ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

盛者必衰の理・・・というには、あまりに長く、厳しい道のり。

2011-10-31 21:19:27 | 社会
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者もついには滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。

言うまでもなく『平家物語』の冒頭部分ですが、これに例えるには、ちょっと厳しいような気もしますが、しかし、かつての栄光や、今いずこ、と思わざるのをえないのが、これまた言うまでもなく、ギリシャです。

古代ギリシャと言えば、ソクラテス、プラトン、アリストテレスの三哲人、喜劇作家のアリストパネス、女流詩人のサッポー・・・多くの名前が浮かんでくるように、優れた文化が花開きました。紀元前5世紀から紀元前4世紀にかけての時代です。多くの都市国家(ポリス)が成立したのは、さらに時代を遡って紀元前800年代。はるか昔のことです。

今日では、オリンピックの入場行進で先頭を歩く国として目立つ程度で、脚光を浴びることはあまりありません。その入場行進にしても、古代ギリシャの「オリンピアの祭典」がオリンピックの起源ということで与えられている名誉で、やはり昔の栄華に助けられていることになります。観光収入が多い国ですが、その観光名所にしても古代ギリシャ時代の遺跡と自然。

『平家物語』が書かれるより1,500年も前に栄えたかつての盛者、「ギリシャ」の名が今日、連日メディアのトップを飾っています。言うまでもなく、「ギリシャ危機」。ユーロ圏を、EUを、そして世界の経済を混乱に陥れている問題ですが、当のギリシャ人は、現状をどう見ているのでしょうか・・・25日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

「我々は怠け者だと思われているのだろうか」・・・アテネに住む公務員のカップル、クリス・ボッシニキス(Chris Bossinikis)とマリア・ソティラキ(Maria Sotiraki)と話し始めるや、いきなりクリスがこの質問を投げかけてきた。

多くのギリシャ人と同じように、クリスも自国のイメージ、つまり北ヨーロッパの人々が寒さの中で働いている間、太陽の下で肌を焼いているだけというイメージを恥ずかしく思っている。フランス人エコノミストのパトリック・アルチュス(Patrick Artus)は、こうした決まり切ったイメージには何ら根拠はなく、地中海に面した南欧の国々は他のヨーロッパ諸国よりもむしろ長く働いているのだが、一度持たれたイメージは変わらない、と語っている。

クリスはアテネのごみ処理場で庭師として働き、木の世話や植樹を行っている。そこでの勤務が終わり、デモの予定がない場合には、別の企業や個人からの依頼を受けて働いている。マリアも同じごみ処理場で事務の仕事をしている。

二人は公務員といっても正規の職員ではない。8年も契約職員として働いているが、まだ正規の職員にはなれない。ギリシャの財政を支援している「トロイカ」、つまりFMI(le Fonds monétaire international:国際通貨基金)、BCE(la Banque centrale européenne:欧州中央銀行)、CE(la Commission européenne:欧州委員会)から緊縮財政を行うよう通告されたギリシャ政府は、2010年の秋以降、契約職員との契約を打ち切ろうとしている。そのため、クリスとマリアは6カ月ごとに裁判所に行くことになったが、裁判所は政府の決定を破棄してくれている。

生産年齢人口の16%と同じく、二人は失業の恐れを抱いている。アテネ郊外で精神科医として働いているDimitris Ploumidisは、「9月以降、患者の半数が職を失っている」と語っている。

ギリシャは病んでいる。うつ病患者は増加し、自殺者数も増えている。ギリシャは長年そうした病や自殺に関してはヨーロッパで最も少ない国と自負していたのだが。終わりの見えない不景気の中で生まれた、一種の集団的憂鬱状態だ。

デモ参加者の多さや、オーストラリアをはじめとする海外への移住を希望する人の多さが、国民の精神状態を物語っている・・・「ギリシャに未来はない。」

社会党(正式には、全ギリシャ社会主義運動)のパパンドレウ(Georges Papandréou)政権は、まさに力尽きようとしている。緊縮財政の厳しさから国民からは抗議を受け、海外からはその実施が遅いと批判を受けている。最大野党(新民主主義党)は世論調査で支持率を伸ばしているが、二大政党は1974年(軍事政権崩壊)以降、交互に政権の座についてきたのだ。緊縮財政は2010年5月に可決されていたのだが、社会階層の全て、失業者から企業経営者までのギリシャ人の多くが、この政策は厳し過ぎるし、効率的でもないと考えている。国民は財布のひもを締め、緊縮策の効果は現れていない。

トロイカはギリシャの市場への復帰(支援の完済)を2021年に延ばすことを暗黙のうちに認めているが、そのことはあと10年も返済と耐乏生活が続くということだ。世界中のテレビが伝えたような暴力行為も起きたデモは、国民の怒りを示している。しかしデモも緊縮策を退けることはできない。

EUサイドでは、首脳たちが次から次へと緊縮案を出しているが、希望が持てないことが明らかになっている。軍事政権の崩壊以降、ギリシャの政治はヨーロッパを向いてきた。EUへの歩み、ユーロへの加入は、近代化および繁栄と同義語だった。「ギリシャがヨーロッパ主要国の判断について、今回のように慎重になっているのは初めてだ」と、政治学者のGeorges Sefertzisは語っている。

世論調査によれば、ユーロとEUの支持者はつねに半数を超えている。しかし、疑いの念も頭をもたげてきている。世論調査を専門とするIannis Marvisは、EU支持の国民感情は、次第に侵食されつつあると、5月に説明していた。

「ヨーロッパ社会の貧乏国にはなりたくない」と、マリアは語っている。ヨーロッパの基金、それはギリシャではうまく活用されず、しばしば目的と異なってしまうのだが、その資金は富める国と貧しい国の格差を埋めるために活用されるべきだ。後ろを振り返れば、2000年代のギリシャ経済の成長が、借金の山の上で達成されたものであることを歴史が物語っている。

民営化などさまざまな改革を約束しておきながら、なかなか実施に移さないギリシャ政府の対応は、EUあるいはトロイカによる管理の強化につながっている。「国家財産さえ売られるかもしれないと聞くにつけ、ギリシャ人として恥ずかしく思う。植民地となり果てるのかもしれない」と、Dimitris Ploumidisは憤っている。

「EUは上手くいかないだろう。北欧は南欧と離れたがっている。メンタリティを異にしているのだ」と、サロニカで修理工場を経営するSavvas Lazosは語っている。彼は、オーストラリアへの移住を希望している。2000年からの繁栄の10年に大流行した4WDはもはや買い手がいない。

国民的極左雑誌“Ardin”の管理職であるGeorges Karambelisは、パパンドレウ首相とベニゼロス財務相はトロイカの操り人形であり、指名手配犯だと、“WANTED”と大書きしたプラカードを持ってデモに参加し、大きな注目を集めた。緊縮財政の見返りは、「自由な生活」だ。Karambelisは、台頭する隣国トルコに対応するために、ギリシャはEUの一員であるべきだと、EUを支持している。しかし、その彼にとっても、EUとギリシャは袋小路に入り込んでしまったと思える。「EUはギリシャ政府に緊縮策を続けるよう圧力をかけているが、無責任だ。ヨーロッパ全体に危機をもたらすことになるのに」と述べている。

ギリシャとEUの関係は複雑だ。ヨーロッパからの財政上、軍事上の支援がなければ、200年近く前、ギリシャはオスマン帝国のくびきから逃れ、独立することはできなかっただろう。

フランス、イギリス、その他の国々にとって、ギリシャと言えば、古代の栄華、そして民主主義の揺籃だったが、今や借金の国となっている。

“Le Dicôlon”という小説(ギリシャで1995年に出版され、2011年にフラン語訳が出た作品)で、Yannis Kiourtsakisはヨーロッパにとって複雑なギリシャとの関係とギリシャの古代遺産の重要性を語っている。「古代ギリシャへの称賛は、ヨーロッパとヨーロッパ人に対して常に持ち続けている我々の劣等感を、ゆるぎない優越感へと変容させてくれる。我々はよく自覚しているのだが、歴史がギリシャを乗せた台座から、いかに小国になったとは言え、そのギリシャを引きずり降ろすことは誰にもできなのだ、永遠に。」

EU、そしてユーロへの加盟は2004年のアテネ・オリンピックと同じで、ついにその時が来たと受け止められていた。つまり、ギリシャはヨーロッパと対等だ。お金は使うのも借りるのも容易だ、個人にとっても、さらには政府にとっても。しかし、経済危機がやってきた。ギリシャはその台座から、突然、悲しみの中で引きずり降ろされたのだ。

・・・ということで、腐っても鯛、借金王と言えどもギリシャ。古代ギリシャへの尊敬の念があるうちは、EUはギリシャを見捨てはしない。そして、その称賛は、消え去ることがない。確かに、ギリシャ語は今でも各国で教えられていますし、古代ギリシャ文明に憧れる人も多くいます。

しかし、あの文明を築いた人々と同じ民族とはとても思えない、という人がいるのも事実です。年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず・・・同じギリシャ人と言えども、年月を経れば変わることでしょう。古代ギリシャ人の末裔というだけで、優遇してよいはずがない。ついに、ギリシャはその台座から引きずりおろされてしまいました。

緊縮財政策で国民の反発を買っているパパンドレウ内閣ですが、二つだけ素晴らしい成果をあげている、と国民の間で言われています。交通渋滞と、国民のコレステロール過多を解消したこと! そうです、給与は引き下げられ、失業者も増えている中で、ガソリンの価格は高止まり。従って、クルマを運転する人は減少。渋滞がなくなった。また飽食ともさよならをせざるを得ず、コレステロール値も下がった! ・・・こんなジョークを言っていられるうちは、ギリシャもまだまだ消滅してしまうことはなさそうですね。