春の太陽が強く光線を放って、菜の花は、更に黄金色に輝いた。村内から、川に向かって歩くと途中に小高い丘があった。そこは通称「オトカ山」と呼ばれていて、村の氏神である稲荷様が祀られている。「オトカ」とは、「お狐さま」の異名で、狐の代名詞=「御稲荷」を訓読みすれば、〈御=オ 稲=トウ 荷=カ〉となります。* 子供の頃、暗くなるまで外で遊び呆けていると、「オトカに化かされるゾ~!」なんて、言われたものです。「オトカ」と言う語感が、奇妙に説得力がありました。
注連縄の 古びて下がる 村やしろ 染井吉野の 大樹はなやぐ -夢蔡ー
▲【春爛漫の若宮稲荷】 粕川べりの5メートルにみたない丘に祀られた小さい社である。染井吉野3本、杉3本、藪椿2本、シラベ1本、河津サクラ2本が、植えられている。
ーー「オ ト カ 山」 異聞ーーー
この村に、熱心な信者がおりました。毎朝参拝を欠かさず、1日と15日には、油揚げを供えて、信心いたしました。境内の掃除もしました。ある日のことです。参拝して帰りかけると、イナリさまに、呼び止められました。
イナリさま 「毎日熱心なる姿、感じ入るところである。今日は、願いを叶えてやろう。何でも申して見よ・・金持ちがいいか?」
信者 「 イエ~、富は望みません。平々凡々で結構です。ただ一生衣食に不自由しないで、時々、美しい女性と美味い酒飲み、香を焚き、雪月花を愛でて過ごすことができましたら・・・ハイ~、お願い出来ますでしょうか?」
イナリさま 「 そ~・・そのような安楽な所があったら、ぜ~ひ!とも私を連れて行ってくれまいか・・・」
と、イナリさまは、座を下りて来てしまいました。」 とさ~
これで、オトカ山のお話しは、お終いです。ーー
春は、ますます進行形であります。
陽春の 光を抱き 木の芽生(お)ふ ー夢蔡ー