保津川下りの船頭さん

うわさの船頭「はっちん」が保津川下りの最新情報や、京都・亀岡の観光案内など、とっておきの情報をお届けします。

船頭の棹が出来るまで。

2007-01-22 00:29:06 | 船頭
保津川下りの船頭の商売道具といえばやはり「棹」です。

長さ約4m弱の竹棹に全体重を掛け、あの激流に切り立つ
巨岩、奇岩を突きかわし練り下って行く操船の命ともいえる物。

我々がシーズン通して使用する「棹」の本数は約10本前後。
河底に引っ掛かり捨ててしまう技術未熟な新人なら20本以上
も必要な場合もあります。

もちろん、これら棹竹は船頭自らが調達するもので、
会社からの支給品は一切ないのです。
自前であるという大きな理由は、棹にも個人差が
必要で、均一品では賄えないからです。
棹は使用する船頭の年齢、体型などに合う物でなければならず、
太さ、重量、強度にも個人的な条件がまちまちだからです。
また個人好みもあり、この微妙な棹との一体感の高さが
安全で高度な仕事ができるかを大きく左右するのです。

その意味でも棹の切り出し作業は船頭にとって
船の操船と同じくらい大事な仕事の一つなのです。

私達は冬のこの時期、旬のよい日を選んで、事前に
探しておいた竹やぶに入り、切り出し作業に掛かります。
‘旬の日’というのは月のサイクルにも関係しています。
昔から竹を切る時期は「満月の日を避け、新月の日に切る」
つまり三日月の日切るという事を先輩船頭から教えて貰い
私もそれを実践しています。
新月の時期に切った竹には、竹の最大の敵、害虫の幼虫が
入りにくく、棹としての寿命が長いという事が理由です。
家の土塀など昔から日本の文化・風土に深く溶け込んでいた
竹文化からのでてきた知恵なのでしょう。
そういえば「かぐや姫」も月と関係がある話でしてたね。
物語の背景にはこのような先人の知恵が生かされ
作られたのかもしれないですね。

私も新月の日に滋賀県まで行き、棹竹を切り出してきました。
切り出した竹は約40本。

持ち帰った竹はまず、束にして家の庭先の木に立てかけ、
竹に含まれている水分を抜く乾燥作業に入ります。
青い竹は重たく柔軟性があり過ぎるので、すぐには船の棹
としては向かず、使用する事は出来ないのです。

この状態で約半年、竹を屋外で乾かしておきます。
屋外に立てかけるので竹の先から雨などが入り込まない様に
ビニールを被せ防水しておきます。

半年後の夏時期になると、厳しい日差しに竹の表面が焼け、寿命を
縮める恐れがあるので、風通しのよい室内に移動して保管し
水気が抜け、黄土色に変色するまで乾燥させるのです。

乾燥作業の間も、頻繁に束を解き、一本一本壁に当てて
竹に害虫が生息してないか点検しなくてはなりません。
害虫は節を食い荒らすので、少しでも力を入れると
折れる怖れがあり、仕事中の怪我にもつながり兼ねない。
また、一本でも害虫が入ると束にしている竹全てに
繁殖する怖れが高く、こまめな点検が必要なのです。

そうこうして約1年間、室内で寝かしておいた棹も
全てが使用できるとは限りません。

竹は乾くと、重量や強度が大きく変る事が多いので、
乾き切ったところで、船の操船に使用可能か最終チェック
をすることが必要となります。
青竹の時は「まっすぐでいい竹だな」と思っていても、乾くと
ぺらぺらで軽く、強度も使用基準に満たない仕上がり状態に
なる竹があるのも珍しいことではありません。
その様な棹では20名以上のお客さんを乗せた1t以上
もの重量がある船を操ることはできないので、
当然破棄することになります。

このように、切り出した竹で仕事に使用出来る棹となるのは、
半分あったらいいところで、本当に自分の気に入る
よい棹に巡り会うことは難しいことなのです。

先日切り出してきたこの竹たちので、どれくらいの竹が
船頭の棹として使用できるか、まだわかりませんが、
大事に愛情込めて育ててやろうと思っています。

※棹としてして使用する真竹が年々太くなっている様に
 感じています。一説には地球温暖化の影響とも言われて
 いますが、今のところ確証はないようです。
 でも、同じ竹やぶでも10年前より確実に太くなっています。
 私達船頭も年々棹竹を仕入れ難くなっていると感じます。