのです。
そう、水圧のようなもので体が川底へ引きずり込まれる、そんな感じです。

私は水中で足をまっすぐ揃えて伸ばし、背筋を使い大きく後ろへ蹴り、
その瞬間、岩をつかんでいる手に渾身の力を込め、懸垂の要領で
身体を持ち上げ、岩の上へ這い上がりました。

「ふう~助かった・・・」本当にそう実感できました。

竿はその岩から手の届くところへ舞い込んできてていたので
掴むことができ確保できました。
確保した竿を、川底へ突き刺し、ちょうど走り高跳びの要領で
岩から川岸へ跳び移りました。
とりあえず脱いだ服で体をふき、素早く着衣して、山道に止めてある
車へ向かい崖を上がりました。
車に着いた頃には、かなり日が陰っていたように思います。

帰りの車の中で「もし、あのまま川底へ引きずり込まれたいたら、今ごろは・・・」
と思うと背筋に鋭い悪寒が走り、背中を冷たい汗が伝うのがわかりました。

このように「川には魔物が棲んでいます」上から眺めていると
何気ない穏やかな流れだと思っていても、川の中は複雑な流れが絡み合っています。
思いもよらない変則的な水圧もかかってきます。
川に入るときは、十分注意してほしいと思います。

この話にも後日談があります。

それから10年近くが経ったある日、このブログに載せる川の風景写真を
撮ろうと、舟の舳先でデジカメを構えていると、水面をなにか大きな物体
が流れていくを発見しました。
「なんだろう?」とカメラ越しに見ていると、
それがモノではなく・・・・ということが、すぐにわかりました。

なぜか?今でもわからないのですが、私は思わずカメラのシャッターを
切っていたのです。
そして、その場所とは、竿を拾いにいったあの川岸だったのです・・・

水圧だと思っていた、あの水の力は、別の何かだったのでしょうか?
川は魔物です。

そして、その写真は、今も私のPCのデーターの中に保存されています。


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2 コメント

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今日もお疲れ様でした (ゆん)
2011-08-16 22:16:31
はじめまして お邪魔します。

昨日 保津川下り 乗らせてもらいました。
私は二度目だったんですが とっても感動しました☆
景色やスリルも最高だけど 何よりも 船頭さんの仕事っぷりに 感動!!!!
帰ってデジカメ確認したら景色より 船頭さんがいっぱい入ってました。一生懸命 仕事する姿って 惚れますね~☆まだまだ暑い日が続きそうだけど 身体に気をつけて 頑張ってくださいね また 是非保津川下りに 行きたいです。
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ご乗船ありがとうございます。 (はっちん)
2011-08-18 00:03:05
ゆんさんへ。

昨日はご乗船いただき誠にありがとうございます。

我々もさらに操船技術の精進に努め、楽しくて安全な川下りを楽しんでいただきたいと思います。

船頭の姿をたくさん撮っていただいたそうで、ありがとうございます。

もっと、もっと爽やかないい汗をかいて、惚れ惚れするような技を磨きたいと思います。
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