百休庵便り

市井の民にて畏れ多くも百休と称せし者ここにありて稀に浮びくる些細浮薄なる思ひ浅学非才不届千万支離滅裂顧みず吐露するもの也

百休推奨名言綴り(3)【近松門左衛門】【曽根崎心中】

2010-03-01 11:34:15 | 日記
 此の世のなごり、夜もなごり、
 死に行く身をたとふれば、
 あだしが原の道の霜、
 一足づゝに消えて行く、
 夢の夢こそあはれなり、
 あれ数ふれば暁の、 
 七つの時が六つ鳴りて
 残る一つが今生の、
 鐘のひゞきの聞きをさめ、
 寂滅為楽とひゞくなり。
    ・
    ・
 二つ連飛ぶ人魂を
 よその上と思ふかや、
 まさしう御身と我が魂よ、
 なんなう二人の魂とや、
 はや我々は死したる身か、
 オヽ常ならば結びとめ
 繋ぎとめんと歎かまし、
 今は最後を急ぐ身の
 魂のありかを一つに住まん、
 道を迷ふな違ふなと、
 抱寄せ肌を寄せ、
 かっぱと伏して、
 泣きゐたる、
 二人の心ぞふびんなる。


 ご存知 近松門左衛門の名作浄瑠璃「曽根崎心中」、
「お初、徳兵衛」の道行き場面でございますが、

もう これだけで、うっとりしてくるのであります。
記紀万葉の昔から 日本人が育んだ えも云われぬ
情緒の一端を、大天才 近松がものの見事に、語り言葉に
紡いでおられるのであります。

日本人だけが感じ得る世界でありましょう。
日本人に生まれてよかったなぁと、つくづく思うので
あります。意味は たといファジーでありましても、情緒に
浸るだけで好いのでは、とさえ思えるのであります。

なお、上記原文は、水上勉さん著
「いまもむかしも愛別ばなし」文化出版局 から
転載させていただきました。








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