ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

未来は「風」の中に。

2010-07-30 21:13:51 | 社会
各国、各地で続く、猛暑、洪水、異常低温・・・こうした異常気象は、環境を破壊されつつある地球からの危険信号なのでしょうか。我らが母船「地球号」が、危ない。

そこで、環境破壊の要因の一つ、温室効果ガスの排出を低減しようと、様々な取り組みが進められていますね。クール・ビズに協賛し、社員はノーネクタイにさせていただきます、と言いながら、店内は思いっきり冷房を効かせ続けているショッピング・モールなど、本当に環境について考えているのか、表面だけトレンドに乗っているのか分からない例も見られますが、真剣に取り組んでいるところも多くあります。

例えば、発電。再生可能エネルギーの活用にも多くの取り組みが行われています。太陽光、風力、潮力、地熱・・・そのうちの風力発電について、先進国・デンマークの例を27日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

ウィキペディアによると、2008年末時点での風力発電所の累積設置容量は、アメリカをトップに、ドイツ、スペイン、中国、インドと続き、デンマークは9位。フランスは7位ですから、フランスのほうが風力発電の設置容量は大きいのですが、デンマークが進んでいるのは、洋上発電所。風力発電所の周辺では低周波の騒音問題が発生したりしますが、洋上に発電所を建設すれば、こうした公害問題も解決できる、ということなのでしょうね。

ル・モンドが紹介しているのは、デンマーク西部の沖合30kmにある“Horns Rev 2”という洋上風力発電所。2009年9月の運転開始以来、91基のタービンが昼夜を問わず回転を続け、209MW(メガワット)の発電を行っている。

沿岸に少し寄ったところには、2002年に運転を開始した“Horns Rev 1”があり、こちらは、80基のタービンが160MWを発電している。

こうした洋上風力発電所は、再生可能エネルギーの活用を30年来、推進し続けているデンマークの政策を示す好例であり、政治的意思、行政の簡素化、地元住民の協力がかみ合って、達成されたものだ、と伝えています。

デンマークで使用されている電力の22.0%は、風力・地熱・潮力発電からのもので、フランスの1.5%とは大きな開きがある。しかし、デンマークもこのレベルに一朝一夕に達したわけではない。国を挙げての取り組みがそこにはあった。スタートは地域の協同組合などによる、地上に設置された小さな風力発電装置。こうした運動を政治が後押しした。風力発電所建設プロジェクトに地域住民が参加できるようにし、また地域の団体が発電所建設のフィージビリティ・スタディを行う際の資金援助も政府系の基金が行っている。結果、地域住民の参加意識も高まり、再生可能エネルギーと言えば、90%のデンマーク人が風力発電と答えるほどになっているそうです。

また、洋上に風力発電所を建設するとなると、反対運動が予想されるのが漁業従事者。なにしろ、“Horns Rev 2”の広さは、35km2。漁場へ与える影響も大きいはず。しかし、デンマークの漁民たちは、計画に反対せず協力する代わりに、当初の計画より影響の少ない場所に建設場所を変更させるとともに、100万ユーロ(約1億1,000万円)の補償を手に入れました。大人の対応、と言えるのかもしれませんね。

そして、このプロジェクトのもう一つの成功のカギは、手続きの簡素化。関係するいくつもの省庁や機関の窓口を一本化。場所の選定や環境への影響調査から入札までを、ひと所が担当し、効率的な作業を実現したようです。

さらには、洋上風力発電所の建設と運転は、デンマークの産業と雇用に好影響を与えています。風力発電関連の技術・製品は、デンマークの輸出高の10%を占めるまでになっており、雇用の創出にも貢献しているとか。

デンマークの風力発電の設備を製造しているのは、“Vestas”というデンマークの企業なんだそうですが、その技術力には定評があり、世界中に輸出されている。イギリス沖に建設される洋上風力発電者事業、請け負ったのはドイツのシーメンス社なのですが、その設備にはVestas社製のものを使うそうで、デンマークの技術が信頼されている証左の一つになっているようですね。

フランスがようやく洋上風力発電所事業の第一歩を記そうとしているのに対し、デンマークでは、政府の補助金にも助けられ、既存の設備を最新のものに交換するプログラムをすでに始めている。デンマークの産業界は、最も大規模な洋上風力発電所と最も強力な発電設備に、自らの豊かな明日の姿を見ているようだ・・・ル・モンドの記事は、こう結んでいます。

この記事を書いた記者は、かなり、風力をはじめ太陽光、地熱、潮力などの再生可能エネルギーに信頼を置き、その活用に後れを取っている自国にいら立っているようですが、それでも冒頭に紹介したように、累積設置容量で、フランスは7位。1番じゃないと気が済まないのでしょうか。2番以下じゃダメなんでしょうか・・・日本は、13位なんですが。

でも、フランスには、原子力発電があります。発電量のおよそ80%が原子力発電で賄われているほど。しかも、原子力発電設備のメイン・プレーヤーの一つが、フランスの“Areva”社であることは有名ですね。最近は、このAreva社とフランス電力公社(edf;Électricité de France)が資本面での提携強化を政府主導で模索しているようです。いずれにせよ、発電から、送電、配電までを一貫して請け負い、受注・輸出を増やそうと躍起になっています。

日本も発電量全体に占める原子力の割合が約30%と高くなっています。また、日本で風力発電があまり普及しないのは、台風の際の強力な風力に対応できる設備の開発が難しいこと、風車(タービン)を設置できる平地が少ないことなどが理由なのだろうと指摘されています。その分、日本には、地熱や潮力など、利用できそうな再生可能エネルギーが多くある。それをうまく活用できれば、環境にもいいですし、なんといっても原油の輸入大国から電力の輸出国へ転換することも可能なのではないでしょうか。温泉地を中心に全国あちらこちらで利用できそうな地熱、そして海に囲まれた島国であればこそ、いたるところにある潮力・・・活用できるかどうかは、政治の意思、行政の簡素化、そして住民の協力。デンマークに学ぶべきは、フランスよりも日本なのではないか、そう思えて仕方がありません。