沼の面を浮き草が敷きつめている。夏鴨達が、それをかきわけて泳ぐ。水尾は、空を映して蒼く染まる。長閑な田園のひとコマである。
浮き草の たゆとふ沼の 濃みどりを かきわく鴨らに 秋はしのびつ ー夢蔡ー
▲ カモ達にとって、誠に平穏な時が流れている。・・・ようであるが、この一面に繁茂する浮き草群は、カモにとっては、理想とは言い難い環境なのだ。
ーー<<浮き草・萍・ウキクサ考>ーー
わびぬれば身を浮き草の根を絶えて さそう水あらば去(い)なむとぞ思ふ (小野 小町 古今集938)
意訳ーー 「つらい思いをしている身がつくずく嫌になりました。根無しの浮き草が水に漂うように、私も誘ってくれる人があったら、都を去りた~いと思いますが~。」
▼ 平安王朝の「美人すぎる」閨秀歌人 小野小町の「恋歌」であります。 「浮き草」を「憂き」と「浮き」の掛詞として使った代表的な歌であります。また「浮き草」は、水にただよい、たよりない不安定イメージを持っております。それを巧みに読み込み、揺れ動く「恋心」と連動させた秀歌であります。
ー「身は浮草の 根も定まらぬ人を待つ・・・」(近世歌謡・閑吟集)のように庶民の間でも流行、うつうつとして儚さを表わす代表選手にされましたが、・・・
▼ 「浮き草」とは ウキクサ科の多年草。池沼の水面に浮生。3個の葉状体=葉と茎が合体したもの=で成り立っている。根無草などの俗名があるが、水中に根を下ろし浮生のバランスをとっている。夏季には、葉の横から分裂をくりかえす、いわゆる「無性生殖」で、圧倒的速さで繁茂する。寒くなると、越冬芽」をつくり、水底に沈み春を待つ。したたかな「生命体」である。
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緑濃く 敷きし浮き草 食みおりて 餓え満たせしや 九月の鴨よ ー夢蔡ー
▲淀む沼は、浮き草にとってはいい環境。水は、対流がおこらず、酸欠。水温も上昇、生き残ってた“鯉”など死ンで浮き上がる。水中の生物相は貧困となる。
ーー鴨むれは、夕刻近くになると、泳ぎ進みながら、浮き草を食べている。
ー暑さのおさまらない「9月の鴨」ーー<了>ーー